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高専トピックス

はじめに


大会の会場となった「なら100年会館」(奈良県奈良市)。35回目となる本大会では国内外合わせて170チームという過去最高の応募数となった。

高専プロコン本選には課題部門24チーム、自由部門25チーム、そして競技部門64チームの高専生が参加した。

全国高等専門学校プログラミングコンテスト(以下、高専プロコン)は、全国の国立・公立・私立の高専58校63キャンパスの高専生が、日々の情報処理技術に関する学修成果を生かし、アイデアの実現力を競うコンテストです。

第35回高専プロコンは、奈良市にある「なら100年会館」を舞台に、歴史ある古都で「まほろばの地で古都(こと)ロジー開花」をテーマに掲げ、高専生たちが自らの技術とアイデアを発表しました。高専プロコンの競技は例年通り、課題部門・自由部門・競技部門の3部門にて、各部門で高専生ならではの独創的なアイデアと技術力が光るものが数多く披露されました。
高専プロコンの特徴は、予選段階からアイデアの独自性が重視される点にあります。そのため、参加者たちは、技術力を磨き上げ、アイデアを形にし、本選へと挑みます。また、作品の柔軟な発想や技術レベルの高さは毎年産業界からも高い評価を受け、各メディアから大きな注目を集めております。
平成21年から同時開催されている「NAPROCK国際プログラミングコンテスト(※)」も併せて行われ、海外高専チームも一堂に会し、情報処理技術の国際交流の場としても盛り上がりを見せました。

本記事では、2024年10月19日(土)・20日(日)に開催された本選の様子を各部門の受賞作品とともにお届けします。

※NAPROCK(Nourishment Association for Programming Contest KOSEN / 特定⾮営利法⼈⾼専プロコン交流育成協会)国際プログラミングコンテスト:高専生とアジア各国の学生が技術を競う国際的なプログラミングコンテスト

(掲載開始日:2024年11月5日)

課題部門

課題部門では、与えられたテーマに対してソフトウェアの企画から実装までを行い、作品の独創性や技術力を競います。
今年のテーマは「ICTを活用した環境問題の解決」です。地球温暖化や気象変動に伴い集中豪雨や大型台風などの災害が増加するなど、深刻化・多様化する環境問題に対する取り組みが急務となっています。

本選では、プレゼンテーションやデモンストレーション、操作マニュアルやソースリストのチェックなどの審査が行われ、作品の実用性や操作性、技術力などが総合的に評価されます。

高専生たちは、柔軟な発想と、ICT技術を駆使する高度な技術力によって生み出した、持続可能な社会の実現のためのシステムを、数多く発表しました。
以下、受賞作品をご紹介します。


製作したアプリケーションの画面とセンサモジュールを備えた小型モジュール。アプリケーションの画面上の地図で、公衆トイレやゴミ箱、喫煙所などの施設の位置が確認できる。

最優秀賞 鳥羽商船高等専門学校 『Triplean -インバウンド対応・清掃支援システム-』

最優秀賞を受賞した鳥羽商船高専は、地方の公衆トイレやゴミ箱などの設備を効率的に清掃・管理するためのシステム「Triplean(トリップリン)」を開発しました。

近年、訪日観光客数の増加により観光産業が地域活性化に大きく貢献している一方で、一部の地域ではオーバーツーリズム(※1)が問題となっています。
そこで、今後の観光客増加に対応し、地域全体でのインバウンド受入をサポートするためのシステム「Triplean」を提案しました。このシステムは、持続可能な観光地づくりに貢献することを目指しています。

製作したシステムは、訪日観光客向けの「施設検索アプリ」、地域住民向けの「清掃募集アプリ」、施設管理者向けの「施設の状態解析機能」で構成されています。
「施設検索アプリ」は、公衆トイレやゴミ箱、喫煙所などの施設の位置と状況を表示します。施設の評価や、施設利用後に寄付を行うことができる仕組みも整備されています。寄付は施設の維持管理に活用され、観光客の利便性向上と地域の環境保護に寄与します。
「清掃募集アプリ」は、清掃状況や設備の劣化状態を収集し、住民が清掃に参加できるアプリです。地域住民の活動を評価し、清掃報酬(日本円で支給)を提供することで、効率的な維持管理が可能となります。
「施設の状態解析機能」は、センサモジュールにより利用者数の測定・消耗品の確認・ゴミの量の測定を行います。また、施設の評価・寄付金額・利用者数の入力データから、ロジスティック回帰(※2)により、施設清掃が必要な確率を算出できる機能も持ち合わせています。正解率は94パーセントとなっており、高い精度を実現しています。

ソフトウェアだけでなく、システムの核心を支えるセンサモジュールの開発も行っており、高い技術力が窺える、最優秀賞に相応しい作品でした。

※1 オーバーツーリズム:過剰な観光客の増加に伴い、地元住民や自然に対して悪影響が及ぶこと。
※2 ロジスティック回帰:結果が2つ(`成功` or `失敗`、`はい` or `いいえ` など)に分類されるデータを扱う回帰モデルのこと。結果の確率を予測するために利用される。


筐体に置かれたブロックの駒と、出力映像の様子。筐体に置かれたブロックの駒がモニターに反映されている様子がわかる。

優秀賞 舞鶴工業高等専門学校 『SDCs -100年続くまちづくり-』

優秀賞を受賞した舞鶴高専は、若年層を対象にした体験型環境学習システム「SDCs(エスディーシーズ)」を開発しました。

昨今、地球温暖化をはじめとする環境問題が懸念されていますが、身近な問題であるという実感の薄さから、依然として問題意識は低いままです。特に、若い世代への環境教育が十分でないことが課題として挙げられます。そこで、若い世代に向けた環境教育の一環として、「触って、見て、考える」ことを通じて、環境問題への意識を高めるシステムを提案しました。

製作したシステムは、主に筐体、ブロックの駒、カメラ、サーバー、ソフトウェア、モニターによって構成されています。筐体に、ブロックの駒を置くことでまちのイメージを形成し、ブロックをカメラで撮影して、ブロックの位置情報をサーバーに送信・保存します。ソフトウェアによって、保存された位置情報をサーバーから取得、取得した位置情報を仮想空間に反映し、環境シミュレーションを行い、実際に形成したまちと環境変化を映像化し、モニターに出力します。出力画面には、「100年メータ」と呼ばれる、環境変化によって決定されるまちの存続年数を示す指標も表示され、まちづくりの指針となります。

SDGsと関係の深い、社会的意義のあるテーマ設定であり、またシステム全体の完成度も高く、素晴らしい作品でありました。

自由部門

自由部門では、参加者の独自の発想に基づいたコンピュータソフトウェア作品で競います。近年、テクノロジーの普及により、クラウドコンピューティングやビッグデータ、サイバーセキュリティの重要性が増加しています。自由部門ではこれらの技術を活用した、自由な発想から生まれた独創的な作品が求められます。過去には、この部門で優秀な成績を収めた作品が、情報処理推進機構(IPA)主催の次世代人材育成事業に採択されたり、国際的なコンテストで高い評価を得るなど、幅広い影響を与えてきました。

本選では、プレゼンテーションやデモンストレーションを通じて、作品の独創性や技術的な挑戦、作品の完成度やプレゼンテーション能力が総合的に審査されます。独創的なアイデアと高い技術力が反映された数多くの作品が発表されました。
以下、受賞作品をご紹介します。


布に投影された映像の様子。風で布が動いても、きちんと布の動きに応じて映像が投影され、自然な表示が実現できている。

最優秀賞 香川高等専門学校(詫間キャンパス) 『uni』

香川高専(詫間キャンパス)の作品「uni(ユニ)」は、異なる言語を話す人々が言葉を超えて交流できる、新しい触覚体験を提供するユニバーサルシステムです。風の感触や映像を通じて、誰もが共通の体験を楽しめる仕組みを作り出しており、言葉に頼らず共感を生み出すことを可能にしています。特に、風の感触を用いた直感的なインタラクションが、ユーザーに新たな驚きと発見をもたらし、感覚を共有するコミュニケーションを促進します。

システムは、映像、風、音の三要素を統合することで、言葉が不要なインタラクションを実現しています。47個のファンと72個の距離センサーを9個のマイコンで制御し、布の上で、風や映像が動的に変化します。距離センサーにより、1秒間に約20回、距離データを取得しマイコンを通じてコンピュータに送信されます。距離の値が一定値を下回ったとき、コンピュータは、ユーザーが布に触れたことを検知します。布に触れたことを検知すると、コンピュータが入力を処理し、UnityとAzure Kinectを使用してシミュレーションを行い、ファンの制御や映像の描画を実行します。これにより、布に投影される映像がリアルタイムで変化し、風の感触がユーザーにフィードバックされます。

また、Azure Kinectの機能であるボディトラッキングによってユーザーを識別し、インタラクションを最適化します。ファンのモータドライバは全て自作されており、ユーザーの手の大きさを基準にファンの密度が設定されています。映像はプロジェクタで布に投影されますが、流体シミュレーションを行い、台形補正を用いて映像の歪みを防ぎ、自然な表示を実現しています。
風を発生させるファンは、市販のものでは機能条件を満たせないため、47個全てを手作りで製作し、流体シミュレーションも1から作成しています。
世に無いものは全て自作で補う、高専生たちが日頃から培っている技術力の賜物だと強く感銘を受けました。

「uni」を通じて、ユーザーは風に触れ、布に映し出される映像と連動した感覚的な体験を楽しむことができます。例えば、ユーザーが布をタッチすると、その場所に蝶が現れ、花が咲くといったインタラクションが可能です。こうした体験を通じて、ユーザー同士の共感や相互理解が深まり、言語を超えた交流が促進されます。斬新なコンセプトと技術の融合が高く評価され、「uni」は最優秀賞に選ばれました。


『SPORTSDAY』のアプリケーション画面。どこでも確認できるようノートPCやタブレットで操作を行う。

優秀賞 富山高等専門学校(本郷キャンパス) 『SPORTSDAY -球技大会管理プラットフォーム-』

富山高専(本郷キャンパス)の作品「SPORTSDAY(スポーツデイ)」は、球技大会の運営を効率化するために開発されたWebアプリケーションです。現状、運営者は会場にいないと進行状況や試合結果を把握できず、また試合結果の集計に時間がかかる上、手動での入力ミスが発生しやすいといった課題がありました。「SPORTSDAY」を利用して、スムーズな大会運営と進行管理を行うことで、球技大会の進行が遅れるという課題に対する解決策を提案しました。

「SPORTSDAY」では、リアルタイムでの状況把握、試合結果の迅速な集計、入力ミスの軽減を目的として、球技大会管理プラットフォームを提供しています。このシステムは3つのアプリケーションで構成されています。
まず、チーム作成ができる「チーム登録アプリ」では、代表者がチームメンバーを登録し、ダブルチェック機能で入力ミスを減らす仕組みが整えられています。
次に、「管理アプリ」では、集計したチーム情報を基に自動的にリーグや試合の組み合わせが作成されます。また、当日に各試合結果を入力すると、即時に試合結果が自動反映される機能も備えています。
さらに「ユーザーアプリ」では、当日の試合スケジュールや進行状況がリアルタイムで反映され、参加者が簡単に試合に関する情報を確認できるようになっています。

システムの技術基盤には、Kubernetes(※1)による水平スケーリング(※2)が採用されており、単一のバックエンドと、それぞれのアプリケーションに対応するフロントエンドで構成されています。これにより、安定したサービスの提供と将来的な拡張性が確保されています。
管理画面で大会当日の試合結果を入力するだけで、試合の進行状況や結果がリアルタイムに反映されるため、大会運営者は、これまで集計にかかっていた時間やミスを大幅に削減できます。

「SPORTSDAY」は、2023年度から4回にわたって実地検証を行い、参加者や大会運営者から約90%の満足度を得ることができました。その結果、システムの操作性や利便性が評価され、大会運営者の負担軽減に大きく貢献しています。
しかし、管理画面の操作方法の理解が難しい点や、システムのセットアップにエンジニアの知識が必要である点といった課題も明らかになりました。これに対する今後の展望として、操作マニュアルの開発やAIエージェントを活用したトラブル対応ツールの実装が計画されています。

富山高専の「SPORTSDAY」は、複雑な球技大会運営を効率化するための革新的なツールとして、他校にでも展開できる汎用性や、ユーザーフィードバックを反映し続けている実用性が評価され、優秀賞を受賞しました。

※1 Kubernetes(クバネティス):アプリケーションを動かすための複数のコンテナ(小さな仮想環境)を効率的に管理し、自動で調整できるシステム
※2 水平スケーリング:サーバーやシステムの負荷が増えたときに、新しいサーバーを追加し、全体の処理能力を向上させる方法

競技部門

優勝 松江工業高等専門学校 『 回鍋肉(ホイコーロー)

今年の競技部門では、「シン・よみがえれ世界遺産」をテーマに、日本有数の世界遺産の宝庫である奈良県に因んだ、文化財の修復をモチーフにした競技が行われました。

競技ルールとして、修復前の文化財を模した複数のピースで構成されるボードに、修復道具を表す「抜き型」を適用することで、元の状態(修復後の文化財)への復元を行います。
ボードは、縦横最大256個、最小32個のピースで構成されており、各ピースには0から3までの整数値が割り振られています。この整数値はピースの色を表現しています。抜き型は、縦横最大256個、最小1個のセルで構成されており、各セルは0または1の値を持ちます。抜き型をボードに適用し、抜き型の1の値を持つセルがボードのピースの位置と一致するとき、そのピースはボードから抜かれます。ピースが抜かれると、指定方向(上下左右いずれかの方向)の隣接するピースが空いたスペースに、スライドして移動します。そして、スライドしたことにより空いたスペースに、抜かれたピースが、順番を維持したまま挿入されます。(型抜きによる復元イメージは図参照※)
限られた手数と時間の中で、いかに効率良く元の状態(修復後の文化財)に復元できるかが勝敗を分けるポイントとなります。最も少ない手数かつ速く、修復を完了したチームが競技の勝者となるため、戦略的思考力、効率的な問題解決能力、アイデアを実現する技術力が求められます。


※型抜きによる復元イメージの例。例では、3x3のボードに対して、常に1x1の大きさの抜き型を適用している。赤色の数字は、抜き型を適用したピースを表している。初期盤面(初期画像)と最終盤面(復元画像)の各ピースの数値は最初に与えられており、盤面に対して抜き型を適用する操作(型抜き)を繰り返すことで、初期盤面から最終盤面の状態を目指す。

実際に試合で使用された画像と抜き型の例。画像は、決勝戦で使用された法隆寺。また型抜きで使用される抜き型には、規則的にセルの値が設定されている「定型抜き型」と、セルの値が不規則な「一般抜き型」がある。

競技部門での試合風景。各チームが用意したベースとなるアルゴリズムだけではなく、試合中に問題を見極めて、効率的な抜き型をその場で判断して選択する技術も、試合の勝敗を分けた。

今大会で優勝を果たしたのは松江高専でした。彼らはボードを一行ずつ揃えていく基本戦略を取りつつ、特に3つの工夫で他チームを上回りました。

まず、最終盤面のシャッフルという手法です。最終的な配置に偏りがあると手数が増え、効率的に揃えるのが難しくなることから、松江高専は最終盤面をシャッフルし、それを目標配置として設定しました。この工夫によって、シャッフルを行わない場合と比較し、初期盤面からの最適化が容易となりました。
また、初期盤面における左右分割を行いました。この分割アプローチは、ボード全体を効率的に処理することを可能にし、手数を小さくすることにつながりました。
さらに、松江高専は抜き型の活用においても、他チームとの違いを見せました。定型抜き型のみを使用する高専が多い中、ボードの一行を揃える際に、一般抜き型も活用しました。この一般抜き型を活用したことが、僅差で2位のチームを抑えた勝因のひとつとなりました。

これらの独自の工夫や戦略的アプローチが、松江高専と他高専の差を生み出し、見事な優勝に繋がりました。

おわりに


課題・自由部門のポスター発表の様子。高専生たちは作品の魅力を一般の方や企業の方にわかりやすく伝える工夫をしており、会場は活気に包まれていた。

「まほろばの地で古都ロジー開花」というテーマのもと開催された第35回高専プロコンは、歴史ある奈良の風土と最先端技術の調和が感じられる貴重な機会となりました。参加した高専生たちは、様々な視点から課題に挑み、それぞれの学びを活かして多様な作品を生み出しました。
特に、課題部門、自由部門、競技部門のいずれにおいても、AIを取り入れた作品や独自のアイデアに溢れる発表が目立ち、大会会場は若さ溢れる熱気とともに、技術の未来を彷彿とさせる雰囲気に包まれていました。

併せて、同時開催された「NAPROCK 国際プログラミングコンテスト」では、海外の学生との技術的な交流が実現し、参加者にとって非常に貴重な国際経験の場となったことでしょう。国際的な視野を広げながら、技術力を高め合う場として、今後も高専プロコンの果たす役割はますます大きくなることが期待されます。

高専生たちが今後の挑戦と、それを通じた成長によって、さらなる飛躍を遂げ、新たな技術革新の担い手となることが期待される、きわめて有意義なコンテストでした。

全国高等専門学校プログラミングコンテスト:公式サイト

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。