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高専トピックス

「第2回 高専GIRLS SDGs×Technology Contest(高専GCON2023)」は、全国の高等専門学校に在籍する女子学生たちの活躍を広く知らしめることを目的としたコンテストであり、これらの学生たち(未来の女性研究者及び女性技術者)を積極的に支援することをその使命としています。

このコンテストは、高等専門学校制度が60周年を迎えたことを記念し、国立高等専門学校機構と日本経済新聞社が共催する形で、2022年に初めて開催されました。
参加する学生たちは、SDGs(持続可能な開発目標)の理念を学びつつ、将来の研究者や技術者としての成長を目指し、様々な社会的課題を解決するための技術開発に関するアイデアを競い合いました。

2024年1月21日(日)、日経ホールにて開催された「高専GCON2023」の本選の様子について、お伝えいたします。

(掲載開始日:2024年2月15日)

概要・ルール

募集テーマは、地域や社会の様々な課題を解決するアイデアを通じたSDGs達成に貢献する提案です。特に社会での女性活躍に繋がる提案が推奨されました。
また、SDGsの解決に向けた革新的なアプローチが、ビジネスの機会を生み出すことも期待されています。

参加資格は、全国の高等専門学校に在籍する女子学生のチーム(2~5名)です。リーダーが女子学生であり、チームの半数以上が女子学生であれば、男子学生も参加可能となっています。

本選は、46高専85チームのエントリーの中から、書類審査・面談審査を通過した12チームが、プレゼンテーション(7分)・質疑応答(4分)を行います。SDGsへの理解と自分との関り・イノベーション視点、実現への道程、プレゼンテーション力の観点で審査が行われ、
文部科学大臣賞、優秀賞(2チーム)、審査員特別賞、協賛企業賞が決定されました。

本選出場チーム一覧(高専名・チーム名・タイトル・表彰名)

高専名 チーム名 タイトル 表彰名
鳥羽商船高等専門学校・豊田工業高等専門学校 かきっ CO₂を吸収する無焼成スマート牡蠣殻タイル 文部科学大臣賞 & JFEスチール賞
弓削商船高等専門学校 Team medical Unicorn カスタムメイドディスポ持針器じしんきの開発 優秀賞
旭川工業高等専門学校 勇者あああああああ いつまでも美しく健全なインフラ構造物の実現 優秀賞
新居浜工業高等専門学校 アイデアメイカーズ IH局所加熱を応用した次世代型ランチボックスの開発 審査員特別賞
岐阜工業高等専門学校 あお木っず 小径広葉樹の活用による持続可能な森林と快適な室内環境の創出 住友金属鉱山賞
宇部工業高等専門学校 IMT LAB 機械学習を用いた画像解析による廃棄物分別プログラムの開発 FIXER賞
長野工業高等専門学校 たけの粉 竹パワーで水をきれいに! 村田製作所賞
函館工業高等専門学校 ゴールデンNIT 伝統工芸×テクノロジーで日本の超絶伝統工芸を持続可能に
鶴岡工業高等専門学校 地域を繋げる課題解決型技術コーディネーター 白鷹町の邪魔者ブラックバスで鶴岡市の月山高原がっさんこうげんひまわり畑を復活!
大作戦
長岡工業高等専門学校 長岡高専Be-Mice 市民向け建設・インフラ体験イベント「はしおし」の開催
有明工業高等専門学校 サーキットデザインGirls メタバース×半導体=有明シリコンバレー
沖縄工業高等専門学校 限界指導寮生 小型希少動物のロードキル防止と確かな保護を実現するクイナートシステム

文部科学大臣賞:鳥羽商船高等専門学校・豊田工業高等専門学校(合同チーム)


全員サウナハットを被りながら発表する姿に身も心も温まる会場。2校の高専がそれぞれの長所を活かし、地域の課題を解決しつつサウナ施設の新設に取り組むプロジェクトは非常に印象的であった。

チーム名:かきっ
タイトル:CO₂を吸収する無焼成スマート牡蠣殻タイル


文部科学大臣賞に輝いたのは、高専コンテスト初となる合同チーム参加の鳥羽商船高専と豊田高専の「かきっ娘」です。
このユニークなチームは、メンバー全員がサウナ愛好家という共通点を持ち、サウナ施設を作るために地域振興と環境問題解決を同時並行で目指しています。

このチームのプロジェクトは、三重県鳥羽市の牡蠣殻処理と岐阜県多治見たじみ市の窯業ようぎょう(※1)に関連した地域課題に対処するため、CO₂を吸収する牡蠣殻タイルの開発に焦点を当てました。
このタイルは、通常のタイル製造で用いられる粘土の代わりに牡蠣殻を使用することで焼成を行わずCO₂排出を伴わないため、環境に優しい製品です。更に、多孔質たこうしつ(※2)の性質から、給水や消臭効果が期待され、サウナの内壁に最適とされています。

製造過程では、手作業とプレス成形の二つの方法を試し、最終的にはプレス成形にて均一な品質のタイル生産に成功しました。
評価実験により、このタイルは、JIS規格の屋内壁の破壊荷重を上回る強度を有し、CO₂吸収量や吸水量の面でも優れた性能であることを示していました。

チームの取り組みはSDGsの目標達成にも貢献しており、廃棄物削減やパートナーシップの形成に重点を置いています。審査員からは、サウナ用タイルというアイデアの革新性と、2校の高専が協力して地域課題を解決した点が高く評価されました。

※1 窯業ようぎょう :陶磁器やタイルなどを焼き固める工程を含む製造業
※2 多孔質たこうしつ :多数の細孔(小さな穴)の空いた状態

優秀賞:弓削商船高等専門学校


製作した持針器じしんき(写真右側)を発表する様子。弓削商船高専が製作した持針器は、2023年に開催された高専デザコン AMデザイン部門でも優秀賞を受賞している。第20回全国高等専門学校デザインコンペティションレポート

チーム名:Team medical Unicorn
タイトル:カスタムメイドディスポ持針器じしんきの開発


弓削商船高専は、3Dプリンタを用いた使い捨ての持針器(※)の開発に関する発表を行いました。

地震や洪水といった自然災害による甚大な被害を受けた被災地の医療現場では、交通網の分断や停電、断水により、従来のステンレス製の持針器の十分な滅菌がされず交差感染リスクが高まるといった問題があります。
そこで、滅菌の必要がない使い捨て可能な持針器を製作しました。

既存のステンレス製の持針器は1本1万円前後ですが、製作した持針器は、3Dプリンタを用いて30円程度で製造でき、かつ迅速に量産可能です。
また特長としては、使いやすさ、捨てやすさを考慮した設計であり、医師一人ひとりが使い勝手が良いようにカスタマイズ可能であることが挙げられます。

審査員からは、実際の医師の方々に使用してもらっている点や社会的意義の高さが評価を受け、優秀賞の受賞となりました。

持針器じしんき:カーブした針を挟み持って皮膚や筋肉などの組織を縫う際に使用する手術器具

優秀賞:旭川工業高等専門学校


塗膜の実際の画像やイラストを用いたプレゼンテーションにより、内容の理解が格段に深まった。

チーム名:勇者あああああああ
タイトル:いつまでも美しく健全なインフラ構造物の実現


北海道旭川市は「橋の町」として知られていますが、塗装の剥離や金属の腐食により、橋梁の外観が損なわれている箇所が増えている現状です。剥離や腐食は美観のみならず、重大な安全上のリスクを引き起こす可能性があります。
この問題に対応するため、旭川高専は金属防錆ぼうせい用表面処理(※1)の研究に乗り出しました。

旭川高専は、金属防錆用塗装の局所的な欠陥が腐食の主な原因となっていることを突き止め、「自己修復性塗膜」の開発に成功しました。
この塗膜は、修復剤(※2)を内包したカプセルを含み、欠陥が生じるとカプセルが破裂し修復剤が流出、空気中の水分と反応して自動的に修復する仕組みを持っています。
この技術により、欠陥が形成されても下地の金属が露出することなく、橋の耐食性を高めることが期待されます。

この技術の実現は、市民が美しい橋を安全に利用できるようになるだけでなく、自治体のメンテナンスコストの削減や、観光名所としての価値向上に繋がります。
更に、インフラ設備だけでなく、自動車産業など他の金属材料にも応用可能であり、塗装業界や表面処理業界に大きなイノベーションをもたらします。

また、塗装に関するコスト削減が期待され、日本の工業経済にも大きな波及効果をもたらすとされています。これにより、SDGsの9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献可能です。
今後は、自己修復時に平滑に塗膜されるようカプセルの分散位置や形態を調整し、より効果的な自己修復性を実現するとの展望を述べました。

審査員からは、日本全国の鉄が錆びないようにするこの挑戦の社会貢献性、橋梁だけでなく鉄道のレールやその他のインフラにも応用可能であるこの技術の汎用性が高く評価され、優秀賞が贈られました。

※1 金属防錆ぼうせい用表面処理:金属の表面にコーティングや化学処理を施し、錆や腐食を防ぐ工程
※2 修復剤:損傷や摩耗した材料の表面や構造を修復するために使用される化学物質または混合物

審査員特別賞:新居浜工業高等専門学校


各種金属板の電導度と温度上昇の関係を実験的に調査しながら、ランチボックスの試作品を開発したことを発表。

チーム名:アイデアメイカーズ
タイトル:IH局所加熱を応用した次世代型ランチボックスの開発


新居浜高専は、IHヒーターを用いた新しいランチボックスの開発に関する発表を行いました。

IHヒーターの原理は、まず内部のコイルに電流が流れることで磁場が発生し、この磁場により調理器具(鉄の鍋等)の底面では渦電流が生じます。そして、この渦電流に対する被加熱材の電気抵抗によって調理器具底面が発熱します。

底面に電導度の異なる金属を配置することで、場所によって、発熱温度を変化させられることが、提案したランチボックスの特長となっています。
実験により各種金属板の電導度と上昇温度の関係を調査し、ランチボックス試作一号機では、ステーキの加熱に使用する高温加熱部はSUS430(※1)、ごはん部はSUS304(※2)、副菜部はアルミニウムを配置しています。これにより、ステーキは焼き立てを、ごはんは暖かく、副菜は冷たいまま食べることが出来ます。

審査員からは、今まで無かった新しいアイデアであり、IHを用いているため技術的にも実現可能性が高いとの評価を受け、受賞となりました。

※1 SUS430:耐食性と熱処理による硬化能力を持つ、鉄系ステンレス鋼の一種
※2 SUS304:優れた耐食性と成形性を備えたオーステナイト系ステンレス鋼の一種

おわりに

高専GCON2023では、高専生たちがSDGsの理念を深く理解し、その目標の達成に寄与する様々な社会問題の解決策として、練り上げた技術的なアイデアを熱心にプレゼンテーションしていました。

高専生たちは、地域や社会の課題を個人的な自分事の課題として捉え、積極的に研究や試作を行いました。日々磨いてきた技術力を活かして、様々な問題の解決策を考案し、ステークホルダーとの実際の議論や実装を通じて問題解決を図るスキルを身に付けていることがひしひしと伝わって参りました。
今回発表をした成果が、今年5月に開催される 高専DCON2024 への参加を経て、より実現に近づくことが期待されます。

また、高専GCON2023においては、参加チームの半数以上が女性で構成されており、国が目指す女性研究者や女性技術者の活躍という目標に沿っていることも明らかになりました。このコンテストを通じて、より多くの女性技術者や研究者が育まれ、近未来において大いに活躍することが望まれます。

今回の高専GCON2023も、高専生たちが高度な技術力を駆使してSDGsを軸とするの社会的な課題にチーム一丸で取り組む機会として、非常に成果のあるコンテストであったと感じられ、今後も高専生の可能性に大きな期待が寄せられています。

独立行政法人国立高等専門学校機構 高専GCON2023 オフィシャルサイト

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。