高専トピックス
全国高等専門学校デザインコンペティション(以下、高専デザコン)は、高専生を対象とした、社会や生活環境に関連する様々な課題への取り組みを通じて、各高専で養い培われた技術力とデザイン力を競う大会です。 高専デザコンは毎年開催され、高専生が全国規模で競い合うロボットコンテスト(ロボコン)やプログラミングコンテスト(プロコン)、英語プレゼンテーションコンテスト(プレコン)と並び、4大コンテストの1つに位置付けられています。 全国の国立・公立・私立の高専58校63キャンパスならびに海外の高専から、主に土木・建築を専攻する学生たちが参加し、構造デザイン部門、空間デザイン部門、創造デザイン部門、AM(Additive Manufacturing:3D造形)デザイン部門、プレデザコン部門の5部門で競います。
今大会のメインテーマ「織りなす」には、二重の意味が込められています。一つは「糸を織り上げ、美しい織物をつくり出す」という本来の意味です。もう一つは、開催地・福井県の繊維産業が、その歴史において様々な逆境に直面した際、古代から受け継がれた伝統技術を巧みに「組み合わせて(織りなして)」乗り越えてきた姿です。このテーマは、そうした福井の歩みに重ね合わせて設定されました。
福井県は、古来より絹織物の生産が盛んな土地柄でした。明治期に入ると製織技術が大きく進歩し、その結果生み出された「羽二重」は、海外市場へも広く輸出される主力製品となりました。これにより、繊維産業は福井県の経済基盤において、非常に重要な役割を担うこととなったのです。
その後、大正・昭和・平成へと時代が移り変わる中で、社会情勢は絶えず変化しました。福井の繊維産業はその大きな時代のうねりに直面しながらも、生産の主軸を人造絹糸(レーヨン)、さらにはナイロンやポリエステルなどの合成繊維へと巧みに転換・適応させていきました。こうした柔軟な変革を重ねた結果、日本有数の繊維産地としての揺るぎない地位を確立し、現在もその立場を維持し続けています。
そして現在、その技術革新の精神はさらに発展しています。繊維産業で培われた高度な技術は、軽量でありながら鉄以上の強度を持つCFRP(炭素繊維強化プラスチック)といった先端材料分野に応用され、航空機産業をはじめとする新しいビジネス領域へ果敢にチャレンジを続けています。
今大会では、このように既存の技術や多様な分野を「織りなし」、新たな価値を具現化した創造的な提案が期待されました。
今回は、2025年11月8日(土)、9日(日)に福井県鯖江市にある、鯖江市嚮陽会館・まなべの館で開催された全国大会の様子をお伝えします。
(掲載開始日:2025年11月26日)
構造デザイン部門 『 stylish 』
構造デザイン部門では、第16回東京大会(2019年)からの「紙を素材とした橋のデザイン」と、第19回有明大会(2022年)から採択された「載荷直前に2つ以上の部材をつなぎ合わせて1つの橋にすること」のルールが継続されました。一方、第20回舞鶴大会(2023年)で導入された橋梁模型の足元にある鋼板を落下させる衝撃載荷試験は無くなりました。
今年は従来の直橋(※1)から斜橋(※2)へ変更、更に、静的載荷が昨年の40kgから60kgとなり、ねじれや横倒れに対する対策が求められます。
橋梁模型は、指定されたケント紙と接着剤を用いて、軽量(最小で130g程度)に製作されます。耐荷性能を測る載荷試験では、まず最初に10kgから始まり、最大60kgまで各々10秒間の耐荷状態で耐荷試験を通過となります。
競技得点は、耐荷重の kg 数を点数とする静的載荷得点(60 点満点)と設置時間係数の積に軽量点(20点満点)を足した点数に、作品の構造的合理性、独自性など審査員の評価点(満点30点)を加えた合計で競います。
最優秀賞(国土交通大臣賞):米子工業高等専門学校
作品名:伯嶺(はくれい)
作者 :
槇野 永人さん(5年)
岡本 庵 さん(4年)
片岡 芯太さん(4年)
黒川 彩夕さん(4年)
新開 沙耶さん(4年)
安田 泰偲さん(4年)
米子高専は、構造デザイン部門7連覇中であり、年を追うごとにプレッシャーがかかる中で、見事に、8連覇となる最優秀賞(国土交通大臣賞)を受賞しました。また、もう一つの米子高専の作品「澄架」は、優秀賞(日本建設業連合会会長賞)を受賞し、トップ2作品を米子高専が独占するという、米子高専の橋への情熱と実力が際立つ結果となりました。
優秀賞は2作品が表彰されますが、もう一つの優秀賞は徳山高専の作品「鳳嶺」となり、2021年呉大会以来5年連続の優秀賞の受賞となりました。米子高専との良きライバル関係である事を窺い知る事が出来ます。
今年は、橋梁模型の重量順に対戦が行われました。したがって、後半に登場するチームほど、軽量であるため耐荷の難易度が高く、順番が進むにつれて、より熱い対戦が繰り広げられました。最終組に米子高専と徳山高専が登場すると、会場の緊張感が一気に最高潮に達しました。
運命の60kg載荷試験の最後の10秒間。両チームの学生達は祈る思いで橋に手を合わせました。そして、10秒が経過した瞬間、チームメンバーだけでなく、会場全体の観客が歓喜の雄叫びを上げました。結果は、わずかな自重量の差で米子高専の勝利となりましたが、両チームは互いの健闘を讃え合いました。
今年は58作品中22作品が60kgの静的載荷を通過しました。これは昨年通過した8作品と比べ大幅に増加し、衝撃載荷がなかったとはいえ技術力の向上が顕われた大会でした。斜橋であったことから、ねじれや横転倒に対する更なる工夫を求める指摘が、審査員よりありました。
米子高専チーム、徳山高専チームのみならず、殆どのチームは指導された先生方や仲間に支えられ、この1年間、本大会に向けて、アイデアの深化や技術の研鑽を怠らず、橋づくりに情熱を注いで来ました。上級生から下級生へと何代にもわたって技術が継承されてきた結果が技術の向上に繋がり、連覇するチームも輩出された大会でした。
※1 直橋:橋の軸(中心線)が、川の流れや道路など、橋がまたぐ対象に対して直角に交差する橋
※2 斜橋:橋の軸が、またぐ対象に対して直角ではなく斜めに交差する橋。直橋に比べてねじれなどを考慮した高度な設計が求められる。
※5連続達成時の米子高専チーム取材記事は こちら
空間デザイン部門 『 織りまざる住まい 』
空間デザイン部門では、用途・規模・敷地を自由に設定し、建築物・土木構造物・都市農村空間といった人工構造物・人工環境の新しいデザインを提案します。「提案の創造性」、「デザインの総合性」、「プレゼンテーション力」の3点が評価軸となっており、都市計画や建築分野の有識者の方々(3名)が審査を行います。
今大会のテーマは、「織りまざる住まい」です。 我々が生きる現代社会では、生活様式やコミュニティが多様化しています。このような時代においては、様々な国籍をはじめ背景の異なる人たちがコミュニティをつくり、そこでの多種多様な要素が織り交ざる生活の中で、支え合い助け合うことで強い絆ができていくと考えられます。
このような背景の中で、本課題では大規模な住まいではなく、複数の人たちが空間を共有し、多様性の観点からライフスタイルや文化が違う人たちが助け合いながら一緒に集まり過ごしている空間の提案を求めます。
様々な視点から調査分析を行ったうえで、未来の住まいの在り方を模索し、地域社会に貢献する、高専生たちによる新しい空間創出のアイデアが集まりました。
最優秀賞(日本建築家協会会長賞):熊本高等専門学校 八代(やつしろ)キャンパス
作品名:「君マチ -君と広げる小さな町- 」
作者 :
田中 丈裕さん(5年)
江藤 直太郎さん(5年)
光永 愛実さん(5年)
德本 豪海さん(5年)
最優秀賞に選ばれたのは「君マチ-君と広げる小さな町-」という作品を発表した熊本高専八代キャンパスです。
熊本高専が対象にした熊本県阿蘇郡小国町(おぐにまち)は、人口約5900人、町の約8割をブランド杉「小国杉」の人工林が占める林業の町です。 しかし、近年は6つの小学校合併に伴うスクールバスや自家用車送迎の「待ち時間の長さ」と「交通渋滞」、若者の都市部流出による「林業の後継者不足」、生活と杉林との心理的な「杉との距離が遠い」という3つの課題を抱えています。
そこで熊本高専の学生たちは、小国町で最も人が集まる小・中学校周辺の約1kmの通学路に着目し、送迎を待つ子供たちのための「学童」を核とする ”キミまちの森” を提案しました。 この施設は、通学時に発生していた、単なる「待つ時間」から、地域の人々や自然とふれあいながら学びや遊びを育む「豊かな時間」を過ごす空間を実現します。これは、出迎の時間が分散することで、小・中学校前の道路で発生していた渋滞の緩和にもつながります。
また、学童では地域の大人たちが先生となり、林業、木工、町の文化などを子どもたちに伝えます。これにより、若い世代が町の暮らしや主要産業である林業への関心を持つきっかけをつくります。町を支える仕事や人々と関わる体験は、子どもたちが将来、都市部へ移住しても、「再び帰ってきたい」と思えるような、地域への愛着を育みます。
さらに、建物の構造や素材には町の象徴である「小国杉」を積極的に活用し、日常の中で木の温もりや森とのつながりを感じられる空間を実現します。これまで心理的に遠く感じた杉を、生活の中で自然と身近に感じられるように、工夫がされています。
“キミまちの森”は、このように子どもたちが地域と深く関わりながら成長し、やがては自らが「支える側」「教える側」として故郷に帰ってくるという、持続可能な循環を生み出す拠点となることが期待されます。
空間デザインでは、敷地の特徴的な地形を活かし、「杉の森」をモチーフにした柱の活用を核としています。
北側の路地「とこと小道」や、林地から河川へ続く斜面「どれみの丘」といった地形に沿って、杉の人工林を彷彿させる柱を、敷地全体にグリッド状(※1)に配置します。これらの柱は、間隔・角度・高さを変えることで、多様性に富んだ「森」のような空間を生み出します。
建築物の屋根には、小国の伝統様式である「置き屋根(※2)」を採用し、ガラス張りの1層と組み合わせることで、軽やかに「浮いた」デザインを実現しています。この設計は、建築的な美しさだけでなく、学童としての死角をなくし、子供たちを安全に見守る機能も兼ね備えています。
そして最大の特徴は、この柱を住民が自由に活用できる点です。布製の傘型屋根をかけて快適な内部空間を設けられるほか、森の中で木々を利用するように、棚やひもで作品を飾ったり、ブランコをかけたり、布で囲って小さな居場所を作ったりと、子供から大人までが主体的に空間を構築できるように、設計されています。
社会的な課題を建築学のパワーで解決しようとしている点や、ランドスケープと建物の融合、小国の杉や土地の文脈、人々の暮らしを深く読み解き未来に繋げている点などが審査員から高く評価されました。「物語の情景が浮かぶ」「学童だけでなく教育留学など様々な活用の可能性がイメージでき、夢のエネルギーを感じる」と評価され、審査員3名全員が一位とする結果となりました。
※1 グリッド状:縦横に直線が規則正しく並んだ格子状のパターンのこと
※2 置き屋根:建物本体と屋根の間に空気層を設けた二重構造の屋根のこと
創造デザイン部門
『 未来を織りなす 脱炭素で実現する持続可能な地域社会へのステップ 』
創造デザイン部門では、高専生が社会課題に取り組む提案を行います。各高専が立地する地域において、地域社会が持続するための課題をフィールドリサーチした上で、課題を明確化し、それを解決するための行動に至る具体的なステップを提示します。高専生たちは1日目にオリエンテーションやワークショップを行い、提案作品のブラッシュアップをします。2日目にブラッシュアップした作品のプレゼンテーションを行います。
提案には、地域資源や既存技術をどのように融合させるか、地域内外の人々がどうコミュニケートするかといった内容を含む「プロセスデザイン(ストーリー)」が求められます。単なる製品(もの)の提案であっても、それが脱炭素社会に、どうつながるかのプロセスデザインを、併せて提案する必要があります。誰も見たことがないような、新鮮な驚きを与える独創的な発想が盛り込まれているかが評価の重要なポイントです。
福井大会のテーマは「織りなす」であり、創造デザイン部門では「未来を織りなす 脱炭素で実現する持続可能な地域社会へのステップ」をテーマに、2050年のカーボンニュートラルを目指し、持続可能な地域社会を実現するための具体的なステップについて、高専生たちから独創的なアイデアが提案されました。
上部左側:蚊陣営のカード例。蚊媒介感染症に関わる事象や感染のリスクについて学べる。
上部右側:住民陣営のカード例。蚊の発生を防ぐ行動や脱炭素につながる行動について学べる。
下部:イベントカード例。脱炭素や防虫の基礎知識が(クイズ形式で)問われる。
最優秀賞(文部科学大臣賞):和歌山工業高等専門学校
作品名:蚊ード ガード
作者 :
最田 ひなたさん(5年)
黒山 紗依さん(5年)
吉田 優里さん(4年)
本チームは、「蚊の危険性」と「環境保護の大切さ」を楽しみながら同時に学べるユニークなアナログカードゲーム『蚊ード ガード』を提案しました。地球温暖化により蚊などの媒介生物の分布拡大が懸念され、国内でも蚊媒介感染症のリスクが高まる可能性が指摘される背景のもと、このゲームは、プレイを通じて蚊の生態や予防策を学ぶと同時に、環境保護(脱炭素)の重要性についても自然に理解を深められることを目的としています。
ゲームは、感染拡大を狙う「蚊陣営(蚊ード)」と、地域を守る「住民陣営(ガード)」の2陣営で対戦します。各陣営の初期ライフは4です。陣営ごとに13種類のカードに加えてイベントカード10種類の合計36種類のカードを使用します。陣営を決めたら、それぞれのカードを山札にし、先攻後攻を決めて開始します。プレイヤーは自分のターン開始時に自陣営の山札からカードを1枚引きます。引いたカードはその場で効果を使うか、使わずに手元に保持できます。保持したカードは次のターン以降に、新たに引いたカードと合わせて、複数枚まとめて使用します。
「蚊陣営」のカードでは、蚊媒介感染症に関わる事象や感染のリスクについて学べ、対する「住民陣営」のカードでは水たまりの除去や網戸の点検といった蚊の発生を防ぐ行動、さらには自転車の利用といった「脱炭素」につながる行動について、学べるようになっています。
また、偶数ターンには必ずイベントカード「豆知識クイズ」が発動します。このクイズでは、防虫意識や脱炭素に関する基礎知識が問われます。正解すると、相手のライフを1減らすか、自分のライフを1回復するかの選択が可能です。
勝敗は、どちらかのプレイヤーのライフが0になった時点で決まります。ライフが残っているプレイヤーが勝者となり、ライフが0のプレイヤーは敗者となります。
このように、プレイヤーはゲームで勝利を目指すプロセスを通じて、防虫と脱炭素の知識を自然に獲得できます。特に、アナログカードゲームならではの対話が生まれやすく、カードに書かれた行動やクイズの意味を互いに確かめながら、理解を深められる点が大きな特長です。
また、本チームは地域と高専生の連携を軸に、防虫意識と環境教育を広げるモデルも構想しました。
まず、全国の高専に『蚊ード ガード』の製作キットを提供し、各地域の課題や気候特性を反映した「ご当地カード」を作成してもらいます。完成したカードは道の駅や市役所などで配布し、住民との交流や防虫意識の向上に役立てます。このご当地カードは、ゲーム内で有利に働くプレミアムカードとして位置づけることで、収集と参加への動機づけを高めるという狙いがあります。
あわせて、高専生が企業や自治体と協力し、講座や体験イベントを企画・運営することも提案しています。イベントでは蚊の生態や感染症、除虫菊、脱炭素などをテーマに取り上げ、子どもから大人まで幅広い世代の学びを、地域での実践へつなげることを目指します。
今後は、まずコンテンツの一部をフリーダウンロード化して体験の間口を広げ、関心を持った方々には完全版を提供していく計画です。また、定期的な大会の開催を通じて、交流の輪を広げ、将来的には全国大会や世界大会へと発展させ、日本発のカードゲームとして和歌山から世界へ発信していくことも目指しています。
さらに2050年を見据え、自然と共生しつつ蚊のリスクにも冷静に対処できる社会の実現を目標としています。そのために、脱炭素と防虫に関する正しい知識を地域に根づかせ、個人と地域の公衆衛生の向上に貢献する取り組みを継続していく考えです。
審査員からは、難解になりがちな「気候変動」と「公衆衛生」という問題に対し、遊びと学びを巧みに結びつけた点、そしてカードを介した対話によって日常の予防行動と地域の小さな実践を促すという具体的手法が共に高く評価され、最優秀賞の受賞につながりました。
AMデザイン部門 『 人と人が豊かにつながるものづくり Part2 』
AM(※)デザイン部門では、3Dプリンタの造形技術を活用して、テーマに沿った作品を製作します。新規性・独創性・活用性、技術的課題の解決・実用性、プレゼンテーション力の観点で作品が評価されます。
今年のテーマは昨年に続き、「人と人が豊かにつながるものづくり」です。世界では大雨や干ばつなどの自然災害、絶えることのない紛争問題、人口増加に伴う食糧問題など、世界中で様々な課題は増加の一途を遂げており、世界は大きく変化し続けています。そんな予測困難な混沌とした時代だからこそ、人と人とのつながりが一層大切だとされています。
そこで、高専生たちは、「つながり」をテーマに、人の連携やふれあいが豊かになるようなアイテムの開発に挑戦しました。また、3Dプリンタの特性を生かして、新しく便利なだけではなく、人の「つながり」を豊かにできるアイデアを提案しました。
※ AM(Additive Manufacturing):積層造形で、材料を薄く重ねて立体物を作る製造法。
最優秀賞(経済産業大臣賞):サレジオ工業高等専門学校
作品名:想像力をはぐくむおもちゃ SOZO(そぞ)
作者 :
鈴木 心寧さん(4年)
今任 唯さん(4年)
岩崎 七海さん(4年)
松本 昊士さん(4年)
サレジオ高専は、ブロック型の知育おもちゃ「SOZO(そぞ)」を提案しました。部門テーマである「人と人が豊かにつながるものづくり」に基づき、AMの設計自由度を生かし、遊びから自然に想像力と対話が生まれる体験づくりを目指した作品でした。
SOZOの特徴として、大きく3つが挙げられます。
まず「組み合わせの自由度」と「コミュニケーションを促す設計」です。大小や形状が異なるパーツを、自在な角度や高さで接続できます。パーツ内部には、ラティス構造(※1)とバネ状のしなやかな形状を採用し、柔軟性と耐久性を両立させました。さらに、幼児にとって、難しい難易度に設定することで、大人との協力が生まれ、自然なコミュニケーションが生まれるよう設計されています。
次に「想像力を育むプロセス」です。「何を作るか」を思い描き、手で形にしていく一連のプロセスが、AI時代に求められる “考える・工夫する・表現する” 力を育みます。
そして、「見る人・角度で変わる表情」です。完成物の印象は視点や受け手によって変わり、「自分にはこう見える」という感想の共有が、会話の起点になります。
製造面では、3Dプリンタ(※2)によって製作される部品ならではの再現性の高い複雑形状を活用し、軽さ・強さ・柔軟性のバランスを最適化しました。素材にはPETG(※3)を採用し、耐衝撃性と安全性を確保しています。開発では「固定しやすく外しやすい」、「自由な角度と造形の安定性」といった要件の解決に取り組み、形状・肉厚・内部構造・公差を段階的に最適化しました。
質疑応答では形状決定の経緯が問われ、「積み木の本質である『重ねる』を軸に、差し込む・引っ掛ける機能を両立させるため試作と評価を繰り返し、基本形を統一することで認知力発達にも配慮した」と回答しました。
審査員からは、「AMの特性を生かした多品種・少量生産でのパーツ拡張が有効」「固定と着脱性のチューニングは素材・設計でさらに追究可能」といった将来性への評価や、「購入したい」との声も上がりました。このように、技術の活用と拡張性が高く評価された結果、SOZOは最優秀賞を受賞しました。
※1 ラティス構造:軽量化と強度・弾性を両立させる格子状の内部構造。
※2 3Dプリンタ:データに基づき樹脂などを積層して立体物を成形する装置。
※3 PETG:耐衝撃性・耐薬品性に優れ、成形性と安全性のバランスが良い熱可塑性樹脂。
プレデザコン部門 『 織りなせ!アイデアとデザイン 』
プレデザコン部門は高専本科3年生までを対象に、空間デザイン、創造デザイン、AMデザインの3つのフィールドで構成され、各フィールドでそれぞれ異なるデザインを提案します。各フィールドが対象とする製作物はそれぞれ以下の通りです。
・空間デザイン:構造物をモチーフにした絵
・創造デザイン:次回大会のトートバッグのデザイン
・AMデザイン:3Dプリンターのオブジェクト
各フィールドには競技課題が設定されており、自由な発想が求められます。また、この部門の評価は、来場者の投票によって決定されます。
空間デザインフィールド
現存または過去に実在した構造物をモチーフとし、本大会のプレデザコンテーマ『織りなせ!アイデアとデザイン』を表現する、独創的かつ魅力的な作品を制作します。構図は、人の目には通常捉えられず、写真にも収められない独自の視点や時空間の広がり(コラージュなど)を取り入れたものが望ましく、モチーフとする構造物は、一つに限定する必要はありません。
創造デザインフィールド
2026年度に開催される函館大会(主幹校:函館工業高等専門学校)で使用するエコバッグのデザインをポスターで表現します。但しデザインは開催地である「函館」をイメージできるデザインに限られます。また、トートバックのカラーはアイボリーとし、デザインに使用できる色は1色までです。
AMデザインフィールド
今大会のプレデザコンのテーマである『織りなせ!アイデアとデザイン』というキーワードを体現した造形を考案し、3Dプリンタでオブジェを出力します。但し、オブジェのサイズは、静置した時に幅400mm✕奥行400mm✕高さ500mmの範囲に収まる大きさで作成します。
おわりに
今大会は福井県鯖江市を舞台に開催され、「織りなす」を合言葉に、高専生が技術とデザイン、そして地域の知恵を重ね合わせる挑戦を繰り広げました。絹織物に端を発する福井のものづくりの系譜を踏まえ、各チームが自らの専門性と地域課題、地域住民の声を丁寧に編み込み、実装に向けた確かな一歩を拝見することができました。
「織りなす」は布を織る行為に留まらず、異なる分野や世代、地域を結び、逆境を越えるために力を合わせる営みも指します。会場に並んだ高専生たちが知恵を出し合って製作した作品は、伝統と最先端、手仕事とデジタル、個の発想と協働の実践を縦糸と横糸に見立てて組み合わせ、新しい価値を生み出せる可能性を具体的に示していました。持続可能性への視点も随所に窺え、現実の課題に粘り強く向き合う高専生の姿勢が伝わりました。
本大会で得られた知見とつながりは、次の挑戦を支える「縦糸」と「横糸」として機能しうるものであり、より強くしなやかな社会を形づくる布地へと育っていく兆しがありました。福井で芽生えた協働の網目は、日本各地へ、そして世界へと広がっていく可能性が感じられました。高専デザコンが未来の技術者の成長を後押しし続けることへの期待が窺える、大変実りある有意義な大会でした。
デザコン│全国高等専門学校デザインコンペティション:公式サイト
