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高専トピックス

高専ロボコンがついに東宝で映画化
徳山高専 准教授 藤本 浩 先生


高専ロボコン第15回大会「プロジェクトBOX」は、如何に早く、高く3つのスポットに箱を積み上げ、スポットを獲得する競技です。

2002年11月24日、両国国技館での第15回「プロジェクトBOX」決勝戦を終えて選手達は閉会式に臨んでいました。
この年の競技は赤・青の2チームが遠隔操縦のロボットで、壇上からそれぞれ36個の箱で作られた階段を降りて、その箱を3ヶ所のスポットに積み上げて一番上に積まれた箱の色のチームがそのスポットを獲得するか、あるいは同一スポットにそれぞれが積み上げたのであればその高さの高い方がスポットを獲得し、獲得スポット数の多い方が勝利するというものでした。
私達のロボット「Side Bird Phoenix」 は機体の後方から床へ伸ばした一個のタイヤと、前方にあって箱を掴むためのアームの上下動作とを協調させて、箱で作られた階段は一切使わずにスタート台の上から後ろ向きに床へ降りることを特徴としていました。また、箱を縦に10段以上積み重ねることができる能力も合わせ持っていました。

このロボットが後退して降りるアイデアは一歩間違えれば後ろ向きに落下する危険性がありましたので、試行錯誤の検討段階ではスムーズに降りることができる確信はありませんでした。そのためロボットの製作にはこの機構の設計に多くの時間を割くことになりました。結局、初めての降下実験は地方大会1週間前の報道スタッフによる前取材の時となりました。ただ、この時点での転倒大破は競技会まで時間が無いことから、完成を諦めるしかないことはメンバーの誰もが分かっていましたので、降下実験前には何度も繰り返し転倒して崩れゆくロボットの姿勢をイメージして、どのように衝撃からロボットを守るか何度もシミュレーションしました。


徳山高専から出場したロボット「Side Bird Phoenix」。アームが伸び、箱を10段積み上げることができます。

このような準備をして恐る恐る降下実験を始めましたが、何と全員の心配を裏切る形でロボットは抜群の安定感を保ってあっさりと床まで降りてしまいました。拍子抜けの一面はありましたが、私達はもちろん、取材陣からも思わず拍手が沸き起こりました。三十有余年ロボット作りを指導してきましたが、それまで経験の無いところから生まれたアイデアが実用的な完成をみるには、往々にして実験・調整・改良の繰り返しが無限ループのように続きます。このケースのように初回の一発で想定以上の性能で完成したことは後にも先にもこの時だけです。

この機構は全国大会においても注目を集めましたが、ロボットには気がかりなウイークポイントがありました。それは箱を挟み込むアームの締め過ぎ防止スイッチを取り付けていないことにより操縦によってはアームがロックして動かなくなることです。
気をつけて操縦すれば地方大会では大丈夫だったから全国大会でも大丈夫だろういう慢心もあってそのままにして全国大会に挑みました。このことが懸念していた試合中のアームロックを生じ、これが原因で2回戦での敗退となりました。
このウイークポイントは地方大会が終わった後に既に分かっていたのですが、結局、全国大会の大舞台での緊張が思う以上に大きく、普段通りの操縦ができないことをこの頃の私達には想定できなかったのです。この一件以来、大会での緊張によるミスを想定して面倒でもこれを回避する回路設計を心がけるようになりました。


2002年に開催した第15回大会「プロジェクトBOX」の結果。徳山高専はアイデア賞を獲得しました。

この年、私達のロボット「Side Bird Phoenix」は後ろ向きで降りる奇抜なアイデアが評価されて、アイデア賞を受賞しました。2002年、今から22年前のことです。

さて、閉会式に話を戻します。 私は式を見ずに国技館裏の屋外の集荷場でロボットの梱包に取りかかっていました。閉会式のアナウンスは扉が少し開いていたこともあって屋外からでも聞き取ることができましたので、徳山がアイデア賞を受賞したことを知ることができました。
この年の優勝校は北九州高専の「Flex」で箱をスポットの上にハの字に積むことができて、他校の箱をその上に積ませない作戦により勝ち進んだシンプルでありながら洗練された優秀なロボットでした。
ロボコン大賞は富山商船高専の「Fire Wall」でトラス構造により軽量化した多段アームに吸盤を持っており、箱を一気に15段の高さまで積み上げることができる正に高い「壁」をつくるロボットでした。
残念なことに大会では箱をリリースする際に箱が倒れてしまいましたが、構造的にその後のロボット設計に大変参考となりました。


徳山高専を舞台に、映画「ロボコン」(2003年東宝)の撮影が始まりました。ロボコン大賞を獲得した富山商船高専の「Fire Wall」が対戦相手として、映画に登場。

会場での各賞の発表が終わって一段落という雰囲気の中で、運営側から重大発表がありました。それは翌年公開が予定される「映画 ロボコン」の製作に関するアナウンスでした。屋外で聴き耳を立てていた私は、聞き違いかと思って急いで会場内に入ると、そこには主役であり、まだ無名に近い中学校三年生の「長澤まさみ」さんが挨拶をされていました。
運営側からは映画に関する内容についての説明は特になく、単に全高専を上げて映画の撮影に協力することを周知するというものでした。この話を聞いて私の中では何故そう思ったのか分かりませんが、徳山高専でロケがあるものだと思い込んでいました。後に古厩(ふるやま)監督に話を聞くことがあり、その時点では全国の高専を巡り監督のイメージにあったロケ地の候補を探し廻っていたということでした。

今でも徳山高専がロケ地だと思ったあのときの直感は何だったのか分かりません。そのようなこともあって、いよいよロケ地が徳山高専に決まったとの連絡が入ったときも、このような理由から特に驚きはしませんでした。
徳山がロケ地として選ばれた理由は校舎の立地にありました。校舎は「背後に山を抱え、眼下には周南コンビナートが建ち並び、その奥に瀬戸内海が広がり、更に遠くには小さな島々が点在する」このような風景は他に無く、古厩監督が気に入ったのだと監督本人から教えて頂きました。このようにして3月から4月初頭にかけて徳山高専を舞台としたおよそ1ヶ月間半のロケが始まりました。映画は徳山の学生と教職員はもちろんのこと近隣の高専から駆けつけた選手とロボットに加え、周南市民をあげて協力しました。映画の制作現場を直接見ることも、ましてや制作に関わるチャンスなど滅多にあるものではなかったので、撮影の日々は刺激的なものでした。撮影テクニックの中にも驚いたことがいくつもありました。


映画で主人公の葉沢里美(長澤まさみさん)が操作するロボットは、小山高専の「はこじゃらし」を映画用に改造したものです。撮影の合間に修理をする小山高専の学生。

その中でも一番印象に残っているのは、第2ロボコン部を指導する図師先生(鈴木一真さん)が、マスタースレーブ式(※)に操縦して小型ロボットを動かすシーンがあるのですが、その日は雨模様で日没となったため撮影は中止だろうと思っていたところ、強力なライトを使って雨が降っているにも関わらず、雨を視界から消し去って、まるで晴れた日での撮影シーンのように見せる手法があることに驚愕しました。
葉沢里美(長澤まさみ さん)が操縦するロボットは「プロジェクトBOX」の全国大会で特別賞(ソリッドワークスジャパン)を受賞した小山高専の「はこじゃらし」をベースに映画撮影用に少し改造して、大きなワンちゃんの顔を機体の両面に取り付けて親しみ安いロボットとして仕上げたものでした。このロボットは箱が収まる幅の長い尻尾のような部分の先端から箱を取り込みます。取り込んだ箱は「植物の猫じゃらし(エノコログサ)を握って緩急の圧力を小気味よく掛けると、じわじわと猫じゃらしが頭を出てくる原理」振動推進を利用して順番に移動整列させて、所定のスポット上に尻尾を立てることで整列した箱を高く積み上げるロボットでした。

撮影中はメンテナンス担当として栃木県の小山高専から招集された三名の学生さんが常駐して協力されていて、徳山の実習工場を使ってのロボットの修理や、撮影に合わせた3パターンのロボットへの改変を行っていました。ロボットは名前も地方大会撮影シーンでの「YAT-13号」から全国大会では「BOXフンド」と変わっています。「YAT-13号」の命名由来については映画の中で語られていますが、私が地方大会の審判役をさせて頂いた時の台詞の中に「YAT-13号失格!」とコールするシーンがありましたので、個人的に一層記憶に残っています。小山高専の学生さん達は映画撮影を通じて次のように述べられています。「ロボコンで鍛えられたものづくりの基礎技術が十分に活かされました。また、撮影現場におけるロボット改造、整備作業から、耐久性や信頼性に関する技術的な知識を深めることができたと思います。」このことから、映画作りでの協力体験が技術者教育としても十分なメリットがあったことがうかがえます。


映画関係者の集合写真、筆者は最上段中央の白トレーナー。地方大会の審判として登場しました。


「映画ロボコン」が公開された年は徳山市が周南市として併合されるタイミングだったこともあり、20年目を迎える昨年はケーブルテレビではありましたが記念事業の一つとして地元で特別に放送されました。十数年ぶりに改めて映画を鑑賞しましたが、撮影現場となった校舎や実習工場は既に改修工事を終えており、寮の屋上などに少しばかり当時の面影は残っていますが、時の流れを感じずにはいられませんでした。
こと映画の内容に関しては詳しい内容をお伝えすることはできませんが、映画の制作を通して大多数の人が経験できない貴重な体験をさせて頂きました。

時代も遷り、このとき参加したメンバーの何人かはロボット制御のエキスパートとして活躍しています。映画の最終場面に桜の花びらが舞い散るシーンがありますが、花びらを散らすために、これらのメンバーと力を合わせて一生懸命桜の木を揺らしたことも、色あせない当時の思い出として私の財産となっています。
次回、「映画ロボコン」について、もう少し触れたいと思います。

※ マスタースレーブ式  複数の機器が協調して動作するときに、制御・操作を司る「マスタ」機と、マスタ機の制御によって動作する「スレーブ」機に役割分担する方式のこと。







藤本 浩
徳山工業高等専門学校 機械電気工学科 嘱託准教授
創造・特許教育を担当、二重螺旋ポンプ、電動車椅子用着脱可能な安全停止装置、乳幼児うつぶせ寝検出装置など数々の開発及び応用と、高専ロボコンには1991年開催の第四回大会から指導者として参加し、全国大会優勝、準優勝、ロボコン大賞、技術賞、アイデア賞等幾多の実績を有する。

『SolidWorksによる3次元CAD -Modeling・Drawing・Robocon』(共著)



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(掲載開始日:2024年11月28日)

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。