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高専トピックス

全国高等専門学校デザインコンペティション(以下、高専デザコン)は、高専生を対象とした、社会や生活環境に関連する様々な課題への取り組みを通じて、各高専で養い培われた学力・デザイン力を競う大会です。
高専デザコンは毎年開催され、高専生が全国規模で競い合うロボットコンテスト(ロボコン)やプログラミングコンテスト(プロコン)、英語プレゼンテーションコンテスト(プレコン)と並び、4大コンテストの1つに位置付けられています。
全国の国立・公立・私立の高専58校63キャンパスならびに海外の高専から、主に土木・建築を専攻する学生たちが参加し、構造デザイン部門、空間デザイン部門、創造デザイン部門、AM(Additive Manufacturing:3D造形)デザイン部門、プレデザコン部門の5部門で競います。


会場となった赤れんがパーク(京都府舞鶴市)。

今大会のメインテーマは「session~新しい協働の形~」です。
古典的な音楽理論に基づく「symphony」は、堅固で均整の取れた調和を持ち、静的で整った音楽であり、薬師寺東塔が「凍れる音楽」と称されるように、歴史的建造物はまさに「symphony」であると言えるでしょう。
一方、今大会のテーマである「session」は、「symphony」に比べて動的であり、他者同士が偶発的に出会い、衝突・共鳴・混合することで予定調和を破り、新たに予測不可能な価値を生み出す音楽です。近年の建築は、コミュニティ形成や地域社会への貢献など、多数の協働を欠かすことができないため、まさに「session」と言えます。
そのため今大会では、コロナ禍から明けつつあるこの時代に相応しい新しい形のsessionの提案が期待されました。

今大会は対面方式による2日間開催となりました。また、審査の様子はオンラインでも配信されました。
2023年11月11日(土)、12日(日)に京都府舞鶴市にある舞鶴市総合文化会館・舞鶴赤れんがパークで開催された全国大会の様子をお伝えします。

(掲載開始日:2023年11月27日)

構造デザイン部門 「つどい支える」

構造デザイン部門では、指定された部材である0.19~0.22mm厚のケント紙(※1)を用いて、分割された2から4つの部材をつなぎ1つの橋梁模型を製作します。製作した橋梁模型の耐荷性(静的・衝撃)・軽量性・構造の合理性や独自性等を競い合います。
耐荷性能を測る載荷試験では、今大会より、最大荷重40kgの「静的載荷試験」を通過した模型には「衝撃荷重試験(※2)」の試練が追加で課されます。
橋梁模型の素材は「紙」です。「紙」が持つ「強さ・軽さ・しなやかさ」という特性を最大限に活かす構造デザインが求められるため、高専生が培ってきた創造力と技術力が試されます。


6年連続で最優秀賞を受賞した米子工業高等専門学校「鴛鴦(えんおう)」。衝撃耐荷試験を通過した喜びの瞬間。

最優秀賞(国土交通大臣賞):米子工業高等専門学校
作品名:鴛鴦(えんおう)
作者 :
 小澤 航輝さん(4年)
 古藤 向菜花さん(4年)
 小島 菜緒さん(4年)
 植松 桜子さん(4年)
 近田 光希さん(4年)
 田中 すずなさん(4年)


本選には54チームが参加し、最優秀賞には、米子高専の「鴛鴦(えんおう)」が選ばれました。これによって、米子高専はなんと6年連続で最優秀賞の受賞を果たしました。
※5連続達成時の米子高専チーム取材記事は こちら

作品名である「鴛鴦」は、鳥取県の県鳥であるオシドリが支え合う仲睦まじい様子を表す言葉です。
作品の支え合う部材はまさに「鴛鴦」を表現しています。
4つの部位に分割しても大きな荷重に耐えて座屈(※3)を防ぐ内部形状や、L字型の接合部などに工夫を重ね、全ての載荷試験を耐えた橋梁模型の中では最軽量、今大会に参加した全作品中でも2番目の軽さである質量176.1gを実現しました。
表彰されたチームのみならず、このコンテストに参加した高専生は、創造や技術はもとよりチームワークの大切さを十二分に感じたことと思います。

※1 ケント紙:滑らかな表面をした厚手の白色用紙
※2 衝撃荷重試験:橋梁模型足元の鋼板にあるナット4つに通した紐を一気に引っ張り銅板を落下させ、10秒間の耐荷状態を確認する試験

※3 座屈:構造物に荷重を徐々に負荷したときに、ある荷重で急に変形が大きなたわみを生じる現象

空間デザイン部門 「住まいのセッション」

空間デザイン部門では、対象エリアを全国市区町村の中から自由に選定し、社会や地域の要望に沿った空間を提案します。
提案の創造性・デザインの総合性・プレゼンテーション力の3点を評価軸として、国内の第一線で活躍する3名の建築家が審査を行います。

今大会のテーマは「住まいのセッション」です。
人々の生き方の多様化に伴い、それぞれの世帯が個別に充実した生活を送れるようになりました。
一方で、世帯同士が孤立することで病気や貧困、災害といった様々な問題に直面する危険性が危惧されます。
そこで、現代の多様な世帯形態に注目し、個性と自由を尊重しつつ、人々が相互に関係し合う生き方を空間デザインの中に落とし込む提案が求められました。


舞鶴高専が作成した模型内部の様子。内部構造の細かい部分まで作りこまれていた。

最優秀賞(日本建築家協会会長賞):舞鶴工業高等専門学校
作品名:サンドイッチ・アパートメント 3人の単身高齢者と5世帯の家族が暮らす家
作者 :
 亀井 俊輔さん(5年)
 梅宮 丈瑠さん(5年)
 石髙 五樹さん(5年)

舞鶴高専は、兵庫県神戸市東灘区森南町を対象エリアに選定し、単身高齢者と核家族が暮らすための集合住宅を提案しました。
かつて日本では親子二世帯・三世帯の拡大家族が一般的でしたが、近年では核家族化や未婚化が進み、単身高齢者や子育て世帯の孤立化が問題となっています。本提案では、この問題を解決するための空間デザインに取り組みました。
1,2階、4,5階は核家族用メゾネット住戸、3階は単身高齢者用住戸となっており、この3階は単身高齢者と核家族世帯が交流する場としての役割も担っています。
1,2階、4,5階は、各住戸をブロックで構成し、ずらして積み上げる事で、家庭専用庭の空間を生み出していることが特徴の一つです。また、隣の住戸と壁を共有しないつくりとなっているため、プライバシー性の高い設計となっています。
3階では、土間を設けることで単身高齢者と核家族世帯が交流しやすくなっていることに加えて、カーテンによるゾーニングでプライバシーの確保も配慮されています。

審査員の方々から、生活動線や採光等についても考慮されており、プロのような設計であると評価を受け、最優秀賞に選出されました。

創造デザイン部門 「デジタル技術を用いた well-being に向けての都市と地方の融合」

創造デザイン部門では、高専生ならではの観点から新たな地方創生についてのアイデアを提案し、地域性、自立性、創造性、影響力、実現・持続可能性の5つの評価指標から「どのようなストーリーで地域の人々を支援するか」といった提案の完成度を競い合います。

今大会のテーマは、「デジタル技術を用いた well-being に向けての都市と地方の融合」です。
PLATEAU(※)の3D都市モデルを用いた都市と地方の融合をテーマに、アイデアを募集しました。

現在の日本では、都市過密と地方過疎の問題を解決し、より良い生活を実現するためのアイデアが求められています。
都市の混雑と地方の閉鎖化は私たちの生活を損なっており、この状況を改善するために、高専生たちが日頃培っている観点で新たなアプローチで競いました。


石川高専が本提案をするにあたって行った調査の結果。本調査に基づいた「ふるさと雪かき制度」の提案は完成度が高く感銘を与えた。

最優秀賞(文部科学大臣賞):石川工業高等専門学校
作品名:たかが「雪かき」されど「雪かき」
作者 :
 岩田 英華さん(5年)
 宮城 豪さん(5年)
 本馬 颯太さん(4年)
 北川 真さん(4年)


石川高専は、地域住民と「よそ者」が雪国特有の生活文化を通じて豊かな生活を送るための提案を行いました。
金沢市では冬季に30cm程度の高湿度が故の重い雪が降り、融雪装置の設置や除雪作業の効率化が課題となっています。城下町の名残で狭い道が多く除雪車が通れない道が存在し、また高齢化が進んでいるために除雪作業をする人手が不足している状況にあります。

石川高専は、PLATEAUを活用した積雪量の予測による除雪効率化を提案しました。PLATEAUを用いることで、積雪する場所や量を事前に把握することが可能になります。しかし、この案だけでは除雪の担い手不足の課題が残っています。
金沢市では、この課題を解決するために雪かきボランティア制度を導入していますが、学生が多い地域に効果が偏っており、また、積雪時にはすぐに対応できない場合もあります。そのため、担い手となる若者の確保と地域への滞在が必要となります。

そこで解決策として、「ふるさと雪かき制度」が提案されました。この制度では、雪かきを行うことで家賃や商品券に還元されるため、旅行者や学生が雪かきの担い手になることが期待されています。特に、石川県は全国3位の学生割合(学生数/人口)を擁す学徒の街であるため、地域の特色を活かした提案が行われました。
例えば、県外出身の大学4年生は、卒論が終わり通学頻度が少なくなる12月末から家賃が安い地域に移住し、雪かきを行うことで生活費を抑えることができます。また、地域住民との交流も図ることができます。実際に、県外から通学している77名の大学生に対してアンケートを実施したところ、約97.4%が「この制度を利用したい」との回答を得ました。
個人の目的を果たすため携わった雪かきを皮切りに、地域や人々との交流、地域住民に魅力を感じることで「地域住民」と「よそ者」の交流が地域と都市をつないでいく地方創生に繋がると結びました。

審査員の方々からは、ロジックと説得力のあるプレゼンテーションの素晴らしさ、そしてすぐに実装可能な完成度の高さから、多くの高評価を受けました。また、地域のおじいさんの家で雪かきを手伝った後にコーヒーをもらえるというほっこりとした話は、地域の人々の心を捉えており、金沢市の雪かき問題を解決するだけでなく、地域の魅力を高め、人々の愛着を深める可能性を秘めていると高く評価され、最優秀賞を受賞しました。

※ PLATEAU(プラトー):国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト

AMデザイン部門 「新しい生活様式を豊かにしよう! Part2」

AM(Additive Manufacturing:3D造形)デザイン部門では、3Dプリンタの造形技術を活用して、テーマに沿った作品を製作します。
製作した作品を用いて実演・発表を行い、3Dプリンタの特性及び必然性・実現可能性・独自性・社会への影響力といった4つのポイントが評価されます。

今年のテーマは「新しい生活様式を豊かにしよう! Part2」です。
感染症、紛争、気候変動、水問題などの世界的な課題に対応する新しい生活様式の開発が求められている昨今、このテーマでは、新たな協働の形を模索し、新しい生活様式を豊かにするアイテムの開発とアイデアの募集が行われます。
3Dプリンタの特性を活用して新しい未来を提案することが期待されました。


弓削商船高専の作品「ディスポ持針器」。3Dプリンタを用いれば写真左にあるハサミ型から写真右にあるペン型まで多種多様に作成することが可能。

優秀賞:弓削商船高等専門学校
作品名:ディスポ持針器
作者 :
 細矢 寧々さん(5年)
 柴崎 彩香さん(5年)
 野上 竜希さん(5年)
 福本 航右さん(専攻科1年)

優秀賞に選ばれた弓削商船高専は、使い捨ての持針器(※1)「ディスポ持針器」を製作しました。
既存の持針器はステンレス製で購入価格が7,000円〜28,100円で販売されており、さらに使い捨ての持針器はあまり普及していません。そのため、持針器を再滅菌して利用するものの、その度に費用がかかるためコストが高いという課題がありました。

そこで、PLA(※2)素材を用いて3Dプリンタで作成することにより、1本あたり37円という低価格での製作を実現しました。
この作成したディスポ持針器を実際の医師に試してもらったところ、「把持力が足りないため実用面で利用するには改良が必要だが、ラチェット部分への負荷対策は材質ならではの工夫ができている」というフィードバックを受けました。


神戸市立高専の作品「MetaMet」。3Dプリンタの特性をフル活用し、安全性が担保された自由なヘルメットは着用率増加の寄与に期待される。

優秀賞:神戸市立工業高等専門学校
作品名:MetaMet
作者 :
 坂本 晴巨さん(3年)
 有馬 朋希さん(5年)
 一色 潤さん(4年)
 奥村 翔太さん(2年)

神戸市立高専が製作した自転車用ヘルメット「Metamet」は、道路交通法改正による自転車乗車時のヘルメット着用努力義務化をきっかけに製作されました。
ヘルメットを着用しないことで致死率が約2.4倍に増加するというデータがある一方で、法案施行後のヘルメットの着用率はわずか4%にとどまっている現状があります。
ヘルメットが着用されない理由である被った時の不快感や通気性の問題を解決するために、「Metamet」は3Dプリンタを用いて魅力的な形状に製作されました。

3Dプリンタを用いることで、あごひもまで含めたヘルメットの一体成形が可能となり、組立工程を削減できます。また、ユーザーの頭の周囲の計測値から最適にフィットするヘルメットを作成することが可能です。さらに、充填率(※3)やフィラメント(※4)のパターンを変えることで、単一材料でも異なる材質を実現できます。
例えば、ヘルメットの外側部分は材料の密度を高めることで硬い材質にし、衝撃から頭部を守ります。一方、内側部分は密度を低く抑えることで柔らかい材質にし、着用時の不快感を軽減します。安全性・強度の評価も問題なく満たしており、5kgの重りを高さ1mから落下させた際の衝撃を約98.8%吸収します。
このような特徴を持った「Metamet」は、ヘルメットの着用率向上に寄与することが期待されました。

※1 持針器:外科手術で用いられる縫合針を把持するための医療器具
※2 PLA(Poly-Lactic Acid):トウモロコシやじゃがいもなどの有機資源を原料としたバイオマスプラスチック
※3 充填率:造形物内側の密度を表し、充填率が高いほど内部の密度が高くなる
※4 フィラメント:3Dプリンタに用いられる熱可塑性樹脂


※今年はAMデザイン部門における最優秀賞の受賞校はありませんでした。

プレデザコン部門 「みんな、あつまれ!」

プレデザコン部門は本科3年生までの低学年を対象とした部門です。
他部門と関連した3つのフィールドに分けられ、各課題に対するデザインの提案を行いました。いずれのフィールドも来場者の投票によって順位が決定しました。

空間デザインフィールド
現存または過去に実在した空間を対象とし、独創的かつ創造的な時空間としてコラージュした、「似て非なる」唯一無二の時空をA3サイズのポスターで製作します。

創造デザインフィールド
2024年度に開催される阿南大会(主幹校:阿南工業高等専門学校)で使用するエコバッグのデザインをA3サイズのポスターで表現します。但し、デザインは阿南大会のメインテーマ「繋」に相応しいデザインに限られます。

AMデザインフィールド
今大会のプレデザコンのテーマである「みんな、あつまれ!」というキーワードを具現化するためのデザインを立案し、3Dプリンタで出力します。

おわりに

今大会は、ジャズのイベントが1991年から毎年開催されることで知られる京都府舞鶴市の赤れんがパークで行われました。ジャズに深い関わりのあるこの地は、まさに「session~新しい協働の形~」という今大会のテーマに相応しい聖地です。
高専生たちは、このテーマを元に建築とデザインの新たな可能性を探求し、その成果を発表しました。

彼らが提案した新しい協働の形は、社会や地域の課題解決に寄与する作品ばかりでした。これらの提案が実現されれば、より豊かな生活をデザインすることが可能となります。
このような高専生たちの活躍により、大会は大いに意義のあるものになったと感じました。今後も高専生たちの活動から目が離せません。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。