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高専トピックス

はじめに

全国高等専門学校プログラミングコンテスト(以下、高専プロコン)は、全国の国立・公立・私立の高専57校62キャンパスの高専生たちが、プログラミング技術や情報通信技術におけるアイディアと実現力を競い合うコンテストです。
1990年から毎年開催され、今大会は第31回目となりますが、コロナ禍により、北海道は苫小牧市民会館で予定されていた現地開催が中止され、大会初のオンライン開催となりました。

社会実装を前提とした実践的な教育を行う高専には、IoTやAIといった新たな技術が普及する超スマート社会への変化に対応した人材を輩出することが期待されています。高専プロコンは、こうした社会からの期待に応えるために知識や技術力を高める重要な機会となっています。今回は、2020年10月10日(土)と11日(日)にオンライン開催された第31回大会の本選の様子をお届けします。
(掲載開始日:2020年10月21日)

課題部門

課題部門では、与えられた課題テーマを解決するために、チーム一丸となってソフトウェアの企画から実装までを行います。課題テーマに対する適合性やプログラミング技術を基準として、プレゼンテーションとデモンストレーションを通じて評価されます。

今年のテーマは「楽しく学び合える!」です。
IoT・AI等の技術が急速に普及している中、2020年度から、小学校におけるプログラミング教育が必修化されました。また、中学校、高等学校もこれに続く予定です。しかしながら、ICT教育に興味・関心をもつ児童・生徒のニーズに応えるにはまだ多くの課題があると言えます。
そこで今回、高専生たちは日頃培った技術力やアイディアを活かし、ICTを活用することで楽しく学び合うことが出来る教育ソフトウェアの開発にチャレンジしました。
VRゴーグルやタブレットを用いて、児童・生徒が簡単な操作で分かりやすく学べるものが多く、ICTを活用した教育の発展に繋がる作品が発表されました。


東京高専『ぷらんとこれくしょん』の使用イメージ。発見した植物を、写真や周辺環境の情報と共に共有することが可能。

最優秀賞 東京工業高等専門学校 『ぷらんとこれくしょん-体験型植物観察学習システム-』

東京高専は、昆虫・植物の観察学習をスマート化するシステムを製作しました。

同システムは、児童がタブレットやスマートフォンを用いて撮影した昆虫・植物の写真を共有し、群生箇所のマッピングデータを作成出来るシステムです。撮影した昆虫・植物の種類は、APIによりすぐに判別することが出来ます。児童間のコミュニケーションが生まれにくい観察学習を、観察結果の共有によって、楽しく自主的・意欲的に学び合えるものにすることを目的としています。

また、全国の小学校をネットワーク化して、マップを全国に広げることにより、観察出来る昆虫・植物が地域やその土地環境により異なる点をカバーすることも可能です。

審査員の方々からは、システムの完成度を評価する意見が多く出ました。加えて、昆虫・植物以外の生物の観察にも応用出来る点、また、児童の学習に留まらず、大人も使ってみたくなる内容から、ビジネスに展開出来る可能性も評価され、最優秀賞作品として選ばれました。


広島商船高専が開発した『英語しりとり knoWord』の使用画面。相手が使用したものの意味が分からなかった英単語も、日本語訳や発音と共にすぐに確認出来る。

優秀賞 広島商船高等専門学校 『英語しりとり knoWord』

広島商船高専は、ビデオ通話を用いてコミュニケーションを取りながら、英単語をしりとりで学ぶシステムを製作しました。

コロナ禍により、自宅にいる時間が増え、オンラインでコミュニケーションを行う機会が多くなりました。そういった環境下でも英単語をゲーム感覚で楽しく学べる様に、同システムは開発されました。
また、ビデオ通話は既存のサービスを利用するのではなく、SDK(ソフトウェア開発キット)を用いて開発していました。

既存の英単語学習用のソフトウェアは、キーボードからのタイピング入力が主流であるため、スピーキング学習には不向きでした。対して同システムでは、音声認識技術を用いているため、スピーキング学習にも優れています。
一度使った単語をもう一度使うことは出来ない様にする機能や、発音はしてみたものの意味を忘れてしまった英単語をすぐに調べられる機能、またヒント機能も実装されており、新しい英単語を遊びながら覚えられる様、様々な工夫が施されていました。

審査員の方々からは、しりとりという単純な遊びでありながら、楽しく学べる要素がちりばめられている点が高く評価され、優秀賞に選ばれました。

自由部門

自由部門は、コンピュータソフトウェアの企画から実装までを、高専生が自由な発想で行います。製作した作品は、プレゼンテーションとデモンストレーションによって評価されます。全国から39作品の応募があり、10作品が本選に進み、海外からの1作品を加えた全11作品が本選で発表されました。
身近な生活の中での楽しみから地域・社会課題の解決まで、自由かつユニークな発想で考案された様々な作品が集まりました。


東京高専が開発した『Kiseki Sketch -あなただけの地上絵を-』のプレゼンテーションの様子。ルート生成のみならず、ランキング機能、統計機能、複数端末でのデータ同期機能など、多種多様な機能が充実している。

最優秀賞 東京工業高等専門学校 『Kiseki Sketch -あなただけの地上絵を-』

東京高専は、地図上に描いた絵から自動生成したルートをもとに、ウォーキング・ランニング・サイクリング等が出来るフィットネスアプリを製作しました。

既存のフィットネスアプリに備わっている、走行タイム計測といった要素だけでは、目に見える成果が少なく、モチベーションの維持が困難に感じる方も多くいます。
そこで、同システムでは、運動にルート作成機能や他ユーザーと協力して作り上げる機能といった新しい要素を加えて、楽しみながら運動へのモチベーションの維持を図ることを重視しています。

ルート作成機能では、システム内で表示された地図上に、絵を描くことでルートが自動生成されます。ここでは安全性も考慮されており、むやみに車道を横断しない、車道を横断する場合は横断歩道を使用する、歩道を優先的に使うといったルートが自動で選択される仕組みです。
また、協力機能では、生成された長距離ルートを、不特定多数のユーザーと分担しながら運動することで、協力してひとつの巨大な地上絵を完成させることが出来、1人では得られない達成感を得ることが出来ます。

審査員の方々からは、実際に使用したいという声も上がっていました。ユニークな着眼点や、安全性といった実装上の課題になりうる部分もクリアしている点が評価され、受賞となりました。


香川高専高松キャンパスが開発した『seahorse -瀬戸内海をウマく繋ぐ海上タクシーシステム-』による予約スキームの様子。従来は予約の際、各海上タクシー会社へ総当たりで電話をかけ、交渉しなければならないところ、同システムはアプリを介してスムーズな海上タクシー利用を実現する。

優秀賞 香川高等専門学校高松キャンパス 『seahorse -瀬戸内海をウマく繋ぐ海上タクシーシステム-』

香川高専高松キャンパスは、地域でニーズの高まる海上タクシーの乗船客と船長をつなぐ海上タクシー予約システムを製作しました。

瀬戸内海地域は近年、「ベネッセアートサイト直島」という(株)ベネッセホールディングスによる現代アートの普及活動や、「瀬戸内国際芸術祭」といったイベントが行われており、現代アートの盛んな土地として国内外から注目を集めています。
しかし、多数の島々にそれぞれ作品が展示されているため、より多くの島を巡るための新しい交通手段が求められています。
そこで、関心を寄せられているのが海上タクシーです。海上タクシーであれば出発・到着時刻を自由に決めることが出来るため、島々を巡りながらアート鑑賞をすることに適しています。
しかし、電話予約が主流である従来の海上タクシーは、手続きの煩雑さや、船舶をチャーターすることによる価格の高さ、あるいはピーク需要への対応が出来ないといった課題を抱えています。

そこで同システムは、海上タクシーの予約にITを取り入れることで、先述の課題の解決を図りました。具体的には、相乗りを取り入れた予約スキーム、すべての手続きをアプリ上で完結可能、予約を船長間で共有、AIを活用した相乗り計算エンジンによる効率的な配船の仕組み、といった特徴が挙げられます。

審査員の方々からは、実装に向けた料金の仕組みについて、ビジネスの観点から非常に具体的な質問が投げかけられており、地域で今ニーズの高まっている課題を解決出来るMaaSシステムとして大いに期待される様子が垣間見えました。瀬戸内地域に留まらず、全国、海外の島しょ部での導入も見据えることの出来る提案として評価され、受賞となりました。

おわりに

今大会は、昨年に引き続き東京高専が2部門の最優秀賞を独占する結果となりましたが、例年行われている競技部門の中止や大会自体のオンラインへの転換といった、従来とは異なる状況での開催となりました。この影響は大会当日のみならず、実証実験を行うことが出来ないといった、事前段階においても限られた条件下での準備を高専生たちへ強いることとなりました。
しかし、こうした状況下でも高専生たちは、課題解決に向けて多種多様かつ実用に近いシステムを完成させていました。これは、日頃から技術力や課題への着眼点や実行力を鍛えてきたからこその成果と言えるでしょう。
また、オンライン開催でも聞き手にわかりやすいプレゼンテーション・デモンストレーションを披露しており、技術のみならず他者へ伝える力も兼ね備えていることが伺えました。

コロナ禍により、日本社会のデジタル化の遅れが顕在化しました。また、菅新政権は来年度デジタル庁を新設し、行政及び民間のデジタル化推進へ注力していくことを表明しています。
今後更に加速していく社会のデジタルトランスフォーメーションを推進する人材として活躍が期待される、高専生の潜在能力がいかんなく発揮された素晴らしい大会でした。

全国高等専門学校プログラミングコンテスト:公式サイト

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。