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高専トピックス

全国高等専門学校デザインコンペティション(以下、高専デザコン)は、全国の国立・公立・私立の高専57校62キャンパスならびに海外高専2校から、主に土木・建築の専攻で学ぶ学生たちが参加し、生活環境に関連した様々な課題に対する解決手法を競う大会です。
毎年開催され、高専生が全国規模で競い合うロボットコンテスト(ロボコン)やプログラミングコンテスト(プロコン)、英語プレゼンテーションコンテスト(プレコン)と並び、4大コンテストの1つに位置付けられます。

1977年に始まった建築シンポジウムを起源としており、2004年に高等専門学校連合会主催である現在の「デザインコンペティション」の形式になってからは、今年で16回目の開催となります。現在は構造デザイン部門、空間デザイン部門、創造デザイン部門、AMデザイン部門、プレデザコン部門の5部門が設けられています。

高専デザコンではデザインの領域を「人が生きる生活環境を構成するための総合的技術」と定義しています。そのため今大会では、「デザイン」と聞いて第一に想起される「プロダクトの意匠」に留まらず、都市計画や建築の知見・技術を活かした構造物や商品、事業を「計画するデザイン」の力を競っています。

今大会のテーマは「新『五輪書』―〈デザイン〉の奥義を究めよ―」です。剣術の奥義を究めて「五輪書」を著した宮本武蔵と、2020年の「五輪」という大舞台で戦うスポーツ選手の姿に、高専生がデザインを学び・挑戦する姿を重ねました。

オリンピック・パラリンピック東京大会の基本コンセプトの一つである「多様性と調和」の通り、日本には、多様性を持つ文化や様々な人種や国籍の人々等と出会うことで新しい価値が生まれる機会が溢れています。普遍的な価値を持つモノ・コトを生み出す「デザイン」の力は、こうした時期においてより重要度を高めており、高専デザコンが持つ意義も増しています。

今回は、2019年12月7日(土)と8日(日)に開催された東京での本選の様子をお伝えします。
(掲載開始日:2019年12月25日)

構造デザイン部門 「カミってる!!」


米子高専が製作した橋梁模型「逞弓(たくみ)」は、独自の美しい糸飾りに特徴がある地元の伝統工芸、淀江傘(よどえがさ)をモチーフとした

構造デザイン部門では、各高専が与えられたテーマに沿って橋梁模型を製作し、模型の耐荷性・デザイン性・経済性等を競い合います。
耐荷性については、大会当日に模型に10kgから50kgまで荷重を段階的に増やして荷重に耐えうるかという試験が行われます。

模型の素材は、2015年から2018年大会まで「銅」とされていましたが、今大会からは「紙」へと変更されました。
「紙」の持つ特性である「強さ・軽さ・しなやかさ」を活かした構造デザインという、新たな挑戦が求められました。

最優秀賞:米子工業高等専門学校
作品名 :逞弓(たくみ)
作者  :
 野田 夏希さん(5年)
 森岡 咲里さん(5年)
 中合 遥香さん(4年)
 渡部 快翔さん(4年)
 實松 義仁さん(3年)
 和田 虎之慎さん(専攻科1年)
 

本選には62チームが参加し、最優秀賞には、米子高専の「逞弓(たくみ)」が選ばれました。
鳥取県米子市の伝統工芸である淀江傘の糸飾りをモチーフとし、アーチ構造を採用することで、紙の特性である「強さ・軽さ・しなやかさ」がいかんなく活かされたデザインとなっていました。
また、「軽さ」にこだわり、部材点数を少なくすることで、今大会中最軽量の質量116.7gを実現しました。この軽量ながら、耐荷性能試験では荷重の最大値となる50kgも見事耐え抜き、最優秀賞を勝ち取りました。

空間デザイン部門 「多文化共生空間の創出」


秋田高専はパブリックスペースを立体的に組み合わせた複合施設によるコミュニケーションの活性化を提案した

空間デザイン部門は、地域や社会状況を具体的に設定し、テーマに沿った空間を提案します。創造力・デザイン力・プレゼンテーション力の3点から評価されます。

今大会では、「多文化共生空間の創出」がテーマとして与えられました。
日本に訪れる外国人は、観光客・居住者ともに年々増加傾向にあります。この背景から、日本人と外国人の円滑な交流や相互理解を深める共生空間の提案が期待されました。

全国の高専から131作品の応募があり、選抜された10作品が本選でのプレゼンテーションに臨みました。

最優秀賞:秋田工業高等専門学校
作品名 :CRUMBLE 個と都市をつなぐ線的な集団形成
作者  :伊藤 那央也さん(5年)
日本人と外国人がお互いに住みやすい空間や、歴史ある地域における更なる文化交流の場等が提案される中、最優秀賞作品には秋田高専の「CRUMBLE 個と都市をつなぐ線的な集団形成」が選ばれました。

この作品は、2015年に外国人住民が日本人住民の人口を上回った埼玉県川口市にある「川口芝園団地」を対象エリアとしました。
この団地の日本人住民は少子高齢化が進み、60歳以上の住民が多くなっています。一方で外国人住民は子育て世代がメインとなり、文化や世代の違いから住民同士のコミュニケーションが生まれにくい状況になっています。また、広場やショッピングモールといった人が集まる機能が団地の一部に集中している環境も、コミュニケーション不全を招く一因となっています。

そこで作者は、住居と商業施設や文化施設を合わせたひとつの複合施設を設けることで、コミュニケーションが生まれやすい空間を提案しました。この施設は屋上部へ小さなパブリックスペースをいくつも配置することで、多様な住民同士によるコミュニティが生まれやすい環境を創り出せます。
加えて、立体的な美しいデザインも評価されての受賞となりました。

創造デザイン部門 「彼(か)を知り、己を知る ―未来につながる持続可能な地元創生―」


米子高専は空き家をリノベーションするといった方法ではなく、解体して「森に返す」という柔軟なアイデアを披露した

創造デザイン部門では、「地方創生」について高専生ならではの観点でアイデアを提案し、地域性・自律性・創造性・影響力・実現可能性の5つの評価指標からプロセスデザインの完成度を競い合います。
今大会では「地元を良くしたい」という地元愛を根底に、各地域の魅力や資源を用いた持続的な仕組みづくりとなる「地元創生」のアイデアの提案が期待されました。

予選では39チームの応募があり、本選には11チームが選抜されました。

最優秀賞:米子工業高等専門学校
作品名 :森になる、私たちの「地元」
作者  :
 近藤 瑠星さん(5年)
 浪花 泰史さん(5年)

提案された作品は、いずれも地域の魅力や特産品を活用した地元愛が見て取れる内容ばかりでした。
その中でも最優秀賞に選ばれたのは、人口減少により発生する空き家問題を解決する取り組みを提案した米子高専の「森になる、私たちの「地元」」です。

空き家となった商店街の建物を解体し、そこに植林することで町を部分的に「森化」させます。人工物を増やすのではなく、美しい森を育むことで魅力的なまちづくりを図ります。
「ヒト」や「シゴト」を増やす一般的な地方創生とは真逆のアプローチで、米子の城下町の風情を残すという柔軟なプロセスデザインが評価されました。

AMデザイン部門 「社会的弱者に向けたスポーツ支援アイテム開発」


神戸市立高専の「剣道防具型」は、3Dプリンタの技術を活用したオーダーメイド防具の作成支援を提案した

AM(Additive Manufacturing)デザイン部門では、3Dプリンタによる造形技術を用いて、テーマに沿った作品を製作します。新規性・独創性、実用性、事業性、活用性の4つの観点で作品が評価されます。

今大会のテーマは「社会的弱者に向けたスポーツ支援アイテム開発」です。
2020年には、東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。オリンピック・パラリンピックは、人種・性別・障がいの有無に関係なく多様性を認め、社会的弱者が抱える課題を考えるきっかけとなるイベントです。
技術者は、社会的に不利になっている人たちの多様性に伴う問題に対し、グローバルな視点での解決を求められています。高専生たちも技術者の一員として、経験や各地域に基づいた様々な角度から編み出したアイデアでテーマに挑みました。

予選では20チームの応募があり、本選には11チームが選抜されました。

最優秀賞:神戸市立工業高等専門学校
作品名 :剣道防具型
作者  :菊岡 樹さん(5年)
最優秀賞に選ばれたのは神戸市立高専の「剣道防具型」です。3Dプリンタの柔軟な造形技術を活用し、オーダーメイドの様にフィットした剣道防具を入手出来る手法を提案しました。

この作品では、人体をスキャンした3Dモデルを基に、面や小手などの防具に装着し、陥没や突出した部分を補う緩衝材を設計します。身体的な障がいを持つ方々が剣道を楽しみ易くする手助けとなる他、防具を特注するよりも製作時間が大きく短縮されることで、近年問題視されている剣道具師減少への対策にもなります。防具の作成を依頼するハードルを下げることで、潜在的なニーズを掘り起こす可能性も考えられ、ビジネス面での評価もされました。

プレデザコン部門 「気になる“もの”」


高専1~3年生が自由な発想で製作したA3サイズのポスター作品が一面に展示された

プレデザコン部門は本科3年生までの低学年を対象とした部門です。他部門と関連した3つのフィールドに分けられ、各課題に対するデザインの提案を行いました。

空間デザインフィールド
「構造物あるいは風景の透視図」
現存または過去に実在した構造物あるいは風景について、「人の目では見られない、写真でも撮ることの出来ない」構図の透視図をA3サイズのポスターで製作します。来場者による投票によって順位が決定します。

創造デザインフィールド
「エコバッグのデザイン」
次回大会である名取大会(主幹校:仙台高等専門学校名取キャンパス)で使用するエコバッグのデザインを製作し、A3サイズのポスターで表現します。空間デザインフィールドと同様に来場者の投票で順位が決定します。

AMデザインフィールド
「落下シェルターの3Dプリンタによる造形」
200gの分銅を1m落下させ、落下時に衝撃を吸収するシェルターを3Dプリンタで製作します。落下時の衝撃力のピーク値をロードセル(※)で測定し、値が小さい程順位が高くなります。

※ロードセルとは:荷重を感知するセンサのこと

あとがき

2020年に東京での開催を迎えるオリンピック・パラリンピックを契機に、現代日本では多様性や異質性が出会う機会が多数生まれています。こうした機会により生まれる新しい課題や、それらに対する解決策を見出す能力の重要性は、ますます高まるばかりです。
高専教育においては、実践力を身に付け披露する場として各種コンテストが用意されています。工学技術の力が発揮される要素の強いロボコンプロコンよりも、デザコンは豊かな発想力で課題を解決する企画の力=デザイン力が発揮される場としての色がより濃いコンテストでした。どの部門でも、すぐにでも社会実装が望まれる作品が並び、日頃から養われている実践的なデザイン力が大いに発揮された大会でした。