高専出身の転職は正社員専門のエリートネットワーク

高専トピックス

全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(以下、DCON)は、高等専門学校の学生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用した作品を制作し、各チームを企業と見立て、制作した作品を基に練り上げられたビジネスプランの「事業性」を企業評価額として算出し競います。
本選には、全国の高専より寄せられた全41チームの応募の中から1次審査・2次審査を勝ち抜いた10チームが出場しました。

第1回・第2回大会はコロナ禍により、オンライン開催でしたが、会場でのソーシャルディスタンスやマスク着用等の新型コロナウイルス感染予防対策を徹底して行うことで、本大会では、リアルで開催することが出来ました。

今回は、2022年4月28(木)・29日(金)に開催された第3回大会における、高い技術力とそれを活かしたビジネスプランで競い合った高専生たちの活躍の様子を、上位チームを中心にお伝えします。
(掲載開始日:2022年5月11日)

コンテストの概要

【予備審査】
書類による1次審査、試作品のデモンストレーションによる2次審査により、本選出場チームが決定します。
選考は、事業経験豊富な現役の起業家によって行われます。
2次審査を通過したチームには、この起業家陣のいずれかがメンターとなり、本選での最終審査に向けて、共にプレゼンテーション資料の作成や準備を行います。

【本選】
●5分間のプレゼンテーションを行い、その後、審査員である現役ベンチャーキャピタリストとの質疑応答を行います。
※質問に答えられない場合は、各チームのメンターへ1回のみ回答を委ねることが出来ます。

●事前に行われた技術審査とプレゼンテーションと質疑応答の結果を基に、その事業に投資したいかを審査員からジャッジされます。1人でも投資するとのジャッジが出た場合、企業評価額の審査に進むことが出来ます。

●ビジネスプランの評価方法
・チームが企業だと想定した場合のバリュエーションを、実際のベンチャー企業を評価する際と同じ基準によって、具体的な金額で算出し、その金額により順位が決まります。
※同率の場合、投資金額の大きい方が上位となります。
※バリュエーションの判断材料は、売上や利益の見込み・事業の意義・市場の大きさ・経営者の想いや資質・従業員の能力となります。

●表彰について
・最優秀賞に選ばれたチームには起業資金として100万円が授与されます。
・2位、3位のチームにはそれぞれ起業資金として50万円、30万円が授与されます。
・その他大臣賞や企業賞が準備されています。

本選に出場したチーム一覧(学校名・チーム名・作品名・概要・評価・メンター・受賞)

学校名・チーム名 作品名 概要 企業評価額 投資総額 メンター 受賞
一関工業高等専門学校
Team MJ
D-walk 認知症を予防し早期発見することのできるシステム 10億円 5億円 岡田 陽介 氏 (株式会社ABEJA 代表取締役CEO) 最優秀賞
丸井グループ賞
大島商船高等専門学校
大島商船 農業支援研究会
New Smart Gathering キクラゲの収穫支援システム 10億円 3億円 福野 泰介 氏 (株式会社jig.jp 取締役会長) 経済産業大臣賞
KDDI賞
AGC賞
佐世保工業高等専門学校
Iha_labo
OtodeMiru ~音解析技術を用いた森の見守りシステム~ 音解析技術を用いた森の生態系維持サポートシステム 10億円 3億円 佐藤 聡 氏 (connectome.design株式会社 代表取締役社長)
香川高等専門学校 詫間キャンパス
Tutelary
健康状態見守りシステム 室内画像と呼吸センサーを用いた健康状態のリアルタイム確認システム 7億5000万円 2億5000万円 折茂 美保 氏 (ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター & パートナー) 文部科学大臣賞
明石工業高等専門学校
Akashi Intelligence
R☆AI☆NNER ランニングフォーム改善支援システム 7億5000万円 2億5000万円 田中 邦裕 氏 (株式会社さくらインターネット 代表取締役社長)
鳥羽商船高等専門学校
ezaki-lab
seenet 魚の検出や漁獲予測の支援システム 3億円 6000万円 草野 隆史 氏 (株式会社ブレインパッド 代表取締役社長) QUICK賞
香川高等専門学校 詫間キャンパス
こんどる?
こんどる? -混雑情報受信システム 物体検出技術を用いたPAやコンビニの駐車場混雑状況リアルタイム提供システム 3億円 5000万円 小野 裕史 氏 (17LIVE Inc. 代表取締役/Global CEO)
沼津工業高等専門学校
NagAI
IZanAI 物体検出技術を用いた商業施設の駐車場混雑状況リアルタイム提供システム 2億7000万円 3000万円 渋谷 修太 氏 (フラー株式会社 代表取締役会長) アイング賞
NECソリューションイノベータ賞
沖縄工業高等専門学校
美ら海ペッ取ラーズ
ポントス 自動ゴミ収集ロボット 2億円 1億円 岩佐 琢磨 氏 (株式会社Shiftall 代表取締役CEO)
豊田工業高等専門学校
早坂・大畑Lab
熱中症リスクを可視化する健康レジリエンスシステム 温湿度及び顔画像を用いた熱中症リスク推定システム 5000万円 500万円 伊豫 愉芸子 氏 (RABO, Inc.President & CEO) ウエスタンデジタル賞

第1位:一関工業高等専門学校/Team MJ  [岩手県]


一関高専の『D-walk』のインソール型デバイスを利用することで、MCIの判定結果の正解率がさらに向上する。

作品名:D-walk
企業評価額:10億円
投資額:5億円


第1位に選ばれた一関工業高等専門学校が製作したのは、MCI(※1)の早期発見をサポートするシステムです。
近年、日本では、高齢化社会が問題となっており、それに伴い認知症患者の増加や同世代の認知症割合が増加しています。
一度認知症になると回復が難しい一方で、MCIは適切な治療によって、40%の人が回復するため、MCIの早期発見が重要になります。
しかしながら、現在主流のMCIの検査は手間がかかったり、費用が高額であるという問題があります。
同チームは、こういった認知症検査にまつわる課題の解決に挑みました。

『D-walk』は、スマートフォン・スマートフォンアプリ・インソール型デバイスで構成されています。
歩行時の加速度・角速度情報とMMSEスコア(※2)に相関があるという報告があることから、スマートフォンの加速度センサ・ジャイロセンサを利用し、歩行時の加速度・角速度情報を入力として与えて、MMSEスコアを予測し、結果をスマートフォンアプリで表示させます。
1分以内で計測することが可能で、またMCIの判定結果の正解率は85.5%と非常に精度が高いものでした。
また、開発したインソール型デバイスによって脚圧データを計測することで、すり足歩行や前傾姿勢を検知が可能で、さらに精度の向上が期待されます。

本作品は、審査を行ったベンチャーキャピタリストの方々の全員から投資したいとのジャッジを受けました。
また、保険会社への販売を想定した収益計画も緻密に練られており、技術的な面だけでなく、ビジネスの面でも素晴らしく、DCONのレベルが一段階上がったと思わせたチームであったという声もありました。
昨年コンテストの1位のチームは企業評価額が6億円、投資額が1億円に対し、本チームは、企業評価額が10億円、投資額が5億円と、同コンテスト史上最高額の企業評価額・投資額での受賞となりました。

※1 MCI:認知症の一歩手前の状態とされる軽度認知障害のこと。健常者と認知症患者の中間に位置づけられる。
※2 MMSEスコア:認知機能の状態を客観的に評価するテストにおけるスコアのこと。点数が低いほど認知症の可能性が高いとされる。

第2位:大島商船高等専門学校/大島商船 農業支援研究会  [山口県]


大島商船高専が制作した、ロボットがキクラゲを収穫する様子。ロボットアームの繊細な動きによって、根元から取りこぼしなく、収穫することが可能となっている。

作品名:New Smart Gathering
企業評価額:10億円
投資額:3億円


第2位に選ばれた大島商船高等専門学校が製作したのは、キクラゲの収穫支援システムです。キクラゲ生産者の悩みとして、労働環境が過酷なことや、収穫時の見極めに経験が必要なこと、人手不足といった問題があります。
同チームは、AIやVR、ロボットを組み合わせることで、作業環境の改善や収穫効率の向上を図りました。

『New Smart Gathering』はVR・AI・ロボットで構成されています。
システムの流れは、まず夜間にロボットが菌床(おがくずを固めた20センチ四方ほどのブロック)の撮影を行います。
そして、日中に作業者がVRを用いて、撮影した菌床を様々な角度から確認し、収穫の判断を行います。
また、収穫の判断の際には、ディープラーニングによる収穫判断アシストシステムを利用することで、経験の浅い人でもキクラゲの収穫判断を行うことが可能になっています。
そして、全てのキクラゲの収穫判断が終了すると、ロボットによる自動収穫が開始されます。

ディープラーニング技術を利用している収穫判断アシストシステムでは、YOLO v4と呼ばれる物体検出アルゴリズムを用いてキクラゲを識別し、得られたキクラゲの画像から、成長の度合いによって収穫可能・収穫間近・収穫不要の3クラスの分類を行い、80%の精度を確保しています。

1位に続き本作品も、審査を行ったベンチャーキャピタリストの方々の全員から投資したいとのジャッジを受けました。
また、農業というマーケットは世界的にも規模が大きく、色々な技術を組み合わせて、農業を機械化することで世界で戦える企業に成長する可能性があるという評価を受けての受賞となりました。
「キクラゲという農作物を選んだ理由は、単純に好きなだけではなく、キクラゲは単価が高く利益率が良いため事業のスタートを勢いづけるのに最適だ」と回答したことも事業性の評価に繋がったと感じました。

第3位:佐世保工業高等専門学校/Iha_labo  [長崎県]


佐世保高専が制作した『OtoDeMiru』で利用するデバイス群。センシングデバイスではデータの収集だけでなく、解析も可能となっている。

作品名:OtoDeMiru ~音解析技術を用いた森の見守りシステム~
企業評価額:10億円
投資額:5億円

第3位に選ばれた佐世保工業高等専門学校が製作したのは、音景(※1)解析による森の生態系維持サポートシステムです。
近年のディープラーニング技術を用いた画像解析技術の向上によって、人間の代わりにAIが多くのことを判断出来るようになってきました。
しかしながら、画像データはデータ量が大きいことから、ディープラーニングを利用する場合、豊富な計算資源や高価なセンサデバイスが必要になります。
そのため大規模化が難しいといった問題があります。そこでデータ量が少ない・センサが安い・LPWA(※2)と相性が良いといった特長を持つ音に着目し、音景によって周囲の状況を可視化するシステムを開発しました。
また、森を対象として音景解析することで、害虫や害獣駆除などのサポートとなるシステムとなっています。

『OtoDeMiru』は、集音と解析を行うセンシングデバイス、解析した結果をLoRa(※3)によって集約するLoRaゲートウェイ、集約したデータを蓄積するクラウドサーバ、クラウド上のデータを確認するWebアプリケーションによって構成されています。
音の分類にディープラーニング技術が使われており、集音した音データの変化量が大きいと、トリガーとなり解析が始まります。
集音した音データから31クラス(蜂の種類や猪、鹿など)の分類を行い、精度は80%となっています。

審査を行ったベンチャーキャピタリストの方からは、技術的には面白く、新しいマーケットは伸びているので、世界にチャレンジできる可能性を秘めているという評価を受けての受賞となりました。
このチームは今年の3月に起業しており、今回の受賞を契機としたビジネスの成長に注目したいと感じました。

※1 音から想像する風景
※2 Low Power Wide Areaの略であり、省電力かつ長距離での無線通信が可能という特長をもつ通信技術の総称のこと
※3 LPWAの一種

おわりに


今回優勝した一関高専「Team MJ」。授与された起業資金100万円を基に、起業することが期待されています。

今回のDCONは3年振りのリアル開催となり、会場の歓声や各チームの熱いプレゼンテーションはオンライン大会では感じられないライブ感満載の発表ばかりでした。
高専生の技術力・プレゼン力・ビジネスモデルは年々レベルが上がっており、本大会は全チームが審査員から投資したいと判断され、企業評価額がつかないチームが1つもなく、かつ、企業評価額が10億円と過去最高額になるチームが3チームもありました。

DCONは起業する高専生を毎年輩出していることから産業界から注目されているコンテストです。
岸田総理大臣は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、本年からスタートアップ企業の支援を強化する表明がありました。
DCONは、まさにスタートアップ創出元年のためにある大会であると言っても過言ではありません。

高専生は日本の産業をイノベーションするポテンシャルを十分に持っていると改めて認識でき、今後もDCONをきっかけに高専生が起業し、産業界発展への貢献に留まらず、世界にも通用するスタートアップの誕生に期待が膨らむコンテストでした。

高専DCON2022の様子が2022年5月29日(日)午後11時30分からNHK Eテレ「サイエンスZERO」にてTV放映されます。

※この記事の役職等は取材当時のものです。