高専トピックス
「第4回 高専GIRLS SDGs×Technology Contest(以下、高専GCON2025)」は、未来の女性研究者・技術者の挑戦と活躍を後押しするコンテストです。世界的にジェンダー平等が推進される中、日本の理系分野における女性参画は依然として十分ではありません。そのため、本大会は女子高専生がSDGsの視点から社会課題に向き合い、技術開発を通じて「解決策を形にする力」を磨く場として開催されています。
本大会は、高専制度60周年を記念して2022年に開始され、国立高等専門学校機構(高専機構)が主催、日本経済新聞社が共催しています。単なる発表の場に留まらず、DE&I推進(※)の観点から、女子学生のキャリア形成や高専への入学促進にも貢献しています。
本記事では、2025年12月14日(日)に東京大学 伊藤謝恩ホールで開催された「高専GCON2025」本選の模様を、受賞作品とともにお届けします。
※ DE&I推進:多様性(Diversity)・公平性(Equity)・包摂(Inclusion)を重視し、誰もが機会を得て安心して力を発揮できる環境を整える取り組みのことです。
(掲載開始日:2025年12月26日)
概要・ルール
本大会における最大のテーマは、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」です。女子高専生がリーダーシップを発揮して社会課題解決に挑む機会をつくることで、未来を担う女性技術者・研究者の裾野を広げ、その活躍を力強く後押しすることを目的としています。
参加資格は、全国の高等専門学校に在籍する2〜5名の学生チームです。女子学生がリーダーを務め、チームの半数以上を女子学生とすることが条件となります。募集テーマは、「SDGsを中心としたさまざまな社会課題の解決に向けた技術開発・アイデアの提案」です。提案にあたっては、技術的な実現可能性に加え、これまでにない「新規性」や「独自性」を重視します。あわせて、女性のキャリア形成や活躍推進に寄与するアイデアも推奨しています。
審査項目は、「SDGsへの理解と自分との関わり」「イノベーション視点」「実現への道程」の3つの柱に加え、「プレゼンテーション」と「加点項目(女性活躍視点)」の計5つの観点で構成されています。評価においては、単なる技術力に留まらず、新市場やビジネスチャンスにつながる社会的インパクトや、課題解決に向けた「情熱」も重視されます。また、本選ならではの要素として、聴衆に自分たちの想いを届けるプレゼンテーション力も重要な審査対象です。
本年度は、全国38高専から89チーム(計315名)がエントリーしました。書類審査と面談審査を通過した12チームが本選でプレゼンテーションを行いました。
審査を経て、最優秀賞である「文部科学大臣賞」をはじめ、「優秀賞(2チーム)」および各「協賛企業賞」が授与されます。
本選出場チーム一覧(高専名・チーム名・タイトル・表彰名)
| 高専名 | チーム名 | タイトル | 表彰名 |
| 群馬工業高等専門学校 | 群馬レベルアップ大作戦☆ | 群馬発の新素材、こんにゃく飛粉(とびこ)を活用せよ! | 文部科学大臣賞 & 鹿島建設賞 |
| 徳山工業高等専門学校 | ひかみこちゃんねる | いつでも、どこでも、何度でも。フラNavi for Girls | 優秀賞 & ANAグループ賞 |
| 仙台高等専門学校(広瀬キャンパス) | 杜のシカシカ | 「磨き残し」を可視化する、子供向けAI搭載アプリと歯ブラシアタッチメント | 優秀賞 |
| 豊田工業高等専門学校 岐阜工業高等専門学校 | 夢見る師弟Girls | 廃タイル再生資材の舗装利用で循環経済を実現! | 東京水道賞 |
| 茨城工業高等専門学校 | 茨城高専・Tech.AGRI | 茨城のさつまいもを核にした地域ブランド戦略 | JFEスチール賞 |
| 呉工業高等専門学校 | MECA女養成プロジェクト | 技術者におけるジェンダーフリー社会の推進 | 三菱電機エンジニアリング賞 |
| 小山工業高等専門学校 | いろとりどりラボ | 草木染めによる大谷石(おおやいし)廃材のアップサイクル | |
| 奈良工業高等専門学校 | YAMATO Herbal | 女性の健康不安を軽減するカワラヨモギを用いた点鼻薬の開発提案 | |
| 阿南工業高等専門学校 | 阿波乙女(あわおとめ) | 共創する物語~あなたとAIの人形浄瑠璃 | |
| 久留米工業高等専門学校 | かっぱ | AIを使った熱処理技術の継承に挑戦 | |
| 熊本高等専門学校(熊本キャンパス) | のんだモン | 幼稚園・保育所における熱中症予防を効率化する水分管理ツールの開発 | |
| 沖縄工業高等専門学校 | とっとこミューオン隊 | 宇宙放射線テクノロジーを活用した大規模防災エコシステムCOSMOS |
文部科学大臣賞:群馬工業高等専門学校
チーム名:『群馬レベルアップ大作戦☆』
タイトル:『群馬発の新素材、こんにゃく飛粉を活用せよ!』
最優秀賞である文部科学大臣賞を受賞した群馬高専チームは、こんにゃくの製造工程で生じる廃棄物「飛粉(とびこ)(※1)」を活用し、群馬特有の強風「赤城おろし(※2)」による砂埃被害を防ぐアイデアを提案しました。これは地域資源を有効活用する、地産地消型の取り組みです。
本提案の背景には、群馬県が抱える二つの課題があります。同県では、こんにゃく製造に伴い年間約4,000トンもの「飛粉」が廃棄されています。一方で、強風「赤城おろし」による砂埃被害も深刻であり、群馬高専の女子学生を対象としたアンケートでは、約75%が肌荒れ等に悩まされていることが明らかになりました。そこでチームは、飛粉の高い保水性と粘性に着目し、これを砂埃対策に応用することで、双方の課題を同時に解決するモデルを構築しました。
本モデルを用いて課題を解決するため、チームは徹底した実証実験を行いました。検証では、赤城おろしを模した風速10m/sの環境下で、砂埃の発生量を測定しています。何も散布しない状態を基準とした場合、水のみの散布では抑制率が14.2%にとどまりました。これに対し、飛粉を配合したサンプルでは、5%配合で98.8%、10%配合で98.9%という劇的な効果が確認されました。この計測は散布後45日間にわたり計5回行われており、高い持続性も示されています。また、検証の過程で生じたカビの発生についても、散布量を従来の200gから100gへ減らすことで克服しました。その結果、約98%の抑制効果を維持したままカビを防ぐことに成功し、資源効率の観点から配合率は5%が最適であると結論付けています。
本提案の特徴は、廃棄物を活用するため既存製品より安価である点と、食品由来であるため環境への安全性が高い点にあります。チームは既に建設会社へのヒアリングを行っており、散布方法や雨天時の耐候性について具体的なアドバイスを得ました。今後は、実験用トレーから学校の校庭へと規模を拡大して検証を進めます。さらに、広大な建設現場への導入を見据え、ドローンを活用した散布方法の検討も進める予定です。この技術は群馬県内に留まらず、砂埃が課題となっている全国の建設現場への展開も期待されています。
審査員からは、群馬特産品の廃棄物と赤城おろしを組み合わせた着眼点に加え、地道にデータを取得した検証プロセスが高く評価されました。特に、既製品との比較検討やカビ対策といった実践的なアプローチが得点につながっています。また、「高専らしく堅実で非常に分かりやすかった」と評価されたプレゼンテーションや、今後の活動の「伸び代」も期待され、文部科学大臣賞への選出に至りました。初挑戦でこの栄誉をつかむまでの道のりと、納得のいくデータを導き出すために積み重ねられた彼女たちの地道な努力には、深い感銘を覚えずにはいられません。
※1 飛粉:こんにゃく芋を加工して食用の粉を作る際に発生する、粘り気の強い微細な粉末状の廃棄物のこと。
※2 赤城おろし:冬季に北西の季節風が赤城山を越え、関東平野(群馬県)へ吹き下ろす冷たく乾燥した強風のこと。
優秀賞:徳山工業高等専門学校
チーム名:『ひかみこちゃんねる』
タイトル:『いつでも、どこでも、何度でも。フラNavi for Girls』
優秀賞を受賞した徳山高専は、地域の建設産業が抱えるイメージの課題を打破し、女性技術者の確保、育成、活躍を加速させるための情報プラットフォームを提案しました。
この提案の背景には、建設業界に根強く残る「ブラック・3K・男性社会」といった負のイメージがあります。山口県では建設人口が減少しており、特に女性の割合が16%と低い現状ですが、その主な原因は、変わりつつある建設業の「今」が若者に十分伝わっていないことでした。一方で、徳山高専では少人数制の建設現場見学会を年15回以上実施しており、その参加者の7~8割が女子学生であるという実態に着目しました。実際にチームメンバー自身も30回以上現場見学に参加し、従来の「力仕事中心」というイメージが覆され、建設業が「女性も働きやすいスマートな職場」に変わっていることを実感したのです。
そこでチームが提案したのは、徳山高専の女子学生と山口県が主体となって運用している「見学したい人」と「建設現場を見てもらいたい人」を直接つなぐマッチングサイト『フラNavi for やまぐち(※)』を、女性特化型の『フラNavi for Girls』へと展開させるプランです。ターゲットを進路選択前の女性に絞り、自身の現場経験から導き出した4つの独自機能(ポートフォリオ、レビュー、インタビュー、アピールタグ)を実装しました。中でも特徴的なのが、検索性を高める「アピールタグ機能」です。「#女性用WC」や「#昼食付き」といった項目には、「友達と旅行気分で気軽に参加したい」という女子学生ならではのリアルな本音が反映されており、ユーザーの視点に立った細やかな工夫が施されています。
本提案の強みと将来性は、その高い実現可能性と波及効果にあります。元となる『フラNavi for やまぐち』は2022年に誕生して以来、山口県との官学共同研究にも発展し、すでに国土交通白書2025に掲載されるなど、社会的な注目を集めています。このプラットフォームにより、業界の負のイメージが払拭され、女性が建設業界へ進出することで、SDGs目標5(ジェンダー平等)と8(働きがいも経済成長も)に貢献します。最終的には業界全体の担い手不足解消と、地域社会の持続的な発展(SDGs目標 9, 11)にも寄与することが期待されています。
審査員からは、圧倒的なプレゼンテーション力に加え、30回以上の現場訪問で得た「足で稼いだ情報」に基づく実践的なアプローチが絶賛されました。単なる理論に留まらず、他分野の女性活躍推進にも通じるモデルケースとして期待が寄せられています。初参加での快挙に、メンバーは『フラNavi』を女性視点で磨き上げた成果を喜ぶとともに、本大会を通じて女性活躍の意義を深く再確認したと語りました。デジタルな開発手法の裏にあるのは、何度も現場へ通う泥臭くも真摯な行動力です。当事者として「本当に必要なもの」を問い直し、社会実装へと繋げた彼女たちの姿勢こそ、エンジニアとしての確かな資質と言えるでしょう。『フラNavi for Girls』が建設業界の新しい扉を開く鍵となることを期待せずにはいられません。
※ フラNavi for やまぐち:建設業界の将来の担い手確保に向け、山口県建設技術センターによる助成(令和5~7年度官学共同研究)のもと徳山高専の女子学生と山口県が連携して構築した、現場見学を希望する若者と企業・自治体をマッチングさせるプラットフォーム [ https://franavi.jp/ ]。
優秀賞:仙台高等専門学校(広瀬キャンパス)
市販のハブラシに『Priperio AI』を装着するデモンストレーションの様子。毎日触れるものだからこそ、ストレスなく直感的に扱えるよう設計されており、その徹底した「使い手目線」に細やかな配慮を感じた。
チーム名:『杜のシカシカ』
タイトル:『「磨き残し」を可視化する、子供向けAI搭載アプリと歯ブラシアタッチメント』
優秀賞に選ばれた仙台高専(広瀬キャンパス)は、「『磨き残し』を可視化する、子供向けAI搭載アプリと歯ブラシアタッチメント」を発表しました。彼女たちが目指すのは、正しい歯磨き習慣の定着を支援し「自分の歯を自分で守れる未来」をつくること、そして予防医療という難易度の高い課題を解決することです。
開発のきっかけは、毎日欠かさず歯磨きをしていた友人が、神経を抜くほどの重度な虫歯になってしまったという衝撃的な出来事でした。磨き残しは見えないからこそ、気づかぬうちに将来の健康リスクを高めてしまいます。また、子供の歯磨き嫌いや保護者の仕上げ磨きへの負担といった家庭内の課題も深刻です。そこでチームは、この悪循環を断ち切るべく、「見えれば、磨ける」というシンプルなコンセプトを掲げました。
提案された『Priperio AI』は、市販の歯ブラシに装着するアタッチメントと連動アプリで構成されています。加速度センサーと地磁気センサーが捉えた動きを、ロジスティック回帰(※1)とLSTM(※2)という2つのAIが解析し、アプリ内の3Dモデル上で磨けた部分を白く、残っている部分を色付きでリアルタイムに表示します。これにより、動きが一定しない子供のブラッシングでも正確な位置を特定し、ゲーム感覚で楽しみながら完璧なケアができるよう設計されました。
本チームが開発している『Priperio AI』は、実用を見据えた高い技術精度と、持続可能なビジネス設計も特筆すべき点です。AIによる検知精度は80%を超え、歯科医師協力の実験でも高い評価を得て特許を出願済みです。さらに、本体価格をあえて3万円に設定して購入者のコミットメントを引き出す戦略や、家族向けサブスクリプションなど、収益性も綿密に計画されています。実証実験でも保護者から高い信頼を得ており、社会実装への準備が万端である印象を受けました。
審査員からは、参入障壁の高い医療分野に対し、プロダクトの高い完成度と独自のビジネスモデルで果敢に挑んだ点が絶賛されました。これを受け、メンバーは女性技術者が活躍できる場での受賞に感謝し、さらなる飛躍を誓っています。特筆すべきは、彼女たちが本大会に先駆けて「高専DCON2025」にも挑戦し、技術をビジネスとして成立させるべく既に行動を起こしている点です。友人の痛みから始まった研究を、確かな事業戦略を持って社会実装へと繋げるその姿勢こそ、未来を変えるエンジニアの姿と言えるでしょう。『Priperio AI』が予防歯科の常識を覆す日が、今から楽しみでなりません。
※本チームが出場した [高専DCON2025(5月9日(金)・10日(土))の記事はこちら]
※1 ロジスティック回帰:物事の発生確率を予測し、データを分類するための統計的な分析手法。
※2 LSTM(長・短期記憶):時系列データの学習や予測に適した、AI(深層学習)のモデルの一つ。
おわりに
高専GCON2025は、高専生たちがSDGsの理念を自らの行動指針とし、社会課題の解決に向けて情熱を注ぐ姿が印象的な大会となりました。彼女らは、地域や社会が抱える切実な悩みを自分ごとの問題として捉え、日々の学びや研究で培った技術力と柔軟な発想を掛け合わせることで、独創的かつ実現性の高いソリューションを次々と提案してくれました。
また、本大会の意義は、単なる技術コンテストの枠に留まりません。特に、内閣府男女共同参画局が「女性活躍・男女共同参画の重点方針」においても喫緊の課題として掲げる「理工系分野(STEM)における女性人材の育成」という観点において、本大会が果たす社会的役割は極めて大きいと言えます。実際、高専機構がDE&I推進に注力してきた結果、女子学生比率は大学工学部で16%に留まる一方で、高専本科では25%まで増えており、さらに令和10年度末に向けて35%という高い目標も掲げられています。こうした背景があるからこそ、女子学生が挑戦し続けられる学びの環境づくりと、その成果を社会に示す機会の両輪として、高専GCONの存在感は一層際立ちます。
現在、日本の研究者や技術者に占める女性の割合は国際的に見ても低水準にあり、その背景には「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)」や、身近なロールモデルの不在があると言われています。しかし、参加チームの半数以上が女性で構成される本大会では、女子学生自身がリーダーシップを発揮し、技術を用いて社会を良くする具体的なビジョンを示しています。彼女たちの活躍は、技術職に対する固定観念を打破し、次世代の女子学生たちが理系キャリアを選択する際の強力な道しるべとなるはずです。
高専GCON2025は、学生たちの無限の可能性を引き出すとともに、日本の技術分野におけるジェンダーギャップ解消の一助となるプラットフォームとしても機能していました。この場で得た自信と経験を糧に、彼女たちが多様な視点を持つイノベーターとして社会へ羽ばたき、私たちの未来をより豊かで公正なものへと変えてくれることに、大きな期待を持てる大変有意義な大会でした。
独立行政法人国立高等専門学校機構 高専GCON2025 オフィシャルサイト
