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高専トピックス

会場となった名取市文化会館では、空間デザイン部門や構造デザイン部門の作品展示や、プレゼンテーションに対する審査等が行われた。

全国高等専門学校デザインコンペティション(以下、高専デザコン)は、高専生を対象とした、生活環境に関連した様々な課題に対する解決手法を競う大会です。毎年開催され、高専生が全国規模で競い合うロボットコンテスト(ロボコン)やプログラミングコンテスト(プロコン)、英語プレゼンテーションコンテスト(プレコン)と並び、4大コンテストの1つに位置付けられています。

全国の国立・公立・私立の高専57校62キャンパスならびに海外高専から、主に土木・建築の専攻で学ぶ学生たちが参加し、構造デザイン部門、空間デザイン部門、創造デザイン部門、AM(Additive Manufacturing:3D造形)デザイン部門、プレデザコン部門の5部門で競います。

高専デザコンではデザインの領域を「人が生きる生活環境を構成するための総合的技術」と定義します。そのため本コンテストでは、「デザイン」と聞いて第一に想起される「プロダクトの意匠」に留まらず、都市計画や建築の知見・技術を活かした構造物や商品、事業を「計画するデザイン」の力を競います。

今大会のテーマは「ゆい」です。開催地の宮城県名取市は、古くから自然の恩恵を受けてきた一方、2011年の東日本大震災という自然の脅威からの復興の途上にあります。恩恵も脅威ももたらす自然をあがめ、人々が共存してきたことを未来に継承するため、つながりを表す言葉「ゆい」をもとに部門ごとのテーマが企画されました。

現在の「デザインコンペティション」の形式になってから17回目の開催となった今年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、会場での作品展示と併せて、大会初のオンライン選考が行われました。
今回は、2020年12月5日(土)と6日(日)に開催された本選のオンラインでの様子をお伝えします。

(掲載開始日:2021年3月4日)

構造デザイン部門 「由緒と由来...素材とかたち」


構造デザイン部門での耐荷性能試験の様子。各チームが作成した橋梁模型へ、30kgまでは10kg刻み、30kg以降は5kg刻みでおもりを吊るしていく。

構造デザイン部門では、各高専が与えられたテーマに沿って橋梁模型を製作し、模型の耐荷性・軽量性・デザイン性等を競い合います。審査は、現在大学にて建築学で教鞭を執る審査員2名と、行政で道路整備に携わってきた審査員の計3名によって行われました。
大会当日には、製作した模型に耐荷性能試験が行われ、10kgから50kgまでの荷重を段階的に増やしていき、どの荷重まで耐え得るかで評価を行います。

今大会の模型の素材は、昨年大会に引き続き「紙」です。
「紙」にはその特性である「強さ・軽さ・しなやかさ」を最大限に活かす構造デザインが求められるがゆえに、高専生がこれまでに培った創造性と技術力が試される素材と言えます。


米子高専の『琥白鳥(こはくちょう)』。195.8gと軽量ながら、耐荷性能試験では荷重の最大値となる50kgを耐え抜き、最優秀賞を見事勝ち取った。

最優秀賞:米子工業高等専門学校
作品名 :琥白鳥(こはくちょう)
作者  :
 島崎 満月さん(4年)
 小柴 佑昌さん(4年)
 門永 星那さん(4年)
 清間 稜介さん(4年)
 實松 義仁さん(4年)
 長谷川 遥さん(4年)

本戦には35チームが参加し、最優秀賞には、米子高専の「琥白鳥(こはくちょう)」が選ばれました。今回の受賞により、米子高専は3年連続の受賞を果たしました。
本課題の2点集中荷重に対する耐荷性に加えて、車両を想定した分布荷重に対しても支持出来るように、山形ラーメン(※1)と斜張橋(※2)を組み合わせた構造形式となっていました。
また、構造形式だけでなく、部材によって、求められる特性に応じた紙材へ素材を変更したり、寸法を0.2ミリ単位で調整したり等、随所にこだわりが見られました。

※1 はりに相当する部分が、山の形のように折れ曲がっている形式のラーメン構造物(部材の各接合箇所を剛接合したもの)
※2 斜めに張ったケーブルで塔と橋げたをつないで支える形式の橋のこと(例:横浜ベイブリッジ等)

空間デザイン部門 「こどもパブリック」


仙台高専がデザインした『コドモノママデ』において中核となる、花巻駅周辺の空間模型。花巻駅を含め、周辺の各駅にはテーマが設けられており、そのテーマを体験することにより子どもが中心となる持続的な未来の地域デザインを提案した。

空間デザイン部門では、社会状況を踏まえて課題に沿った空間を提案します。創造力・デザイン力・プレゼンテーション力の3点を評価軸として、国内の第一線で活躍する3名の建築家から審査されます。

今大会のテーマは、「こどもパブリック」です。
社会の変化によって、子どもを取り巻く社会環境も多様化し、これにより多くの課題が指摘されています。これらの課題には、教育・福祉・文化あるいは産業等の様々な観点から解決のための実践的なアプローチが提案されていますが、いまだ試行錯誤の段階と言えます。
こうした社会課題を背景とし、今大会は子どもが中心となる持続的な未来の地域デザインの提案を期待してテーマが設定されました。

全国の高専から156作品の応募があり、選抜された16作品が本選でのプレゼンテーションに臨みました。


会場では、各チームが提案した空間モデルの模型にコンセプトシートが添えられた展示が行われた。

最優秀賞:仙台高等専門学校(名取キャンパス)
作品名 :コドモノママデ
作者  :
 竹中 里来さん(5年)
 加藤 健吾さん(4年)


最優秀となった作品は、宮沢賢治が生まれ育った岩手県花巻市を舞台に、童話『銀河鉄道の夜』の物語を体験することで、現代の子どもの心を感じながら、大人も子ども心を取り戻す空間をデザインしました。
この作品では、花巻駅を『銀河鉄道の夜』に登場する「銀河ステーション」として設定し、これを中心に、近隣の新花巻駅、土沢駅、晴山駅、宮守駅周辺を対象地域としました。
各駅にはそれぞれに、訪れることでテーマを体感出来る空間がデザインされています。新花巻駅ではかくれんぼを題材とした「孤独な社会」というテーマ、土沢駅、晴山駅では「受動的に生きる」、宮守駅では「身体感覚の消失」というテーマの空間が設けられました。

審査員からは大人が考えさせられるような現代社会の問題を、現実と童話の世界が交錯する完成度の高い幻想的な表現で提起した点が「こどもパブリック」というテーマに適していると評価され、最優秀賞を受賞しました。

創造デザイン部門 「新しい結のかたち-持続可能な地域創生-」

創造デザイン部門は、新たな地域創生について高専生ならではの観点で提案します。地域性・自立性・創造性・影響力・実現可能性の5つの指標から、地域活性に取り組む事業会社やNPOで活躍する審査員4名による評価を受け、プロセスデザインの完成度を競い合います。
今大会では「新しい結(ゆい)」というテーマが設けられ、様々な人々がつながり、新しい持続可能な地域創生に必要とされる「こと」や「もの」の提案が期待されました。

予選では24チームの応募があり、本選には8チームが選抜されました。

最優秀賞:明石工業高等専門学校
作品名 :一円電車でつなぐ
作者  :
 山﨑 なずなさん(専攻科1年)
 市岡 翼さん(5年)
 川畑 礼奈さん(5年)
 鳴瀧 康佑さん(5年)


提案されたアイデアの中で最優秀賞に選ばれたのは、兵庫県養父市大屋町の明延地域を対象とした、明石高専の『一円電車でつなぐ』です。
明延地域は2018年時点で人口81人、高齢化率74%の、いわゆる限界集落となっており、外部からの孤立が課題となっています。また、日本遺産にも選ばれている鉱山遺構という後世に伝えるべき史跡を保有しているものの、地域住民だけでは保存が困難であるのが実情です。
そこで明石高専は、『一円電車まつり』という、期間限定で鉱山鉄道を復活させる地域最大のイベントを通じ、地域住民だけではない力を広く集めることで、この鉱山遺構、ならびに街全体を保存活用・活性化させるための提案を行いました。

具体的には、まず、『一円電車まつり』の期間に空き家を用いた無料カフェを運営することで、明延地域のPRや空き家の有効活用を行います。
また、かつてあった住居や人々の様子をイラストにした「まんがパネル」を設置することで、来訪者にはかつての明延地域の様子を感じてもらい、また住民や以前住んでいた人々には街の記憶を思い出してもらうきっかけを作ります。こうした取り組みにより、明延地域への繰り返しの訪問と、住民、またはかつての住民、そして来訪者等という広い範囲での関わり合いによる「新しい結」の構築を図っていました。

審査員からは提案のみならず、イベントによる収益によって、取り組みを持続的なものにすることが考慮されている点、また既に去年から活動が始まっていることによる実績の点が高く評価され、最優秀賞に選ばれました。

AMデザイン部門 「唯へのこだわり」


AMデザイン部門の結果発表の様子。オンライン選考ではZoomを通じて審査が行われ、その様子はYouTube Liveでも配信された。

AM(Additive Manufacturing:3D造形)デザイン部門では、3Dプリンタの造形技術を活用して、テーマに沿った作品を製作します。新規性・独創性・活用性、実用性・事業性、プレゼンテーション力の観点で作品が評価されます。審査には、現役の建築家やデザイナー等3名が参加しました。

今大会のテーマは、「生活サポートアイテムの開発」です。
近年、高齢者等を中心として、社会サービスの受給に問題を抱えている人々が増加しています。このような社会的課題を解決するべく、 “人と人” あるいは “モノとモノ” を繋ぎ、あらゆる年齢の人が健康的な生活を送ることを目指すためのアイデアに高専生たちが挑みました。

予選では15チームの応募があり、本戦には、6チームが選抜されました。

優秀賞:函館工業高等専門学校
作品名 :MG
作者  :
 千田 望美さん(4年)
 大清 水空さん(4年)
 本谷 澪佳さん(4年)
 柴田 紘希さん(4年)


優秀賞に選ばれた函館高専は、腕をひねらずに文字盤を確認出来る腕時計を提案しました。
この腕時計は、機構内部におもりが入っており、その重力を利用して、文字盤を回転させることで、常に文字盤が顔方向を向くようになり、腕をひねらずに文字盤を確認出来ます。
3Dプリンタで出力されて形になったプロダクトとしての完成度に加えて、時計という、長く使われ続けている嗜好品に着目したことで、将来性に長けている点を高く評価され、受賞となりました。

※今年はAMデザイン部門における最優秀賞の受賞校はありませんでした。

プレデザコン部門 「形而上(けいじじょう)」

プレデザコン部門は本科3年生までの低学年を対象とした部門です。
他部門と関連した3つの課題が出され、各々に対するデザインの提案が行われました。

空間デザインフィールド
「構造物あるいは風景の透視図」
「実在する」或いは「実在した」空間のパース(遠近法)をA3サイズのポスターに描きます。
ただし、時間や視点が固定された写真の様な写実的・客観的なものではなく、異なる時間や視点が混在してもよい主観的なものとし、出典が判りながらも独創的・想像的な時間・空間をコラージュした「似て非なる」唯一無二の時空の提案を求められました。

創造デザインフィールド
「エコバッグのデザイン」
2021年度の大会会場である広島県呉市(主幹校:呉工業高等専門学校)で使用するエコバッグのデザインを製作し、A3サイズのポスターに描きます。

AMデザインフィールド
「落下シェルターの3Dプリンタによる造形」
200gの分銅を1m自由落下させ、落下時に衝撃を吸収するシェルターを3Dプリンタで製作します。落下時の衝撃力のピーク値をロードセル(※)で測定し、値が小さい程順位が高くなります。

※荷重を感知するセンサのこと

あとがき

2020年の今大会はコロナ禍の影響により、オンラインでの選考が行われました。大会当日の影響のみならず、各作品の構想・製作にあたっても、高専生たちはチームメンバーと直接会うことが難しいといった、開発に困難な状況を強いられることになりました。
現代社会の課題に対する解決が主なテーマとなっているデザコンですが、現在私たちが直面しているコロナ禍にどう向き合うか、という大きな課題にも、高専生たちは実際に乗り越えながら、例年通りに、すぐにでも実現可能なデザインやアイデアを提案していました。
高専生たちは、どのような課題にぶつかっても乗り越えられるだけの発想力やそれを実現する力を、日頃から培っていることがわかる有意義な大会でした。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。