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高専トピックス

全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(以下、DCON)は、高等専門学校生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用した作品を制作し、地域・社会課題の解決に向けたビジネスプランを提案するコンテストです。評価は各チームを企業と見立て、ビジネスプランの「事業性」を企業評価額として算出することで競います。プレ大会を含め、毎年このコンテストを経て起業する高専生を輩出しており、実践的なものづくりの技術力やアイデアが発揮される場として注目されています。

今回は、2021年4月17日(土)にオンライン開催された第2回大会本選の様子をお届けします。
本選には、全国の高専より寄せられた多数の応募の中から、予備審査を勝ち抜いた10チームが出場しました。
(掲載開始日:2021年5月21日)

コンテストの概要


全国の高専から予備審査を勝ち抜いたチームが集まり、社会課題の解決に貢献する独自のビジネスプランを披露した。

【予備審査】
書類による1次審査、試作品のデモンストレーションによる2次審査により、本選出場チームが決定します。
選考は、事業経験豊富な現役の起業家によって行われます。
2次審査を通過したチームには、この起業家陣のいずれかがメンターとなり、本選での最終審査に向けて、共にプレゼンテーション資料の作成や準備を行います。

【本選】
●5分間のプレゼンテーションを行い、その後、審査員である現役ベンチャーキャピタリストとの質疑応答を行います。
※質問に答えられない場合は、各チームのメンターへ1回のみ回答を委ねることが出来ます。

●事前に行われた技術審査とプレゼンテーションと質疑応答の結果を基に、その事業に投資したいかを審査員からジャッジされます。1人でも投資するとのジャッジが出た場合、企業評価額の審査に進むことが出来ます。

●ビジネスプランの評価方法
・チームが企業だと想定した場合のバリュエーションを、実際のベンチャー企業を評価する際と同じ基準によって、具体的な金額で算出し、その金額により順位が決まります。
※同率の場合、投資金額の大きい方が上位となります。
※バリュエーションの判断材料は、売上や利益の見込み・事業の意義・市場の大きさ・経営者の想いや資質・従業員の能力となります。

●優勝チームへの賞金
・最優秀賞に選ばれたチームには起業資金として100万円が授与されます。

本選に出場したチーム一覧(チーム名・作品名・概要・評価・メンター)

学校名・チーム名 作品名 概要 企業評価額 投資総額 メンター
福井工業高等専門学校
プログラミング研究会
D-ON トンネルや橋の点検のために行われる
打音検査を低コストで実現するためのシステム
6億円 1億円 田中 邦裕 氏
(さくらインターネット株式会社 代表取締役社長)
鳥羽商船高等専門学校
ezaki-lab
NoRIoT海洋観測機から得られるデータを活用した、
ディープラーニングによる海苔養殖支援システム
5億円 1億円 岡田 陽介 氏
(株式会社ABEJA 代表取締役CEO)
北九州工業高等専門学校
Nitkit Shigeru_Lab
盲導Cane 普及率が低い盲導犬や、使用に慣れがいる白杖にかわり
視覚障がい者の歩行をサポートするデバイス
4億円 5000万円 佐藤 聡 氏
(connectome.design株式会社 代表取締役社長)
香川高等専門学校 詫間キャンパス
TMT-2020
スマートマト 収穫時期が短く、見極めが難しい
サクランボの選果作業をサポートするシステム
3億円 3000万円 小野 裕史 氏
(17LIVE Inc. Group CEO)
沼津工業高等専門学校
お花の気持ち
エレクトリカル花壇 花の状態をさまざまなデータ取得により検知・表現することで、
花のきもちや状態を翻訳するデバイス
2億円 5000万円 伊豫 愉芸子 氏
(RABO, Inc. President & CEO)
長岡工業高等専門学校
和久井養鯉場
鯉愛レボリューション21錦鯉の選別を効率化するために
ディープラーニングを使用した錦鯉選別システム
1億円 2000万円 渡瀬 ひろみ 氏
(株式会社アーレア 代表取締役社長)
石川工業高等専門学校
あいけん
おしゃべる 声、外見、会話内容のカスタマイズにより、
自分だけの会話ロボットを実現するシステム
8000万円 1500万円 香田 哲朗 氏
(株式会社アカツキ 共同創業者 代表取締役CEO)
旭川工業高等専門学校
旭川トマト研究会
次世代トマト収穫支援システム ディープラーニング×画像処理×MRデバイスによる
トマトの情報推定システム
投資判断なし 投資判断なし 草野 隆史 氏
(株式会社ブレインパッド 代表取締役社長)
一関工業高等専門学校
D's > Zzz...
D's> Zzz...ーディープラーニングによる
運転者用眠気の検知、防止装置一
運転中の眠気をディープラーニングを用いて心拍データから推定し、
眠気覚ましを行うシステム
投資判断なし 投資判断なし 岩佐 琢磨 氏
(株式会社Shiftall 代表取締役CEO)
沖縄工業高等専門学校
なんくるないさ~
なんくるないカー 4つの機能を備えた次世代電動車椅子
①障害物を検知して自動運転を行う
②周りの人を検知して同行する
③沖縄の伝統舞踊を踊るダンシング機能
④車椅子利用者の不快感を和らげるための乗り心地快適機能
投資判断なし 投資判断なし 渋谷 修太 氏
(フラー株式会社 代表取締役会長)

第1位:福井工業高等専門学校
/プログラミング研究会  [福井県]


福井高専の『D-ON』はAIを駆使した打音検査システム。既に販売されている競合製品と比較しても精度に遜色はなく、かつ持ち運びやすさや、検査環境に合わせたオリジナル条件を設定出来る点等で優位性があることが示された。

作品名:D-ON
企業評価額:6億円
投資額:1億円


第1位に選ばれた福井工業高等専門学校が製作したのは、打音検査サポートデバイスです。
対象物をハンマー等で軽く叩いて、発生した音の違いで異常を検知する打音検査は、トンネルや橋といった構造物の安全性を保つために重要な検査です。
しかしながら、人間の聴覚に頼る打音検査は、熟練の点検員による判断が必須であり、継続的な人材育成が不可欠です。打撃音の周波数及び振幅の関係等により、内部の空洞や、き裂の有無を定量的に評価出来る打音検査装置もありますが、大掛かりかつ高額で、適用出来る環境条件も限られています。同チームは、こういった打音検査にまつわる課題の解決に挑みました。

『D-ON』は、エッジAIと(※1)クラウドAI(※2)を組み合わせたデバイスとなっています。
エッジAIを利用することによる特徴は、データをリアルタイムに処理し結果を出すことが出来ること、また誰もが簡単に点検が出来るように、ハンマーに装着するだけの小型・軽量かつ安価なデバイスとなっていることが挙げられます。
更にクラウドAIを利用することによる特徴は、クラウド上の豊富な計算資源を使うことで、ユーザが自由にオリジナルの環境下での学習モデルを高速に作成することが出来ます。

使い方も簡単で、まずハンマーを動かすことがトリガーとなり、加速度センサーによって録音を開始します。更に録音した音の波データをフーリエ変換(※3)したものを基に欠陥の有無の判定を行います。
通常はデバイスの小型化・軽量化にともなって判定の精度が落ちますが、事前に学習データへノイズを含めておくこと等、ソフトウェアとアルゴリズムに工夫を凝らすことで、熟練の点検員と遜色のない精度(熟練の点検員が94.5%の確率で異音を判別するのに対して、『D-ON』は93.3%の確率で判別可能)を確保しました。

同チームのメンバー数は出場校の中で最小人数である2名ながらも、既に特許出願済みである完成度の高いデバイスを製作する技術力とそれを活かしたアイデアが評価され、技術的な新規性・信頼性のあるチームに贈られる技術審査員賞も獲得しました。審査を行ったベンチャーキャピタリストの方々からは、精度を維持しつつデバイスの小型化を可能としたこと、ハンマーに取り付けるだけで使用出来る手軽さ、市場でのニーズの高さ等が評価を受け、同コンテスト史上最高額の企業評価額での受賞となりました。

※1 エッジAI:学習・推論を端末(エッジデバイス)自体で行うAI
※2 クラウドAI:学習・推論をクラウド上で行うAI
※3 フーリエ変換:時間域の関数を周波数域の関数で表現する変換

第2位:鳥羽商船高等専門学校/ezaki-lab  [三重県]


鳥羽商船高専のezaki-labは、昨年の大会でも地域課題を解決するための事業を提案し、企業評価額1億円の評価を得た実績のあるチーム。今年も実際の現場の声を取り入れる姿勢に、審査員から高い評価が集まっていた。

作品名:NoRIoT
企業評価額:5億円
投資額:1億円


鳥羽商船高等専門学校は、地元企業と共同開発を行った海洋観測機から得られるデータとディープラーニングを活用して、海苔養殖支援システムによる事業を提案しました。

鳥羽商船が位置する三重県は、伝統的に海苔の養殖が盛んです。今回開発されたこのシステムは、海苔の育苗期と本養殖期において鴨や魚が海苔を食べてしまう食害被害と、海苔の光合成が不十分であることにより起こる干出(かんしゅつ)不良に着目し、それらの被害を抑えた海苔養殖支援を行います。

食害被害においては、300枚~400枚の鴨と魚の画像を機械学習させ、93~94%の認識率で鴨、魚を判定し、食害被害がある場合のみに音を鳴らし、鴨や魚を追い払います。音に慣れさせぬよう毎回違った音源を再生する工夫もなされていました。
また、干出不良を防ぐには、海面から海苔網を出すことが必要となりますが、それが適切に行えない場合、海苔が病気等により不作になってしまいます。そこで潮の高さ(潮位)を予測するために、潮位や気象データを基にアンサンブル学習(※)を行い、潮位予測を行います。この潮位予測の精度は99%と非常に高く、この結果を基に適切な海苔網の高さを提案します。

これらのシステムは、海苔以外の牡蠣や真珠等での養殖で用いる、無給餌養殖にも簡単に応用が可能です。
こうした汎用性から、将来的には全国、更には養殖漁業の盛んなアジアマーケットへ拡大するビジョンも伺えました。

審査を行ったベンチャーキャピタリストの方々からは、養殖業者の方からの実際に本システムを求める声を映像として混ぜ込んだプレゼンテーションや、入念な調査研究による質疑応答の対応力に評価が集まっていました。
また、グローバル進出も視野に入れられる将来性も評価され、企業評価額が5億円、投資金額が1億円という結果になりました。

※アンサンブル学習:複数の学習器を結合させて1つの学習モデルを生成する手法

第3位:北九州高等専門学校/Nitkit Shigeru_Lab  [福岡県]


北九州高専の『盲導Cane』は、5年間で日本の視覚障がい者数の全体の約5%を占める、15000人の利用者の獲得を目指したビジネスプランを組み立てていた。

作品名:盲導Cane
企業評価額:4億円
投資額:5000万円


第3位に選ばれたのは、北九州工業高等専門学校の視覚障がい者歩行支援デバイスです。

視覚障がい者が道路での歩行をする際は、盲導犬または白杖を携行することが道路交通法で定められています。
しかし、盲導犬は申請から貸与まで平均1~2年と長く、動物を飼育するハードルがあることから申請率も低いこと、また、白杖には、歩行訓練に約1年の期間が必要といった課題があります。

これに対して『盲導Cane』は、白杖に装着し、電源を入れるだけでの利用が可能です。
本体は、バッテリー、カメラ、NVIDIA Jetson(※)等によって構成されており、本体重量は2.3kgです。点字の画像認識にディープラーニングの技術を用いており、点字ブロックの縦と横、警告ブロックの3クラスの検出を行っています。
検出率は高く、ほぼ100%の精度を誇っています。本体に搭載されたカメラによって、点字ブロックを検出し、警告ブロックがあることや、誘導ブロックから逸れたことをデバイスのバイブレーションによりユーザに知らせる仕組みとなっています。

審査を行ったベンチャーキャピタリストの方々からは、社会的意義の高いテーマを取り上げたこと、点字ブロックが導入されている世界75カ国超へのグローバル展開の可能性があること、また、技術を応用することで、視覚障がい者以外の方へ向けた事業展開の可能性があること等に評価を受け、選出となりました。

※NVIDIA Jetson : NVIDIA社が開発する自立動作系に特化したAIプラットフォーム

おわりに


今大会から授与されることとなった優勝旗には、今後毎年優勝校の名前が刻まれる。

高専のコンテストは主に技術力が評価されるコンテストが多い中、本コンテストは技術力だけでなく事業性を問われる点が特徴です。今回表彰されたチームの提案は、技術力のみならず、それを活かす市場ニーズやアウトプット方法を発見する力が評価されました。
一方で、技術はとても素晴らしいものの、事業として展開していく未来が見えにくいとの理由で企業評価額がつかないチームもいくつかありました。
ただ、どのチームのプレゼンテーションにも、地域・社会課題の解決に真摯に取り組む姿勢が十分伝わり、本コンテストを通して技術力に加えて、それを活かし事業化する能力を身に付ける機会となったように見えました。

高専生たちが培う様々な能力にディープラーニングが組み合わさることで、様々な社会課題が解決されていく展開に今後もますます目が離せなくなります。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。