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高専トピックス

主に土木系・建築系の学科・コースを学んでいる学生を中心に全国の高専生が参加する「全国高等専門学校デザインコンペティション(通称:デザコン)」。
デザインの領域を「人が生きる生活環境を構成するための総合的技術」と位置づけ、生活環境や生活空間に対する技術や発想を競うコンテストとして注目されています。
2022年12月10日と翌日の11日に福岡県大牟田市文化会館で開催された有明高専が主管する有明大会の構造デザイン部門では、2019年東京大会から続いている紙を素材とした橋の強度設計を競いました。
この競技において見事に最優秀賞を獲得したのが、米子高専のチームが制作した「火神岳(ほのかみだけ)」です。併せて米子高専は大会5連覇の偉業を達成しました。
先輩たちが成し遂げてきた4連覇の後を引き継いで、どのような想いでこの大会に臨んだのか、チームメンバーや指導教員にお聞きしました。


出場メンバー
米子工業高等専門学校デザコンチーム
・山田 果奈(やまだ かな)さん(建築学科/4年)
・安藤 大智(あんどう たいち)さん(建築学科/4年)
・佐藤 政大(さとう まさひろ)さん(建築学科/4年)
・石倉 宗弥(いしくら もとや)さん(建築学科/5年)
・髙橋 叶羽(たかはし かなう)さん(建築学科/4年)
・村岡 拓真(むらおか たくま)さん(建築学科/4年)

指導教員
・北農 幸生(きたの ゆきお) 先生(総合工学科 建築デザイン部門 准教授) 
(掲載開始日:2023年5月12日)

課題概要・大会ダイジェスト

仕様の決まったケント紙と接着剤を用いて、分割された二つの橋をスパン中央でつなぎ、水平スパン長800mmの1つの橋をつくります。
その橋に紙自体が持つ強さやしなやかさ、軽さなどの特性を最大限に引き出す「耐荷性」、「軽量性」、「デザイン性」、「創造性」を評価します。
競技得点は、集中荷重載荷による載荷点50点、軽量点30点、審査員評価点は20点の100点満点です。耐荷点は、初期荷重を10kgとし、50kgまで載荷を行って測ります。
40kgまでは10kg刻み、40kg以降は5kg刻みで載荷し、各載荷段階で10秒間の耐荷状態を確認後、次の載荷を行います。

他を圧倒する軽量さに加え、耐荷点も満点で、ダントツの1位を獲得!
何と言っても、初日の質量計測で米子高専の火神岳は圧倒的な軽さを見せつけました。
他チームの橋が軒並み100gを超える中、火神岳は他を圧倒する58.6g。軽さで2位のチームが74.8gだったことからも、火神岳の設計の優秀さが証明されました。
しかし、次の荷重載荷で得点を伸ばさないと逆転されかねません。火神岳は載荷段階を次々とクリアしていき、最後の50kgも10秒を耐え切って満点。
そして審査員点もトップクラスの点数を獲得し、100点満点中95.6点の堂々の1位 (最優秀賞)で大会を終えたのでした。

受賞者の皆様へインタビュー

優勝おめでとうございます。火神岳の製作で苦労された点を教え下さい。


58gの紙と接着剤でできた橋梁モデルが50㎏の荷重に耐えることは、常識的には考えにくい。それを可能にしたのは、高い技術力とチームワーク。

安藤さん:火神岳(ほのかみだけ)のネーミングは、鳥取県の名峰である大山の別名であり、「ほぼ紙だけ」とかけています。
実は最終的にエントリーした火神岳は、設計開始から9作目でした。CADで設計して図面を起こし、紙を切って製作するのですが、試行錯誤を繰り返して少しずつ理想に近づいていったのです。
軽量化に目処が立ったのは、本番1ヶ月前のぎりぎりのタイミングでした。

佐藤さん:私は設計を担当したのですが、本番はもちろん実験の時からも先輩たちの積み上げてきた4連覇の重みをひしひしと感じていました。橋に加重する重さ以上にプレッシャーを感じていたのです(笑)。

石倉さん:他のチームの戦略や仕様が読めず、手探りで設計目標を決めていく難しさがありました。それは、前年に参加した時も同じでしたので、後輩たちを鼓舞しました。

北農先生:載荷テストをどういう条件で行うか、メンバーで考えられる条件を出し尽くして計算していくといった、プロセスを教えるような指導をしました。

大会当日の心境や優勝の瞬間のお気持ちを教えて下さい。


2009年より米子高専 建築学科で教鞭をとり、デザコンペーパーブリッジコンテストで5年連続 最優秀賞を獲得する偉業を成し遂げられています。その秘訣は、過去大会での技術を活かし 続けていることと、要望を常に高く求めていることです。

安藤さん:目の前で他のチームの橋が次々と錘に耐えられなくなって崩れていくのを見て、プレッシャーは最高潮でした。

佐藤さん:それだけに優勝が決まった瞬間はホッとしました。構造デザイン部門の5連覇が決まり、設計担当として4連覇の重さも耐え切れたと感じました。

安藤さん:最後の載荷で10秒間を耐えた瞬間、嬉しくて無意識にハイタッチしました。

石倉さん:僕は配信で見ていたのですが、途中から行ける!と手応えを感じていました。優勝が決まった時は、みんな良くやった、伝統は受け継がれたと思いました。

北農先生:上級生から下級生へ、何代にも渡って技術が継承されていることを証明できたと思います。

石倉さん:先輩たちに教えてもらったことが、後輩たちに伝えられて良かったです。北農先生の「もっと軽く!」という厳しい指導も後押ししてくれたはずです。

北農先生:どこまで行けるか挑戦を諦めない、そんな天井を決めないことが重要なのですね。

皆さんが高専で学んで良かったと思うことと今後について教えて下さい。


先輩は後輩に過去技術の継承をしているからこそ、5連覇を成し遂げられた。常に先輩方は連覇のプレッシャーの中で大会に臨んでいますが、このようなコンテストで技術を試すことが出来るのは高専ならではの醍醐味。

安藤さん:この大会に出て成果を残せたことが1番ですが、確かな技術を学べたからこそだと思います。私はあと1年学んで、大手設計事務所に就職する予定です。

佐藤さん:授業で建築の構造を学ぶだけではなく、こうして学んだことを試せるコンテストがあるのが良いですね。
私は専攻科に行くつもりですが、将来的には構造設計の仕事をしたいと考えています。

石倉さん:先輩・後輩とつながって、高度な技術に挑戦できることです。私は九州大学に進学し、経済工学を専攻することが決まっています。

皆さん、研究や授業でお忙しい中、お答え頂きありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。