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大島商船高等専門学校の学生、新たな波を起こす - 学びから起業への航海 -

2024年1月22日(月)、大島商船高等専門学校(以下、大島商船高専)にて、日高 洸陽ひだか こうようさん(大島商船高専 専攻科 電子・情報システム工学専攻2年次在学中)が起業するに際しての記者会見が行われました。

日高さんは、所属する北風研究室・コンピュータ部で行ってきた活動の事業化を目的として、2024年1月28日(日)に東京都千代田区に新しい会社「株式会社 晴工雨読 (SeikoUdoku Inc.)」を設立しました。

この会社は、「緑の未来、技術の手で - 農林水産の革新をAIとともに」というミッションのもと、イノベーションを通じて社会に貢献し、研究室で学んだ知識を活かして、農林水産領域における労働負担の軽減と業務効率化による生産性向上を以下の事業によって目指します。

きくらげ栽培におけるAI活用技術の開発事業


ロボットアームを用いたきくらげ収穫の動作デモ。単純に収穫するだけでなく、きくらげを傷つけずに収穫する機構にも工夫を施している。

きくらげ栽培に従事する農家は、摂氏40度、湿度95%に達する高温多湿の環境下での労働に直面しています。
収穫のタイミングの見極めには経験が求められる中、人手不足が追い打ちをかけ、結果的に高齢者が重要な労働力を担っています。

この問題に対処するため、AIとロボット技術を活用します。具体的には、夜間に工場でAIがきくらげの菌床を監視し、ロボットアームに取り付けられたカメラで撮影を行い、作業場に送信します。
朝、生産者はVRを使用して収穫するきくらげを選択し、深層学習を活用した "収穫判断支援システム" により、経験が浅い生産者でも適切なきくらげの選択が可能になります。
選択確定後、ロボットアームによる自動収穫が工場で行われます。これにより、作業の標準化と労働負担の軽減が可能となります。

この事業の基となった研究成果は2022年4月に開催された高専DCON(※)で経済的な波及効果が大きい課題解決に挑戦する産業や市場において最も優れた成果を上げたチームに贈られる、経済産業大臣賞を受賞しました。
更に、2社の特別協賛企業からの高い評価を受け、KDDI賞とAGC賞を同時に獲得しています。以下リンクに高専DCON2022での活躍が記載されています。
第3回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2022

※ 高専DCON:全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト。このコンテストは、高専生が「ものづくり」と「ディープラーニング」を駆使したビジネスプランの事業価値を競うイベントで、ベンチャーキャピタリストが企業価値を評価し、高専生たちが競い合います。

スマート漁業養殖業技術の開発事業


高専GCON2023で披露した鯛の検出の様子。実際に泳いでいる鯛を検出し、成長の度合いを判定する。

水産業の生産量は年々低下し、1993年の871万トンから2021年には421万トンへと約50%減少しています。この背景には厳しい労働環境や後継者不足などの課題があります。
更に、漁業・養殖業は高コストであり、漁獲量の減少をカバーするほどの生産性の改善は見られません。

餌の不均等な配分が原因で魚の成長にばらつきが発生します。これを解決するため、効率的な餌やりシステムを開発しました。
自動走行船と水中ドローンを用い、魚の大きさに基づいて適切な給餌を行います。このシステムはAIの物体検出アルゴリズムを活用し、カメラ映像から魚を識別します。
鯛を対象にした場合、その色の変化を利用して成長度合いを判断しますが、この技術は他の魚種にも応用可能です。
今まで研究してきた追従技術と個体識別技術を活用して、今回のシステムを完成させ、事業に展開します。

この事業の基となった研究成果は2023年4月に行われた高専DCONで最も企業評価額が高いチームに贈られる最優秀賞を受賞しました。
更に、2社の特別協賛企業からの高い評価を受け、ウエスタンデジタル賞とNECソリューションイノベータ賞を同時に獲得しています。以下リンクに高専DCON2023での活躍が記載されています。
第4回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2023

あとがき


記者会見の様子。写真右から大島商船高専 校長 古莊 雅生ふるしょう まさお 先生。電子・情報システム工学専攻2年日高 洸陽ひだか こうよう さん。情報工学科教授 北風 裕教きたかぜ ひろのり 先生。

高専で培ってきた研究や様々なコンテストを通じて、起業をする高専生が年々増加しております。昨年から高専では「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」といった政策が施行されています。
これにより、各高専では起業家精神と起業家的資質・能力の育成を目的としたアントレプレナーシップ教育が強化されています。

また、2023年4月1日に徳島県に新規開校した「私立 神山まるごと高専」も、起業家精神の育成に特化した教育を行っており、このようなアントレプレナーシップ教育の重要性が認識され、技術を活用した社会課題解決に取り組む高専生に対する期待が日増しに高まっています。

今後も新しい技術を用いて社会課題を解決し、日本・世界経済を発展させる高専生たちの活躍に目が離せません。
(掲載開始日:2024年1月29日)

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。