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高専トピックス

 「KOSENセキュリティコンテスト2025」が10月25日(土)、オンライン開催され、全国の高等専門学校(以下、高専)16校から出場した30チーム99人が熱戦を繰り広げました。IT企業が出題する難問に高専生がサイバーセキュリティの技術を駆使して挑み、朝から夕まで6時間40分にわたって全国各地で奮闘。奈良高専の「25時、MOREMORE VSコードでJUMP!。」が見事優勝をつかみました。
 最近は高専生が同好会を立ち上げ、企業サークルとオンライン大会で対決することもあるCTF競技の世界。高専生によるコンテストの様子を伝えます。
(掲載開始日:2025年11月5日)

「国際大会」が毎週 企業チームも参戦


企業が作成した難問に挑む高専生たち。サイバーセキュリティの技術を駆使し、解答数を競い合った(写真はいずれも千葉県木更津市の木更津高専)

 サイバーセキュリティの技術をゲームやクイズ形式で競う競技は、CTF(Capture The Flag)と呼ばれ、世界中でオンライン大会が開かれています。高専でのコンテストは、主催者が用意した問題に挑む「Jeopardy形式」で行われ、Webアプリの欠陥を発見して利用したり、暗号アルゴリズムの不備を解読したりして、隠された解答(Flag)を見つけ出します。このほかCTFには、自チームのシステムを守りながら相手チームを攻撃する「Attack-Defense」や、システムに侵入して管理者権限の奪取を目指す「Boot2Root」などの試合形式があります。

 いずれもシステムの脆弱性を解析するなど、サイバーセキュリティに必要な技術が試され、企業のエンジニアが腕試しと趣味を兼ねて社内でチームをつくったり、エンジニアを志す学生が挑戦したりと、近年競技は活気づいています。大会の開催情報を掲載する世界的なプラットフォームサイトもあり、海をまたいで誰でも簡単に参加できることから、企業や大学、個人の主催で大小の「国際大会」が毎週のように開催されています。国内でもNTTグループやNECといった、IT事業を展開する企業の社員がチームをつくり、続々と参戦しています。

 「KOSENセキュリティコンテスト」では、企業向けにセキュリティサービスを展開する株式会社ラックがシステム構築や設問を請け負い、日立グループ(日立製作所、日立ソリューションズ、日立ソリューションズ・クリエイト)が問題制作で協力。主催の木更津高専(千葉県木更津市)の会場で2社の担当者らが朝からノートパソコンを持ち寄り、作業に当たりました。
 両社も社内にCTFチームがあり、準備を進める社員の中にはチームメンバーの姿も。休日によく大会に出場しているというエンジニアの男性は「この前、高専生のチームも偶然同じ大会に出てました。順位は…勝てて良かった」と笑います。

同好会を結成 「世界3位」に


主催を務めた木更津高専の校舎。学内チームの学生は図書館棟の教室でコンテストに臨んだ。

真剣な眼差しでパソコンに向かう木更津高専のチーム。今春創設された同好会のメンバーも参加した。

 国立高等専門学校機構は、2016年度から産学連携によるサイバーセキュリティ人材の育成に力を注いでいます。推進組織として「KOSENサイバーセキュリティ教育推進センター(K-SEC:KOSEN Security Educational Center)」を設立。木更津高専と高知高専が運営校となり、企業の現役エンジニアが講師を務めるオンライン講座や交流イベントを企画し、専門教材の普及やインターンシップの促進にも取り組んでいます
 サイバー攻撃の脅威が増す中、セキュリティエンジニアは企業でまだまだ不足しており、高知高専が専門の情報セキュリティコースを設けるなど、高専で人材を育てる動きが広がっています。

 コンテストはK-SECの事業の一環で、木更津高専が中心となって毎年開催。最大4人でチームを組み、情報工学などを学ぶ全国の高専生が学内で仲間を集めて出場しています。
 前回優勝した木更津高専では、プログラミングやハードウェア設計を学ぶ情報工学科の生徒らが今春、サイバーセキュリティ同好会を立ち上げました。創設メンバーの4年生5人は4月、チーム「m01nm01n(モインモイン)」の名で、フランスの学生団体が主催するCTF大会に参加し、オンライン予選を突破。企業などから渡航費の寄付を募り、6月にフランス西部のレンヌで開かれた本大会に挑みました。
 韓国やスペインなどの25チームで決勝を争い、木更津高専は学生チームで3位、社会人を含めた全体でも7位に輝きました。同好会のメンバーは広がり、現在は約30人が名を連ねます。

 今年は校内から3チームが出場。うち2チームの8人が会場の教室に集まりました。2台のパソコンを操る4年生の常木丈鳳つねきひろたかさん(18)は、フランスに行った同好会創設メンバーの1人。週1回ほどのペースでオンライン大会に出ているといい、「いろんな大会に参加することで幅広い知識が身に付くのが嬉しいです。パズル要素もあって面白い。将来はセキュリティエンジニアになりたい」と話します。

 午前9時20分、コンテストが開始。全国各地で30チームが一斉にパソコンに向かいました。難易度の高い問題ほど高得点が獲得でき、数ある問題の中から学生たちは優先順位と担当を決めて答えを探します。午後4時の終了時刻まで、チームメンバーと時折相談しながら、キーボードを叩く音が教室に響きました。

優勝は奈良高専 6時間40分の激闘


解答を探してチームで相談。高難度の問題をいかに多く解くかが勝負の鍵を握る。

 6時間40分の戦いの結果、今年は奈良高専の「25時、MOREMORE VSコードでJUMP!。」が5550点を得て優勝を果たしました。2位は長野高専の「WabiSabiWasabi」で5100点、3位は東京高専の「sudoNeko」で5050点を獲得。4位は木更津高専の「m01nm01n」で4900点、5位は鳥羽商船高専の「helltoba.com」で4500点と、上位陣も接戦を繰り広げました。

 出題した企業によると、コンテストで用いられた技術や知識は、企業の社内システムやネットワークの脆弱性を診断するセキュリティエンジニアのペネトレーションテストなどで応用されるといいます。
 企業のエンジニアも学生も一緒になって楽しむCTFの世界。コンテストは、高専教員や関係者の尽力により、学生の研究心向上のきっかけとしても定着してきました。競技の熱が情報セキュリティの発展につながっています。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。