高専トピックス
アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト(高専ロボコン)は、1988年から毎年開催され、今年で35回目の開催となります。高専ロボコンは全国の国立・公立・私立の高専57校62キャンパスが、毎年違う競技課題に、アイデアを駆使してロボットを製作し、競技を通じてその成果を競うコンテストです。
全国の8地区(北海道、東北、関東甲信越、東海北陸、近畿、中国、四国、九州沖縄)で実施された地区大会を勝ち抜き、選抜された25チームが全国大会に出場しました。
今大会のテーマは「ミラクル☆フライ~空へ舞いあがれ!~」です。3年ぶりの対戦型の競技となっており、自作の紙飛行機をロボットが飛ばし、様々なオブジェクトにランディングさせて点数を競い合います。紙というやわらかい素材で作られた紙飛行機を飛ばした際の軌道は、予想がつきにくいものです。この困難なテーマに高専生たちは、各チーム一丸となって取り組み、奮闘しました。
その中でも、表彰された7チームを中心に、独自の発想と高い技術力で競い合った彼らの活躍をお伝えします。
(掲載開始日:2022年12月12日)
テーマ・ルール
競技課題名:「ミラクル☆フライ~空へ舞いあがれ!~」
本競技は、自作した紙飛行機をロボットが飛ばして、フィールド内の複数設置されたオブジェクトにランディングさせていく対戦型競技です。
フィールド内には円形スポット5カ所、縦長滑走路2カ所、筒型ベース2カ所(縦向き・横向き)のオブジェクトが設置されています。
ランディングに成功したときの得点は、円形スポット1点(/1スポット)、縦長滑走路1点(/1機)、筒型ベース(縦向き)5点(/1機)、筒型ベース(横向き)3点(/1機)となっており、得点の多いチームが勝利となります。
ただし、全ての円形スポット・縦長滑走路・筒型ベースに1機以上のランディングが成功した場合は、それまでの得点に関係なく勝利が確定します(Vゴール)。
試合時間は2分30秒で、両チームが同時にロボットの操縦を開始し、大量得点またはVゴールを目指し紙飛行機をオブジェクトにランディングさせます。
トーナメントを勝ち上がった優勝チーム、準優勝チームに表彰が贈られます。
加えて大きな夢とロマンを持ってロボットを製作し、見る者に深い感動を与え、唯一無二のアイデアを実現したチームには、最も名誉ある賞「ロボコン大賞」が贈られます。
その他にも、アイデア賞、技術賞、デザイン賞、アイデア倒れ賞、特別賞があります。
表彰されたチーム一覧(学校名・プロジェクト名・賞)
学校名 | プロジェクト名 | 賞 |
徳山工業高等専門学校 | 双宿双飛 | ロボコン大賞 |
奈良工業高等専門学校 | 三笠 | 優勝 |
大分工業高等専門学校 | 國崩し | 準優勝 |
長野工業高等専門学校 | 信州ずくだせランド | アイデア賞 |
和歌山工業高等専門学校 | とば~す君 | 技術賞 |
有明工業高等専門学校 | AppRoachIng | デザイン賞 |
都城工業高等専門学校 | 華て!カババッ! | アイデア倒れ賞 |
富山高等専門学校(本郷キャンパス) | SKY×FAMILY | 特別賞(本田技研工業株式会社) |
大阪公立大学工業高等専門学校 | AIRsROCK | 特別賞(マブチモーター株式会社) |
熊本高等専門学校(八代キャンパス) | fourtress | 特別賞(株式会社安川電機) |
旭川工業高等専門学校 | 吹雪 | 特別賞(東京エレクトロン株式会社) |
香川高等専門学校(詫間キャンパス) | prize | 特別賞(田中貴金属グループ) |
国際高等専門学校 | 美技成 A-Z | 特別賞(ローム株式会社) |
大島商船高等専門学校 | とうきくん | 特別賞(セメダイン株式会社) |
都城工業高等専門学校 | 華て!カババッ! | 特別賞(株式会社牧野フライス製作所) |
ロボコン大賞:国立 徳山工業高等専門学校 [山口県]
プロジェクト名:双宿双飛(ソウシュクソウヒ)
高専ロボコン出場者全員が目指している栄誉あるロボコン大賞に輝いたのは、徳山高専です。
徳山高専は、4つの射出機構に紙飛行機を装填し、装填した紙飛行機を上部ユニットのファンで1つずつ吸い上げローラで射出します。
ふわっと滑らかに射出された紙飛行機の軌道はゆったりと空を舞い、まるで人が紙飛行機を投げているかのような安定感を再現していました。
トーナメントでは準優勝した大分高専に敗れ1回戦敗退。その後アイデア・技術力が優れていたという評価を受けワイルドカード(※)で準々決勝に駒を進めるも惜しくも再び敗れ、準決勝進出は叶いませんでした。
しかし、今大会のテーマである「ミラクル☆フライ〜空へ舞いあがれ!~」を具現化し、大量の紙飛行機がゆったりと会場を舞う姿に魅了されたと審査員の方々に高く評価され、ロボコン大賞に選ばれました。
※ワイルドカード:審査員によって1回戦・2回戦の敗退したチームから1チームが選ばれ、準々決勝に進むことのできる敗者復活制度のこと
優勝:国立 奈良工業高等専門学校 [奈良県]
プロジェクト名:三笠(ミカサ)
優勝は、大会随一の正確な射出を可能とするロボット及び紙飛行機を製作した奈良高専でした。
製作したロボットは今回の大会のルールに最適化された無駄のない洗練された形状であり、機能美すら感じました。
また、ロボットだけでなく、製作した紙飛行機も完成度が高く、飛行時に進行方向に対して垂直に回転するように折り方が工夫されており、安定したランディングを実現していました。
紙飛行機はその特性上、安定した飛行というのが難しいため、ロボットだけでなく紙飛行機の開発にも相当な力を注いだことが伝わりました。
1回戦から決勝までの5戦全てにおいてVゴールを達成し、その実力を遺憾なく発揮しました。紙飛行機の不安定な飛行に苦しむチームが多い中、正確な飛行コントロールを実現させたことが、優勝に繋がりました。
準優勝:国立 大分工業高等専門学校 [大分県]
プロジェクト名:國崩し(クニクズシ)
優勝に次ぐ成果を挙げ準優勝となったのは、大分高専でした。
かつて豊後(※)を中心に支配をしていた大友宗麟(おおともそうりん)が使用していたとされる大砲「國崩し」をモチーフにしたロボットを製作しました。
ロボットには、大砲に見立てられた4つの射出機構が搭載されており、それぞれを別々にコントロールし、紙飛行機を飛ばすことが可能です。4つの内3つは人がコントロールし、1つは自動制御となっています。
今大会では珍しい、自動制御による射出機構は、iPhoneのカメラを用いた画像解析によってターゲットを解析し、射出する機構となっています。
また紙飛行機は、奈良高専同様、飛行時に回転するように製作されていました。
1回戦から準決勝までVゴールを達成しておりましたが、決勝では、奈良高専が先にVゴールを達成したためVゴールとはならず、準優勝となりました。
※豊後(ぶんご):現在の大分県南部の旧国名のこと
アイデア賞:国立 長野工業高等専門学校 [長野県]
プロジェクト名:信州ずくだせランド
独創的なアイデアを実現させたロボットに贈られるアイデア賞は、長野高専が受賞しました。
遊園地のアトラクションをモチーフとした射出機構によって、セットした紙飛行機を回転させながら次々に射出します。
また、ロボットの足元にはLEDパネルで射出機構の回転数やメッセージが表示されます。
1回戦で敗退してしまうも、紙飛行機がセットされた射出機構がくるくると回転しながら次々に発射される唯一無二の工夫で会場を魅了しました。
審査員の方々からは遊園地を発想させるユニークなデザインや、回転方式の遊具から次々に射出する機構デザインは人を楽しませるロボコンの主旨をまさしく体現していると評価され、アイデア賞に選ばれました。
技術賞:国立 和歌山工業高等専門学校 [和歌山県]
プロジェクト名:とば~す君
技術的な完成度の高さが評価される技術賞には、和歌山高専が受賞しました。
このロボットは、1つの射出機構による精密な射出により、競技フィールドの中央に設置してある筒型ベース(横向き)のみを狙い、効率的に大量得点を獲得するコンセプトのもとで製作されました。
得点が100点に達しないチームが多い中、1回戦は195点、2回戦は276点と圧倒的な得点力に会場は衝撃に包まれました。
また準々決勝では、精密な射出を活かし、円形スポットにランディングさせた相手チームの紙飛行機を落とすことでVゴールを阻止する、臨機応変な対応力も見せてくれました。
準決勝まで勝ち進むも大分高専にVゴールで勝利を決められ、ベスト4という結果になりました。
1つの的に集中した精度の高い連射による圧倒的な得点を可能とした技術力や、Vゴールを阻止する臨機応変な対応力等が審査員の方々から讃えられ、技術賞に選ばれました。
デザイン賞:国立 有明工業高等専門学校 [福岡県]
プロジェクト名:AppRoachIng(アプローチング)
機能的な美しさや装飾に秀でたロボットを作ったチームに送られるデザイン賞は、有明高専が選ばれました。
ロボットの天板部分を夜の空港の滑走路に見立てて、滑走路内の紙飛行機を磁石の力によって移動させることで離陸前の飛行機の動きを再現しています。
また、2つの接する回転円板を用いて紙飛行機を射出することで飛行機の離陸も再現しています。
審査員の方々からは、ライトアップされた天空の夜の飛行場から一機ずつ優雅に飛び立つ紙飛行機に魅せられて、会場が別世界に誘われたという評価を受け、デザイン賞に選ばれました。
アイデア倒れ賞:国立 都城工業高等専門学校 [宮崎県]
プロジェクト名:華て!カババッ!(ハナテ!カババッ!)
アイデアは優れていたものの、その真価を十分には発揮出来なかったチームに贈られるアイデア倒れ賞は、都城高専が選ばれました。
ロボットの一部をカバに見立てて、カバの口から紙飛行機が飛び出すという独特な射出機構を搭載したロボットを製作しました。
カバの口は常には開いておらず、あえて紙飛行機を飛ばす瞬間だけ開く仕組みとなっており、見ていて楽しいロボットでした。
また、カバの口以外に、ロボット下部にも射出機構を隠し持っており、試合終盤に勝利に向け大量の紙飛行機を発射し会場を湧かせましたが、残念ながら得点には至りませんでした。
審査員の方々からは、カバの口から紙飛行機が出てくる独特の世界観、ただの絵ではなくそのキャラクター性を感じる動きが評価され、アイデア倒れ賞に選ばれました。
おわりに
今大会は、3年ぶりの対戦型の競技となり、高専生たちが日頃培っている技術力・創造力を用いて、決められたテーマに沿った様々なロボットを製作し競い合いました。
大量得点を狙うロボットからVゴールを狙うロボットや、装飾に力を入れたロボット、魅せ方にもこだわった射出機構を搭載したロボット等々、同一テーマの下どのチームのロボットも全て独創的でした。
そして各チーム、紙飛行機のランディングはどれも素晴らしく、会場を大いに沸かしてくれました。
高専生たちは「テーマ」という限られたルールの中で最大のパフォーマンスを求めてロボットを製作する技術力、アイデア力を持っております。
現代の産業課題を解決に導くのはこのような能力を兼ね備えている高専生たちだと再認識しました。
来年も高専生たちは、この国技館でどのような発想や技術を発揮してロボットを披露してくれるのか、期待が高まる有意義な大会でした。
※全国大会での高専生の活躍は、2022年12月24日(土) 午後3時05分からNHK総合にてTV放映される予定です。
NHK-高専ロボコン:第35回全国大会