高専トピックス
アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト(高専ロボコン)は、全国の国立・公立・私立の高専57校62キャンパス、計124チームが、ロボット製作から競技を通じてアイデア対決をするコンテストです。
1988年から毎年開催され、今年で32回目の開催となります。毎年変わる競技テーマに対し、各高専が独自のロボットを製作します。競技の勝敗だけでなく、製作したロボットのデザインや技術的完成度等も評価基準となるため、ロボットへ組み込むアイデアも製作における重要なポイントです。
今年のテーマは、「らん♪ RUN Laundry(らん・ラン・ランドリー)」と題した「洗濯物干し」です。「洗濯物を干してくれるお手伝いロボット」が、如何に「数多く」「美しく」「気持ちよく」洗濯物を干せるかを競いました。
柔軟に変形してしまう洗濯物を扱うことは、ロボットにとって非常に難易度の高い課題です。しかし、我々の生活とは切り離せない布類を自在に扱うことが可能となれば、ロボットが実社会で活躍する機会がますます広がります。
2019年11月24日(日)に両国国技館で開催された全国大会には26チームが選抜されました。その中でも、表彰された7チームを中心に、独自の発想と高い技術力で競い合った彼らの活躍をお伝えします。
(掲載開始日:2019年12月6日)
競技課題:「らん♪ RUN Laundry」のルール
ロボットが洗濯物(Tシャツ・バスタオル・シーツ)を高さ1m、1.5m、2mの3本の物干しざおに掛けていく「洗濯物干し」競技です。
1チーム2台までロボットを使用することが出来、2台使用する場合、1台は自律した自動ロボットである必要があります。
競技開始後、まずはフィールド上の「洗濯物台」と呼ばれるゾーンから洗濯物を回収します。Tシャツとシーツは、チーム毎に別々のゾーンに置かれています。バスタオルは、同じゾーンにチームの分け隔てなくランダムで一列に並べられています。そのため、多くのチームはここで手動ロボットを使用し、素早く自チームの洗濯物を回収していました。
物干しざおには、黄色くマークされた「物干しエリア」が設けてあります。この範囲に洗濯物を掛けることで、Tシャツ1点、バスタオル2点、シーツ3点を獲得することが出来ます。ただし、バスタオルとシーツはエリアを全て覆っていなければ得点とならないため、洗濯物を掛ける位置には正確さが求められます。
競技は制限時間2分30秒で行われ、得点の多いチームが勝利となります。同点の場合は、物干しざおに掛けられた洗濯物の「全体的な美しさ」を基準として、審査員判定となります。
全26チームによるトーナメント戦の結果、優勝は香川高等専門学校(詫間キャンパス)のロボット「again」が獲得、また、誰もが想像し得なかったようなロボットを発想・製作し、唯一無二のアイデアを実現したチームに贈られる最も名誉あるロボコン大賞には奈良工業高等専門学校の「飛鳥」が選ばれました。
ロボコン大賞:国立 奈良工業高等専門学校 [奈良県]
ロボット名:飛鳥
奈良高専の特徴は、2台共に自動ロボットであることです。
多くのチームは、洗濯物を回収する場面で、ランダムに置かれたバスタオルを素早く回収するため、ヒトの目で判断して柔軟に対応出来る手動ロボットを使用していました。しかし、奈良高専は色を認識するセンサを搭載した自動ロボットを使用し、自チームのバスタオルを見分け、素早く洗濯物を回収しました。
試合を重ねる毎に披露される新機構に観客からは驚きの声が上がっていました。1回戦では自動ロボット2台の連携プレイを見せ、会場からの注目を集めましたが、2回戦では、1台のみでシーツを掛け、単体でも十分に勝利出来る高い技術力を見せつけました。準々決勝では、8枚のTシャツを一気に掛けて大量得点する、派手なパフォーマンスも披露しました。
準決勝で敗れましたが、各試合で会場を沸かせる、独創的なアイデアとその実現力が評価されての受賞となりました。
優勝:国立 香川高等専門学校(詫間キャンパス) [香川県]
ロボット名:again
香川高専(詫間キャンパス)が製作したのは、正確性を追求したロボットです。地区大会から全国大会まで、全ての試合で満点を獲得し勝利する、パーフェクトゲームと言える結果を残してきました。
2回戦では、対戦相手の大分高専と共に満点を獲得したため審査員判定となり、惜しくも敗退しました。しかし、地区大会予選から全国大会決勝戦までの全試合で満点を獲得してきた実績を評価され、ワイルドカード枠(※)として準々決勝にコマを進めることとなりました。
ロボットの名前の通り「再び(again)」這い上がった後も満点を獲得し続けるという展開には、会場全体が熱く盛り上がりました。決勝戦でも満点の同点となりましたが、審査員全員一致の判定で今大会の優勝を掴み取りました。
※ワイルドカード枠:1回戦・2回戦で敗退したものの、戦いぶりが優れていたチームとして審査員により準々決勝に推薦される枠のこと
準優勝:国立 小山工業高等専門学校 Bチーム [栃木県]
ロボット名:ホシ鳥夫婦
小山高専Bチームは、唯一メンバーが2年生のみで構成された若いチームです。地区大会の決勝戦では、同じく小山高専の先輩チームに勝利して、全国大会に歩を進めました。
彼らのロボットの特徴は、シンプルかつ効率を重視した機構にあります。他チームの様子を見ると、多くのロボットが洗濯物の装填のために物干しざおと洗濯物台を何度も往復していました。しかし、小山高専はロボットの四辺に全ての洗濯物を装填出来ます。また、物干しざおに沿って回転しながら洗濯物を掛けていくため、移動時間を大きく短縮していました。
「何回やっても満点を取る」と大会中インタビューでの言葉通り、全国大会の全試合で満点を獲得しました。決勝では惜しくも審査員判定で敗れましたが、来年の優勝へ雪辱を誓っておりました。
アイデア賞:国立 都城工業高等専門学校 [宮崎県]
ロボット名:ハッとトリック!ポッポちゃん!
アイデア賞に選ばれたのは、マジシャンの鳩をモチーフにしたロボットで人気を集めた都城高専です。審査員の満場一致で受賞となりました。
羽に見立てたアームでバスタオルのしわをパタパタと伸ばす、ヒトの動作を再現した愛らしいしぐさをする度に、会場からは歓声が上がりました。また、くるくると巻いたシーツを物干しざおへ勢いよく投げるという大胆な掛け方が成功すると、会場は驚き、盛大な拍手が送られました。
昨年の全国大会では優勝には及びませんでしたが、他の高専とは異なるアプローチのロボットで会場を盛り上げていました。今年は例年通りアイデアにあふれた機構に加え、地区大会では準優勝、全国大会では2回戦まで進み、更にエキシビションのパフォーマンスでは満点を取るほどに、技術力も高めたロボットで挑みました。
技術賞:国立 熊本高等専門学校(八代キャンパス) [熊本県]
ロボット名:洗匠
技術的な完成度の高さが評価される技術賞には、「洗匠」との名の通り、洗濯物を美しく掛けるべく、素早く華麗な動作を見せた熊本高専(八代キャンパス)が選ばれました。
手動ロボットには小型カメラを搭載しており、オペレーターが持つタブレットにその映像が映し出されます。これにより、オペレーター側の操作性が向上し、洗濯物台から素早く洗濯物を回収します。
自らの洗濯物の回収に執するチームが多い中、対戦相手の特性を見極め、バスタオルを相手のロボットが取りにくい位置に遠ざけるという余裕を見せていました。
デザイン賞:公立 大阪府立大学工業高等専門学校 [大阪府]
ロボット名:OSAKA OBASAN(オオサカオバチャン)
7年ぶりに国技館にやってきた府大高専。1台はパンチパーマで真珠のネックレスとヒョウ柄の衣服をまとった「大阪のおばちゃん」のデザイン、もう1台は緑色に光る洗濯機を連結させるデザインと、ド派手なロボットで全国大会に出場しました。
シーツを干した後にパタパタとはたくことでしわを伸ばし、乾きやすくするヒトに似た動作を見せる等、干し方へのこだわりも見られました。
準決勝では、洗濯物を回収するおばちゃんロボットがTシャツを床に落とし、ペナルティとして15秒のストップとなりましたが、その間も会場は笑いの渦に巻き込まれ、試合が大きく盛り上がりました。
アイデア倒れ賞:国立 長野工業高等専門学校 [長野県]
ロボット名:森のイテェやつら
ロボットのアームを物干しざおに伸ばして上から洗濯物を掛けるチームが多い中、長野高専のロボットは他のどのチームとも異なる洗濯物の掛け方が注目されました。
彼らのロボットの特徴は、ロボット上部に張り巡らされたハリネズミの背中の様な大量の結束バンドです。一見、ブラシの様にも見えるその針の上にバスタオルを広げてセットし、針をぶつける様にロボットが物干しざおの下を通過すると、バスタオルだけが物干しざおに引っかかり、洗濯物を掛けることが出来ます。
全国大会では1回戦で敗退してしまったものの、他の高専とは違う独自の発想が評価され「アイデア倒れ賞」を受賞しました。
あとがき
わたしたちの日常生活の中で洗濯は身近で必要不可欠ですが、これをロボットで再現するには、高度な技術力がいくつも要求されます。こうした洗濯の機械化・自動化は各企業や研究機関も取り組んでおり、非常に重要で未解決な課題です。
今回は「洗濯物を干してくれるお手伝いロボット」というテーマが与えられたことにより、日頃から社会実装を前提とした教育で、日常に根差した技術力を高める高専生にとって、一層チャレンジングな大会となりました。
また、今大会は、美しさという気持ちに関わる要素が評価の指標に取り入れられたことも大きな特徴でした。
今、技術は目的を達成するための精度向上や効率化に留まらず、ヒトを楽しませたり、驚かせたり、気持ちを動かせることが求められはじめています。技術によって獲得した得点を競うのみならず、高専生や観客が「共感」した、洗濯物の掛け方を美しく思う気持ちもコンテストの結果に反映されたことで、高専ロボコンならではの会場が一体となった感動が生まれていました。
チーム毎に独創的なアプローチや思い入れが見られ、勝敗の結果に涙を流す場面もありましたが、どのチームのロボットも発想の豊かさに日頃の成果が垣間見えるものばかりでした。
来年以降も、どんなテーマで高専生が高度な技術力と自由な発想を発揮するのか、ますます期待が高まります。
※全国大会での高専生の活躍は2019年12月29日(日) 午前10時05分~午前10時59分にNHK総合にてTV放映されます。
NHK-高専ロボコン:第32回全国大会