高専の新入生は15歳。つまりこの年齢から、社会に必要となる人財を育む高等教育機関が高専なのです。大学への進学が入学の目的となっている高校の普通科とは異なり、高専には数学や理科が得意な中学3年生が、自分で手がけてみたい技術領域をイメージして入学してきますから、学ぶこと自体に最初から意味を感じています。そして社会実装を念頭に置いた技術教育が施されていくうちに、自分の取り組んでいる勉強が社会に役立つ実感を得ることになり、それが益々勉強する意欲を掻き立てます。
このように専門性を極める意義を体感した高専の学生たちは、その経験を活かして専門領域以外にも手を延ばすスキルを身に付けていきます。近年、欧米で一般化しているJOB型の教育や就業が注目されるようになってきましたが、それは専門領域を極めれば他の業務はできなくても構わないというものではありません。
その本質は全く逆で、一つの専門を基礎からしっかりと極めた人財には、世の中の変化に柔軟に対応しながら専門性の幅を広げ、社会に役立つ価値を重層的に発揮するスキルが備わっているのです。これは、高専生の将来像そのものです。今後益々オープンイノベーションが社会を動かす時代になりますが、そこでは学んできた専門性をベースに、多くの人や様々な技術と出会う機会を利用し、革新的な成果を追い求めていきます。産業界に進み、あるいは大学に進学した高専生が活躍できるステージは益々広がっていると考えられるのです。最近になって本科を卒業する高専生の採用を拡大する大手企業が増えてきましたが、技術革新の最前線が高専生の価値に気づいたと言えるのではないでしょうか。
2024年5月、第5回ディープラーニングコンテスト2024の閉会後の記念写真(中央に谷口理事長)。本コンテストでは、高専で培ってきた「技術」と「ディープラーニング」を活用し、事業性を競い、起業を支援しています。このコンテストに代表されるよう、高専ではアントレプレナーシップ教育も基軸としています。
高専で最新の技術に触れ、社会に出てからさらに専門を極めた、あるいは専門性の幅を広げた高専の卒業生は、そのスキルをより高次で発揮することを求めるようになります。それはグローバル、もしくは起業というステージにも移行する選択に繋がっていきます。高専の卒業生は、企業のグローバル戦略や世界に通用する技術革新の先頭に立つ、もしくは新たなテクノロジーやビジネスモデルでスタートアップを図るアントレプレナーとなり、日本の産業界やアカデミアの世界で戦う競争力を生み出す存在になり得るのです。
このような高専生の「高い技術力」、「社会貢献へのモチベーション」、「自由な発想力」から生み出される高い起業力に文部科学省も期待し、アントレプレナーシップ教育に取り組む全ての国公私立高専を支援する「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」を、2022年度第2次補正予算で開始しています。
「失われた30年」という言葉に代表されるように、平成以降はそれまで世界のトップを歩んでいた日本の国際競争力が徐々に低迷していきました。その原因の一つに、産業界においてもアカデミアにおいても、世界で戦おうという意識が薄れてしまったことが考えられます。だからこそ、高専在学中に培われた課題解決力や社会実装力によってもたらされる理論のみではない、手を動かすことができるという競争力が益々求められるようになっています。高専の卒業生は、国家が抱える重要な問題を治し、健康な発展に導くことのできる、言わば「社会のお医者さん(Social Doctor)」だと私はことある毎に広報しています。
さらに日本には本格的な少子化の波が押し寄せ、内需の拡大は見込めなくなりました。この少子化は日本を支えていく人財の減少にも直結します。事実、近年の1学年あたりの人口は大幅に減少。1960年頃には250万人を超え、その後の進学や就業で高度経済成長期に活躍した中学卒業者の数が、現在では100万人前後になり、いずれ70万人台にまで落ち込むことが確実視されています。日本がこれからかつてのような存在感を世界で復活させるには、1人が3倍のパフォーマンスを発揮する必要があると言っても過言ではありません。このような教育の曲がり角で、卒業後に「社会のお医者さん」となって日本の競争力を回復させる高専生の育成をしっかり行わないと、日本の産業競争力は今以上に揺らぐことになってしまいます。
神山まるごと高専の校舎「OFFICE」の様子。同校は、アントレプレナーシップ(起業家精神)の育成に力を入れており、卒業生の4割が起業することを目標に掲げています。2023年4月、徳島県名西郡(みょうざいぐん)神山町に全国58番目の高専として開校しました。
現実に地方では小中学校の閉校が各地で見られます。入学志願者が減少している大学も少なくありません。そうした波に高専が巻き込まれることは現段階ではありません。それどころか2023年に徳島県に神山まるごと高専が開校し、2028年には滋賀県に滋賀県立高専が新たに開校する予定です。今の時代に日本の社会が高専教育に期待している証左だと言えます。それでも子供の数は益々減っていきますから、高専も影響を受けざるを得ない時期が到来するでしょう。
国立高専は元より、公立・私立の高専とも密な協力関係にある高専機構としては、1学年50万人という時代になろうとも、現在の全ての高専を合わせた1学年1万人という学生の数は守りたいと思います。人口減少に逆らう事が出来ず、それが無理となっても、58という現在の国内の高専の数(滋賀県立高専の開校により59校)は絶対に減らしてはならないと考えます。もしも、高専の志願者数が減るような事態になったとしても、学校の数も教員の数も削減しなければならないというのは、消極的な発想で、1クラスあたりの学生数のみを減らせば良いのです。一方で、教員志願者の数が減っていく事も想定されますが、そこはオンラインによる高専間をまたいだ同時授業や、録画された映像による補完で十分に対応が可能です。
現在の世界の1クラスの標準は20人。日本の学校の学級人数はまだ減らせます。現在の高専の40人学級が20人学級2クラスになれば教育の中身は確実に濃くなり、定評のある高専の質の高い指導は、一人ひとりの学生に一層深く行き渡ることになります。少子化という逆境を逆手に取り、少人数学級を導入すれば高専教育のパフォーマンスが高まるのは間違いありません。今以上により世の中の役に立つ人財に育んでいく環境を実現できるでしょう。
2022年11月高等専門学校制度創設60周年記念式典の翌日には、国際学長フォーラムが行われ、谷口理事長はじめ、各国の政府機関、大学、高専、ポリテク等の代表間で、新たな時代に求められるエンジニア育成の在り方について、活発な討議がなされました。
日本の高専教育制度を本格的に導入したタイ王国初の高専(KOSEN-KMITL)が2019年5月に、2校目の高専(KOSEN KMUTT)が2020年6月に、それぞれ開校しました。タイ以外にも、モンゴルに3高専を設置し、ベトナムではベトナム商工省が管轄する3つの工業短期大学等の教育高度化支援を行い、高専教育システムの導入に向けて準備中のエジプトからは高専の教育現場視察やカリキュラムに関する意見交換等を行うために2025年の1月に視察団が来日しました。また、全国の高専各校は多くの国々から留学生を受け入れています。“KOSEN”は、世界各地で社会を牽引する高等教育制度であるという認識が広がっているのです。
こうしたグローバル展開の推進により、2024年3月時点で高専機構が学術交流協定を締結した海外教育研究機関は448機関(各国立高専において延べ417機関、高専機構本部において31機関)に達しています。こうした高専のグローバル展開は各国への貢献はもちろんのこと、世界のテクノロジー開発における日本のプレゼンスを高め、日本の技術を世界に波及させる足がかりにもなるでしょう。
それ以上に高専のグローバル推進を通して重要視しているのは、日本の高専生の海外との交流です。高専の卒業生がグローバルな環境で頭角を表すような活躍を見せていくための国際コミュニケーション能力を磨くことを目的とする、留学や海外インターンシップを推奨しています。現在は年間で約4000〜5000人の学生を海外に送り出していますが、その数をもっと増やしていく考えです。
2019年には、グローバルに活躍できる技術者を育てるため、「グローバルエンジニア育成事業」を開始しました。この事業では、高専各校が取り組む学生の国際的なコミュニケーション能力や、海外で積極的に活動する意欲の向上を支援しています。いずれも、高専卒業生が日本の国際競争力に寄与する存在へと育むための一環であることに間違いありません。
また、近年は国籍や性別を問わず多様性を尊重する社会に向かっていますが、高専機構は2011年に早くも「ダイバーシティ宣言」をして、2024年には「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)推進宣言」を策定し、多様な一人ひとりの学生が、自他の違いを尊重し、相互理解を深められる風土を醸成してきました。その成果としては、本科の女性学生比率が24.6%にまで増加したことなどが挙げられます。
高専機構は時代に即した高専教育の最適解を考え、学習指導要領にとらわれない独自のカリキュラム作りや、研究活動の推進をサポートしています。そうした積極的な取り組みには年間予算で充当される額以上の活動費が不可欠になります。高専機構は、高専各校にアグレッシブな教育を求めるだけではなく、外部予算の獲得に尽力することでも各校を支援しなければなりません。実際に私は、文部科学省はもちろん有力政治家や産業界に対しても、積極的に訴求する場を設けて、研究予算や施設予算について数々の要望を申し上げてきました。その成果としては、幾つかの外部予算獲得につながっています。
ただ、全ての予算要求が通る訳ではなく、多くは希望通りとはなりません。高専だから必要、高専にこそ必要という理由を明確に訴求していく必要があります。そうした高専ならではの予算獲得の事例に、商船高専5校(鳥羽、広島、弓削、大島の商船高専4校に加え富山高専商船科を含む)の練習船を新造して更新する予算を獲得できたことが挙げられます。練習船を航海や機関に関する実習の場としてだけではなく、災害時には被災地へ飲料水や食糧を供給する役目(かつて同様な実績があります)や、携帯電話の移動基地局としての活用を御理解いただいた事が認められたのです。
先にも述べましたが、高専教育には日本の国際競争力を再生に導く可能性があります。国が用意したファンドや研究予算のみならず、産業界からの支援にも期待しています。中には高専卒業生が入社後に大活躍をして経営に大きく貢献したので寄付を申し出ていただいた企業もあります。これからは益々外部に対して、時代に先駆けて独自に取り組む高専教育の価値を積極的にPRし、研究費や設備費を外部から提供していただくことで教育現場の努力を最大限バックアップしていきたいと考えています。
在校生の方には、自分の好きな技術分野を極めて、その成果を遠慮することなく大いに発信して欲しいと考えています。各種コンテストや地域産業との連携、海外渡航交流など、様々な自己表現の場があることは皆さんもご承知でしょうが、決して一部の限られた学生さんのために用意されている機会ではありません。どの学生さんでもしっかりと準備して臨めば、そうした場面で主役になれるチャンスがあるはずです。さらに言えば、コンテストに勝ったらそれがゴールではなく、そこからが将来に大きく飛躍するスタートとなるはずです。
産業界でご活躍されている高専の卒業生の方々には、カリキュラムの面でもすこぶる中身の濃い5年間を全うされたことに誇りを持って、世の中に貢献していただきたいと望みます。最終学歴が大学や大学院となった卒業生の方であっても、高専で培った学びの体験は現在の実力の礎になっているはずです。学歴とは最終学歴を表すものではなく、学習歴です。高専の5年間の学習歴を是非とも多くの人にアピールしていただきたいと考えています。
皆さんのご活躍が、今後の日本の発展に大きな影響を及ぼすのは間違いありません。産業界の発展への貢献のみならず、日本の未来を担う子供たちが高専に入学して優れた研究者やエンジニアへと育ち、同時に幸せな人生を獲得するロールモデルになっていただくことを期待してやみません。
北海道釧路市の西方、たんちょう釧路空港に近い場所に立地する釧路高専は、国立高専4期校として昭和40年に開校。当初は機械工学、電気工学、建築の各学科があり、その後に電子工学と情報工学が加わり、しばらくは5学科体制で高い専門性を持った人材の育成を進めてきました。
ところが時は平成に移り、企業の製品開発や設計において高度化や複合化、融合化が進んだことで、学生時代に学んだ分野の視点だけでは第一線のものづくりの現場で実力が上手く発揮できないという場面が、社会と直結した高等教育機関において問題視されるようになりました。
本校にも、社会に早期に役立つ実践的な技術と創造性を兼ね備えた卒業生を送り出す使命があります。そこで5学科体制を一旦リセットし、抜本的な改組を行うことになったのです。
当時の学校関係者の間では学科の再編案で侃侃諤諤の議論があったそうですが、結果として平成28年に全学生が入学初年度を一般教養科目と専門基礎科目の授業を受け、2年生進学時に学生の全員が広い視野で技術を学ぶことを指向して設置した創造工学科に進むという学科の改組が行われました。
ただ、創造工学科が広くとも浅い知識しか身につけられない学科に陥ってはなりません。しっかりとした専門性が身につくことを担保した上で他の分野の基礎を学べる、そんな工夫が必要です。
そうした配慮から、創造工学科の中に3つのコースを設定しました。情報工学分野と機械工学分野にわたるスマートメカニクスコース、電気工学分野と電子工学分野にわたるエレクトロニクスコース、そして建築デザインコースです。
前2コースの学生は本科の4年間、所属分野で専門性を獲得しつつ、コース内のもう一方の分野についても学び、さらに学科共通科目も受講することで、社会の期待に即した人材となって巣立っていくことになります。
建築デザインコースの学生は、建築設計を軸に街づくりまで視野に収める学びで、学生の指向に応じてゼネコン等に加え鉄道会社など都市開発を担う企業への進路が開けています。
創造工学科を卒業した学生は、開始年度からみてまだまだ少数ですが、開校から実践的な技術を持った人材の輩出を企図して様々な教育施策に取り組んできた本校は、進路先から高い評価を頂いています。
多くの卒業生が活躍する釧路市役所からは公務員試験の受験資格において大学卒業者と同じ扱いを受けており、北海道大学からは北海道内の4高専を対象に約20名の編入推薦枠が認められています。
創造工学科を設置する背景となった、専門分野の隣接領域にも視野を広げて社会の実情に対応できる人材を育むというコンセプトを推進する取り組みの一つに、複合融合演習があります。
これは、5分野混合チームが現場目線で地域課題の本質を理解し、アイデア創出から試作までを行う、釧路高専独自の社会実装型フィールドワークです。
先般は、防災というテーマで段ボールベッドを開発しました。釧路が面する十勝沖は地震の発生が多いこともあって釧路地域の住民は防災意識が高く、避難先に必要な段ボールベッドの開発は地域ニーズに即したものでした。
当初、学生たちは寝心地の良さを追求。しかし使用する行政側と課題の本質に向けた協議を進めていく中で、平時における収納のしやすさや非常時の組み立てのしやすさも重要であることが判明。学生たちは改良を進め、使用する側の要望に対して十分に応えられるプロトタイプにまで漕ぎ着くことができました。
また、学生たちの日々の学習意欲をモチベートする毎年のイベントとして、4年生を対象にキャリア講演会を行なっています。
その内容は、外部講師に、高専での学びが社会で役立つことを講演してもらうものとなっています。
前回は堀江貴文氏に講演して頂きました。実は、堀江さんが設立した日本初のロケット開発会社であるインターステラテクノロジズ株式会社の本拠地は、釧路市と同じ道東の大樹町(たいきちょう)にあり、そこに本校の卒業生が入社しています。
その卒業生の優秀さを認めた堀江さんが、講師を買って出て頂きました。
講演会当日に堀江さんが語られた「高専生の皆さんが学ばれていることは、すべてロケット開発に必要な技術です」という言葉に、拝聴した学生たちは目を輝かせていました。
日本で唯一民間企業でロケットの打ち上げに成功したインターステラテクノロジズ株式会社やロケットランチャーシステムを担当する地元企業の釧路製作所主催のロケットランチャー製作プロジェクトへの参加をきっかけにロケットランチャープロジェクト部が発足しました。ロケット開発プロジェクトに学生が関与できる本格的なクラブです。
堀江さんのインターステラテクノロジズ株式会社に技術協力している、株式会社釧路製作所という企業があります。本来は橋梁工事が専門ですが、打ち上げプロジェクトにはロケットの発射台設置を精密に調整する技術で参加し、出資もされています。
この釧路製作所には本校からの卒業生が就職していますが、在校生の課外活動にも技術面での協力を頂いており、特にロケットランチャー(※)プロジェクト部が大変お世話になっています。
釧路市に本社を置く食品機械メーカーの株式会社ニッコーにはインターンシップで協力を頂いてますし、卒業生の就職先でも人気です。
同社はロボットシステムの技術に長け、ものづくり日本大賞やロボット大賞などの受賞歴を誇っています。
そもそもは地場の水産加工品産業が海外の加工業者に価格競争で劣勢を強いられ、熟練の加工職人が高齢となり後継者が足りないといった釧路を中心とする道東エリアの重要課題に、設備の自動化やロボティクスで応えていくことによって成長された企業です。
現在は水産業の他にも農業や酪農、観光業、飲食店などあらゆる分野がロボット化する時代を見据え、DX化の推進や省力化を追求されています。
そんな同社において、就職した本校卒業生たちは高専時代に養った技術や思考力を存分に発揮しているようです。
株式会社ニッコーとの共同教育を活かし、創造工学科機械工学分野を中心にロボット技術に注力している本校は、国立高専機構の先端技術教育推進策の一つであるCOMPASS 5.0ロボット分野に、協力校として令和4年度より参画することになりました。
ロボット分野のプロデューサー的人材育成を柱とする教育パッケージを作成し、全国の高専に展開していくプロジェクトが進んでいます。
※小型ロケットの発射装置
実は、先の株式会社ニッコーの佐藤一雄社長は釧路高専の卒業生です。
同社の、技術で社会問題の解決に立ち向かうという社風は、まさに高専教育と理念が一致していますが、佐藤社長が釧路高専時代に培った「人に役立つものづくりのマインド」を、今も具現化されているといっても過言ではないでしょう。
また、セブンイレブンやイトーヨーカ堂を擁するセブン&アイグループの金融機関であるセブン銀行の松橋正明社長も、釧路高専の出身です。
高専卒業者と大手金融機関の経営者では、イメージが結びつかないかもしれませんが、松橋社長は釧路高専卒業後にNECグループに入社し、図書館の蔵書検索の開発などを経てアイワイバンク(現セブン銀行)に転職されたという経緯です。
その後、流通業の進化の鍵となったATMの企画開発での実績が認められて役員となり、社長に就任されました。優れたエンジニアは経営トップにも立てるという好例ではないでしょうか。
私も高専で学んだ一人です。卒業したのは東京高専の電子工学科で、東京工業大学に編入学し、工学部電気・電子工学科を卒業後に同大学の大学院理工学研究科博士課程を修了。工学部の助手を経て東京高専の講師に移籍しました。
それから同高専で助教授、教授、副校長を担い、令和4年に現在の釧路高専校長に着任しました。
専門は電気・電子工学で、東工大では高温超伝導薄膜の作成やアナログLSIの自動設計CADの開発、動画圧縮符号・復号用LSIの開発などに関する研究を行い、東京高専の研究者・指導担当としては指紋認証や虹彩認証、AI画像認識などに取り組んでいました。
振り返ってみますと、私の経歴は人とのご縁が大きな意味を持っているように思えます。
高専に転職したのは、高専時代の恩師に勧められたのがきっかけですし、釧路高専とも以前から縁がありました。
3代前の釧路高専校長である岸浪建史先生とは、今から10年前に高専の会議を通して知り合い、釧路高専で実践されている地域と一緒に学生を育てる活動を先生から直にお聞きし、薫陶を受けていたのです。
高専は大学受験に労力を割く必要が無く、時間をたっぷり使って授業では頭を使って考えながら知識を蓄え、実験や実習では手を動かして結果を目で確かめることによる経験を得ることができます。
この知識と経験が合わさって、実践的に役立つ「知恵」を養えることができると私は考えます。
就職して、企業の製品開発上の課題や、それを取り巻く社会の難題に突き当たった時に、突破力をもたらすのはこの「知恵」に他なりません。
高専で学ぶ在校生は知恵という突破力を獲得することができ、卒業された皆さんには、すでに備わっているはずです。
それに加えて必要なのは、努力を厭わず人に役立ちたい、喜んでもらいたいという、「 志 」です。
クルマに例えるなら、知識や技術はボディやタイヤ。「 志 」はエンジンです。成長を促し、壁を乗り越える力となる「 志 」を確かに持って、輝ける未来を歩んで下さい。
全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(以下、DCON)は、高専生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用したビジネスプランの「事業性」を、ベンチャーキャピタリスト(VC)が企業評価額として算出し、競います。
近年、DCONは回を重ねるごとに規模を拡大し、社会的な注目度も飛躍的に高まっています。本大会に参加する高専生たちにとっての最大の魅力は、自分たちが暮らす地域の身近な課題や、現場の人々が抱える切実な悩みに直接耳を傾け、そこから独自の解決策を導き出している点にあります。机上の空論ではなく、自らの足で現場に赴き、泥臭く手を動かして作り上げたハードウェアと最新のAI技術を掛け合わせることで、社会に役立つプロダクトを本気で実現しようとしています。
今年度は、過去最多となる91チーム42高専119作品がエントリーしました。その中から一次審査・二次審査を勝ち抜いた10チームが本選へ出場しました。2026年5月8日(金)・9日(土)に開催された第7回大会における、高い技術力と行動力で競い合った高専生たちの熱き戦いの様子を、上位入賞チームを中心にお伝えします。
(掲載開始日:2026年5月18日)
本コンテストの審査は 一次審査(書類選考)→ 二次審査(プロトタイプ制作・面談選考)→ 本選(技術・プレゼンテーション審査)の3段階で実施します。
【一次審査】
複数の審査員が下表の 3 視点・計 11 項目を 0・1・3点 で採点評価し、プロトタイプ制作に進むことができる作品であると判断されたチームが二次審査へ進出します。
審査視点 | 主なチェック項目(0・1・3点で採点評価) |
|---|---|
| A. 事業コンセプト | 1. 課題の明確性と具体性 2. 課題の社会的意義・インパクト 3. 解決策の具体性と価値 4. 事業性 5. 競合優位性 |
| B. ものづくり | 6. ディープラーニングの活用の妥当性と意義 7. データ収集・活用の具体性 8. モデルと実装計画の妥当性 |
| C. ハードウェア | 9. ハードウェアの役割と設計 10. ハードウェアの必然性と独創性 11. ハードウェアの実装計画の妥当性 |
| 学校名・チーム名 | 作品名 | 概要 | 企業評価額 | メンター | 受賞 |
| 豊田工業高等専門学校 Kanro AI | Pipe Eye | AI画像認識搭載の自律点検下水道ロボット | 5億6000万円 | 渋谷 修太 氏(フラー株式会社 取締役会長) | 最優秀賞 フソウ賞 |
| 沖縄工業高等専門学校 Rewave | 通信の空白地帯を消す!AIで被災地を可視化する災害デバイス「アドフォン」 | 基地局不要で安否を共有するAI防災通信デバイス | 4億円 | 福野 泰介 氏(株式会社jig.jp 取締役 創業者) | 経済産業大臣賞 セブン銀行賞 |
| 沖縄工業高等専門学校 Seesar Labs | HIKES | 四足歩行ロボで初期消火を自動化するシステム | 3億円 | 河瀬 航大 氏(株式会社フォトシンス 代表取締役社長) | トピー工業賞 アイング賞 千代田化工建設賞 ビズリーチ賞 |
| 神山まるごと高等専門学校 codell | KiDUKi | ARグラスで介護情報を可視化するAIシステム | 2億4000万円 | 折茂 美保 氏(ボストン コンサルティング グループ合同会社 マネージング・ディレクター&パートナー) | 文部科学大臣賞 トヨタ自動車賞 |
| 沼津工業高等専門学校 SOUTA | Gourmeet | 飲食店向けAI空席判別・経営支援システム | 3000万円 | 西本 励照 氏(株式会社MENOU 代表取締役CEO) | NECソリューションイノベータ賞 三菱電機エンジニアリング賞 |
| 舞鶴工業高等専門学校 mAIzuru | ことの葉 | AIが植物の声を届ける、対話型育成支援ツール | 2700万円 | 佐藤 聡 氏(connectome.design株式会社 代表取締役社長) | 農林水産大臣賞 アクセスネット賞 ポーラメディカル賞 ソフトバンク賞 ミダスキャピタル賞 |
| 仙台高等専門学校 広瀬キャンパス それいけ!運搬マン | Nego Delivery | AIとロボットで配送を自動化する物流システム | 1500万円 | 田中 邦裕 氏(さくらインターネット株式会社 代表取締役社長) | Quick賞 |
| 久留米工業高等専門学校 Atelier-I | あゆみ | AI搭載で危険を検知するシルバーカー | 1000万円 | 小島 舞子 氏(株式会社クラフター 代表取締役) | 日本電技賞 |
| 沖縄工業高等専門学校 Omoide.lab | VocaSense ~声の揺らぎが知らせる認知症のサイン~ | 会話から認知症を早期判定するAIデバイス | 投資判断なし | 柳原 尚史 氏(株式会社Ridge-i 代表取締役社長) | NGK賞 村田製作所賞 |
| 釧路工業高等専門学校 超音サンマ | Pulsar | AIを用いた農家負担軽減システム | 投資判断なし | 岩佐 琢磨 氏(株式会社Shiftall 代表取締役CEO) |
作品名:Pipe Eye
企業評価額:5億6000万円
豊田工業高等専門学校のチーム「kanro AI」は、元々ロボコンに出場していたチームです。そんな彼らが今回開発したのが、下水道自動点検AIロボット「Pipe Eye」です。
日本の下水道管は、総延長が地球12周分に相当する約50万キロに及びますが、その9割は、人が立ち入れない小口径の管です。現在、老朽化した管の割合は7%に留まっているものの、20年後には41%、30年後には70%へと急増する見通しです。
一方で、点検現場では小型ロボットの手動操作や手作業による報告書作成が主流であり、作業効率の低さが課題となっています。さらに、熟練技術者の半数以上が50代を超えて高齢化しており、旧態依然とした点検態勢は、もはや限界を迎えています。
この課題を解決する「Pipe Eye」は、3つの画期的な強みを持ちます。1つ目はLiDARセンサ(※1)による完全自動走行です。ロボットが管内での現在地を正確に把握し、中心を維持しながら自律走行するため、地上からの手動操縦が不要になりました。これにより、点検に伴う道路占有や交通規制等の制約を大幅に削減します。2つ目は、AIによるリアルタイムの異常検知です。Jetson(※2)とYOLO(※3)を搭載することで、走行しながらひび割れや侵食を瞬時に判別します。通常時はスピーディーに移動し、異常を検知した箇所では自動で減速して精密な映像を記録します。これにより、点検スピードの向上と、見落としのない正確な調査を両立しました。3つ目はデータの一括デジタル管理と報告書の自動作成機能です。AIの判定結果を確認してワンクリックするだけで、報告書が完成します。データは地図情報と同期して蓄積されるため、事務作業の負担を低減させるだけでなく、将来の劣化予測にも貢献します。
本プロジェクトのターゲットは地方自治体や維持管理業者であり、導入によって点検量の増加、点検作業の省人化が進むことで、コストを80%削減できる見込みです。下水道点検は作業距離に応じた定額報酬制であるため、この削減分は売上高の向上に直結します。2027年度からのウォーターPPP(※4)という追い風も捉え、すでに業界最大手のメタウォーターとも協議を進めています。
市場規模は、豊田市の点検業務であるSOMが3億円、愛知や大阪など主要都市のSAMが1500億円、国内の下水道関係予算全体であるTAMは3.9兆円にものぼります。
今後は1年以内にプロダクトを完成させ、3年でエリアを拡大、4年目には劣化予測AIへと進化させる計画です。
唯一このチームだけが審査員全員から「投資したい」という評価を獲得しました。誰もが目を背けがちな嫌悪設備である泥臭い「下水道」に真っ向から挑んだ着眼点や、全体の90%を占める小口径管にフォーカスした市場理解の深さが絶賛されました。ソフトウェアだけでなくハードウェア実装にも挑む技術力と、現場のプロと対話を重ねて磨かれたビジネスモデルの完成度がとても高く評価されました。
※1 LiDARセンサ:レーザー光で対象物との距離や形状を測る3Dセンサ。自動運転やドローンの「目」として、周囲の空間を高精度に把握するために不可欠なデバイス。
※2 Jetson:NVIDIA製のAI向け小型コンピュータ。省電力ながら強力なGPUを積み、ロボットや産業機器などの「現場(エッジ)」でリアルタイムなAI処理を実現する。
※3 YOLO:画像内の物体を瞬時に特定する高速なAIアルゴリズム。一度の走査で検出と分類を同時に行うため、防犯カメラや自動走行などのリアルタイム解析に長けている。
※4 ウォーターPPP(Public-Private Partnership):公共と民間が連携して水道事業を運営する仕組み。民間のノウハウや資金を活用することで、インフラの老朽化対策と効率的な事業運営を両立させる。
作品名:通信の空白地帯を消す!AIで被災地を可視化する災害デバイス「アドフォン」
企業評価額:4億円
沖縄高専チーム「Rewave」が開発した災害用通信デバイス「アドフォン」は、通信の空白地帯を解消し、AIによって被災地の状況を可視化します。内閣府の防災白書などの教訓から、発災から72時間以降は救助数が激減するため、人命救助には初動が極めて重要です。しかし、大規模災害時は基地局の損壊で通信が途絶し、致命的な情報不足が障壁となります。
この課題を解決するため、電波が届かない環境下でも、LPWA(※1)を用いてデバイス同士がバケツリレー方式で接続を維持するアドホックネットワークを実装しました。
本システムは、専用端末「NuchiLink」をスマートフォンとBluetoothで接続するだけで、通信インフラが途絶した環境下でも情報伝達を可能にする画期的なプラットフォームです。通信性能は最大約3km、市街地などの障害物がある条件下でも約1kmの通信距離を確保しており、公開鍵暗号方式の採用によって高度なセキュリティも両立させています。ユーザーインターフェースには独自開発の専用アプリを用い、オフライン時でも機能する「チャット機能」・「マップ機能」・「カメラ機能」の三要素を主軸として構成されています。
「チャット機能」は、直感的な操作が可能なUIを備え、緊急時における迅速なメッセージ交換や安否確認を支援します。
「マップ機能」は、事前に地図データを保存することでオフラインでの現在地把握を実現するだけでなく、他ユーザーから投稿された被災情報をリアルタイムで確認できます。さらに、投稿された情報の信頼性を担保するため、LLM(※2)を応用した独自のアルゴリズムが各情報の信頼度スコアを算出し、情報の真偽を判断するための客観的な指標を提供します。
「カメラ機能」は、被災状況の投稿をサポートする機能です。この機能には、画像などの大容量の元データをマルチモーダルAI(※3)が即座に解釈し、意味を持つテキストデータへと変換することで、データ量を1/1000まで圧縮して送信する仕組みが備わっています。この圧縮プロセスにより、建物の崩壊レベルや被災者の属性などの重要な情報を、帯域の限られた環境下でも確実に伝達することが可能となりました。この技術は、画像送信に10分以上を要するというLPWA通信の課題を克服するだけでなく、防災科研へのヒアリングから得られた「現場で真に求められるのは画像そのものではなく、何が起きているかという『意味情報』である」という知見を具現化したものです。
これらの独自技術を統合した本システムは、現在特許出願済みとなっています。
ビジネス展開は、自治体を対象に地域の拠点となる小中学校への配備を計画しています。市街地の各校に10台ずつ設置するだけでメッシュネットワークを構築できます。スマートフォンの既存パーツを活用して原価を12,000円に抑え、1台40,000円の安価な販売価格を実現しました。沖縄気象台からのアドバイスを受けて、児童養護施設で実証実験を行い、6歳の子どもでも直感的に操作できることを確認しました。さらに、子どもも使えるデバイスとして小中学校や自治体への配備を本格的に進めるため、総務省沖縄総合通信局や沖縄県庁と直接意見交換を行うなど、社会実装に向けて行動力を発揮しています。
今後の展望として、名護市への導入を皮切りに、南海トラフ地震の被害予測地域へ展開して約60億円の売上を見込み、世界市場への進出も視野に入れています。
審査員からは、防災という国家的課題に挑む姿勢や、国防の観点から通信インフラを自国で担保する意義が高く評価されました。技術的な課題や導入における実効性については議論の余地を残しつつも優れた事業案として称賛が送られ、最終審査で企業評価額4億円と算出されて第2位を受賞しました。
※1 LPWA(Low Power Wide Area):低電力で長距離の通信を可能にする技術
※2 LLM:大量のテキストデータを学習し、人間のように言語を理解・生成する大規模言語モデル
※3 マルチモーダルAI:画像や音声など複数のデータを処理できるAI技術
作品名:HIKES
企業評価額:3億円
第3位に選出されたのは、沖縄工業高等専門学校の「Seeser Lab」です。本チームは、火災の検知から初期消火(※1)までをシームレスに完結させる次世代型消防プラットフォーム「HIKES」を開発しました。
国内の工場や倉庫では年間約2,600件もの火災が発生しており、出火からわずか2分で人力による対応が困難になることから、初期消火の自動化は喫緊の課題となっています。「HIKES」はこの限界を打破するため、監視を担う「HIKES Eye」と消火を担う「HIKES Robo」の2ユニットで構成されています。まず「HIKES Eye」がIRセンサ(※2)で24時間の温度監視を行い、画像認識アルゴリズムのYOLOを用いて炎や煙を検出、同時に距離センサで火元までの距離を測定します。さらに、誤検知を防ぎ精度を補完するためにXGBoost(※3)による再判定を行うことで、統合モデルの正解率80%を実現しました。検知された火災情報はMQTT通信(※4)を介して四足歩行ロボット「HIKES Robo」へ即座に伝達され、検知からロボットの起動までわずか約5秒という驚異的なレスポンスを誇ります。このロボットは、自律走行で障害物を回避しながら火元へ接近し、ピンポイントで消火活動を行います。
ターゲットとする施設は、商品の水濡れ損害を避けるためにスプリンクラーを導入していない国内の工場や倉庫です。すでに西濃運輸株式会社や株式会社関電工といった大手企業での実証実験も進んでおり、ビジネスモデルには導入のハードルを下げるサブスクリプション方式を採用しました。「HIKES Eye」2台と「HIKES Robo」1台の基本セットで、初期費用21万円、月額9万円という、施設の規模に応じ柔軟に拡張可能なプランを提示しています。
市場規模は、国内の工場・倉庫向けのSOMで約374億円、国内施設全体のSAMで約1,700億円、そして世界のTAMでは約13兆円にものぼります。Seeser Labは今後、経済的損失の大きい施設から順次シェアを拡大し、5年目には年商92億円、営業利益18億円を目指す計画です。
審査員からは、首里城の全焼という強烈な不測の原体験を確かなソリューションへと昇華させた着眼点に加え、ターゲットを明確に絞り込み、すでに業界大手との対話を進めている戦略性が高く評価されました。アイデア、技術、市場選定のすべてにおいて完成度が高く、極めてバランスの取れたチームであるとの賛辞が贈られました。
※1 初期消火:火災発生直後、火が天井に燃え移る前に行う消火活動。出火後の「魔の2分」が勝負であり、この時間を過ぎると火勢が急拡大して個人での消火が不可能になるため、避難か消火かを判断する極めて重要な初動対応。
※2 IRセンサ:赤外線を利用して対象物の熱や動きを検知するセンサ。非接触での温度測定や動体検知が可能で、防犯カメラや自動ドア、家電のリモコンなどに広く使われています。
※3 XGBoost:複数の決定木を組み合わせる機械学習手法。画像や音声に強いディープラーニングに対し、特徴量が整理された数値データの判定では、精度・速度ともに極めて高い性能を誇る。データ分析のコンペティションなどで定番の手法。
※4 MQTT通信:IoTデバイス向けに開発された、軽量な通信プロトコル。通信負荷や電力消費が非常に低いため、電波の不安定な場所や小型センサーでのデータ送受信に適している。
現代の日本において、デジタルトランスフォーメーションやAIの活用は社内の業務効率化を目指す部分最適にとどまる傾向があり、新しい価値を創出するビジネスモデルの変革には至っていません。
また、生成AIなどの技術進歩が急速に進む一方で、多くの企業では導入や利活用が遅れており、国際的な開発競争においても後塵を拝しています。
この背景には、AIに関する深い知見を持ち、課題設定から導入、効果検証までを一気通貫で推進できるビジネスアーキテクトなどの専門人材が、量と質の両面で圧倒的に不足しているという深刻な問題があります。
こうした停滞を打ち破るために求められているのが、高専DCONに参加するような高専生たちの力です。彼らは、最新の技術をただ表層的になぞるのではなく、仕組みや限界、さらには倫理的な側面にまで踏み込んで深く理解し、実務レベルで設計や運用に活かす洞察力を備えています。
福祉や農業、水産業といった現実社会のリアルな産業が抱える課題に対し、日頃培った確かなものづくりの技術とAIを融合させ、具体的な解決策を提示しています。
さらに、単なるプロトタイプの制作にとどまらず、市場規模やコスト、ビジネスとしての持続可能性までを緻密に計算し、社会実装を見据えた構想力と実行力を持つ実装可能なエンジニアとして力量を発揮しています。
近年は各高専で起業家精神を育むアントレプレナーシップ教育も推進されており、DCONを契機として自ら会社を立ち上げ、ニュービジネスを創出する学生が増加しています。
AIを自ら開発して使いこなし、社会の具体的な課題を解決していく高専生たちの革新的な取り組みは、日本発のディープテックやソーシャルテックの新たな潮流を生み出します。
不足する専門人材という枠組みを超えて社会に変革をもたらす高専生たちの挑戦は、日本の産業をアップデートし、再びハイテク分野で世界市場をリードするための力強い原動力となることが期待される大変有意義な大会でした。
※本コンテストでの高専生の活躍は、日本ディープラーニング協会のYoutubeチャンネルにてご覧頂けます。
第7回DCON2026本選(ライブ動画配信)
一般社団法人 日本ディープラーニング協会(※1)が主催する大規模イベント「JDLA Connect x CDLE All Hands~AI共創社会、学びが日本の実装を加速させる~」が2026年3月19日(木)に開催されました。
本イベントは、JDLAの会員企業や資格試験合格者コミュニティ(CDLE)が一堂に会し、AIの社会実装に向けた最前線の議論とネットワーキングが行われる場です。
JDLAは現在、会員企業数が170社に拡大し、G検定(※2)などの合格者はまもなく15万人に達する規模にまで成長しています。会場では、参加者が首から下げるストラップの色(黄色:JDLA会員企業、赤色:CDLE合格者、白色:その他)を分け、異なる属性の参加者同士が積極的に交流し「白が赤や黄色に染まる」ようなネットワーキングが推奨されました。
また、 高専DCON(ディープラーニングコンテスト) から起業したスタートアップ企業のブース展示なども行われていました。
本イベントのトークセッションの魅力や高専DCON発のスタートアップ企業インタビューをお届けします。
※1 一般社団法人 日本ディープラーニング協会(Japan Deep Learning Association、以下 JDLA):ディープラーニングを中心とする技術を通じて日本の産業競争力向上を目指し、人材育成、産業活用促進、提言、国際連携、社会との対話などに取り組む団体。2017年6月1日に設立。
※2 G検定:JDLAが実施する、AIやディープラーニングに関する基礎知識を問う資格試験。
(掲載開始日:2026年4月3日)
登壇者:
・松尾 豊 氏(東京大学 大学院工学系研究科 教授、JDLA理事長)
・村上 明子 氏(AIセーフティ・インスティテュート 所長)
・江間 有沙 氏(東京大学 国際高等研究所東京カレッジ 准教授、JDLA理事)
基調講演では、AIの社会実装を通じた日本の経済成長とグローバルな展望について具体的な議論が交わされました。
松尾氏は、日本全体でAIを適切に活用すれば、国内総生産(GDP)の成長率を年に0.2パーセントから1.3パーセント押し上げる効果があるというマクロ経済の試算を発表しました。
この経済効果を実現するためには、全企業の80パーセントにAIを定着させ、主要業務の作業時間を10パーセントから20パーセント削減するという高い目標の達成が不可欠であると説明しています。
また、長きにわたり経済が停滞している日本の現状を病気にかかっている状態と表現し、優秀な人材が能力に見合った役割を担うことができるように組織の仕組みを見直す必要性を訴えました。
続いて村上氏は、企業におけるAI実装の壁として、短期間で担当者が変わる日本の人事ローテーションの文化を指摘しました。
進化の速いAI技術で成果を出すためには、専門知識を持つ人材が継続的に事業へコミットできる環境整備が急務であると述べています。
さらに、グローバルな競争環境において、日本企業は海外の事例を待つのではなく、自らの手で事例を作り出し、世界に向けて積極的に発信していく姿勢が重要であると強調しました。
江間氏からは、AIの安全性や倫理に関する国際的な枠組みの動向が紹介されました。
特に、G7での合意形成を目指した広島AIプロセス(※1)AIガバナンス(※2)責任あるAIの考え方が世界的な潮流となる中、日本がどのような役割を果たしてゆくべきかが探られました。
これらの国際的なルール作りの場において、日本人特有の調整力や他国に安心感を与える信頼性が高く評価されている点について、松尾氏は日本が独自のリーダーシップを発揮できていると分析しています。
国内での着実なAI実装を通じた経済成長と、国際社会での信頼構築を両輪として進めることが、日本がAI共創社会において進むべき道として示されました。
※1 広島AIプロセス:2023年に日本がG7の議長国を務めた際に議論された、AIの「責任あるガバナンス」を推進するための枠組みのこと
※2 AIガバナンス:企業や組織がAIを安全且つ倫理的に活用するために、自社のポリシー決定、組織体制の整備、リスク評価などを行う管理体制・ルールのこと
登壇者:
・尾形 哲也 氏(早稲田大学 基幹理工学部表現工学科 教授、AIRoA理事長)
・石黒 浩 氏(大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授)
・岡田 陽介 氏(株式会社ABEJA 代表取締役CEO、JDLA理事)
本セッションにおいて、フィジカルAI(※1)の社会実装をテーマに議論が交わされました。
議論の焦点は、AIが物理的な身体を持つことで社会にどのような変革をもたらすかという点です。
長年ロボット研究に携わる登壇者らは、ここ1~2年における技術の進化スピードは想像を絶すると驚きを語ります。
尾形氏は、以前は基礎研究の段階だったものが、現在ではAIとハードウェアの連携が容易になり、ロボット実装のハードルが劇的に下がったと指摘しました。
一方石黒氏は、2000年代からアバター研究を続けてきた背景に触れ、コロナ禍を経てリモートで働くことに対する社会の受容性が大きく変化したと語りました。
大規模な基盤モデル(※2)の進化により、数年後にはロボットやアバターが日常業務を担う未来が現実味を帯びています。
また、すべての作業を一度に自動化するのではなく、個別のタスクを着実にAIへ置き換えていくことで総合的な自動化に到達できると説明し、まずは普及に向けたキラーアプリケーションを生み出す重要性を説きました。
後半の質問コーナーでは、尾形氏が実世界のデータを直接収集し学習させることがAIの進化に極めて重要だと強調しました。
AI社会の若手においてスキル面で求められることは、「共感力」や周囲と良好な人間関係を築く能力が挙げられました。
また参加者からロボット開発における「日本の強み」を問われると、登壇者は人間らしいロボットを自然に受け入れる日本独自の「社会的受容性の高さ」と、AIとハードウェアを組み合わせて実用的なシステムを作り込む「ものづくり」の力が明確な勝ち筋になると力強く語りました。
※1 フィジカルAI:AIをロボットやアバターなどの物理的・仮想的な身体(ハードウェア)に組み込み、現実空間や仮想空間で人間と相互作用しながらタスクを実行する技術のこと。
※2 基盤モデル:膨大なデータを用いて学習され、自然言語処理や画像認識など、多様なタスクに汎用的に適用できる大規模なAIモデルのこと。
登壇者:
・江本 鎮男 氏(野村證券株式会社 IB企画部 デジタルITグループエグゼクティブ・ディレクター)
・荻野 綱重 氏(株式会社博報堂DYホールディングス テクノロジーR&D戦略室BPR推進G GM)
・吉成 雄一郎 氏(三菱商事株式会社 AIソリューションタスクフォース AIインテリジェンス・ハブ室長 (兼) デジタル事業部長)
・竹川 隆司 氏(株式会社 zero to one 代表取締役CEO、JDLA理事)
日本のAI実装を牽引するトップ企業が集結した本セッションでは、AI人材の育成が企業の競争力にどのようにつながるのかをテーマに議論が交わされ、組織を動かすための実践的なアプローチが共有されました。
議論の基盤として、JDLAが策定中の「AI実践人材ラダー(※1)」が提示されました。
AIの技術的知識とプロジェクト推進力は別軸であり、既存のマネジメント力があればAI実装のプロジェクトを推進できるケースも多いと指摘されました。
また、人材評価において重要なのは、優れたプロンプト(※2)を隠し持つのではなく、周囲に積極的に共有してチーム全体の生産性を高める「利他的なホスピタリティ」です。
さらに、リーダー層が率先してAIに触れる姿勢が組織変革の鍵を握ることが強調されました。
議論の中で強く主張されたのは、AIを新たな経営資源として捉え、AIを軸にして業務プロセスそのものを根本から作り直すアプローチです。あえて最初の数ヶ月間はAIに触れず、社員に対して現場の課題を徹底的に言語化させる育成プログラムの事例が紹介されました。
また、若手社員が役員にAIを教える取り組みも注目を集めました。AIの平均的な回答に対し、経験豊富なベテランが自身の視点で「ダメ出し」を繰り返すことで、オリジナルなクリエイティビティを生み出すことができ、AIは創造性を拡張するパートナーとして機能します。
「将来的にAIは企業のメイン業務に入り込むか」という問いには、全員が「確実に入ってくる」と断言しました。
一方で、海外のフロンティアモデル(※3)に対して機密性の高いデータを入力するセキュリティ上の懸念も議論されました。企業が前に進むためには、G検定を目標に設定し、社外コミュニティと知見を共有することが重要だと結論付けられました。
※1 AI実践人材ラダー:AI人材のスキルや実務経験を可視化するための段階的な評価基準。
※2 プロンプト:AIに対して指示や質問を出すために入力する文章。
※3 フロンティアモデル:最先端の技術を用いて開発された、非常に高性能で大規模なAIモデル。
登壇者:
・井上 顧基 氏(株式会社Elith 代表取締役CEO&CTO)
・古川 直裕 氏(株式会社ABEJA 弁護士)
・八木 聡之 氏(富士ソフト株式会社 常務執行役員CTO、JDLA理事)
イベントの最終セッションにおいて、企業におけるAIガバナンスの実践と新たな認証制度の創設について深い議論が展開されました。
まず焦点が当てられたのは、生成AI利用時の法的リスクへの対応です。
社内規定で個人情報入力を一律禁止している企業は少なくありませんが、古川氏によれば学習を防ぐDPA(※1)を結んだ有料プランを適切に利用していれば、個人情報を入力しても法的な問題は生じないことが明言されました。また、著作権侵害の懸念についてもAIへのデータ入力行為自体が直ちに著作権侵害になるわけではないという見解が示されました。
法的に問われるのは、出力結果が既存作品と類似しているかという点にあり、要約やアイデア出し等の用途であれば、安全性が非常に高いと指摘されました。
話題は管理体制の構築へと移ります。現在、AIのリスク管理に関する国際規格(ISO 42001)が存在するものの、取得準備に半年以上を要するため、多くの企業にとってハードルが高すぎる実態があります。
そこでJDLAは、規格のコアである「リスクアセスメントとリスク対応」に絞り込んだ、独自の「AIガバナンス認証」の新設を発表しました。
この新制度は、最初から100点満点を目指すのではなく、「30点」でも確実な第一歩を踏み出せるよう設計されています。
JDLA独自の「AIガバナンス認証」について、先行導入している富士ソフト株式会社、株式会社Elithから導入の規模感について共有がありました。
富士ソフト株式会社は事前の社内説得や規定変更等の調整に約2ヶ月を要したものの、AI利用の棚卸し作業自体は約3週間で完了しています。一方、株式会社Elithは、密かに使われるシャドーAI(※2)の把握等を迅速に進め、数週間で基準をクリアしました。
両社とも国際規格の取得準備に要する半年以上という時間を大幅に下回る期間で完了しており、独自の認証制度を活用することで、より短期間で適切な管理体制を構築できることが示されました。
基調講演で提言されたGDPを押し上げる経済効果を実現する為には、日本の8割の企業がAIを本格導入することが求められます。この負担の少ない新認証制度を活用し、各社が安全且つ迅速に適切な管理体制を構築して社会実装を進めることが重要であると結論付けられました。
※1 DPA(Data Protection Act):データの保護や取り扱いルールを定めたデータ処理契約。
※2 シャドーAI:企業側が把握・管理せず、従業員が無断で使用しているAI。
高専DCONを経て起業を果たした2社の代表にインタビューを実施しました。
本稿では、彼らが手掛ける現在の事業内容や高専DCONへの思いについて伺いました。
<株式会社 HIBARI 代表取締役 CEO 佐藤 羽瑠(さとう はる)氏>
2024年DCON全国大会に沼津工業高等専門学校 本科5年次にチーム「データドリブンウェア」で出場、ディープラーニングとデジタルツイン技術を活用した製造業向け総合管理システム「倉庫ナビ」を提案し企業賞を2社から獲得しました。
高専に入社した頃は、大学に編入して博士号を取り「日本のモノづくり産業の研究」を深めるキャリアを考えていましたが、このキャリアだと研究が形になるには時間が掛かるため、本科5年で高専DCONに参加し、JDLA様から手厚い支援を受けて起業を果たしました。
現在は、AIシステムの開発をメインで行い、創業から1年4か月経過した現在、当初5名の従業員も15名となり、今年中には30名になる見込みです。
事業内容は、地元静岡県を中心に製造業や飲食チェーンの基幹システムをAIドリブンの手法によって生産性を上げたり、省力化を図るDXを手掛けています。
現場の方と生産に関する共通言語で会話をしたり、工作機器の操作を理解していたりと高専で学んだ強みが、必然的に大手のコンサルやSIerとの差別化となり、コンペになっても勝つことが増えています。プログラムを書くことだけをやってきた方々と電気・機械・化学も広く触ってきた高専出身者との差が如実に結果に表れます。
静岡のマーケットは、製造業が多いためtire1がプラットフォーマーになることでtire2、tire3のDXも進めやすくなり、それが最終的には全てのお客様に喜ばれる成果につながります。
DCONは、高専生が苦手と言われる「ビジネス」の領域でAIを駆使して課題を解決することで、AIとビジネスを結び付けるきっかけを作ってくれ、さらに高専以外の方々との接点を持つことで視野を広げる機会を創出してくれる存在です。
| 会社名 | 株式会社 HIBARI |
|---|---|
| 代表 | 代表取締役 CEO 佐藤 羽瑠(さとう はる)氏 |
| Webサイト | https://hibari-ai.com/ |
| 高専 | 沼津工業高等専門学校 専攻科 (在籍中) |
<株式会社 ToI Nexus 代表取締役 CEO 西谷 颯哲(にしたに そうてつ)氏>
2024年DCON全国大会に東京都立産業技術高等専門学校 品川キャンパスにチーム「Technology 七福神」で出場、「AIを活用した電話詐欺対策」を提案し最優秀賞と企業賞を獲得しました。
2024年DCONメンバーから共同経営者として、3名参加、現在は8名体制で創業1期目です。
DCONで提案した詐欺検知デバイス名を「サギ止め太郎」に改め、2025年10月からは、兵庫県警に西谷さんが直接コンタクトを取り、詐欺防止の連携を始めています。最終的には県警内へデバイスの配布を目指して、データを提供してもらい、より精度の高い判断が出来る様にブラッシュアップを進めています。
兵庫県警から最新の詐欺の手口を監修頂き、ニセ警察官や詐欺電話の体験会を月3~4回、兵庫県内で開催しています。このような体験会を今後は、全国の各自治体と連携をしていくことになります。
詐欺を根絶させるためには、我々のデバイスを配布するだけでは成し得ず、上記のような日々の啓発活動を自治体の方々と行う事が必要です。体験会では参加者が詐欺師となってAIを騙すようなワークショップを行い、より効果的な体験を仕掛けています。
今後は警察や自治体だけでなく、警備やリスクマネジメント関連の企業にも広げていきたいと考えています。
当社のような課題抽出力や解決力が求められる仕事は、高専生でないと務まらないと思います。また、DCONに出場した他校の学生が起業したいと当社に相談に来る事が度々あり、当社に入社してもらうような起業家育成の流れも始まりました。これも高専同志のつながりがないと始まりません。
DCONでお世話になったメンターやアドバイザーの方々とは今でも連携頂いており、デバイス製造の企業を紹介してもらったりしています。
| 会社名 | 株式会社 ToI Nexus |
|---|---|
| 代表 | 代表取締役 CEO 西谷 颯哲(にしたに そうてつ)氏 |
| Webサイト | https://toinexus.jp/ |
| 高専 | 東京都立産業技術高等専門学校 品川キャンパス(卒業) |
AIがもたらす変革の波がいよいよ具体的な社会実装の段階に入ったことを肌で感じるイベントでした。
単なる技術的な興味や未来予測に留まらず、いかにして新技術を経済成長や産業の競争力強化に直結させるかという、国全体を見据えた本気度が会場全体から伝わってきました。
産学官が一体となり、最新の技術をどのようにして日常の業務や社会インフラへ組み込んでいくのか、実践的な戦略が議論されたことは非常に大きな収穫です。同時に、安全性を確保するための管理体制の構築や、組織を牽引する次世代の専門人材の育成といった難しい課題に対しても、決して立ち止まることなく、着実に第一歩を踏み出そうとするチーム日本の底力を確信しました。
これからの時代は、個々の企業や組織が内向きに留まるのではなく、外の世界と積極的に連携し、得られた知見を共有しながら共に成長していく姿勢が不可欠になります。更に、世界に先駆けて新しい共創社会のモデルを提示するためには、変化を恐れずに挑戦を続ける強靭な行動力や柔軟な思考が求められます。
オープンな情報交換と多国間協調の精神を持ち続けることこそが、この先の激しい競争社会を生き抜き、豊かな未来を築くための確かな道であると強く感じ、今後の日本のさらなる躍進に大きな期待が膨らむ頗る有意義なイベントでした。
佐伯 優斗(さえき ゆうと)氏
システム開発二課三係
富山高等専門学校(本郷キャンパス) 電気制御システム工学科卒 2022年新卒入社
中学生の頃から理系の科目が得意だったことから高専に入学。高専時代に熱中したのは、ラインをトレースしてゴールを目指すLEGOを使ったクルマの制御プログラミングと、ロボコン。いずれもチームで協力し合ってものづくりを行い、好成績を目指す日々に大きな充実感を得ていた。卒業後は開発職に就きたいと考えていたところ、就職サイトでイシダが開発職を募集しているのを発見。面接でも入社後の希望を語り、想い通りにシステム開発部門に配属された。
佐伯:入社4年目の私が関わっているのは、X線検査装置のソフトウェア開発です。この製品は食品の製造ライン上で異物の混入を発見する機能を持つことから、顧客である食品メーカーの品質管理において重要な役割を担っています。現行機種は市場占有率が高く、イシダの主力製品の一つになっています。開発中の新機種は機能を大幅に進化させていますから、出荷台数は大きく伸びるでしょう。
私は6名のソフトウェア開発チームの一員ですが、上司からは基本的な機能全般を任されています。機能を大幅に向上させただけあって、開発はチャレンジの連続でした。ソフトウェアを一から作り直すのみならず、新しい技術に挑む必要も出てきました。そこで私は、新しいプログラミング言語を独学で習得し、この困難を乗り越えました。上司から信頼され、重要なパートを託してもらっているからこそ、やり遂げようとする気持ちが高まったのだと思います。

滋賀事業所(滋賀県栗東市)の最上階の会議室でのインタビュー、見晴らしの良い会議室からは近江富士(三上山)を望むことが出来ます。
上野 夢月(うえの ゆづき)氏
第二開発部 プラットフォーム開発課六係
神戸市立工業高等専門学校 電子工学卒 2024年新卒入社
幼少期からLEGOなどで遊ぶのが好きだった上に、中学生になるとはんだごてを使ってラジオを製作する“技術”の授業で、ものづくりの楽しさに目覚めた。また、母親がかつてゲームプログラマーだったことからプログラミングに興味を持ち、高専を受験。授業では難易度の高い試作試験を一歩一歩クリアしていく達成感に熱くなった。その後の就活時期にイシダの組み合わせ計量機に多くの工夫が凝らされていることを知り、自ら関わりたいと思い入社を決めた。
上野:所属するプラットフォーム開発課では、主に電気系のエンジニアが活躍しています。そうした中で、2年目の私は10歳ほど年上の先輩にメンターとして付いて頂き、X線検査機の電気回路の設計業務を通してマンツーマンの指導を受けています。その内容は、機器内の配線やハーネスの配置などについてメンテナンス性を考えながらCADで回路設計に落とし込んでいくという仕事です。毎日が学びの連続ですが、それだけに自分自身の成長感は大きいですね。また、先輩は自分の成長のペースに合わせた指導をして下さっていると感じています。例えば、以前は何をどうするべきか指導を細かく受けていましたが、今では任される部分が広がったこともあり、自分で最適な配線経路などを考えつつ、先輩の確認を取りながら設計作業を進められるようになりました。少しずつ、自分が携わりたかったものづくりの仕事に近づいているという実感を持っています。
松下:私の所属する営業技術一課では、東日本エリアの顧客を担当しています。顧客毎に異なるシステムライン構築を提案する中で、私自身は生産工場内で材料や製品を搬送するマテハン機器と、自動で箱詰め作業を行うACPと呼ばれる装置を主に担当しています。マテハン機器は、弊社が開発・製造する主力製品である組合せ計量器やX線検査装置などとは異なり、機器やロボットなどを協力業者に依頼して作り上げます。
また、設置・導入作業についても協力業者に依頼します。営業技術の業務としては、顧客と密にコミュニケーションを取り、構想・要望されている製造ラインを確実に把握し、その実現に向けて初期段階から企画提案を行い、装置の選択や基本設計に関しても責任を持って進め、稼働に至るまでの一連の工程を管理するプロジェクトマネージャーの役割を担うことになります。こうした業務内容から、顧客のオフィスや地方の工場、外製品メーカや協力業者との連携が欠かせず、出張は毎週のようにあります。しかしそれだけ多くの関係者と直接向き合えるからこそ、この仕事のやりがいは大きいです。顧客の限られた工場内スペースに、予算内で希望されるラインを構築する。あらゆる難題を乗り越え、無事にラインが稼働した際にいただける顧客からの感謝の言葉は、感無量です。
松下 満郎(まつした みつお)氏
営業技術部 営業技術一課
北九州工業高等専門学校 生産デザイン工学科 知能ロボットシステムコース卒 2020年新卒入社
高専では、単に設計図どおりに装置などをつくり上げるのではなく、課題解決に向けて自分が考えたように装置を動かす技術に興味を持った。授業でも、色を識別して分別し、適切な箱に収める自動装置の開発が楽しかった。イシダを知ったのは友人がインターンに参加したのがきっかけで、この会社には授業で感じたやりがいの延長上にある仕事があると認識して入社を決意。同時に、社会ニーズを満たす製品開発で安定した経営を継続していることにも魅力を感じた。
吉見:私の所属するサポートセンター企画課の役割は大きく分けて二つあります。一つは、テクニカルサポート部門が必要とする業務支援システムの構築。確実な業務改善や投資効果が見込まれるシステムの構築を担っているのです。そしてもう一つが、新たな製品開発ニーズの発掘と、それをイシダ全体に届ける企画立案業務です。設備メンテナンスを担当するテクニカルサポート部門は顧客やその生産現場と密な関係を構築していることから、現場での課題や要望に触れることが多くあります。
そうした中で察知した新たなニーズやトレンドを私たちが集約して、製品開発に繋げているのです。最近は省人化に向けてDXやIoTの観点から新たな仕組みを構築することが多く、もうすぐIoTを駆使して遠隔地の設備の些細なエラーを素早く察知するシステムをリリースする予定です。顧客のラインを止めずに安定稼働させる予防保全の実現は、イシダに対する顧客の信頼をまた一段と確かなものにするでしょう。
奈良:イシダは顧客の工場に導入される機器や装置類だけではなく、生産管理システムや品質管理システムも提供しています。SE部は、これらのシステム開発を担っています。そして私が所属するSE一課が担うのは上流工程であり、プログラム製造は開発SEか、外部の協力企業に発注するか、イシダグループのシステム会社が担います。私の課では、顧客とコミュニケーションを重ねながら、要件定義や基本設計をメインに、上がってきたプログラムのテストや検証を担当するのです。これこそ私がまさに望んでいた業務でした。
現在は入社2年目ということもあり、約20歳年上と10歳年上の先輩からの指導を受けながら、独り立ちに必要なスキルを学んでいます。1日に何回も質問していますが、毎回丁寧にしっかりと教えてもらえるので、この半年間ほどの成長は我ながら著しいと感じています。また、先輩たちからは技術面に加え、仕事への姿勢についても学ぶところがたくさんあります。例えば、顧客からの高度な要望に対して、できないことはできないとしっかり答え、現実的且つ要望に添えられる代替案を出しているのです。そのレベルにはまだまだですが、いずれは私も追いついて、会社に貢献したいですね。
吉見 智博(よしみ ちひろ)氏
ビジネスサポートセンター サポートセンター企画課
東京工業高等専門学校 電子工学科卒 2016年新卒入社
尊敬するシステムエンジニアの父が、東京高専の教授と共同開発を行っていたことから、父の勧めで入学。
ただ、授業にはそれほど没頭せず、英語で話すことが好きだったこともあり、海外からの留学生との交流に加え、個人でGoogleやAppleなど海外IT企業の現地見学に足を運ぶことに精を出した。このように海外指向が強いことからグローバル展開を積極的に進めているイシダに目が止まり、将来の海外勤務の可能性も大いにあり得ると考えて入社を決めた。
佐伯:入学当初から実践的な授業や実験を重ねていましたが、その経験が今の仕事に生かされていることを実感しています。それに、大卒よりも2年早く就職出来るのは、早く自分のやりたい仕事に就きたい学生にとっては大きなアドバンテージですね。
上野:確かに高専時代の授業はとても役立っています。私も入社後に担当することになった回路設計の仕事に初めて向き合った時に、かなり複雑だと感じ、気が重くなりました。ところがよくよく見てみると、部分部分は高専で習ったことだと気づき、ゴールへの視界がパッと開けたのです。授業では、どのような目的のために学んでいるのか見えない部分があったのですが、技術の土台はしっかりと築かれていたのですね。
松下:私も社会に早く出られたので、高専に入って良かったと思っています。今年度は大学院を出て入社してきた同年齢の後輩に指導しています。イシダでは同じ入社年次の同期同士の関係が強く、生涯の仲間になります。同じ年齢でも入社年次が後だと後輩の立場に収まるのです。高専卒と大卒、大学院卒では処遇に学歴の差はありません。
そして、大学院卒の後輩に教えるほどスキルの差があるということは、高専での実践的な授業が優れており、入社後に獲得した技術や実務経験の価値も高いということではないでしょうか。
奈良 明希(なら あき)氏
SE部 SE一課
広島商船高等専門学校 流通情報工学科卒 2024年新卒入社
中学卒業後は実家から時間をかけずに通学出来るできる学校が3校しかなく、その中で最も自分を成長させてくれそうな進学先として高専に入学した。選択した流通情報工学科では、ITに加えて生産者から消費者まで商品が流れていく流通業界についても学ぶ。イシダへの入社を志望したのは、インターンシップを通して、それまでに学んできた食に関わる生産技術の知識が活かせると実感できたから。穏やかな雰囲気の社風や、希望配属先を尊重してもらえる点も魅力的でした。
吉見:私は高専の授業を通して、教授の頭の中で巡らせている高度な思考回路を汲み取る能力が磨かれたと感じています。そこから論理的な思考を身につけられました。このスキルは今、自社の経営層の判断を正しく理解することに役立っています。
奈良:高専時代のプログラミングの授業では、教科書に書かれている内容を最初から最後まで教えるのではなく、時々自分で深く考える時間が与えられました。それがとても良かったと今は思います。例えば障害発生時の、原因を追求していく能力に繋がっています。答えを知るのではなく、答えに辿り着く力が身についているのでしょう。

インタビューのため、地元だけでなく東京からもご参集していただきました。
X線検査装置IXシリーズ。従業員の創意工夫を製品に反映する風土のもと、ガラスや骨などの低密度異物も逃さない高精度な検出を実現。また、京大との連携でアニサキス専用の検知波長も開発。生食の安全を守る装置として、幅広い現場に導入されています。
佐伯:まずは上司や先輩たちの誰もが、労を惜しまずに指導してくれる風土が、若い社員たちの能力を引き出していると感じています。社内で接する人は優しい方ばかりで、質問や相談がしやすいですしね。また、仕事の進め方を技量に応じて任せられるのも嬉しいです。私は普段は残業をほとんどしませんが、ここぞという時は遅くまで残って仕事に集中しています。
松下:若手社員にチャレンジの機会を与えてくれることも、向上心を高めます。会社全体で一丸となって社会が求めている製品に挑んでいるので、増収増益が続いているのかもしれませんね。就活時には会社選びを慎重に行なって下さい。イシダのようなBtoBの事業を行っている企業は一般にあまり知られていませんが、イシダは長く安心して働く事が出来る企業です。
吉見:イシダは成長機会が本当に多い会社だと思います。私は2026年4月から滋賀大学大学院への編入学が決まっています。開発部門の推薦を受けて決まりました。イシダで働きながら、大学院で最先端のデータサイエンスを習得することになります。その後は、イシダのグローバルビジネスをさらに拡大・推進できる人材として活躍したいと考えています。イシダで働く魅力を深く感じ続け、気がつけば10年も経っていました。今はさらに実力を磨いて、会社に恩返ししていこうと考えています。
私のように、入社してから会社の本当の良さに気づけたのは単に幸運だったと思います。後悔しないためには、就活時にしっかりと企業の社風や中身を探ることだと思います。
奈良: SE部には開発SEとフィールドSEがあり、私はフィールドSEとして所属をしています。さらにフィールドSEの中にもシステムの開発対象が食品工場、店舗、物流倉庫・・・と複数あり、どこを担当したいのかは基礎学習が終わってから自分で選びます。本人の思いもよらない豊かな可能性を判断して人事部が希望とは別の部門を勧めるケースがあるかもしれませんが、イシダは基本的に社員個人の未来への想いに寄り添ってくれる会社なのです。
自分がやりたい仕事内容は何か、それを高専時代から出来る限り具体的に思い描いて下さい。そして、それを実現出来る会社を選び抜けば、きっと満足のいく社会人生活を送れることでしょう。
※イシダのSEには、お客様先に出向いてシステム仕様設計・テスト・導入を担当するフィールドSEと、社内でシステムの開発や新技術研究を担当する開発SEの2つがあります。