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高専トピックス

近年は全国的な注目を集めるようになった「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」(以下、高専ロボコン)。毎回異なる課題に対応するロボットを製作して得点を競うコンテストですが、得点による順位を決めるだけではありません。“アイデア対決”と名付けられているだけに、オリジナリティ豊かな設計による挑戦も評価のポイントになっています。
そして、単に結果を問うだけではないコンテストであることの趣旨が、高専ロボコンという大会に感動や深みをもたらしているのではないでしょうか。

2022年11月27日に両国国技館で開催された「高専ロボコン2022 全国大会」では、有明高専からエントリーしたチーム「AppRoachIng」が、デザイン賞に輝きました。
競技得点としては1ポイントしか獲得できず1回戦で敗退した同チームのどんな点が評価されたのか、そしてどのような想いでこの大会に臨んだのか、チームメンバーや指導教員にお聞きしました。

取材した出場メンバー
有明工業高等専門学校ロボット研究部
・近藤 瑞起 さん(人間・福祉工学系 メカニクスコース/4年 チームリーダー)
・橋口 佳司 さん(人間・福祉工学系 情報システムコース/5年)

指導教員
・白川 知秀 先生(創造工学科助教) 

(掲載開始日:2023年5月10日)

有明高専チーム「AppRoachIng」デザイン賞受賞ポイント


ロボコン2022全国大会に出場した「AppRoachIng」。対戦チームが次々と紙飛行機を飛ばすなか、ゆっくりと誘導灯が燈された滑走路を紙飛行機が進む様子が、観客の目を惹きました。

2022年の高専ロボコンは、ロボットが紙飛行機を飛ばして、エリア内の5か所の円形スポット、2か所の縦長滑走路、2種類の筒型ベースの中に、より多くランディングさせることを競うというルールでした。
2分30秒の制限時間の手前であってもすべてのスポット、滑走路、ベースに1機以上の紙飛行機が乗った状態になれば、その瞬間にVゴールとなります。Vゴールによる勝利を目指すチームは、より多くの紙飛行機を目標目掛けて直線的に飛ばすロボットの開発を目指したようです。

ところが有明高専「AppRoachIng」がエントリーしたロボットは、見るからに飛行場を模したもの。ロボットの上面に備えられたLEDの灯火に縁取られた誘導路上を飛行機がゆっくりと移動し、1機ずつ管制塔からの指示を待つかのように順番に準備を整え、優雅に飛び立っていくのです。
このロマンチックとも言える演出に、会場の視線は釘付けになりました。紙飛行機をどのようなロボットがどのように飛ばすのか、そのプロセスを魅力たっぷりにデザインしたAppRoachIngにデザイン賞が贈れたことに、異議を唱える人など皆無だったのではないでしょうか。

受賞者の皆様へインタビュー

今回、飛行場を模したロボットに紙飛行機を飛ばす着想について教えて下さい。


何としても全国大会に進むための戦略として、夜の飛行場の美しさの再現にこだわりました。飛行機は飛び立つ瞬間が一番わくわくする、それを表現したかった。LEDはひとつずつ手作業ではんだ付けをしてこだわり、ベルトに取り付けた磁石によって飛行機が自走しているように工夫しました。

近藤さん:実は有明高専は、過去10年に渡ってロボコンの全国大会に行けなかった時期が続いていたのです。それで、何としてでも全国大会に出ようと考えました。
全国大会に行くには、九州地区大会で得点の1位になるか、あるいは審査員に推薦される3チームの中に入れば良いのですが、自分たちには1位になるロボットをつくる技術力があるとの確信を持てませんでした。
そこで、点を取るための機能を磨きこんだロボットではなく、他校とは一味違う面白いロボットを製作して、唯一無二の独自性を評価してもらうという戦略を立てることにしたのです。

橋口さん:最終的にロボットの上面を夜の空港に見立てて、離陸までのアプローチを演出するという表現にたどり着きましたが、そこに至るまでには、竹トンボ型の紙飛行機や、虫のように羽ばたく紙飛行機も考えました。

近藤さん:決め手は実現の可能性という要素も大きいのですが、やはり見た目で勝負して印象に残るロボットにしようということになりました。もちろん、紙飛行機を飛ばすというロボットの基本的な機能をないがしろにしたわけではありません。
競技に参加できる水準をクリアすることが大前提でした。そこを無視すれば、どんなに目立つロボットでも評価の対象にはならないと考えました。

技術的に難しかった点・頑張った点・それをどう乗り越えたかを教えて下さい。

橋口さん:私は回路設計を担当しました。機械にプログラムを実装してテストするまでは、自分の書いた制御プログラムが正しいのか不安でした。

近藤さん:私はメカニクスの設計を担当したのですが、紙飛行機を射出機に運ぶ機構の設計で、何度もボツを出さざるを得ない状況が続きました。与えられた九州地区大会までの半年間は短かったですね。

橋口さん:工程は組みましたが、そもそもそのスケジュール通りに進めるとは思いませんでした。ですから常に時間のプレッシャーと戦っていました。

白川助教:彼らはロボット製作を通常の授業が終わってから進めていたのですが、レポート提出やテスト勉強で忙しい中、何とか時間を捻出して取り組んでいました。それこそ、大会会場までの往復の飛行機の中で、後期試験に向けたテスト勉強をやっていました。

大会当日のご自身のお気持ち、会場の反応などをお伝え下さい。

近藤さん:九州の地区大会の時は、最初に他のチームのロボットを見て、その出来栄えに自信を無くしました。でも、自分たちのロボットを動かし始めると、会場の人たちの食いつきが違ったのです。その時点で手応えを感じました。

橋口さん:地区大会1日目は微調整が足りなくて会場で試行錯誤しました。紙飛行機をゆっくり運ぶとうまくいったのでホッとしました。

近藤さん:そして手応え通り本大会進出が決まった時は、自分たちの戦略が間違っていなかったことが確認できてやり切った達成感がありました。こうして目標を達成できたこともあり、全国大会には臆することなく自信を持って挑みました。
全国大会でも、競技で対決するチームよりも会場の視線を自分たちに集められたので、これは何か表彰されるかも…?と、少し期待しました。それだけにデザイン賞の受賞は本当に嬉しかったですね。

皆さんが高専で学んで良かったと思うことを教えて下さい。


ロボットは制御、設計、製作の担当に分けて短期間で仕上げました。様々なアイデアを盛り込み、それを短期間で完成させるのは、教科書では教わらないこと。高専で培ってきた実践的な教育とチームワークの賜物だと思います。

近藤さん:高専の良いところは、座学だけではなく、実験や実習の経験を積みながら技術を習得できることだと思います。ゼロから考え始めてものづくりを進めていく実体験は、技術者としての自信につながります。
私は卒業後に鉄道や航空関連など交通インフラに関わるものづくりの仕事をしたいと考えていますが、高専で学んだ技術がどれだけ活かせるか、今からとても楽しみです。

橋口さん:私は工業高校を卒業してから有明高専の4年生に編入学してきました。高校でロボット技術に触れていたのですが、もっともっと本格的にロボットに関して学びたいと考えて高専に進学したのです。
この想いは十分に満たされました。高校の時のように先生主導の授業ではなく、手を動かして自ら考えていく自主的なスタイルの高専教育は、技術が確実に自分のものになると思います。

皆さん、研究や授業でお忙しい中、お答え頂きありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。