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高専トピックス

2022年4月28日(木)・29日(金)に開催された、高専制度創設60周年記念・第3回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2022(通称:DCON)。
この大会で、大島商船高専の北風教授が指導する「大島商船農業支援研究会」の発表したキクラゲの自動収穫システム『New Smart Gathering』が、複数の賞を受賞しました。
この大会は、高専の学生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用し制作したその作品によって生み出される「事業性」を、投資家の視点によって企業評価額を算出し競います。

その中で、『New Smart Gathering』は、課題解決に挑戦する産業や市場の規模、解決された場合の経済的波及効果が最も大きいチームに与えられる経済産業大臣賞を受賞。更に2社の特別協賛企業からも高く評価されKDDI賞とAGC賞も同時獲得しています。
そして、コンテストの順位をつける企業評価額としては、第2位の10億円の評価を獲得しました。
そこで、このように各方面から高い評価を得た同作品を紹介後、発想の原点や受賞の感想、高専生ならではの開発環境などについて、チーム「大島商船農業支援研究会」の皆様へインタビューを行いました。

大島商船農業支援研究会(写真右から)
・北風裕教 先生:(指導担当教授)
・田口創 さん(電子・情報システム工学専攻1年)
・岡村一矢 さん(電子・情報システム工学専攻1年)
・山田竜輝 さん(情報工学科5年)
・オックオドム さん(情報工学科5年)
・初﨑雛希 さん(電子機械工学科4年)

(掲載開始日:2022年7月29日)

  受賞作品の紹介


ロボットアームを遠隔操作して菌床のキクラゲを収穫します。生産現場は気温40度、湿度95%に達する過酷さ。

過酷な環境で栽培されるキクラゲ

キクラゲの生産者農家は摂氏40度、湿度95%に達することもある厳しい生産現場での労働を余儀なくされているそうです。また収穫時期の見極めには経験が求められ、人材不足の中で高齢の方々が奮闘されていることも問題となっています。大島商船農業支援研究会のキクラゲ収穫支援システムである『New Smart Gathering』は、この問題の技術による解決に正面から取り組みました。その概要は以下の通りです。

1)夜間に工場で栽培されるキクラゲの菌床を、ロボットアームに取り付けられたカメラがあらゆる方向から撮影し、作業場に送信。

2)朝に作業場で生産者は、収穫するキクラゲの選択をVRで行います。生産者は収穫対象となるキクラゲをあらゆる方向から確認できます。また、ディープランニングによる収穫判断アシストシステムによって、経験が浅くても問題なく収穫すべきキクラゲの選択が可能。

3)選択が確定すると工場でロボットによる自動収穫が始動。

キクラゲ以外の農作物にも転用可。更に設置環境にも工夫。

『New Smart Gathering』の受賞ポイントは、複数の技術を統合させて農業の現場に寄り添って課題解決を引き寄せるという内容だけではありません。菌床や培地などのユニットにおいて、この仕組みがシイタケやキャベツなど他の農作物にも転用可能であること。
加えてハウス内の膨大な数のユニットを、設置されたロボットの前に吊り下げて運ぶことで自動確認や自動収穫を効率化しつつ、設置コストを抑えられるというアイデア、更には事業化の妥当性と全世界がターゲットとなる夢のある将来性も高い評価の要因となりました。

  受賞者の皆さんへインタビュー


チームリーダーの田口さんは、キクラゲの生産者農家の「収穫がきつい」 という言葉を聞いて、このシステムの開発を始めました。

――今回のコンテストに臨んだ際の、皆さんの役割を教えて下さい。

田口 さん:私がチームリーダーを務めるとともに、AIの認識、VRアプリの開発、ソフトウェア開発、ご協力頂いた柳井市の生産者との窓口を担いました。

オドム さん:私と山田さんが、ロボットや回転台など機械の制御設計を行いました。

岡村 さん:私は3DCGの映像や資料制作を担っています。

初﨑 さん:私は『New Smart Gathering』のロゴデザインやイラストを担当させてもらいました。


チームのなかで担当を分けつつも、抜群のチームワークで楽しくコンテストに臨むことができました。

――経済産業大臣賞など多数の賞を獲得できた感想を教えて下さい。

田口 さん:今回の開発テーマは、柳井市にあるキクラゲ農家の生産者の方々から、“収穫がキツイ”という声を聞いたのがプランニングの起点でした。その意味で、解決策につながる可能性を持った開発ができたのがいちばん嬉しいですね。そして賞の獲得で、方向性が間違ってはいないことが認められ、チーム全員の成功体験になっています。

初﨑 さん:私はプレゼンテーションのポイントとなるイラストや商業化にとって重要なロゴデザインを任せてもらいましたが、チームの先輩たちから刺激を受けつつ、楽しくコンテストの準備ができました。受賞はとても嬉しかったですね。

山田 さん:でも、コンテストの順位をつける企業評価額で2位だったのが悔しかったな。

岡村 さん:確かに、キクラゲ以外にも多様な農産物の栽培と収穫に取り組んでおられる多くの生産者に向けて有効なソリューションを提供し、今回の10億円という企業評価額を超える価値を築き上げたいです。

オドム さん:起業することで、『New Smart Gathering』を更に改良し、幅広いマーケットに展開して、キクラゲ農家の皆さんだけではなく、日本中、いや世界中の農業生産者の皆さんに貢献したいです。

全員:起業はぜひ実現したいですね。


高専では15歳の時点で教授から直接学ぶことが出来、また設備も充実しているので、高い技術が身につきます。高専を選んで良かったです。

――チームの原点となった大島商船高専への入学は何が決め手でしたか。

オドム さん:私はカンボジアの出身ですが、日本の高専は勉強内容も高度で、実験設備も整っていて、日本で技術を身につけていずれ母国で起業するという夢の実現に向け、たくさんの機会と経験が得られると思いました。
それは間違いではありませんでしたし、加えて優しい仲間にも恵まれ、掛け替えのない友人や恩師を得ることもできました。

山田 さん:高専ではいろんな技術分野で博士号を取った先生方が教えてくれます。学べる技術の深みや多彩さが魅力的です。

岡村 さん:私は中学生の頃、スマホやゲームが好きで、自然にプログラミングに興味を持ちました。そして高校受験を前に、それを深く学べるのが高専だと知って目標に定めたのです。入学時はプログラミングに関してほとんど何も知りませんから、先輩たちが凄いことをやっていると驚きました。

初﨑 さん:私も中学生の時に普通の進学校を何も考えずに受験することに疑問を持ち、私は何を学びたいのだろうと考えました。そこで、ものづくりの授業に興味を持つようになり、高専を選んだのです。この選択は間違いではなかったと確信しています。

田口 さん:情報技術について早くから学べるし、その環境も整っているのが高専の魅力でした。大島商船高専には実際に入学してみると、先輩のレベルや同級生たちの向上心は想像以上でした。いつも刺激を受けながら課題研究や実験に取り組んでいます。先生たちの専門性も高く、技術に興味や関心があれば、本当に好きなことが学べる高等教育機関だと思います。今回のDCONの受賞も、高専の恵まれた開発・実験環境があってこそだと思います。北風先生の指導も私たちをさらなる高みへと導いて下さいました。

――皆さん、研究や授業でお忙しい中、お話し頂きありがとうございました。

※この記事の役職等は取材当時のものです。