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高専トピックス

全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(以下、DCON)は、高等専門学校の学生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用したビジネスプランの「事業性」を、ベンチャーキャピタリスト(VC)が企業評価額として算出し、競います。

今年度は、昨年度の1.6倍となる72チーム、31高専がエントリーしました。
その中から1次審査・2次審査を勝ち抜いた11チームが本選へ出場しました。
今回は、2024年5月10日(金)・11日(土)に開催された第5回大会における、高い技術力とそれを活かしたビジネスプランで競い合った高専生の活躍の様子を、上位チームを中心にお伝えします。

(掲載開始日:2024年5月20日)

コンテストの概要


5月10日に開催された技術審査会の様子。学生たちは、松尾 豊 先生をはじめとする3名の技術審査員に対して、提案・開発したシステムをポスターや実物を交えてプレゼンテーションした。

【予備審査】
書類による1次審査と、プロトタイプのデモンストレーションによる2次審査を経て、本選(最終審査会)に進出するチームを決定します。
選考は、事業経験豊富な現役の起業家や経営者によって行われます。
2次審査を通過したチームには、選考に参加した起業家の一人がメンターとして付き、本選での最終審査に向けてプレゼンテーション資料の作成や準備を共に行います。

【本選】
●5分間のプレゼンテーションを行い、その後、審査員である現役VCとの質疑応答を行います。

●事前に行われた技術審査、ビジネスプランのプレゼンテーション、及び質疑応答の総合結果を基に、その事業に投資するかを審査員が判断します。審査員の内、1人でも「投資する」と判断した場合、企業評価額の審査に進むことができます。

●ビジネスプランの評価方法
ビジネスプランの企業評価額を、実際のベンチャー企業を評価する基準に基づいて具体的な金額で算出し、その金額により順位が決まります。
※「投資する」と判断したVCの中で最も高い評価をした審査員がリードVCとなり、そのリードVCが決定した金額が企業評価額となります。
※同じ企業評価額の場合、「投資する」と判断したVCの数が多いチームが上位となります。それでも同数の場合は企業評価額の合計で決定します。
※企業評価額の判断材料は、売上や利益の見込み、事業の意義、市場規模、経営者の意欲や資質、従業員の能力などです。

●表彰について
・1位に選ばれたチームには起業資金として100万円が授与されます。
・2位と3位のチームにはそれぞれ起業資金として50万円と30万円が授与されます。
・その他、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、農林水産大臣賞などの大臣賞や、各協賛企業からの企業賞が用意されています。

本選に出場したチーム一覧(学校名・チーム名・作品名・概要・企業評価額・メンター・受賞)
※企業評価額が高い順に記載

学校名・チーム名 作品名 概要 企業評価額 メンター 受賞
東京都立産業技術高等専門学校 品川キャンパス
Technology 七福神
FraudShield AI AIを活用した電話詐欺対策
4億円(企業評価額の合計金額:9億円) 柳原 尚史 氏(株式会社Ridge-i 代表取締役社長) 最優秀賞
アクセスネット賞
香川高等専門学校 高松キャンパス
村上らぼ&宇宙開発研究部
貧酸素水塊ひんさんそすいかい検出・赤潮予測システムおよび水中魚体監視システム 養殖業のDX化による漁業損失減と業務の効率化
4億円(企業評価額の合計金額:7.7億円) 田中 邦裕 氏(さくらインターネット株式会社 代表取締役社長)  
大分工業高等専門学校
Sleep-New-World
FAIP (Future Artificial Intelligence Pillow) 「睡眠不足」の解消を目指すAI枕
3.5億円 渋谷 修太 氏(フラー株式会社 代表取締役会長)
群馬工業高等専門学校
ユビキタスVR ラボ
ユビキタスシステム VR/AR環境内で触感を提供するデバイス
3億円 岩佐 琢磨 氏(株式会社Shiftall 代表取締役CEO) 文部科学大臣賞
OIOIグループ賞
沖縄工業高等専門学校
ミヤギ農家
AgreenTech-リジェネラティブ農業をデザインする- AIとドローンを活用したリジェネラティブ農業のDX基盤提供
3億円 高橋 隆史 氏(株式会社ブレインパッド 取締役会長 Co-Founder)農林水産大臣賞
NECソリューションイノベータ賞
トヨタ自動車賞
豊田工業高等専門学校
早坂・大畑Lab.
WCS AIでコンクリートのCO2吸収を評価するシステム
2億円 岡田 陽介 氏(株式会社ABEJA 代表取締役CEO) 経済産業大臣賞
沼津工業高等専門学校
データドリブンウェア
倉庫ナビ ディープラーニングとデジタルツイン技術を活用した製造業向け総合管理システム
5000万円 佐藤 聡 氏(connectome.design株式会社 代表取締役社) トピー工業賞
日立産業制御ソリューションズ賞
釧路工業高等専門学校
メディア工学研究室
シカとの遭遇 ~no accident, no more cry. . .~ AIで野生動物を検出し、ロードキルを減らすシステム
投資判断なし 河瀬 航大 氏(株式会社フォトシンス 代表取締役社長)
福井工業高等専門学校
数値計算部
elicon ~小規模店舗向け顧客分析システム~ AIを活用した小規模店舗向け顧客層と混雑分析システム
投資判断なし 福野 泰介 氏(株式会社jig.jp 取締役会長)
旭川工業高等専門学校
北国のデジタル・まじしゃんズ
e-hon ー動くデジタルえほんー AIを活用した動く絵本制作・共有アプリ
投資判断なし 折茂 美保 氏(ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター & パートナー)
明石工業高等専門学校
Akashi Intelligence
LookON 映像と音を用いた故障検知システム 投資判断なし 南野 充則 氏(株式会社 GROWTH VERSE 代表取締役CTO)

第1位:東京都立産業技術高等専門学校 品川キャンパス/Technology 七福神   [東京都]


4つのAIを組み合わせることで精度を向上させていることから、利用するAIを選定するための深いドメイン知識も持ち合わせている事が窺える。

作品名:FraudShield AI
企業評価額:4億円(企業評価額の合計金額:9億円)

第1位に選ばれた東京都立産業技術高専が製作したのは、特殊詐欺電話を検知するシステムです。
警察庁のデータによると2023年における特殊詐欺の被害額は約441億円に及んでいます。詐欺グループが主に標的とするのは、固定電話を利用している高齢者です。そこで、この問題を解決すべく、固定電話に検知装置を設置することで、特殊詐欺の電話を判定するシステムを開発しました。

詐欺電話には、特定の文章や頻出ワード、高速な発話、そして日々進化する手口という4つの特徴があります。これらに対応するため、本システムには、詐欺シナリオに合わせた文章類似度計算AI、頻出詐欺ワードを検知するAI、発話速度を測定するAI、そしてGPTs(※)を使用した新しい詐欺の学習AI、といった4つのAIを利用しています。

このシステムは、リアルタイムでの警告・通知機能を備えており、またユーザーフィードバックを受けて、設置工事の簡略化も図っています。警告・通知機能は、詐欺の危険度を示すランプや補助ステッカーで直感的に伝えます。更に、LINE Messaging APIを活用したユーザーの家族への通知機能も提供されています。

特殊詐欺の不正検知・防止市場は、2030年には日本で1.5兆円、世界で18.4兆円まで拡大することを見込んでいます。ビジネスプランとしては、5年後までに売上18億円、利益4.5億円、時価総額150億円を目指しています。

審査を行ったVCの方からは、ハードウェアとソフトウェアの融合でビジネスをしていく点はDCONの目的にもマッチしており、大きな社会課題に対処するだけでなく、シンプルでありながら、複数のAI技術を組み合わせた面白いソリューションであるという評価を受け、最優秀賞の受賞となりました。

※GPTs:OpenAIが提供するカスタマイズAIサービスのこと。

第2位:香川高等専門学校 高松キャンパス/村上らぼ&宇宙開発研究部   [香川県]


地域課題である養殖現場の課題に真剣に取り組み、「業務の手間」と「赤潮被害」を解決するシステムについて提案し、日本の食卓に多くの魚が並び、世界の養殖業を発展させたいと熱く語った。

作品名:貧酸素水塊ひんさんそすいかい検出・赤潮予測システムおよび水中魚体監視システム
企業評価額:4億円(企業評価額の合計金額:7.7億円)

香川高等専門学校 高松キャンパスが提案したビジネスモデルは、養殖業の大きな課題に対処するためのシステムです。
農林水産省のデータによると漁業者数は50年前に比べて4分の1に減少し、香川県の養殖産出額も20年前に比べて約半分に落ち込んでいます。更に、赤潮(※1)被害は約359億円にも上り、香川県の養殖業者は55業者から5業者に激減しています。
このような状況を救うべく、養殖現場の課題をヒアリングし、「業務の手間」と「赤潮被害」の課題を解決するために、本システムが開発されました。

本システムは、溶存酸素量センサを用いた貧酸素水塊(※2)の検出と、ディープラーニングを用いた赤潮の発生・移動予測システムを備えています。
環境データをモニタリングし、赤潮の発生・移動を予測、更に航路最適化や侵入検知、週間天気や観察記録も行います。
現在は、赤潮によって死滅した大量の魚を廃棄していますが、本システム導入後は赤潮対策が可能となり、死滅する魚の数を減少させることが可能です。

市場規模は、全世界でみると約6,000万人の漁業関連者のうち、養殖業をメインで活動している2,100万人であり、本システムのターゲットは、まずは日本全体の海面養殖経営体(約1万1,697経営体)と、世界の海面養殖経営体(約15万経営体)を想定しています。
ビジネスモデルとしては、月額5,000円で提供するサブスクリプション方式を取っており、ターゲットの経営体に利用してもらうことで、2029年には売上約100億円、利益約20億円を目指しています。

今後の展開として、衛星を用いた赤潮予測、自動操船、赤潮自動回避いけす、AI自動給餌システムを含む拡張システムを15億円で開発し、瀬戸内海での実証実験を経て、国内全体の内海へ、更には海外に展開する予定です。

審査を行ったVCの方からは、「地域課題の解決や日本の水産業、食糧を確保する上で非常に重要な課題にチャレンジしており、持続可能な社会を創っていく点で非常に合致した事業である」と評価され、第2位となりました。

※1 赤潮:微細藻類が海面近くで大量に発生することで海水が赤褐色になる現象のこと。窒素・リンなど過度な栄養塩が海に流れ込むこと(海の富栄養化)が原因のひとつとされている。微細藻類の酸素消費による溶存酸素濃度の低下等により魚の大量死を引き起こす。
※2 貧酸素水塊:水中に解けている酸素の濃度が低下し、水中にいる生物の呼吸に必要な酸素が、十分にない状態の海水の塊のこと。

第3位:大分工業高等専門学校/Sleep-New-World   [大分県]


製作したAI枕。空気圧の制御を行う本体部と空気で膨らむ6つに分かれた枕部分で構成されている。

作品名:FAIP (Future Artificial Intelligence Pillow)
企業評価額:3.5億円

第3位に選ばれた大分高専が製作したのは、睡眠の質を向上させるためのAI枕です。
OECD(経済協力開発機構)の 2021年の調査報告によると、日本は睡眠時間が最も短い先進国であり、また、睡眠不足による経済的損失は約15兆円と言われています。この損失は日本のGDPの約3%にも上ります。

現在、既に市場に流通している枕は、仰向けで寝た時は快適ですが、寝姿勢が変わると寝心地が悪くなるという課題が挙げられています。
この課題を解決するために、本システムは、枕の四隅に圧力センサを設置して、頭部荷重を測定します。そのデータに基づいて、ディープラーニング技術を活用することで、適切な空気圧を推定し、小型ポンプを使って枕を膨らませます。
これにより、寝姿勢が変わってもベストな寝心地をキープできるようにします。

スマートピロー業界は成長が期待されており、2031年には約1,000億円規模の市場が予測されています。
ビジネスプランとしては、一般のお客様だけでなく、旅館やホテルなども対象として、2030年には売上40億円、利益8億円を見込んでいます。

審査を行ったVCの方からは、睡眠障害のある日本人や世界中の人々にとって、睡眠の質を向上させることは喫緊の課題であり、様々な現場で活用できるポテンシャルを持っている、という声もあり第3位となりました。

おわりに


産技高専は念願の本選初出場で見事1位に選ばれ最優秀賞を獲得した。

今年のDCONは、AIを活用する企業も多く、IT企業の中心地となっているビットバレー”渋谷”のヒカリエホールにて開催されました。
イノベーションが生まれるこの街、渋谷で、未来の起業家となる可能性を秘めた高専生たちは、日頃培った技術力や構想力と高いビジネスレベルを示す、素晴らしいプレゼンテーションを行いました。

特に注目すべきは、生成AIなどの新しい技術を積極的に取り入れ、これらを社会実装して具体的な課題解決に結びつける姿勢です。
また、生成AIなどの新しい技術は、専門的な知識を持ち合わせていなくてもユーザーとしては利用可能ですが、これらの技術を実務レベルで活用するためには、その技術に対する深い理解や洞察が必要となるため、高専生たちはその点でも研鑽を重ねています。

DCONをきっかけに起業する高専生の数は年々増加しており、DCONは日本のみならず全世界の産業を発展させる可能性のあるニュービジネスの創出に繋がっています。従って、将来的には、DCONから世界を代表する企業が誕生する可能性があります。その結果、日本全体に新たなビジネスの波が生まれ、日本が再びハイテク分野で世界市場をリードする日が来ることへの期待が膨らみます。

このように、DCONは、単なるビジネスコンテストの枠を超え、実社会における新たな価値創造の場として、その重要性が年々増しています。
高専生たちが見せる革新的な取り組みが、今後も多くの業界での変革を推進する原動力になることを期待できる、大変実り多きコンテストでした。

※本コンテストでの高専生の活躍は、日本ディープラーニング協会のYoutubeチャンネルにてご覧頂けます。
第5回DCON2024本選(ライブ動画配信)

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。