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高専トピックス

全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(以下、DCON)は、高等専門学校の学生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用したビジネスプランの「事業性」を、ベンチャーキャピタリスト(VC)が企業評価額として算出し、競います。
本選には、全国・海外の高専より寄せられた全46チームの応募の中から1次審査・2次審査を勝ち抜いた10チームが出場しました。

今回は、2023年4月28(金)・29日(土)に開催された第4回大会における、高い技術力とそれを活かしたビジネスプランで競い合った高専生の活躍の様子を、上位チームを中心にお伝えします。
(掲載開始日:2023年5月2日)

コンテストの概要

【予備審査】
書類による1次審査、プロトタイプのデモンストレーションによる2次審査で、本選(最終審査会)の出場チームが決定します。
選考は、事業経験豊富な現役の起業家・経営者によって行われます。
2次審査を通過したチームには、選考を行った起業家陣のいずれかがメンターとなり、本選での最終審査に向けて、共にプレゼンテーション資料の作成や準備を行います。

【本選】
●5分間のプレゼンテーションを行い、その後、審査員である現役VCとの質疑応答を行います。
※質問に答えられない場合は、自チームのメンターに1回のみ代わりに答えてもらうことが出来ます。

●事前に行われた技術審査、ビジネスプランのプレゼンテーション、及び質疑応答の総合的な結果を基に、その事業に投資したいかを審査員がジャッジします。審査員の内1人でも「投資する」とジャッジした場合、バリュエーション(企業評価額)の審査に進むことが出来ます。

●ビジネスプランの評価方法
・ビジネスプランの企業評価額を、実際のベンチャー企業を評価する際と同じ基準によって、具体的な金額で算出し、その金額により順位が決まります。
※同じ企業評価額の場合、投資をすると判断したVCが多いチームが上位となります。
※企業評価額の判断材料は、売上や利益の見込み・事業の意義・市場の大きさ・経営者の想いや資質・従業員の能力となります。

●表彰について
・最優秀賞に選ばれたチームには起業資金として100万円が授与されます。
・2位、3位のチームにはそれぞれ起業資金として50万円、30万円が授与されます。
・その他大臣賞(経済産業大臣賞に加え、新たに文部科学大臣賞と農林水産大臣)や企業賞(各協賛企業)が準備されています。


本選に出場したチーム一覧(学校名・チーム名・作品名・概要・企業評価額・メンター・受賞)
※企業評価額が高い順に記載

学校名・チーム名 作品名 概要 企業評価額 メンター 受賞
大島商船高等専門学校
Smart Searcher 開発LAB
Smart Searcher NEO 鯛の養殖生産量の増加をサポートするシステム 3億5000万円 岩佐 琢磨 氏(株式会社Shiftall 代表取締役CEO) 最優秀賞
ウエスタンデジタル賞
NECソリューションイノベータ賞
鳥羽商船高等専門学校
ezaki-lab
りぷら プラスチックの材質判別システム 3億円 伊豫 愉芸子 氏(株式会社RABO/Catlog 代表取締役社長) 経済産業大臣賞
アイング賞
アクセスネット賞
トヨタ自動車賞
丸井グループ賞
一関工業高等専門学校
suzukiLab
働く現場のWBモニタ 脈波センサを用いたWB(Well-being)モニタリングシステム 2億円 岡田 陽介 氏(株式会社ABEJA 代表取締役CEO)
沼津工業高等専門学校
D4AI
ルックンちび 保育園スマート化システム 2億円 折茂 美保 氏(ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター & パートナー) DMG森精機賞
沖縄工業高等専門学校
UTAMARU♪
Voice Ball 音色と習熟度を可視化した歌唱訓練支援と歌唱評価システム 2億円 佐藤 聡 氏(connectome. design株式会社 代表取締役社長)
長岡工業高等専門学校
長岡高専プレラボ
その音どーいが? -音による異常検知で工場の人手不足を解決- 工作機械の動作音から機械の異常を検知するソリューション 1億5000万円 福野 泰介 氏(株式会社jig.jp 創業者) AGC賞
トピー工業賞
モンゴル科学技術大学付属高専
SF Team
S-Focus 安全防護服着用監視システム 1億5000万円 渋谷 修太 氏(フラー株式会社代 表取締役会長)
鳥羽商船高等専門学校
Shiraishi lab
深層学習を活用した温州みかん栽培支援システム「選果せんか?」 みかん果実の外観阻害要因の自動診断システムを組み込んだAIプレ選果機と、軽トラックの荷台に取り付ける事の出来る非常に安価なAI防除機 1億2000万円 河瀬 航大 氏(株式会社フォトシンス 代表取締役社長) 文部科学大臣賞
米子工業高等専門学校
農作物まもルンジャー
Crow Chaser 物体検出・ワイヤレスIoT・ドローン制御を組み合わせたカラス撃退システム 1億円 高橋 隆史 氏(株式会社ブレインパッド 代表取締役社長) 農林水産大臣賞
ロジスティード賞
仙台高等専門学校 広瀬キャンパス
RDS LAB
Road Damage Scanner 路面劣化の自動検出・収集・分析システム
1億円 田中 邦裕 氏(さくらインターネット株式会社 代表取締役社長)

第1位:大島商船高等専門学校/Smart Searcher 開発LAB  [山口県]


大島商船は今まで開発してきた追従技術と個体識別の要素技術を応用し、今回のシステムを完成させた。

作品名:Smart Searcher NEO
企業評価額:3.5億円

第1位に選ばれた大島商船高等専門学校が製作したのは、養殖業の生産量の増加をサポートするシステムです。
日本における漁業は数十年前から、採算が取りづらい・厳しい労働環境・後継者不足等を背景に衰退傾向にあります。また、養殖業も餌代や生け簀の設備管理費の支出に占める割合が大きいため採算が取りづらく、漁獲量の減少をカバーするほど生産量は増加していません。そこで同チームは、鯛の養殖業の生産量が伸びない原因の1つとして、均等に餌が行き届かず鯛の成長にばらつきが出てしまっていることに着目し、効率良く鯛全体に餌を与えることで成長の均一化を図り、餌代の節約や生産量の増加につなげる仕組みを提案しました。

『Smart Searcher NEO』は、自動走行船と水中ドローンで構成されています。自動走行船が水中ドローンを目的地点に運び、水中ドローンが光で鯛をおびき寄せ、その中で小さい鯛を検出し、狙って給餌します。YOLO v7と呼ばれる物体検出アルゴリズムを用いて、鯛を検出し、得られた鯛の画像から、成長の度合いによって大小の2クラスの分類を行っています。成長の度合いは、カメラから鯛までの距離による大きさの差異に左右されないように、個体の色で判別しています。これは、鯛が成長すると表皮の色の濃淡が変わる性質を利用しています。精度は、検出率92パーセント、大小の判別率84パーセントを確保しています。

本システムの導入により、1つの生け簀あたり277万円の赤字から131万円の黒字化を可能としました。今後は、複数の生け簀に対して一台でカバー可能になるマルチ養殖生け簀対応水空ドローンの開発を行い、5年目に累積総売上25億3900万円、累積純利益5億8800万円の達成を計画しています。

審査を行ったVCの方からは、水産業というマーケットサイズが大きい分野を対象としていることが強みであり、日本の水産業から世界の水産業を変えていってほしいという声が挙がり、最優秀賞の受賞となりました。

第2位:鳥羽商船高等専門学校/ezaki-lab  [三重県]


材質判別機のアタッチメントの様子。スマートフォンに取り付けるだけで、プラスチックの材質を判別することが可能となっている。

作品名:りぷら
企業評価額:3億円

第2位に選ばれた鳥羽商船高等専門学校のビジネスモデルは、ごみの分別促進サービスです。ESGを意識した経営が社会から求められている中で、プラスチックのリサイクル利用は、ヨーロッパ全体で46パーセントであるのに対し日本では29パーセントに留まっています。また、ひとりあたりの排出量をみると、アメリカに次いで世界2位であり、日本が世界に与える影響は大きいと考えられています。

本サービスは企業向けのサービスとなっており、プラスチックの材質判別機の提供、分別されたプラスチックの無料引き取り、引き取ったプラスチックのリサイクルが一連の流れとなっています。プラスチックの材質判別機はスマートフォンに取り付けるアタッチメントになっており、3種類のLEDを照射し、反射光のヒストグラムからポリプロピレン・ポリエチレン・ポリ塩化ビニル・その他(ポリスチレン、アクリル樹脂など)の4種類の判別を行います。

またビジネス的な観点では、材質判別機の販売による売上と、回収したプラスチックを製品原料として提供することによる売上を収益として想定しており、4年目に4億5000万円の売上、1億8000万円の営業利益の達成を計画しています。

審査を行ったVCの方からは、循環型社会の実現とスマートフォン技術の進化という社会の不可逆的な流れに沿ったテーマであることと、技術的な強みがしっかりしており、特許の申請を行うなど参入障壁のことまで考えている点が評価され、第2位となりました。

第3位:一関工業高等専門学校/suzukiLab  [長崎県]


脈波データを計測する装置。首の後ろに設置することで脈波をモデリングすることが可能。

作品名:働く現場のWBモニタ
企業評価額:2億円

第3位に選ばれた一関工業高等専門学校が製作したのは、休離職者を減らすためのWell-Being(※1)の可視化システムです。全雇用者のうち精神疾患を含めた自己都合による離職は、約10パーセントを占めており、休離職者が発生した場合、金銭的損失・知識の損失・企業イメージの低下に繋がります。しかしながら、メンタル疾患が原因で休離職を考え始めた社員を把握することが出来ないのが現状です。

本システムでは、脈波センサを使用し、使用者のWB度(※2)を推定します。やる気や達成感を感じるときに分泌されるドーパミン量がヘモグロビン量と関連があることに着目し、学習データを脈波データ、教師データをヘモグロビン量として学習を行い、脈波データからヘモグロビン量を推定し、WB度を導きます。雇用者のWB度は、システム内に保存されます。一定の数値を下回ると企業に通知されるため、企業はカウンセリング等の対応のきっかけとなります。

本システムの導入により、自己都合による休離職者やメンタルヘルス不調による休離職者を減らすことで金銭的損失を抑制し、それぞれ最大274億円、最大7億円の増益につながることを見込んでいます。

審査を行ったVCの方からは、チームの一体感や事業戦略の軌道修正のスピード感、数字をしっかりと把握しビジネスとして成立させた点が素晴らしかったという声もあり、第3位となりました。

※1 肉体的・精神的・社会的に満たされている状態のこと。
※2 やる気・満足感・達成感の様子を数値化したもの。ドーパミン量と相関があるとされている。

おわりに


大島商船は昨年のDCONでも第2位の企業評価を得ています。
第3回DCON2022受賞者インタビュー

今年のDCONは、前回1位の企業評価額が10億円だったのに対して、今回1位の企業評価額は3.5億円と、優勝チームの企業評価額が前年比で下がる結果となりました。
理由としては、グローバル経済はインフレで金利が上がるため、VCはリスクをとって融資を避けることが挙げられました。
しかし、今回企業評価額が下がったからといって、高専生の技術力やビジネスプランが衰えているわけではなく、高専生が社会課題解決のために最新の技術を使ってビジネスプランを提供する力については、むしろレベルが上っていると感じました。

今年から「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」の政策にて、文部科学省から各高専に1億円の補助金が出され、起業家精神と起業家的資質・能力の育成をするアントレプレナーシップ教育の強化・取り組みが各高専で推進されています。
また、今年4月1日から新たに開校する私立高専である「神山まるごと高専」も、起業家精神を育むアントレプレナーシップ教育に重きを置いています。
こうしたスタートアップに必要なアントレプレナーシップ教育の必要性の認識が高まっており、将来、技術力を用いて社会課題解決に取り組む高専生への期待が溢れております。
新しい技術を用いて社会課題を解決し、日本・世界経済を発展させる高専生の雄飛に期待出来る、実り多きコンテストでした。

※本コンテストでの高専生の活躍は、日本ディープラーニング協会のYoutubeチャンネルにてご覧頂けます。
第4回DCON2023本選(ライブ動画配信)

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。