高専出身の転職は正社員専門のエリートネットワーク

高専トピックス

ロボコンレジェンドが振り返る(連載第1弾)

第1回『紙飛行機に夢をのせて』 徳山高専 准教授 藤本 浩


幼少期に紙飛行機を折って飛ばした経験のある人は多いと思います。その時の感動は今でも思い出すことができるのではないでしょうか。
折り方や投げ方を工夫して何度も飛ばして、遠くまで飛んだ時のほっこりとした思い、中にはこの体験がきっかけでエンジニアへの道を進んだ人もいるのではないでしょうか。

高専ロボコン2022第35回大会のテーマは「ミラクル☆フライ」~空へ舞い上がれ!~ 舞い上がるのは紙飛行機でした。
指定された紙を使って接着剤や穴開けなど一切の加工を施さなければ自由な形状の飛行機が使用できます。
競技は9.5m×8mのライディングゾーンに置かれた7つのスポットに着陸するか、横と縦に向けられたそれぞれの円筒に入れれば得点となります。

それとは別に全てのスポットと円筒を確保した場合はVゴールとなりその時点で勝利が決定します。
それぞれのスポットにおける得点の加算方法には特徴がありますが、詳しくは高専ロボコンのオフィシャルサイト※1のルール説明を参考にして頂ければ幸いです。
いずれにしても紙飛行機は容易に変形する上、空気の流れや製作者の折精度にも影響されるために、ロボットで思い通りに飛行させることが難しいことは容易に想像できると思います。
私達はこのテーマに「双宿双飛」(ソウシュクソウヒ)というロボットで挑みました。


第35回高専ロボコンの競技会場(競技ルールブックより)

高専ロボコンの競技ルールは毎年5月のゴールデンウイークあたりで発表されます。
地方大会は全8地区に分かれていて、その年ごとの順番で2地区同時に開催され、中国地区は四国地区との同時開催で大会2週目の10月9日(日)と早い時期にありました。
私の指導の下ではこれまでの経験(30年余り)を踏まえたスケジューリングとして、夏休みまでの放課後はアイデアの創出を行い、そのアイデアがこれまでに経験したことがないものであれば、機構の試作及び動作確認・検証実験を行います。

ロボットは夏休みに入ってからの1ヶ月余りで本設計・製作、夏休み明けから大会当日までの期間に操縦練習に併せてロボットの調整・改良などを行います。
斬新なアイデアをいくつも考えたとしても、それが、過去に例のないものであれば試作と実証実験を含めると、試合当日までにロボットの完成が間に合わないという経験を幾度となく経験したことから、新しいアイデアをロボットに盛り込む場合には基本的に1つか2つに留めるようにように指導しています。

ロボコンは競技ルールにもよりますが、単純なルールほど競技に勝つための最適なロボットの機構や必要とする機能が決まってきます。
2022年のテーマでは射出した飛行機を再現性良く安定的に飛ばすことができれば勝利がぐっと近づきます。
紙飛行機はその性格上、形状変化や、空気の流れに左右され易いため、これを回避する方法として、指定された紙を小さく折りたたんで翼面積を小さく硬くして紙飛行機を作った上で、滑空飛行させるのではなくミサイルのように飛ばすことが有利だと考えられます。

実際、全国大会での成績上位チームはこの方法を採用しており、加えて紙飛行機の左右翼後端を上下反対方向に互いに折り曲げて、それを高出力モータで高速に打ち出すことにより飛行機に回転を与えて命中率と飛距離を確保していました。
そうして打ち出された飛行姿勢はもはや飛行機というよりはミサイルのようで、目で追うことすらままならない早さで飛んでいきます。

これに対して双宿双飛はこの方法を選択しませんでした。紙飛行機の優雅に空中を舞うイメージを大切にし、初めて飛ばした子供の頃の感動を想起させる飛行姿勢を以て得点を狙えるロボットを作ることを目指しました。
こうして私達は「紙飛行機は紙飛行機らしく。」「それでいて勝利する。」を合い言葉にロボット製作に挑みました。


ロボットのコントローラーはゲーム機の筐体を利用。

発射機構は夏休み前までにアイデアが固まり、装填機構と発射機構の試作と動作・検証実験が進んでいました。
ところが、夏休みに入り本格的にロボット作りに突き進もうとした矢先に出鼻を挫くように校舎内へ引き込まれている6,600[V]の基幹電源ケーブルの不良が発生し、工作機械をはじめとする一切の電気機器が使えなくなってしまいました。
事故当初は間もなく回復するだろうと思い、それほど危機には感じていませんでしたが、結局、この事故はその後1ヶ月近く続き、夏の猛暑にもかかわらず空調や照明が使えず、工作機械も動かすことができませんでした。
仕方なく日中は熱中症に気をつけながら小型発電機からの電気を頼りにパソコンを何とか動かして設計を行い、日が落ちると同時に作業を中断する日々が続きました。

メンバーの殆どは寮生が占めていました。夏休みの閉寮期間中でもコンテストなどの活動のため特別に在寮できるように配慮されていましたが、停電が長く続いたためこの措置を活用することはできませんでした。
このようなことが重なってスケジュールの見通しが立たなくなり、メンバーの間にはロボットを作れないフラストレーションがたまり始めました。「今回のロボコンは辞退することになるかもしれない。」と話題に上ることもしばしばありました。
その後、電源は9月9日に仮復旧という形で使えるようになりましたが、既に夏休み終盤となって研修旅行などの行事も入っていたことから主要メンバーが抜けるような状態でした。それまで、ロボットの製作は殆どできていませんでしたが、運良く設計の方はほぼ完成させることができていました。

双宿双飛は飛行機の滑空を最大限に活かすためにスタート直後に高さを規定最大サイズまで変形する必要があるのですが、この機構を担当していた学生が射出機構も担当していたため、双方を完成させなければならないプレッシャーからこの機能を諦めようと弱気の相談を持ちかけてきました。
もしも双宿双飛からこの機能を外した場合、最奥にある円筒まで決して紙飛行機が届かないことになり、そうなると競技に勝利することが難しいことは明白です。

チームで相談の結果、最終的に発射機構の首振り部分を担当していた学生が設計の肩代わりを引き受けてくれることになり解決したのですが、相談を持ちかけてきたは学生は普段、真面目で責任感があり、殆ど弱音を吐かない性格だったので、私達も意外でした。
もし、相談を持ちかけてくれなかったら自分の限界を超えていたかも知れません。相談を持ちかけてくれたことは本人にとっては勇気のいることだったと思いますが、それをチーム全体でカバーし合い解決に至ったことはその後の大会におけるチームの一体感に繋がりました。

このようなこともあり、必死の思いで電源仮復旧から2週間程度の短期間にロボットは何とか不完全ながら一応の完成を見ることができました。

地方大会においては練習を含め完全ではありませんでしたが、当該時点で可能な限りのパフォーマンスをもって大会に臨むことができました。ロボット名である「双宿双飛」は「鳥のつがいが仲良く暮らし、一緒に羽ばたく」情景が語源だとあります。
紙飛行機を鳥に見立て、上段と下段から鳥のつがいが仲良く軽やかに飛んでいくという世界観を表現して命名しました。また、上段と下段の発射機構を、2名の操縦者が息を合わせてコントロールする構成となっていることも命名の理由となっています。


「双宿双飛」有効な飛行の為に規定最大限の高さまで変形。

「双宿双飛」は上段と下段にそれぞれ紙飛行機を積層して150機搭載できる発射・装填機構を二基ずつペアで持っていて、競技時間の2分30秒内に合計600機の紙飛行機を飛翔させる物量作戦をとっています。
また、美しい飛行(滑空)姿勢を実現するために1[W]程度の小型モータに取り付けた2つのローラー(ミニ4駆のタイヤ)の間に紙飛行機を挟み込み、変形しない程度に優しく射出しています。
モータの射出力はそれほど大きくないため、競技場の最奥スポットまでの距離を滑空させるには高い位置からの射出が必要になります。そこで、まず上段の装填機構に入った計300機の紙飛行機はロボットを高さ方向に伸張変形させることによって許されるロボットサイズの範囲で上昇させます。
次に、装填機構によって円弧軌跡を描くように1.5[mm]刻みで上昇移動させます。最上部に到達した飛行機は一機ずつバキューム装置によって吸い上げられ、更に高い位置にある射出口へと運ぶことによって、ほぼ2000[mm]の高さから8.5[m]先にある内径196[mm]の円筒スポットまで飛翔させることができるようになります。

ここで、紙飛行機を円弧軌跡を描くように上昇移動させる理由ですが、実際に紙飛行機を折ってみると先端に重なった部分が集中して厚くなり、これを積み上げると円弧状になることに気付いたためです。
より多くの紙飛行機を装填する必要がある双宿双飛では、これに合わせて装填機構が円弧状に動くようにカムとラチェット機構を組み合わせてヌルヌルと自転車をこぐような動きをする機構として設計しました。

中国地区大会の時点では「双宿双飛」の放つ紙飛行機の美しい飛行姿勢がネックとなって手前のスポット上でブレーキが掛からず上手く乗せることができない状態でしたので、Vゴールは捨てて乗せた紙飛行機の数だけ得点となる滑走路とよばれるスポットを狙う作戦をとりました。
幸運なことに中国地区大会が大会2週目と早かったこともあって、600機もの紙飛行機を飛ばせるロボットは他に無く、予想以上に大量得点を狙えるロボットもいなかったことから、毎試合2桁得点を取れる徳山が優勝を決めて全国大会への切符を手にしました。

しかし、この時点で同時開催されていた四国地区大会では40点以上をたたき出したロボットの情報を耳にしていましたので、全国大会出場が決まったとは言え何とかVゴールできるようにしなければ競技で渡り合えないとの思いが脳裏を占めていました。
その後、奈良高専が全国で唯一Vゴールを決め、和歌山高専が3桁得点を決めるなどの情報が入ると、いよいよVゴールを決められる改良が必須の課題となりました。手前スポットに乗せられない課題に対しては幾度かの練習を重ねるうちに下段の発射角度を変えることで手前スポットを攻略できることが分かってきました。
早速、その機構を追加して実験してみるとあれだけ苦労していた手前スポットへの着陸がいとも簡単にできるようになり、練習ではほぼ毎回Vゴールを決められる性能を持つロボットとなりました。その他、装填速度を上げたり、足回りを再設計して機動性能の強化を図るなどして全国大会に臨みました。


両国国技館での全国大会。会場の微妙な風の流れが大きく影響した。


ワイルドカードによる敗者復活戦の相手は強豪の和歌山高専。

全国大会には25チームの精鋭が集まります。地方大会で散見される未完成なロボットは一台もありません、全てのロボットが高パフォーマンスで動きます。
そのため、両国国技館という特殊な建物構造も手伝って、会場は毎大会独特の緊張感に満ちあふれていますので、初めて参加するメンバーはそれだけで圧倒されます。
大会前日にはテストランを含め3回の試走確認を行いましたが、いずれもVゴールを決めることができました。Vゴールが決まる時の最大のポイントは一番奥の円筒に紙飛行機がどのタイミングで入るかにかかっています。
競技時間の早いタイミングで入れるには十分な飛距離が必要で、会場によっては向かい風となる空気の流れが発生する場合もあることから心配していましたが、テストランにおいては十分な飛距離が出ていたので安心して試合当日を迎えました。

対戦相手はくじ引きで決定しますが、くじ運が悪いのも歴代の伝統で各地区の優勝校がひしめくトーナメントブロックに今回も入ることになりました。初戦は九州地区優勝の大分高専との対戦となりました。
このロボットはミサイル射出タイプで、狙ってVゴールを決めることができます。しかし、幸いなことにそれほど早いタイムではなかったので私達にも十分な勝算があると考えていました。
ところが試合直後に一番奥の円筒を狙って放った紙飛行機が押し戻されるように見えました。まさか!と思いましたが、続けて放った紙飛行機も奥の円筒まではなかなか届かず試合での苦戦を強いられることとなりました。当日の空調、観客、照明など様々な条件が予期せぬ不利な空気の流れを引き起こしたと考えられます。
私達のロボットは善戦しましたが、1分40秒でついに相手にVゴールを決められてしまい初戦敗退となりました。前日のテストランでは1分そこそこでVゴールを決めることができていたので非常に残念でした。
しかし、チーム全員のモチベーションは途切れませんでした。もっと多くの時間会場の皆さんに紙飛行機が優雅に飛翔する情景を観てもらいたいという強い思いがあったので、ベスト8進出のためのワイルドカードに選出されることを期待して諦めずに試合後もロボットの整備を続けました。

会場に「ワイルドカードは徳山高専 双宿双飛です。」のアナウンスが流れた時は全員小躍りして喜びました。ただ、対戦相手は3桁得点を連発している和歌山高専でした。大方の見方では試合にならないとの声も聞こえてきました。
しかし、私達には勝算がありました。和歌山は中央の円筒を狙ってミサイルのように紙飛行機を連射して得点を量産する戦法を取ります。私達がVゴールを達成することができれば怖い相手ではないと思っていました。
試合は予想通り和歌山が次々と得点を量産していきました。私達が途中で1つの円筒を残して他全てのスポットを獲得することに成功したところで和歌山は手前スポットに乗せた私達の紙飛行機を打ち落とす戦法に切り替えてきました。
これまで順調に勝ち進んできた和歌山が、相手スポットに乗った紙飛行機を打ち落とす場面を見ていませんでしたので少し驚きました。手前スポットの取り合いの間、円筒の縁に突き当たりあと僅かでVゴールのシーンもあったのですが、逆気流に阻まれたまま試合時間が経過し、得点差により再び勝利は叶いませんでした。


第12回大会「Jamp To The Future」以来の大賞旗が帰ってきた。

大会は奈良高専の「三笠」が優勝しました。私達と戦った大分高専は準優勝、和歌山高専はベスト4で技術賞に輝きました。表彰式では他高専が次々に呼ばれる中で徳山の名前を期待しながら待っていましたが、いつまで経っても呼ばれませんでした。
一勝もできなかったので各賞の受賞は無理かと思っていましたが、ロボットの独創性と性能にはメンバーの全員が自信を持っていましたので、表彰が進むにつれて逆に「ロボコン大賞」の期待が膨れてきました。
そしてついに最後のアナウンスで、今大会の競技テーマであるミラクルフライを最も実現したロボットとして徳山高専が「ロボコン大賞」としてコールされた時は、5年間ロボット作りを続け、メカトロ部員を引っ張ってきたリーダーの目に涙があふれていました。
ロボットから放たれ飛翔する紙飛行機の姿を観て、初めて紙飛行機を飛ばした時の感動を思い起こしてもらえるようなロボットを作ろうとの思いで直走ってきたメンバーの思いと努力が報われた一瞬でした。
双宿双飛に対しては「美しい・心地よい・ずっと観ていたい」、SNS上では5万「いいね」の評価を頂くなど多くのコメントを頂きました。

今大会後には偶然にも新調されたロボコン大賞旗が、金糸に輝く西陣織の旗として23年ぶりに私達の徳山高専に帰ってきました。
高専ロボコンは勝敗を競う大会としての側面が大きいのですが、優勝よりも上位の賞として総合的に優秀と認められるロボットに与えられる「ロボコン大賞」を設けて、アイデア対決を目指したからこそ大衆の心に訴える全国的なイベントとして36回大会の今日まで継続して歴史が刻まれてきたのだと確信しています。
株式会社エリートネットワーク取材記事「高専ロボコン2022 観戦記」はこちら








藤本 浩
徳山工業高等専門学校 機械電気工学科 准教授
創造・特許教育を担当、二重螺旋ポンプ、電動車椅子用着脱可能な安全停止装置、乳幼児うつぶせ寝検出装置など数々の開発及び応用と、高専ロボコンには1991年開催の第四回大会から指導者として参加し、全国大会優勝、準優勝、ロボコン大賞、技術賞、アイデア賞等実績を有する。

『SolidWorksによる3次元CAD -Modeling・Drawing・Robocon』(共著)



次の記事>>

(掲載開始日:2023年8月17日)

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。