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高専トピックス

はじめに


高松駅前で再開発され会場となったサンポートホール高松(香川県高松市)

本選には課題部門23チーム、自由部門22チーム、そして競技部門60チームの高専生が参加した。

全国高等専門学校プログラミングコンテスト(以下、高専プロコン)は、全国の国立・公立・私立の高専58校63キャンパスの学生が、情報処理技術の学修成果を基に“アイデアを形にする力”を競うコンテストです。
今年で第37回を迎えた高専プロコンは、香川県高松市の「サンポートホール高松」にて開催されました。
大会テーマ『香川で打つ、挑戦のアルゴリズム』のもと、全国から集結した高専生たちが日頃の研鑽と瑞々しい着想をぶつけ合う熱気あふれる舞台となりました。

本コンテストは例年通り「課題部門」「自由部門」「競技部門」の3つの部門が開催され、社会課題の解決を指針に掲げたシステムから、斬新なアイデアと試行錯誤が詰まったアプリケーション、高度な思考と解法を競うアルゴリズム勝負まで、多彩な作品群が会場を彩りました。単なる構想にとどまらず、現場の要望に応える完成度まで磨き上げる高専生の実践力は、業界関係者や教育界からも高い関心が寄せられています。

本稿では、2026年10月10日(土)・11日(日)に実施された本選の模様を、各部門の受賞作品とともにお届けします。

(掲載開始日:2026年11月2日)

課題部門「ICT を活用した作業効率の向上」

課題部門は、社会や各種現場が抱える具体的な課題に対し、提示されたテーマに基づいてソフトウェアの企画から実装までを担い、その発想力や技術的完成度を総合的に競い合う部門です。

今大会のテーマには「ICT を活用した作業効率の向上」が掲げられました。会場には全国から選ばれた作品が集結し、医療や福祉、防災、教育、さらには各種産業や日常生活における多様なプロセスの省力化・最適化を目指したICTソリューションが披露されました。


腕部に装着する脈波計測センサーや、緊急通知・位置情報を共有する家族・患者用アプリ、リアルタイムで心電図・脈波データを分析・モニタリングする医師用システムなどの実機・デモ展示の様子。

最優秀賞 国立 大島商船高等専門学校 『GUARD Connection -早期介入・医療業務効率化支援-』

課題部門最優秀賞を受賞したのは、大島商船高等専門学校の『GUARD Connection -早期介入・医療業務効率化支援-』です。同チームは、脳卒中の主要因である心房細動(※1)の早期発見と緊急時の初期対応の遅れという課題に対し、ウェアラブル端末とAI、専用アプリケーションを組み合わせて医療業務の効率化と救命率向上を図るシステムを開発しました。

脳卒中による年間の死亡者数は世界で約730万人に上り、日本国内における死亡者の過半数を脳梗塞が占めています。脳梗塞を発症して適切な治療が行われない場合、1時間あたり約1億2000万個もの神経細胞が失われるため、早急な医療措置が不可欠です。しかし、世界全体で適切な治療を受けられている患者は5%未満にとどまっており、その背景には発症後の発見や通報の遅れ、受け入れ先病院の選定に伴う時間のロスといった根深い問題が存在します。同校の開発チームは、山口大学及び山口県立大学の医療専門家にヒアリングを行い、脳梗塞を引き起こす大きな要因の1つである「心房細動」に着目し、その早期検知と現場の業務効率化を目指す本システムを考案しました。

『GUARD Connection』は、患者が腕部に装着する脈波・加速度計測デバイス、患者・ご家族向けアプリ、医師向けアプリ、及び解析サーバーで構成されています。システムは運用から緊急対応までを3つのフェーズで支援します。

まずフェーズ1(早期発見)では、腕部端末で取得した脈波と加速度データをBluetooth経由でスマートフォンに送信します。サーバー上のAIが脈波データを解析し、決定木(※2)を用いた機械学習モデル「XGBoost(※3)」により心房細動の疑いを自動判定します。実証テスト(被験者35人)では、心房細動の疑いがある患者19人に対する検出率89.5%、該当しない16人への正解率100%を記録し、全体で94.3%の高い正解率を達成しました。日常生活における動作ノイズ対策として、加速度が激しく変動している場合は自動的に判定から除外して「不能」として返す処理が実装されています。また、患者が転倒した際には加速度センサが事故を検知し、大音量アラートと30秒間のカウントダウンを実行します。応答がない場合は自動で緊急通報が行われ、GPSによる位置情報と患者の状態がご家族や医師のアプリへ即座に共有されます。ご家族のアプリには患者の現在地とともに現地までの経路が自動表示されます。

次にフェーズ2(医師側の作業効率向上)では、医師用アプリに患者の脈波やAI判定結果がリアルタイムで表示されます。さらに、膨大な心電図データを確認する負担を軽減するため、患者データのサマリ自動生成機能を搭載し、医療従事者の資料作成や確認業務の負担を大幅に削減します。脈波から疑似心電図を推論・生成する「疑似心電図生成AI」も試験実装されましたが、医師からのフィードバックを受けて判定AIとは切り離し、研究用補助システムとして検証が進められています。

そしてフェーズ3(緊急即時通報・搬送~治療開始の効率化)では、患者が搬送される際に病院間で「院外カルテ」をサーバー経由で共有出来ます。これにより、院内にデータがない初診患者であっても事前の治療準備を早期に開始出来ます。本システムを導入することで、発症から治療開始までの時間を平均310分から99分へと大幅に短縮(68%削減)し、救命率の向上に貢献します。

開発にあたっては山口大学、山口県立大学、山口県立総合医療センターとの連携に加え、地元IT企業である株式会社ニュージャパンナレッジから通信・保守面でのアドバイスを受けました。導入形態としては、一般向けへの機器販売と、リスクの高い患者に対して病院から貸し出す2つのパターンが想定されています。
部活動でのスマートウォッチ利用から着想を得たという高専生らしい柔軟な発想と、医療現場のプロの意見に真摯に向き合う姿勢が組み合わさった本作品は、医療従事者の負担軽減と地域医療の発展に向けた大きな一歩として高く評価されました。

※1 心房細動:心房が細かく震えて血栓を生じさせる不整脈のこと。
※2 決定木:データを「はい/いいえ」の条件で順に枝分かれさせ、最終的な結論に至る判断の道筋を分かりやすく樹形図で表したもの。
※3 XGBoost:決定木アルゴリズムをベースとした機械学習(勾配ブースティング)の代表的なモデル。高精度な予測と高速な処理が特徴。


迷子犬の写真を登録する様子。AI画像認識による迷子ペットの照合機能や、発見場所・毛色などの個体情報、チャットによる直接連絡・記録共有画面などを確認出来る。

優秀賞 国立 阿南工業高等専門学校 『ReLINK - 災害時ペット保護・マッチングシステム -』

優秀賞を受賞したのは、阿南工業高等専門学校の『ReLINK - 災害時ペット保護・マッチングシステム -』です。同チームは、災害時や日常において迷子になったペットが飼い主の元へ戻る割合が極めて低いという課題に対し、スマートフォン内の写真やAI画像認識を活用して迅速に照合・返還を支援するWebプラットフォームを開発しました。

環境省の令和6年度統計によると、保護された犬猫が飼い主へ戻る割合は、犬で43.7%、猫ではわずか1.6%(およそ60匹に1匹)にとどまっています。
この背景には、確実な識別手段であるマイクロチップの装着率が約30%と低い上、読み取りに専用リーダーが必要であるという課題があります。そのため、実際の捜索はアナログな手作業に頼らざるを得ず、飼い主は自治体や保護団体へ1件ずつ電話で確認し、保護側も目視で過去の記録と照合するなど、双方が膨大な時間と手間に追われていることが迅速な返還を阻む大きな要因となっています。2024年の能登半島地震では被災ペットの一時預かりが9ヶ月以上続くなど、災害時には現場の負担がより深刻化します。同校の開発チームは徳島県徳島総合保護センターへのヒアリングを行い、人命救助が最優先される災害時でも持続可能なペット返還フローの構築を目指して本システムを考案しました。

『ReLINK』は、飼い主、発見者(保護者)、保健所や保護団体の3者が利用するWebアプリケーションです。本システム最大の特長は、事前登録が不要であり、ペットがいなくなった後からでもスマートフォン内の手持ち写真を使って登録・照合が出来る点です。

飼い主がペットの写真、失踪場所、犬種・猫種、毛色、特徴のほか、ペットを呼ぶ「声」の録音データを登録すると、システムが自動でデータベースと照合を開始します。声や個別の特徴を登録出来るようにすることで、誤った引き渡しを未然に防ぐ工夫も施されています。一方、発見者や保護団体が保護したペットの全体写真や首輪写真をアップロードすると、AIサーバーが個体の判定を行います。AIサーバーでは「さくらのAI Engine」を用いたテキスト特徴抽出と、画像認識モデル「SigLiP2-Giant(※1)」によるコサイン類似度(※2)計算を組み合わせ、類似度が高い順に候補を提示します。毛色や犬種・猫種による絞り込みに加え、顔や首輪の特徴を捉えることで、上位10件の中に該当個体が含まれる確率は犬で93.2%、猫で99.2%という高い精度を達成しています。AIによる照合は候補の絞り込みまでを担当し、最終的な確認は人間が行うことで確実性を担保しています。

該当するペットが見つかると飼い主へ自動通知が届き、発見者や保護団体と直接チャットで連絡を取り合って引き渡し日時や場所を決定出来ます。保健所や保護団体は、すべてのチャット内容や受け渡し記録を一元管理出来るため、個人間のやり取りで発生しがちなトラブルを防止しつつ、台帳管理などの事務作業を大幅に省力化出来ます。

本システムを導入することで、徳島県のガイドラインにおける現場の職務負担割合を最大約43%削減・効率化出来ると試算されています。能登半島地震の事例に換算すると、職員438日分 / 人に相当する業務負担軽減を実現する計算です。将来的なマイクロチップ義務化までの「繋ぎ」にとどまらず、非常時・常時を問わず地域のリソース創出と迅速な救護活動に貢献する作品として、高い評価を獲得しました。

※1 SigLiP2-Giant:Googleが公開した、画像と文章を同時に解析出来る最新の高性能マルチモーダルAIモデル。
※2 コサイン類似度:2つのデータ同士の意味や特徴がどれくらい似ているかを、0〜1(または-1〜1)の数値で表す比較指標。

自由部門

自由部門は、特定のテーマや制約を設けず、高専生が自らの自由な発想と問題意識に基づいてテーマを設定し、独創的なソフトウェアの企画・開発を競い合う部門です。

今大会の会場にも、学生たちのあふれんばかりの想像力とみずみずしい感性が生み出した多彩な作品群が集結しました。最新のAI技術や画像認識、音響処理などを駆使した教育・学習支援ツールをはじめ、障害者の自立や生活を支えるアクセシビリティ技術、日常のコミュニケーションを豊かにするアプリケーション、さらには独自のエンターテインメント性を追求したシステムまで、多岐にわたる領域のプロダクトが披露されました。


描いた絵から絵描き歌を生成する様子。キャンバスに描いた絵のストロークや書き順情報からAIがオリジナルの歌詞と楽譜を生成し、VOICEVOXによる歌声とカラオケ風の同期アニメーションとともに絵描き歌を自動再生される。

最優秀賞 国立 仙台高等専門学校 広瀬キャンパス 『超えかき歌! 』

自由部門最優秀賞を受賞したのは、仙台高等専門学校 広瀬キャンパスの『超えかき歌!』です。同チームは、子どもが描いた絵からAIがオリジナルの絵描き歌を自動生成するWebアプリケーションを開発しました。

幼児教育や保育におけるお絵描きは、子どもたちが自由に発想を表現する身近な創造活動です。従来の絵描き歌は、あらかじめ決まった歌や手順に合わせて絵を描くのが一般的でした。本作品は「表現活動の肯定」をコンセプトに掲げ、この流れを逆転させています。子どもがキャンバス上に描いた絵から即座にオリジナルの絵描き歌を生み出すことで、「また描いてみたい」「次は何を描こうか」という意欲を引き出し、自己肯定感を高める創作体験の提供を目指しています。

『超えかき歌!』の操作はすこぶるシンプルです。ユーザーがブラウザ上のキャンバスに手やタッチ操作で自由に絵を描き、「歌をつくる!」ボタンを押すと、およそ10~20秒でタイトル、歌詞、歌声が生成され、絵描き歌が再生されます。

システムは4つのステップで絵描き歌を生成します。まずキャンバス上で描画データ(画像データに加え、描いた順序、線の位置、描画時間などのストローク情報)を収集します。次に、生成AI「Gemini API(※1)」に画像とストローク情報を渡し、描いた順番や位置に沿った歌詞とタイトルを生成させます。
続いて、生成された歌詞を自然なリズムとメロディーの楽譜データに変換するため、日本語のモーラ(音の単位)やアクセント規則(高低アクセントに応じた音程割り当て、フレーズ語尾の長音化など)を考慮した独自の自動楽譜生成アルゴリズムを通して処理します。最後に、完成した楽譜データを歌声合成エンジン「VOICEVOX(※2)」に送ることで、歌声を生成します。再生時には、カラオケ風の歌詞テロップと画面上の絵が描画順に描かれていくアニメーションが同期して表示され、視覚と聴覚の両面で歌と絵の対応を楽しめる工夫が施されています。

開発チームは、作品の改善を図るため6回以上の体験会を実施し、のべ1000人を超える子どもたちに体験してもらいました。実際に子どもたちが利用する様子を観察する中で、特に4~8歳の子どもが夢中になって遊んでいることが分かり、対象年齢を設定する根拠としました。また、操作に迷わないようUIや案内の見直し、アニメーションの追加、完成した作品を印刷して持ち帰れる機能の実装、生成結果の評価機能など、現場の声を取り入れた改良を重ねました。AIによる判定が実際の絵と異なった場合でも、複数の歌詞候補を提示してユーザーが最適なものを選べる仕組みを構築しており、将来的な強化学習や精度向上のためのデータ収集基盤も備えています。

何を描いても必ず歌になり肯定される体験は、子どもたちのワクワク感を生み出し、保護者や友人とのコミュニケーションを広げるきっかけとなります。技術的な工夫と丁寧な体験設計を組み合わせ、子どもの表現力を育む優れたアプリケーションとして高く評価されました。

※1 Gemini API:Googleが開発した生成AIモデルのAPI。完成画像だけでなく描画順やストローク情報を解析し、絵の内容と構造に沿った歌詞を生成する。
※2 VOICEVOX:オープンソースの歌声合成エンジン・API。楽譜データをもとに自然な歌声を生成する。


人間工学に基づき左手で操作しやすいマウス型デバイス(カメラ搭載)で点字紙面をなぞり、リアルタイムで音声読み上げや正誤判定を行う様子と、学習記録や進捗を可視化する指導者用ダッシュボードのデモ展示の様子。

優秀賞 国立 豊田工業高等専門学校 『BrailleMate -点字学習者のための補助サービス-』

優秀賞を受賞したのは、豊田工業高等専門学校の『BrailleMate -点字学習者のための補助サービス-』です。同チームは、視覚障害者の点字習得率が低く学習環境が不十分であるという課題に対し、カメラと音声認識を備えたデバイスで指でなぞりながら1人でも効果的に点字を学べる補助サービスを開発しました。

現在、日本国内には約31万人の視覚障害者がいますが、点字を読める人はわずか約3.7万人(約12%)にとどまっています。特に中途で障害を負った人などは点字を学ぶ機会が少なく、途中で学習を諦めてしまうケースが少なくありません。しかし、点字を習得することでスマートフォンなどのIT機器がない状況でも身の回りの調味料の識別や屋外での単独移動が容易になるなど、生活上の大きなメリットが存在します。同校の開発チームが視覚障害者センターへヒアリングを行ったところ、既存の点字翻訳機が高額であること、翻訳機に依存するだけでは自力読解力の向上に繋がらないこと、そして指導者の同伴が必須でありながら指導者数が不足しているため十分な学習時間を確保できないという実態が明らかになりました。

『BrailleMate』は、実際の点字教材や本をそのまま使い、1人でも自習が出来る点字学習支援システムです。システムはマウス型デバイス、スピーカーフォン、Raspberry Pi(※1)、及びクラウド基盤で構成されています。学習モードには「読み上げモード」と「正誤判定モード」の2種類が用意されています。「読み上げモード」では、ユーザーが点字を指でなぞると、デバイスに内蔵されたカメラが指の位置と対応する点字を検出し、リアルタイムで1文字ずつ音声で読み上げます。「正誤判定モード」では、なぞった後にユーザーが声に出して文字を回答すると、音声認識機能が回答音声を識別し、点字の正しい文字と照合して正誤を判定します。

ハードウェアの開発においてチームが最もこだわったのが、デバイスの形状です。指の角度や位置の個人差があっても安定して点字を認識出来るよう、初期のリング型、手を通すグローブ型、カメラを先端に固定するI字型と試作を重ねました。更に、近隣の視覚障害者センターでの実証を通じて、手首の固定による使いづらさや「点字の読解は右手より左手で行うのが一般的」という現場ならではの意見を反映させ、左手で包み込むように扱えるマウス型へと進化させました。画像処理アルゴリズムでは、カメラ画像からAIが点を検出して3×2のマス目を特定し、マス内の点配置から文字を判別します。更に、複数行の画像からなぞっている指の位置を検出し、指と重なった文字だけを正確に読み上げる仕組みを構築しました。なお、画像認識や音声認識はすべてRaspberry Pi上で処理(エッジ処理)されるため、電源さえ確保できればWi-Fiなどの通信環境がない場所でもスタンドアロン(※2)で動作します。

学習データはクラウド上のデータベースに保存され、指導者用ダッシュボードで一元管理されます。ダッシュボードには正答率、回答速度、学習時間に加え、文字ごとの習得状況や苦手な文字がグラフで可視化されます。これにより、指導者が常時付き添わなくても学習者の進捗や課題を把握でき、一人ひとりに合わせた最適なアドバイスを提供出来ます。実証実験に参加した当事者からは「1人で学べると嬉しい」「学び始めの時期に欲しかった」といった高い評価が寄せられました。実際の点字に触れる感覚を大切にしながら、誰もが1人で学べる環境を創出する作品として評価されました。

※1 Raspberry Pi:小型の単板コンピューター。本システムではカメラ画像や音声データの処理・判定をローカルで高速に実行する役割を担う。
※2 スタンドアロン:コンピュータや機器、ソフトウェアが他のネットワークや機器に接続せず、単体で動作する環境のこと。

競技部門「ヘキサうどん」


競技部門の試合風景。ステージ上の大画面には「ヘキサうどん」のマップや進行状況がリアルタイム表示され、選手たちが白熱した対戦を繰り広げた。

今年の競技部門は、開催地・香川の地域文化である「うどん屋巡り」や「お遍路」をモチーフにした「ヘキサうどん」をテーマに開催されました。

競技の舞台となるのは、六角形(ヘキサゴン)のセル(最小8×8〜最大32×32)で構成されたマップです。各チームは、スポットを巡りうどんを獲得する「巡回車」と、燃料を補給する「補給車」の2種類のエージェント(計3〜8体)を運用します。地形には「平地」「山地」「池」「道路」の4種類が存在し、移動時間や消費燃料が異なるほか、池は進入不可となっています。
さらに勝負の鍵を握るのが、動的に変化する交通量です。前日・前々日の全チームの滞在ステップ数に応じ、道路状況が「順調」「混雑」「渋滞」の3段階にリアルタイムで変動します。勝利のためには、燃料切れを防ぎながら渋滞を高精度に予測・回避し、より多くのうどんの「種類数」と「玉数」を効率よく集めるルート最適化が求められました。

本競技における最適化の難しさは、単なる目的地への最短ルート探索にとどまらず、「巡回車と補給車の合流による燃料管理」と「日ごとに変化する道路状況」を同時に解かなければならない点にあります。自チームや相手の行動そのものが翌日以降の渋滞を引き起こすため、数日先を見据えた大局的なルート選択が勝敗の分かれ目となりました。

この難問に対し、圧巻の強さで優勝に輝いたのが東京工業高等専門学校です。
東京高専は、エージェント構成に「補給車1台」を選択。単日の局所最適にとどまらず、大会全日程を通した展開を見据えたソルバーを構築しました。最大の特徴は、毎朝開示される全チームの位置や残燃料から相手の動向をシミュレーションし、主要ルートの混雑を約70%の高精度で弾き出す「渋滞予測モデル」です。これにより、「数日後の局面から逆算して当日の最善手を打つ」という将棋やチェスのような先読みを実現し、敢えて移動せず有利な位置で「待機(ステイ)」する高度な戦術を確立しました。戦略立案を人間が担い、実装や検証にAIを活用する先進的な協調開発体制を敷いていた点も見逃せません。

他高専も、独自開発の対戦テスターによる徹底的な検証や複数ソルバーの使い分け、独自の渋滞予測アプローチで肉薄しましたが、トータル最適化と予測の精度を極めた東京高専が頭ひとつ抜け出す結果となりました。

今大会で各チームが工夫を凝らし開発したアルゴリズムは、理論上のモデルにとどまらず、都市交通のリアルタイム渋滞予測や自動配送ロボット・EVの配車最適化など、現代社会が抱える物流・交通課題に直結する極めて実践的な技術です。「限られたリソースと不確実な環境下でいかに最適解を導くか」という現実世界の難題を巧みに落とし込んだルール設計であり、実社会への応用という観点からもすこぶる示唆に富む競技となりました。

※ソルバー(Solver):複雑な制約条件や最適化問題を自動的に計算・解決するプログラム。

おわりに

「香川で打つ、挑戦のアルゴリズム」というテーマのもと開催された第37回高専プロコンは、全国から集まった高専生たちの熱い情熱と、近年の技術的潮流が色濃く反映された素晴らしい大会となりました。

今大会を通じて特に印象的だったのは、生成AIをはじめとする先端テクノロジーの普及がもたらした作品クオリティの飛躍的な進化です。AI技術の積極的な活用により、構想から実装に至る開発スピードは目覚ましく加速し、提示された作品やシステムの完成度はこれまで以上に高い水準へと引き上げられていました。

しかし、今大会の真の価値は、単に最新技術を取り入れたり、開発の効率化を競い合ったりした点にあるのではありません。コーディングや実装の大部分すらAIが支援する時代において、「では、このプロコンという舞台で高専生たちは何を競い合っているのか」という根源的な問いが浮かび上がります。

今大会が示した答えは、AIに前提を与える「前」と、出力された結果を受け取る「後」の設計にありました。
現実社会の課題は、最初から都合良く整理されたデータとして存在するわけではありません。ノイズや曖昧さに満ちた現場に足を運び、丁寧なヒアリングを通じて「そもそも何についてデータを集め、どこを切り取ってAIに入力するのか」という境界条件を設定すること。そして、現場で使う人々の運用フローや心情に寄り添いながら、「どの解を価値あるものとして届けるか」という最後の価値判断を下すこと。AI任せにすることなく、この「問いの提示(課題設定)」と「解の選定(価値判断)」を自らの思考で主導し、全体としてのシステムデザインを描き切ったことこそが、作品に確固たる実用性と説得力をもたらしていました。

これまで「高専生の高い技術力」といえば、ハードウェアや低レイヤに根ざした専門知識、そして確かな実装力そのものを指す傾向がありました。もちろん、そうした足腰となる技術や泥臭い実装力が不要になったわけではありません。AIと云うブラックボックスに頼り切らず、システムの挙動を根底から見極める確固たる土台として、その価値は今も色褪せるものではないでしょう。

しかし、生成AIの台頭によって「形にすること」のハードルが劇的に下がった今、その実装力の背後にあった高専生たちの真価が、いっそう鮮明に浮かび上がりつつあります。それはまさに、今大会の学生たちが体現したような、曖昧で複雑な現実を捉え直し、解くべき形へと落とし込む「モデリング力」です。「作る力」が平準化されたからこそ、どの技術をどう現実と結びつけるのかという、彼らが培ってきた「現実世界を構造化する力」が、いま鮮明に前景化しているのです。

そしてこれこそが、高専教育が長年培ってきた本質的な強みにほかなりません。
学校教育で扱われる演習問題の多くは前提条件が整えられた「閉じた枠組み」ですが、技術を社会実装する現場は外乱や制約が絡み合う「開かれた環境」です。高専生たちは15歳という早期から、実験や実習を通じて「理論通りに作ってもなぜか動かない」「泥臭い現実の壁にぶつかる」という体験を積み重ねています。そうした日々の試行錯誤を通じて培われた「現実の複雑さに向き合う素の力」があるからこそ、AIという強力な道具を前にしても思考停止に陥ることなく、地に足のついた課題解決を成し遂げることが出来るのです。

時代の変化にいち早く適応し、確かな足元の技術力を備えながら、AIを道具として従えて課題解決に挑んだ高専生たち。その主体的なエンジニアリングの姿勢は、人間とAIが共創するこれからの技術社会を切り拓く確かな展望を示していました。
今大会での挑戦と試行錯誤の経験が、参加したすべての学生にとって、次なるイノベーションへ繋がる大きな糧となることを心より期待しています。

全国高等専門学校プログラミングコンテスト:公式サイト

第36回高専プロコン
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※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。