高専トピックス
全国高等専門学校デザインコンペティション(以下、高専デザコン)は、高専生を対象とした、社会や生活環境に関連する様々な課題への取り組みを通じて、各高専で養い培われた技術力・デザイン力を競う大会です。
高専デザコンは毎年開催され、高専生が全国規模で競い合うロボットコンテスト(ロボコン)やプログラミングコンテスト(プロコン)、英語プレゼンテーションコンテスト(プレコン)と並び、4大コンテストの1つに位置付けられています。
全国の国立・公立・私立の高専58校63キャンパスならびに海外の高専から、主に土木・建築を専攻する学生たちが参加し、構造デザイン部門、空間デザイン部門、創造デザイン部門、AM(Additive Manufacturing:3D造形)デザイン部門、プレデザコン部門の5部門で競います。
今大会のメインテーマ「繋(けい)」には、「つながる」「つなげる」「つながり」といった多様な意味が込められています。様々な人々と文化が結びつくことで、世界は発展を遂げてきており、とりわけ、エネルギー資源に恵まれない日本においては、技術者がアイデアを出し合い、技術を社会実装という形に「つなげる」ことで価値を創造してきました。近年の情報通信技術の進展により、人々や技術の交流がさらに促進され、国際的な協力やイノベーションがますます加速しています。
このような世界的な協力と技術革新の流れの中で、日本を含む150以上の国と地域は、2050年までのカーボンニュートラル達成を目標としており、この実現には多様な分野での技術革新が不可欠です。高専生をはじめとする未来の技術者には、多くの人や分野を「つなげ」、新たな価値を具現化する力が求められています。
そのため今大会では、技術やアイデアを融合させ、新たな「つながり」を創出する場の提案が期待されました。
今回は、2024年11月2日(土)、3日(土)に徳島県阿南市にある阿南工業高等専門学校で開催された全国大会の様子をお伝えします。
(掲載開始日:2024年11月14日)
構造デザイン部門 『 つなげる架け橋 』
構造デザイン部門では、2019年の東京大会から続く「紙を素材とした橋のデザイン」を競います。また、2022年有明大会から採択された「載荷直前に2つ以上の部材をつなぎ合わせて1つの橋すること」、さらに昨年舞鶴大会で導入された「衝撃載荷試験(※1)」を含むルールで競技が行われます。
橋梁模型は、指定されたケント紙(※2)と接着剤を用いて、軽量(最小で200g程度)に製作されます。また、耐荷性能を測る載荷試験では、まず最初に最大40㎏の静的荷重試験を行い、その後、片側の支柱の直下に敷いたナットを取り除くことで衝撃荷重を与える衝撃荷重試験を行います。
競技は定量点数として、載荷得点や軽量点などの競技得点(満点108点)、定性点数として作品の構造的合理性、独自性など審査員の評価点(満点30点)の合計で競います。
最優秀賞(国土交通大臣賞):米子工業高等専門学校
作品名:要(かなめ)
作者 :
遠藤 諒悟さん(4年)
越田 奏羽さん(4年)
齊鹿 夏希さん(4年)
中村 歩夢さん(3年)
片岡 芯太さん(3年)
徳永 惇哉さん(3年)
米子高専は、構造デザイン部門6連覇中であり、例年にも増して大きなプレッシャーがかかる中で、見事に、最優秀賞(国土交通大臣賞)を受賞しました(作品名:「要」)。また、もう一つの米子高専の作品「渡鳥橋(とっとりきょう)」は、優秀賞(日本建設業連合会会長賞)を受賞し、トップ2チームを米子高専が独占するという、米子高専の橋への情熱と実力が際立つ結果となりました。
本年は、昨年と同じルールであるため、昨年製作した同校の最優秀作品がほぼ完成系でありましたが、米子高専チームは、さらなる改良を加えて、出場作品のなかで2番目に軽量な橋梁模型「要」を製作しました。上級生から下級生へと何代にも渡って技術が継承される、まさに技術の「繋」を通じて、チーム全員が強い思いを一つに結集し、見事7連覇という偉業を成し遂げました。
※5連続達成時の米子高専チーム取材記事は こちら
大会初日は激しい風雨の中で始まり、各チームは、紙にとって最も弱点となる高湿度という最悪のコンディションでの競技を強いられ、想定外の状況に対応するため、知恵と工夫が試される展開となりました。この環境の影響もあり、載荷試験を通過した作品は、参加52作品のうち、わずか8作品でした。他のチームが高湿度に苦戦を強いられる中で、6連覇中で注目の米子高専とその連覇の阻止を狙う徳山高専チームの橋梁模型は、90%に近い湿度の中でも耐荷試験に耐えうる性能を維持しており、優れた技術力と万全の準備が光りました。
本年のル-ルは昨年の舞鶴大会と同じであることから、昨年の最優秀賞の作品を模倣すれば競技を有利に進められるところですが、そのような作品は一切見当りませんでした。競技という枠組みの中での最適な橋を目指すだけではなく、あくまでも学校や地域色を盛り込んだオリジナリティの高い作品を生み出そうとする高専生の健全な拘りと、自分たちのアイデアと技術力で勝負しようとする、高専生らしい誠実さ・創造性を感じた大会でした。
※1 衝撃荷重試験:橋梁模型足元の鋼板にあるナット4つに通した紐を一気に引っ張り銅板を落下させ、10秒間の耐荷状態を確認する試験。
※2 ケント紙:滑らかな表面をした厚手の白色用紙。
空間デザイン部門 『 タテ × ヨコ 』
空間デザイン部門では、用途・規模・敷地を自由に設定し、建築物・土木構造物・都市農村空間といった人工構造物・人工環境の新しいデザインを提案します。
「地域の課題を当事者として捉えていること」、「提案内容が一分野(学術・技術・芸術)にとどまらない総合的な知恵を有していること」、「自分たちの生き方を支える空間デザインの可能性を切り開くものとなっていること」の3点が評価軸となっており、都市工学や建築学、法律学、防災学を専門とする有識者の方々(3名)が審査を行います。
今大会のテーマは、「タテ×ヨコ」です。
人間社会は、太古の昔から現在に至るまで幾度となく災害の被害を受け、その都度、復興を成し遂げてきました。また、災害後の様々な課題は、災害前からすでに存在していた課題が、災害を契機に一層顕在化したものです。そのため、被災を想定した空間デザインでは、地域の課題や予想されるダメージを日頃から深く理解したうえで、従来の枠にとらわれない発想力・創造力が必要になってきます。
このような背景の中で、タテ×ヨコの「つながり」を意識し、様々な分野との連携を通じ、災害に強いまちづくりの創出をすることで、災害を乗り越え次の世代に繋がる、高専生たちによる新しい空間創出のアイデアが集まりました。
最優秀賞(日本建築家協会会長賞):豊田工業高等専門学校
作品名:瀬戸際を生き抜く登り窯(がま)
作者 :
笠原 颯真さん(4年)
井澤 琴萩さん(4年)
廣田 菜都美さん(4年)
宮本 ちかのさん(4年)
最優秀賞に選ばれたのは「瀬戸際を生きる登り窯」という作品を発表した豊田高専です。
豊田高専が対象にした、愛知県瀬戸市は、日本六古窯(※1)の一つである瀬戸焼と呼ばれる陶芸品が有名で「せともの」のまちとして栄えてきましたが、近年は、職人や後継者の減少を背景に、ものづくり全般を担う「ツクリテ」のまちへ移行しています。また現在、瀬戸焼を生産する際に使用されていた登り窯(※2)は、観光資源やランドマークとして新たな役割を担っています。
一方で、災害後の復興において、特定の地域が持つアイデンティティや伝統に対する誇りが、地元の人々を結び付け、地域全体の復興をリードするパワーになると考えられています。
そこで豊田高専の学生たちは、かつて地域の陶磁器産業を支えた登り窯に着目し、登り窯を有するキャンプ施設を提案しました。このキャンプ施設は、災害時は避難所としての役割を担うことが出来る施設となっています。
施設内で稼働する登り窯では、備長炭の製造が行われ、その過程で生じる余熱を活用し、焼き物製作や、発電や温水の供給も行います。また、備長炭の製造はその余熱を活用出来るだけでなく、放置林の解消にも繋がるため、これが土砂崩れの防止という災害対策の側面も併せ持ちます。
さらに、雨水を一旦、集水井(しゅうすいせい)に貯め、登り窯を模した浄水装置によって浄化し貯水槽に蓄えることで、水不足の対策も図っています。
こうした取り組みを通じて、行政・事業者・市民が互いに利益を分かち合い、地域産業のさらなる発展と、災害に強いまちづくりを実現しています。
理詰めで綿密に計画を立てている点や、実際の復興の現場でも誠実に現場と向き合って、仕事を進めていける気概を感じさせる点などが、審査員の方々から高評価を受け、最優秀賞受賞となりました。
※1 日本六古窯:日本古来の陶磁器窯の中で、中世から現代に至るまで生産が続く代表的な6つの窯の総称。各窯でつくられる陶器の生産地は以下の通り。
瀬戸焼:愛知県瀬戸市
常滑焼:愛知県常滑市
越前焼:福井県丹生郡越前町
信楽焼:滋賀県甲賀市
丹波立杭焼:兵庫県丹波篠山市今田町立杭
備前焼:岡山県備前市伊部
※2 登り窯:斜面などの地形を活用し、重力による燃焼ガスの対流を利用することで、炉内の製品を均一な高温で焼成できるよう工夫された窯
創造デザイン部門 『 未来につなげる脱炭素な社会 』
創造デザイン部門では、高専生が地域性、自立性、創造性、影響力、実現・持続可能性の5つの評価基準に基づき、社会課題に取り組む提案を行います。提案作品は1日目に高専生たちのオリエンテーションやワークショップを行い、作品のブラッシュアップを行います。2日目にブラッシュアップした作品のプレゼンテーションを行います。
地域資源を活かした持続可能な社会の実現に向けた具体的なストーリーやプロセスが求められ、新たな発想が盛り込まれているかが評価の重要なポイントです。
今大会のテーマは「繋」であり、創造デザイン部門では「未来につなげる脱炭素な社会」をテーマに、2050年のカーボンニュートラルを目指し、都市と地域が共存しながら豊かな生活を実現する社会づくりのため、高専生たちから数々の独創的なアイデアが提案されました。
最優秀賞(文部科学大臣賞):サレジオ工業高等専門学校
作品名:推し色でつながる推し活コミュニティ「OXIKARA(オシカラ)」
作者 :
望月 里江子さん(4年)
佐藤 明咲さん(3年)
水津 梢英さん(3年)
サレジオ高専が提案した「OXIKARA(オシカラ)」は、脱炭素社会の実現を目指し、日本の伝統的な「おさがり」文化を現代風にアレンジした新しいサービスです。現在、日本では年間に約1,200トンもの衣類が廃棄されており、その量は大型トラック80台分にも相当します。OXIKARAはこの大量廃棄を減らすために、サステナブルファッション(※1)を促進し、環境負荷を軽減することを目的としています。
OXIKARAのユニークな点は、若者に人気の「推し活(※2)」文化と融合していることです。OXIKARAでは、推しのイメージカラーである「推しカラー」を使って不要な衣服を色別に分類し、同じカラーが好きな人に譲る仕組みがあります。この仕組みにより、ファン同士が新しい繋がりを見つけ、ジャンルを超えた交流が可能になります。
OXIKARAが提供するサービスとして、まずオンラインでの利用を想定したアプリケーションがあります。このアプリケーションでは、不要になった衣服を簡単に検索できる機能や、チャットやハッシュタグを使った交流機能、出品する度にポイントが貰える制度を備えています。もうひとつのサービスは、オフラインでの衣類交換会といったイベントの開催です。このイベントでは、参加者が街をテーマカラーで彩り、地域全体で楽しめる工夫が練られており、また、アプリケーションで貯めたポイントを利用した衣類交換も可能です。
将来的には、メタバース空間での活用も視野に入れており、メタバース空間でアバターを通じた衣服の試着やカラー表現を楽しめる、新しいリユース体験の提供も期待されています。
審査員の方々からは、焦点を絞った明快な問題提起と、シンプルかつ説得力のあるストーリー展開が高く評価されました。また、伝統的に建築・都市デザイン学科が多く出場する中で、サレジオ高専デザイン学科チームが異分野の視点から新しい風を吹き込んだことは、まさに異分野との「つながり」であり、今大会テーマである「繋」にもマッチしており、象徴的な提案である、と評価され、最優秀賞を受賞しました。
※1 サステナブルファッション:衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセス全体で、地球環境や社会に配慮し、将来にわたり持続可能であることを目指す取り組みのこと。
※2 推し活:好きなアイドルやキャラクターを応援する活動全般のこと。
AMデザイン部門 『 人と人が豊かにつながるものづくり 』
AM(Additive Manufacturing:3D造形)デザイン部門では、3Dプリンタの造形技術を活用して、テーマに沿った作品を製作します。新規性・独創性・活用性、技術的課題の解決・実用性、プレゼンテーション力の観点で作品が評価されます。
今年のテーマは「人と人が豊かにつながるものづくり」です。感染症の広がりや止まない紛争、地球温暖化による気候の変化、水不足の問題など、世界中で様々な課題は増加の一途を辿っており、地球環境は大きく変化し続けています。そんな予測困難な混沌とした時代だからこそ、人と人との繋がりが一層大切だとされています。
そこで、高専生たちは、「つながり」をテーマに、人の連携やふれあいが豊かになるようなアイテムの開発に挑戦しました。また、3Dプリンタの特性を生かして、新しく便利なだけではなく、人の「つながり」を豊かにできるアイデアを提案しました。
最優秀賞(経済産業大臣賞):弓削商船高等専門学校
作品名:ヒールラクテクター
作者 :
菅野 琴路さん(5年)
萩原 聖大さん(5年)
清水 大輔さん(5年)
弓削商船高専は、「ヒールラクテクター」というクリート(※1)付きビンディングシューズ(※2)の歩行時の不便さを解消する新しいアイテムを提案しました。このプロテクターは、クリートと床を保護しながら、歩きやすさも確保できる設計です。3Dプリンタでの出力には、TPU(※3)素材とラティス構造(※4)を採用することで、全体を軽量化しつつ耐久性も実現しています。
本作品の開発にあたり、サイクリストのフィードバックを基に改良を重ね、第5世代まで試行錯誤を経て完成させました。かかとの幅を小型化し、クリート部分の接続の安定性も向上させたことで、歩きやすさと安全性を両立することができました。
このアイテムの登場により、サイクリストが地域住民や他のサイクリストと交流を深める機会が増え、人と人の繋がりが広がることが期待されます。多くの試作を重ね、素材や構造を慎重に選定し、課題を解決しようとする姿勢とその技術力には感銘を受けました。
※1 クリート:ペダルに靴を固定するために靴底に取り付ける金具。
※2 ビンディングシューズ:クリートを装着できる自転車用の靴で、効率的に力を伝達する。
※3 TPU(熱可塑性ポリウレタン):柔軟で耐久性が高く、衝撃吸収性にも優れたプラスチック素材。
※4 ラティス構造:軽量化と耐久性を両立させるための格子状の構造。
プレデザコン部門 『 過去 ⇒ 現在 ⇒ 未来 ×「繋」』
プレデザコン部門は高専本科3年生までを対象に、空間デザイン、創造デザイン、AMデザインの3つのフィールドで構成され、各フィールドでそれぞれ異なるデザインを提案します。各フィールドが対象とする製作物はそれぞれ以下の通りです。
・空間デザイン:構造物をモチーフにした絵
・創造デザイン:次回大会のトートバッグのデザイン
・AMデザイン:3Dプリンターのオブジェクト
各フィールドには競技課題が設定されており、自由な発想が求められます。また、この部門の評価は、来場者の投票によって決定されます。
空間デザインフィールド
現存または過去に実在した構造物を対象とし、独創的かつ魅力的な時空間としてコラージュした、『似て非なる』唯一無二の絵を製作します。本大会のプレデザコンテーマ『過去→現在→未来 × 「繋」』を表現し、人の目には見えず、写真にも収められない独自の視点を取り入れたポスターとして制作します。モチーフとなる構造物は、複数用いることも可能です。
創造デザインフィールド
2025年度に開催される福井大会(主幹校:福井工業高等専門学校)で使用するエコバッグのデザインをポスターで表現します。但しデザインは開催地である「福井」をイメージできるデザインに限られます。また、トートバックのカラーはアイボリーとし、デザインの他は青色系(福井高専のスクールカラーをイメージ)とします。
AMデザインフィールド
今大会のプレデザコンのテーマである『過去 ⇒ 現在 ⇒ 未来 ×「繋」』というキーワードを体現した造形を考案し、3Dプリンタで出力します。但し、オブジェのサイズは、静置した時に幅400mm✕奥行400mm✕高さ500mmの範囲に収まる大きさで作成します。
おわりに
今大会は、主幹校である阿南高専にて開催され、多様な課題に対して高専生たちが、技術力と発想力で解決する挑戦が繰り広げられました。
各部門では、社会で実際に役立つ独創的なデザインやアイデアが数多く発表され、地域や人々との結びつきから新たな価値を創出する作品が揃いました。高専デザコンのテーマ「繋(けい)」に沿って、参加者たちは自らの創造力と技術力を駆使し、次世代の課題解決に向けて大きな一歩を踏み出している様子が窺えました
また、「繋」というテーマが象徴するように、発表された作品は、人や技術の連携を通じて新しい価値を生み出すものばかりであり、近未来の技術者として持続可能な社会の発展に貢献しようとする意欲が感じられました。特に、地域に根ざしたデザインや社会に応用できるアイデアが多数見られ、社会課題に柔軟かつ創造的に対応する高専生たちの実力が示されました。
大会を通じて得られた知見やつながりが、高専生たちのさらなる成長を支え、新たな未来社会の創造に生かされることが期待できる、とても有意義な実り多き大会でした。
デザコン│全国高等専門学校デザインコンペティション:公式サイト