高専トピックス
アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト(高専ロボコン)は、1988年から毎年開催され、今年で36回目の開催となります。
高専ロボコンは全国の国立・公立・私立の高専58校63キャンパスが、毎年異なる競技課題に、アイデアを駆使してロボットを製作し、競技を通じてその成果を競うコンテストです。
全国の8地区(北海道、東北、関東甲信越、東海北陸、近畿、中国、四国、九州沖縄)で実施された地区大会を勝ち抜き、選抜された27チームが全国大会に出場しました。
今大会の競技テーマは「もぎもぎ!フルーツGOラウンド」です。昨年同様、対戦型の競技となっており、障害物を乗り越え、フルーツを収穫・運搬し、獲得したフルーツに応じた得点の合計点を競います。
フィールドでは相手チームとのインタラクションがあるため、インタラクションならではの作戦が試合の鍵を握ります。この困難なテーマに高専生たちは、各チーム一丸となって取り組み、大奮闘しました。
(掲載開始日:2023年12月5日)
テーマ・ルール
本競技のミッションは、フィールドに吊るされたフルーツ(ネットに入っているカラーボールの集合)を出来るだけ多く取ることです。フルーツスポットにはキウイ(1.4m・10点)、みかん(1.7m・20点)、もも(1.75m・30点)が設置されており、中央にはブルーベリー(2.0m・40点)、ぶどう(2.2m・50点)、ミックスフルーツ(2.4m・70点)の高さと得点が異なる6種類のフルーツが吊るされています。
各チームのロボットは、最大で高さ1.6メートルまでとサイズ制限があります。競技が始まると、ロボットは反時計回りにコースを走行し、フルーツを収穫します。ただし、コースには障害物があり、途中には5本の角材(地区大会では3本)と高低差のあるロープ3本(地区大会では高低差が同じロープが3本)が配置されています。全国大会では障害物のレベルが上がり、「障害を克服する」力が試されます。
フルーツを収穫して、かごに入れたら得点の獲得となります。ただし、フルーツを保持しているだけでは1点しかもらえず、落としてしまったら0点です。スタートゾーンへ戻ってきて2周目からは、高得点を狙うためのお助けアイテムが使用可能です。ただし、このアイテムは縦・横・高さの3辺の合計が2メートル以下、重さが1キログラム以下で、電力の使用は禁止されています。お助けアイテムの巧妙な活用が、チームのアイデアとクリエイティビティを発揮する見どころとなります。
競技時間は2分30秒で、時間内に穫ったフルーツの合計得点で最終的な勝敗を決定します。ロボットがどれだけ高得点のフルーツを収穫できるかが、真の腕の見せ所です。
トーナメントを勝ち上がった優勝チーム、準優勝チームに表彰が贈られます。
加えて大きな夢とロマンを持ってロボットを製作し、見る者に深い感動を与え、唯一無二のアイデアを実現したチームには、最も名誉ある賞「ロボコン大賞」が贈られます。
その他にも、アイデア賞、技術賞、デザイン賞、アイデア倒れ賞、特別賞があります。
表彰されたチーム一覧(学校名・プロジェクト名・賞)
学校名 | プロジェクト名 | 賞 |
長岡工業高等専門学校 | ダブルラリアット | ロボコン大賞 |
大阪公立大学工業高等専門学校 | 鴉 | 優勝 |
熊本高等専門学校(八代キャンパス) | Highbrid | 準優勝 |
沖縄工業高等専門学校 | 獅子舞プロジェクト | アイデア賞 |
鈴鹿工業高等専門学校 | 鈴鹿夜行 | 技術賞 |
小山工業高等専門学校 | ワンダフルケーキ君 | デザイン賞 |
佐世保工業高等専門学校 | 響嵐 | アイデア倒れ賞 |
東京都立産業技術高等専門学校 (荒川キャンパス) | Fruits full 2 | 特別賞(本田技研工業株式会社) |
鶴岡工業高等専門学校 | かっとび君 | 特別賞(マブチモーター株式会社) |
北九州工業高等専門学校 | ベストハーヴェスト | 特別賞(株式会社安川電機) |
阿南工業高等専門学校 | 果糖丸 | 特別賞(東京エレクトロン株式会社) |
近畿大学工業高等専門学校 | moggy | 特別賞(田中貴金属グループ) |
苫小牧工業高等専門学校 | キャサリン | 特別賞(ローム株式会社) |
旭川工業高等専門学校 | クグラン | 特別賞(セメダイン株式会社) |
福島工業高等専門学校 | 白虎 | 特別賞(株式会社デンソー) |
ロボコン大賞:国立 長岡工業高等専門学校 [新潟県]
プロジェクト名:ダブルラリアット
高専ロボコン出場者全員が目指している栄誉あるロボコン大賞に輝いたのは、長岡高専です。
製作したロボットは、機体に "お助けアイテム" の2本のアームを取り付ける事で、高所のフルーツを収穫出来る特徴を持ちます。
アームは、電力で動作するアクチュエーター等の搭載はルール上認められていないため、ロボット本体からの動力の伝達のみにより、人間の腕のような関節と手先の稼働が可能となっています。また、その特徴的なアーム構造だけでなく、周回スピードの速さも大会トップクラスでした。
トーナメントでは準々決勝で、残念ながらあと一歩のところで小山高専に敗れてしまいましたが、”もぎもぎフルーツ” のイメージに最も近い機構に挑戦し、難易度の高いダブルアーム操作や3人で分担してロボットを操縦するチームワーク力が審査員の方々に高く評価され、ロボコン大賞に選ばれました。
優勝:公立 大阪公立大学工業高等専門学校 [大阪府]
プロジェクト名:鴉(カラス)
優勝は、どのチームよりも早く障害物を超えることを目指した、スタイリッシュでありながら、多くの機能を持ち合わせたロボットを製作した大阪公大高専でした。
1回戦から402点という高得点を叩き出し、その後決勝戦までの計5回の対戦でも高得点を出し続け、相手チームに圧倒的な点差をつけて勝ち抜きました。
センターフルーツスポットを相手チームより早く陣取り、高得点のフルーツを独占する戦略と、その戦略を実現する為に壁と機体の距離を補正するソフトウェア、前後ともに段差を乗り越える事ができる機構、自由に動く剛性をもつ11段アーム、などの高い技術力、そしてそれを巧みに操るドライバーやチーム全員の練習量があいまっての優勝と言えます。
落としたフルーツを拾い上げる場面や、ロープをスピーディにくぐる為のカバーがフルーツをもぎ取る場面では、カラスが羽を広げたように拡がりフルーツを受ける籠に変わる様子など、見ていて楽しく、工夫が満載のロボットでした。
準優勝:国立 熊本高等専門学校 八代キャンパス [熊本県]
プロジェクト名:Highbrid(ハイブリッド)
準優勝となった熊本高専八代キャンパスは、上下に伸ばせる駆動輪や足についたメカナムホイールとベルトのハイブリッドな足回りを用いて、角材の上では戦車の様に滑らかに進み、高低差のあるロープゾーンでは足を上げ下げすることで、安定した走破性を見せてくれました。また、走りながらフルーツを収穫することができるため、1周目から安定して得点を稼ぐことが可能です。
2回戦では大阪公大高専に敗退してしまうも、ワイルドカード(※)として、準々決勝へ進出します。そこで勝ち上がり、決勝戦で大阪公大高専とリベンジマッチします。2回戦の敗退を活かし、センターゾーンのフルーツ収穫はせずコース上にあるフルーツ収穫をするも、敗退してしまいリベンジは叶わずでした。しかし、対戦相手に合わせた臨機応変な戦略や最後まで熱い試合を見せてくれた熊本高専八代キャンパスは会場を湧かせました。
※ワイルドカード:1回戦・2回戦で惜しくも敗退したもののその戦いぶりが優れていたチームを審査員が選出し、選ばれたチームは準々決勝へ進むことができる。
アイデア賞:国立 沖縄工業高等専門学校 [沖縄県]
プロジェクト名:獅子舞プロジェクト
他に類を見ない独創的なアイデアを実現させたチームに贈られるアイデア賞には、沖縄高専が選ばれました。
製作した獅子舞を模したロボットは、口を広げてフルーツを食べるように収穫します。また操作機構は、操縦者の手や手首の動きに連動して、口や首が動くという独特な機構となっています。
審査員の方々からは、一度見たら忘れられない見た目の迫力ある獅子舞がフルーツをもぎ取る姿は会場に大きな旋風を巻き起こしたという評価を受け、アイデア賞に選ばれました。
技術賞:国立 鈴鹿工業高等専門学校 [三重県]
プロジェクト名:鈴鹿夜行(スズカヤコウ)
技術的な完成度の高さが評価される技術賞は、鈴鹿高専が受賞しました。
ロボットは、正面のデザインがお化けの顔であったり、障害物のロープをすり抜ける機構を有していたりと、お化けをモチーフにしたロボットとなっています。ロボット自体が分離されている機構は禁止されていますが、ロボット本体の中には支柱が何本も立っており、ロープをくぐるのを検知して、中の支柱を順番に折ったり繋げたりすることですり抜ける機構を実現しています。また、お助けアイテムである上下に伸びる長いアームを左右に移動する機構へ取り付けることで、ロボットを動かさずとも細かな微調整が可能となり、フルーツを確実に収穫することができます。
お化けがロープをすり抜け、圧倒的なスピードで滑らかに優しくフルーツをもぎ取る姿は印象的で、お助けアイテムであるアームをXY軸自在に操作する技術力は高いと評価され、技術賞に選ばれました。
デザイン賞:国立 小山工業高等専門学校 [栃木県]
プロジェクト名:ワンダフルケーキ君
機能的な美しさや装飾に秀でたロボットを作ったチームに贈られるデザイン賞は、小山高専が選ばれました。
製作したロボットは、ロープを食べるようにして、ロープをくぐる機構があったり、フルーツを収穫し未完成のケーキを完成させるというストーリーがあったりと、可愛らしい世界観を表現していました。
また、ロープを食べるように表現するため、口を開閉する機構があります。これは本来競技の面では不要な要素ですが、デザインにもこだわっていることが窺えました。
審査員の方々からは、「かわいいイチゴのケーキ君がロープを食べてしまう姿は記憶に残るものであり、試合運びも確実にゆっくり得点を重ねていき非常に安定していた」という評価を受け、デザイン賞に選ばれました。
アイデア倒れ賞:国立 佐世保工業高等専門学校 [長崎県]
プロジェクト名:響嵐(キョウラン)
アイデアは優れていたものの、その真価を十分には発揮出来なかったチームに贈られるアイデア倒れ賞は、佐世保高専が選ばれました。
佐世保高専は、他のロボットにはないユニークな方法として、風を用いてフルーツを収穫しました。
2016年から風を利用したロボットの製作を行っている佐世保高専のロボコン部ですが、過去2〜3年間は風の活用が難しい競技ルールでした。しかし、今回は風を活用できると考え、風を用いてフルーツを落とすことをテーマにしたロボットを開発しました。
響嵐は、2周目から利用可能なお助けアイテムを取り付けることにより真価を発揮します。ロボットにはカメラと、ラジコンにも用いられるダクトファンが搭載されており、お助けアイテムの筒を通してダクトファンから出力された風をフルーツに当てることで、フルーツの収穫が可能となります。また、風をフルーツに当てる機能だけでなく、カメラで撮影した画像に対してAIを用いた画像処理を行うことでフルーツの位置を特定し、特定した位置情報をもとにしてファンから出力する風を調整する機能も有しています。
またロボットには、フルーツの真下から風を当てるのではなく、少しずらしたところに風を当てることによりフルーツを収穫しやすくする工夫が施されていました。
風でフルーツを落とす段階までは良かったのですが、フルーツを受け止められず得点に至らないことが多かったことから、本賞に選ばれました。
おわりに
今大会は、昨年と同様対戦型の競技となり、高専生たちが日頃培っている技術力・創造力を用いて、決められたテーマに沿った様々なロボットを製作し競い合う白熱した姿を見ることができました。
今大会の競技ルールはフルーツの収穫に加えて、障害物も超えるといった2つのテーマがあり、今までの競技ルールと比較すると非常に高難度なルールとなっています。また全国大会では、地区大会よりも障害物の難易度が高くなっており、苦戦したチームも数多くありました。
しかし、どのチームも全力を尽くし、障害物や対戦相手に応じた臨機応変な対応で激闘の試合は会場を大いに湧かせてくれました。
高専生たちは、どのような障害があっても与えられたテーマに向けて最高のパフォーマンスを発揮するために、優れた技術力とアイデア力を駆使してロボットを製作しています。現代の産業課題の解決には、このような能力を有する高専生たちが不可欠であることを再認識しました。来年も、高専生たちがどのような発想や技術を駆使してロボットを披露してくれるか、期待が膨らむ実り多き大会でした。
※全国大会での高専生の活躍は、2023年12月17日(日) 午後1時50分から午後2時44分にNHK総合にてTV放映される予定です。
NHK-高専ロボコン:第36回全国大会