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高専トピックス


※ 9団体は滋賀県商工会議所連合会、滋賀県中小企業団体中央会、滋賀県商工会連合会、滋賀経済同友会、滋賀経済産業協会、びわこビジターズビューロー、滋賀県建設業協会、公立大学法人滋賀県立大学、滋賀県

はじめに


滋賀県栗東(りっとう)市にある「栗東芸術文化会館SAKIRA」にて開催しました。

第2回イベントのチラシ。STEAM教育とダイバーシティを合わせた多様な視点を共有し、理工系人材の未来について議論が行われました。

滋賀県では、県内初となる高等専門学校(以下、高専)の2028年4月の開校に向けた準備が着々と進んでいます。この新しい高専は、滋賀県南部の野洲市にキャンパスが建設されることが予定されており、1学科4コース(「機械系」「電気電子系」「情報技術系」「建設系(環境・インフラ系)」)体制でスタートする計画です。滋賀県は日本有数の内陸工業地域であり、県内の産業界から長く求められてきた工業系高等教育機関として、期待が寄せられています。

「滋賀県立高専共創フォーラム」は、2022年5月に県内の経済団体6つと、滋賀県建設業協会、公立大学法人滋賀県立大学、滋賀県の計9団体が「高等専門学校の設立に向けた共創宣言」に署名したことに端を発します。この宣言に基づく連携の枠組(プラットフォーム)構築への土台・基盤となることを期待し、滋賀県立高専の応援団の仕組みとして2023年11月に立ち上げられました。

今回で2回目となるイベントは、「STEAM教育(※)」と「ダイバーシティ」をキーワードに、多様性に富んだ学びの場を提供し、より多様な理工系人材の育成を目指す滋賀県立高専の可能性をテーマに開催されました。
当日は冒頭に三日月 大造(みかづき たいぞう)滋賀県知事及び公立大学法人滋賀県立大学の井手 慎司(いで しんじ)理事長から開会の挨拶が行われ、次いで第1部では「STEAM教育」について、STEAM教育者である中島(なかじま) さち() 氏による基調講演が行われました。

第2部では、6名のパネリストにより、「ダイバーシティ」をテーマに、どのように理工系人材を増やし、どのように育成していくか、会場からの質問も交えて充実したトークセッションが展開されました。

※STEAM教育:「科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「芸術(Art)」「数学(Mathematics)」の5つの分野を統合的に学ぶ教育のこと。

前回開催された第1回目の創立記念イベントの記事はこちら

(掲載開始日:2024年10月16日)

基調講演 「県立高専の学びとSTEAM教育の可能性」


STEAM教育者だけでなく、音楽家、数学研究者としても活躍なさっている中島さち子氏による基調講演が行われました。中島さんは、高専GCON(GIRLS SDGs×Technology Contest)の審査員も引き受けておられます。

講演者:中島 さち子 氏(ジャズピアニスト&作曲家、数学研究者、STEAM教育者、メディアアーティスト、(株)steAm 代表取締役、(一社)steAmBAND 代理理事、大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー)

STEAM教育の第一線で活躍し、大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーも務める中島さんが、「県立高専の学びとSTEAM教育の可能性」というテーマで講演を行いました。音楽家や数学研究者としての顔も併せ持つ中島さんは、自身の多彩な活動を通して、高専教育の可能性と未来について熱く語りました。

STEAM教育の重要性
STEAM教育とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を統合的に学習するSTEM教育に芸術(Art)を組み合わせ、これらの領域を横断して新しい価値を創造する学びの形です。中島さんはSTEAM教育の意義について説明するとともに、「STEAM教育を通じて、子どもたちの創造力を育み、未来を切り拓く力を身につけてもらうことを目指している」と語りました。

また、STEAM教育は、単なる知識の習得ではなく、芸術的な発想を取り入れ、ものづくりの楽しさや創造の喜びを体感することが出来る、という特徴を持ちます。中島さんはその重要性を強調し、理工系の知識を教えるだけでなく、アートや文化をも融合させることで、多様な視点を持つ人材が生まれることが期待されていると述べました。

日本におけるジェンダーの多様性と教育
講演の中で中島さんは、日本におけるジェンダーの多様性の不足についても触れました。自身の国際数学オリンピックでの経験をもとに、特に理工系分野で女性の割合が少ない現状を指摘し、「多様性が欠けた社会では、真のイノベーションを生み出すことは難しい」と力説しました。
この問題に対する解決策の一例として、中島さんは女性やマイノリティも活躍出来る環境づくりの重要性を訴え、メンター制度やコミュニティの形成を通じて、ジェンダーの壁を越えた支援を推進する取り組みを紹介しました。例えば、大学の数学科・数理科学科の学生、社会人、研究者らの協力を得て運営しているウェブサイト「数理女子」では、数学や科学に興味を持つ女性が情報交換を行う場として機能しています。

「数理女子」サイト:https://www.suri-joshi.jp/

大阪・関西万博テーマ事業「いのちを高める」
講演の後半では、2025年に開催される大阪・関西万博のテーマ事業について触れました。万博で担当される「いのちの遊び場クラゲ館」の構想について、音楽やアート、スポーツ、学びを通じて「いのちの輝き」を感じられる体験を提供する予定だと説明されました。
クラゲ館の体験では、参加者が自ら音楽を作り出したり、他の参加者と協力して作品を創造したりすることで、創造力と協働の重要性を実感出来るよう設計されています。中島さんは、「このような場を通じて、特に高専生には、自分の技術やアイデアを社会で活かす機会を提供したい。そして高専生が未来の社会に貢献出来る人材として成長していくことを期待している」と語りました。

高専教育の未来と可能性
最後に、中島さんは高専教育の未来を見据えた提言の中で、 “遊びの場” の重要性を強調しました。「学びとは、単なる知識習得ではなく、創造力を引き出す体験であるべきであり、特に高専はその役割を果たすべき場所である」と指摘しています。 “遊びの場” では、学生が自由に試行錯誤することによって、アイデアを実現する力を育むことができ、これが創造性を発揮するための基盤となると訴えました。
また、STEAM教育の本質について、「遊びを通じた創造的な学びこそが、未来の社会を切り拓く力になる」と述べ、その遊びの場が高専だけに閉じず、大学や地域社会といった様々な場面に広がるべきと強調しました。滋賀県立高専が、このような高次元な “遊びの場” となり、学生たちの創造力を最大限に引き出す拠点となることに大きな期待を寄せました。

トークセッション 「高専発!ダイバーシティで未来を切り拓く!」


「高専発!ダイバーシティで未来を切り拓く!」のトークセッションでは、6名のパネリストが、多様性を活かした未来の理工系分野の発展について活発に意見を交換しました。

トークセッションのテーマは「高専発!ダイバーシティで未来を切り拓く!」でした。このセッションでは、理工系分野におけるダイバーシティの重要性と、理工系人材の未来をどのように切り拓いていくかについて、現役高専生や企業関係者、教育関係者が会場の質問にも答えつつ、白熱した意見交換が展開されました。

パネリスト:
佐藤 舞乙(さとう まお) 氏(豊田工業高等専門学校 環境都市工学科 4年)
内藤 千晶(ないとう ちあき) 氏(豊田工業高等専門学校 電気・電子システム工学科 2年)
・エンフバヤル・エンフウヤンガ 氏(第一工業製薬株式会社/新モンゴル工業高等専門学校第一期生)
石田 秀幸(いしだ ひでゆき) 氏(甲賀高分子株式会社 代表取締役社長)
藤田 直幸(ふじた なおゆき) 氏(奈良工業高等専門学校 副校長・教務主事/大阪府立工業高等専門学校OB)
森田 久美子(もりた くみこ) 氏(NPO法人Waffle/長野工業高等専門学校OG)

コーディネーター:中島 さち子 氏

※豊田高専の佐藤さん、内藤さんは高専GCON2023で文部科学大臣賞を受賞しております。高専GCON2023での活躍、インタビュー記事は下記リンクからご覧頂けます。


高専GCON2023のレポート記事はこちら

受賞者インタビュー記事はこちら

岸本滋賀県副知事から、トークセッションのテーマの背景と趣旨の説明がありました。岸本氏は、様々な人と触れ合い、意見を出し合いながら価値を見出すことの重要性について言及し、また、日本における理工系分野の女性比率の低さの原因について、国際学力調査(PISA)やOECDのデータを示しつつ、「キャリアイメージの不足やロールモデルの欠如、ライフイベントとの両立の難しさ」などを指摘しました。県立高専の設置をこうした状況の打破に繋げることを志向しており、「ダイバーシティを推進するための取り組みを考える場にしてほしい」と、セッションの意義を伝えました。

このセッションでは、主にダイバーシティとジェンダーギャップの問題に焦点が当てられ、理工系分野における女性の進出は徐々に進んではいるものの、依然として日本ではアンコンシャス・バイアスや固定観念が根強く残っている点について、パネリストから考えや実体験が述べられました。企業関係者からは、女性を含めたすべての人が働きやすい職場環境を整備することで企業の生産性向上に繋がっている事例が紹介され、ダイバーシティ推進はイノベーションを促進し、社会全体の成長に寄与する可能性を感じました。

また、高専教育における変革と今後の展望についても議論が展開されました。高専において女子学生の割合が増加している現状は、ダイバーシティ推進の成果として高く評価されており、今後はさらに多様な人材を受け入れ、ダイバーシティやジェンダーに関する意識を高めていくことが、教育の質を向上させ、学びの充実に繋がると期待されています。

トークセッションを通じて、理工系分野でのダイバーシティの重要性が改めて認識され、特に女性が理工系分野で活躍するための環境整備が求められることが共有されました。
今後、アンコンシャス・バイアスや固定観念を克服し、多様な背景を持つ人々が理工系分野で力を発揮出来る社会の実現に向け、滋賀県立高専を含む各教育機関での取り組みがさらに広がることが期待されます。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。