高専出身の転職は正社員専門のエリートネットワーク

高専インタビュー

地域産業発展に深く寄与する学びの機会を提供し、未来を自分で選び取る力を磨く教育を進めています。

Interview

有明高専の概要をご紹介下さい。


有明工業高等専門学校 正門前にて

本校が立地する有明地域は、主に福岡県大牟田市と熊本県荒尾市によって構成されています。
このエリアは東洋一の採炭量を誇った三池炭鉱によって近代になってから繁栄を極めましたが、昭和後期から現在に至るまでは国内石炭採掘産業の衰退および平成9年の閉山によって人口が急激に減少。昭和35年に20万人を超えていた大牟田市の人口も、令和4年には11万人と実に半減してしまいました。
そうしたかつての地域の基幹産業であった石炭鉱業に替わって、新しい地域産業の興隆を引き寄せるイノベーションとそれを担う人財の輩出という、地元の熱い期待を背負い続けてきたのが有明高専と言えるでしょう。

もちろん、卒業生のすべてが地元企業に就職している訳ではありません。他の高専と同様、東京や大阪に本社を持つ大企業への就職者の割合は大きく、毎年一定数の学生は国公立の大学に進学しています。
それでも学生・教員と地域の企業との結びつきは強く、企業の課題解決を導く共同研究・共同開発、そうした連携企業からテーマをいただくPBL(Project Based Learning:問題解決型学習)の実施、インターンシップ、更に外部資金の獲得、2市の教育委員会と連携した出前授業等の教育プロジェクトの展開、高専ハカセ塾、各種イベント協力等、産学官に加え地元金融機関とも繋がった産学官金連携による地域貢献・産業振興は、後ほど詳しく述べますが、本校のあらゆる教育活動と結びついています。

有明高専の特徴的な取り組みについて教えて下さい。


令和4年度の高専ロボコンでデザイン賞を受賞した「AppRoachIng」

私は、高専は可能性の宝庫だと考えています。本科の5年間に亘り、教育指導要領にとらわれずに時代が求める工学系人財の育成に向けアップデートした教育を受けていく中で、学生たちは自分自身の未来の活かし方を模索することが可能だからです。
15歳から基礎的な工学技術を学び始めますが、実験・実習を重視する日々の授業やロボコン(※)、プロコン、デザコン、英語プレコンといった各種コンテストへの挑戦、寮や運動部・文化部等の課外活動を通して、将来の自分自身のコンピテンシーの礎となる問題解決力や分野横断能力、コミュニケーション力、プレゼンテーション力等を磨く機会やそれを得るために試行錯誤できる機会がふんだんにあります。
未来を自分で選び取れるのが高専なのです。

※有明高専は令和4年度の全国高等専門学校ロボットコンテストにおいてデザイン賞を受賞しています。詳細はこちら

そうした高専ならではの、将来に向かって開けている機会を更に広げるためのひとつの解として、有明高専では平成28年から学科を創造工学科のみとする1学科制を取り入れています。
1年生から2年生の途中まで、1学年の約200名は専門分野の基礎となる工学を広範囲に学びながら、自分自身の適性や希望を見極めていきます。そして2年生の途中で6つのコースの中から1つを選択し、専門分野に進むことになります。

6つのコースは、環境・エネルギー工学系と人間・福祉工学系に分かれており、前者にはエネルギーコース、応用化学コース、環境生命コース、そして後者にはメカニクスコース、情報システムコース、建築コースが用意されています。
このように、専門性の選択における動機付けを低学年時から発達段階に応じて実施する体制が整えられているので、3年生以降は自分自身の進む未来を明確に意識し、卒業時にはその未来に必要となる現場に即した創造的かつ実践的な実力が身に付いています。

有明高専の地域連携についてご紹介下さい。

有明高専を語る上で外せないのが地域の企業や自治体との連携です。
どの高専も地域社会や地域企業との連携に重きを置いていますが、とりわけ本校ではこの取り組みを重視しており、身近な問題を解決に導く意義や手法に触れる授業として、2年生全員が「地元学」を学びます。

平成9年の三池炭鉱の閉山以降、地元の有明地域の衰退は顕著であり、超高齢化社会の到達が間近に控えています。このような状況に対して、大牟田市や荒尾市ではより良い社会の構築のために様々な事業や提案を行うことで地元の活性化に注力しています。
そこに本校の学生たちがチームを組んで参画するのが地元学の授業です。
実際に自治体職員や商工会議所職員の方々とディスカッションを繰り返しながら、地元の当事者かつ未来を担う技術者の意識で様々な問題や課題を認識。テクノロジーを駆使した解決策を考え、最終的にその成果をプレゼンテーションするといった内容になります。
現在、この地元学は大牟田市と荒尾市に加え、柳川市、みやま市、南関町(なんかんまち)、長洲町(ながすまち)の4市2町からなる有明圏域定住自立圏に対象領域を広げ、県域を超えた広域な自治体との共育プロジェクトに発展しています。


「産学連携マッチングラボ」を主導している石川洋平准教授。
「面白くないことはやりません!」「ニコニコしながらコケまくれ!」「目立たず地道な成果は人としての成長!」をラボのポリシーに掲げ、生徒が研究活動を楽しめる仕組みを作っています。

企業を巻き込んだ産学連携活動においても、本校は多数の地元企業とタイアップし、数々の成果を上げています。
特に電子回路が専門の石川洋平准教授が主導なさっている「産学連携マッチングラボ」は、令和3年に立ち上げたばかりであるにも拘らず様々な業種の企業と関わり、地元産業の新事業開拓に大きく貢献しています。

この産学連携マッチングラボとは、本校の校内に設置された研究開発拠点です。企業の研究課題について本校の複数教員による研究グループと企業研究者の双方が継続的に取り組み、その解決や成果の創出に向かうとともに、卒業研究の一環として学生を積極的に研究に関与させることで、学生の研究開発力・プレゼンスの向上を図ることを主眼に置いています。

これまでに、理化学用ガラス機器の株式会社旭製作所、産業機械の株式会社三井三池製作所、AIソリューションに強い木村情報技術株式会社、株式会社佐賀銀行、半導体関連からは株式会社JEDAT、株式会社トッパン・テクニカル・デザインセンター、日清紡マイクロデバイスAT株式会社等、福岡県や隣県の佐賀県に本社や事業拠点を持つ企業の参画があり、多彩な共同研究が進行中です。

産学連携マッチングラボ誕生のきっかけとなったのは、平成24年の本校の電子情報工学科(現 情報システムコース)在学中だった有志学生による、アプリケーション開発を行う団体の発足でした。翌年に本校の石川研究室、佐賀大学、木村情報技術の3者による共同研究が開始し、それぞれの頭文字をとって、「ASKプロジェクト」と命名されたのですが、そこに先の学生団体のメンバーが参加して起業するという運びになりました。
その直後に「佐賀ビジネスプランコンテスト」に参加し、参加メンバーがグランプリ、金賞を受賞。
勢いを得たASKプロジェクトは某医学系学会向け講演動画配信iPhoneアプリの開発や、民生委員・児童委員向けアプリケーションの開発を経て、平成26年に株式会社化を果たしました。
現在では社員数が11名となり、そのうち技術に関わるメンバー9名全員が有明高専の卒業生・在学生です。
そして、このASKプロジェクトがゲームやIoTを題材にAI活用人財の育成を、本校とタイアップして本校内の施設で行うこととなり、産学連携マッチングラボの第1号事案となったのです。

また、石川先生は自ら主催する石川研究室、本校の清水研究室と野口研究室、大分高専の井上研究室とのコラボレーションで、IC Lab.(情報電子回路研究室)を立ち上げ、サーキットデザイン(集積回路設計)教育を推進しています。
九州は世界的半導体ファウンドリ企業であるTSMCの工場進出等により半導体産業が発達しています。熊本高専等は半導体の製造技術の先端開発に取り組んでいますが、本校は回路設計技術を極めていくことで、次代の半導体分野が求める回路設計のエキスパート輩出を担おうとしています。

有明高専のグローバルな取り組みについてお聞かせ下さい。

地元学を通して学生に社会実装教育をより自分ごととして捉えてもらう教育を進めるとともに、本校はグローバルな視点を養う機会の創出にも注力してきました。
地球規模で考え、足元から行動するグローカル(グローバルとローカルをかけ合わせた造語)な視座を持つ重要性を早くから認識してきたのです。

そこで本校では2年生の全員が、学校行事としてシンガポールのポリテクニック(高等技術専門学校)を訪問する体制の実現を目指しています。
この海外研修の実施により、長短期の海外留学と併せて年間の海外派遣学生数は300名程度になることを予測しています。1度でも海外に出た学生は、次から自発的に渡航するケースが多いことから、研修後に海外へ雄飛しようという志を持つ学生が増えることを期待しています。

八木先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。

私自身、明石高専の建築学科の卒業生です。
その後、豊橋技術科学大学に編入学し、京都大学大学院 工学研究科で建築学を専攻。博士後期課程を終え、明石高専に助手として就職し、助教授時に京都大学で博士号を取得しました。

それ以降は明石高専で教員を続け、2016年からの3年間を国立高専機構の本部で勤務し、2019年から新居浜高専の校長を務めました。そして2022年から有明高専の校長を務めています。
研究者としての専攻は、都市景観計画、歴史的建造物を保存活用したまちづくり、文化財保存活用地域計画です。

高専の在学生および卒業生へのメッセージをお願いします。


人材を「人財」と表現することを心掛けているように、高専生は社会の財(たから)です。
社会から求められているミッションを実現できる能力、意欲が高専生には備わっていますので、存分に力を発揮して欲しいと思います。

高専制度が創設されてから60年の歴史を積み重ねました。その過程で再評価を繰り返しながら、近年の高専の高度人財育成はイノベーションを志向する時代のニーズに先駆けるものとして産業界から高評価を得ています。
一方で、その多くが地方に立地する高専は、人口減少と少子高齢化が進む地域の実情を目の当たりにしています。今後に向けて、高専がどのような役割を果たせるのか、私はこれからの高専が果たすべき基本的なミッションを次のように受け取っています。

1.社会実装を念頭においた高専の研究開発の飛躍的な強化を通じた新しい産業を担う人財の育成
2.高専教育の質保証と国際標準化
3.地域社会を支える人財の育成
4.国際社会の発展に貢献する人財の育成

これらを具体的に実現していくために、各高専は地域固有の産業・社会と連携して独自性を発揮し、多様な試みにチャレンジしていくことになります。それは、各地域で価値を持つだけではなく、どの地域にも横展開が可能で、更にグローバルにも繋がるものと認識しています。
高専で学んでいる在校生はもちろん、高専を卒業された卒業生の皆さんの活躍の場は想像される以上に広がっていくはずです。
皆さんが選択する道は様々でしょうが、そこで邁進すれば、きっと大きな実を結ぶことでしょう。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。