高専トピックス

2020年に「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」(以下:ロボコン)の全国大会で超優秀賞(優勝に相当)を獲得し、さらに翌年の2021年には競技での優勝とロボコン大賞の両方を獲得した小山高専ロボコンチーム。その後も継続して関東甲信越地区大会で優勝を重ね、全国大会には連続して出場している強豪です。
このように小山高専が近年のロボコンで優れた成績を収め続けている背景には何があるのか、代々のチームに継続される強みは何なのか。これらの問いに、同校で30年にわたってロボコンチームを指導し、現在は大会の競技専門委員を務める田中 昭雄 先生(小山工業高等専門学校 電気電子創造工学科 教授)にお答え頂きました。併せて、今年ロボコンへ参加するAチーム・Bチームの学生代表2名にも、ロボコンに賭ける想いをお聞きしました。
(掲載開始日:2025年10月2日)
インタビュー:田中 昭雄 先生
小山高専でロボコンの指導担当になられた経緯を教えて下さい。
私は小山高専を卒業後、長岡技術科学大学に編入学し、修士課程を修了しました。その後は企業の研究所に就職するつもりだったのですが、高専時代の担任の先生から声を掛けて頂き、1992年に小山高専の助手として高専教員キャリアの第一歩を踏み出したのです。高専では学生たちと共にモノづくりに関わっていきたいと考えて就任しましたから、1993年にロボコンの指導担当に自ら名乗り出ました。当時の小山高専はロボコンで実績が殆どなく、試合当日までにロボットを完成させることさえ難しいようなレベルでした。失うものは何もありません。学生と共にロボコンで勝つノウハウを一つ一つ築いていこうと考えました。そこで、当時は他校の指導教員の先生たちに、あれこれとロボットづくりについて聞き回っていました。
ロボコンを指導するにあたって何を大切にされてきましたか?
高専のロボコンの正式名称には、“アイデア対決”という冠が付いています。勝ち負けを決める競技性も重要ですが、それ以上に挑戦意欲の見られる斬新なアイデアが評価されるのです。そこにはロボットの機能や性能を少しずつ向上させていくのではなく、新しい取り組みによってロボットの飛躍的な進化を引き出そうという考えがあり、イノベーションに通じるものがあります。そのため、ロボコンでは競技で1位を獲得した優勝よりも、優れたアイデアに取り組んで一定の成果に到達したことを評価するロボコン大賞の方が価値はあるとされています。私はこの考えに共鳴し、小山高専のロボコンチームの指導では、他校がつくらないような、あるいは諦めるような斬新な技術やアイデアに敢えて挑む姿勢を後押しする指導を続けてきました。
ロボットのキャラクターや機能を決定するアイデアの中身については、私が主導することはありません。すべて、学生たちの発案を大切に発展させています。学生たちの自主性に任せた方が多様性のある様々なアイデアが出てきますし、自由にさせる方が学生たちの意気込みも違ってきます。ただ、年度によって、学生たちのロボット開発における得意・不得意は様々です。時には方向性について軌道修正をする必要があります。私はここでも、その年の学生たちの得意なところは積極的に取り入れ、不得意そうな面についてのみサポートするようにしています。
今では、斬新な技術やアイデアに挑むカラーは小山高専ロボコンチームの伝統になっています。また、見た目にもこだわってデザイン性を重視してきた成果だと思いますが、愛らしかったり動きが凝っていたりする本校のロボットたちは、数々の映画やテレビ番組に出て魅力的なキャラクターで使ってもらい、多くの視聴者の目に触れる機会を得ています。
小山高専ロボット製作チームHP(外部サイトへ遷移します。)

2024年NHK『未来の私にブッかまされる!?』に登場した「スペースドルフィン」。小山高専が製作した「フレンドルフィン」がモデルとなっている。
2012年高専ロボコン「ベスト・ペット」でロボコン大賞を受賞。画像センサーを駆使し、トレーナーのジェスチャーを認識し反応する。
※写真提供 田中先生

2023年フジテレビ『新しいカギ』~長の水博士のMADロボ部~に登場した「タムジーニョ」。
人間に勝てるシュートロボの制作依頼から3か月で製作。機能だけではなく、見た目や声のフェイントなど人間らしさにもこだわった。
※中央にある人形ロボットが「タムジーニョ」

2003年公開 映画『ロボコン』に登場した「BOXフンド(ボックスフンド)」2002年高専ロボコンに小山高専が製作した「はこじゃらし」がモデルとなっている。
ロボットの特徴は、植物の猫じゃらしをヒントにブラシを使った振動輸送技術を取り込んだ。撮影は徳山高専で行われたが、小山高専の学生や教員がサポート。写真は休憩の合間に操作練習をする主演の長澤まさみさん。
※写真提供:徳山高専藤本 先生
大会に向かってチームづくりにはどのような工夫がありますか?
魅力的なロボットを創造するためのアイデアの追求やデザイン性と共に、もう一つロボコン指導で重要視してきたのは、チームワーク重視の姿勢です。一つのチームで1台のロボットをつくるのですから、チーム内における同学年の横の関係、先輩後輩の縦の関係、いずれのコミュニケーションも大事であり、勝負を分けるポイントになります。本番までにロボットの完成度を100%まで持っていくにはたくさんの操作練習と問題解決が必要になりますが、それをクリアしていくにはメンバー一人一人の実力の総和を高めるチームワークによるシナジーが欠かせないのです。それに、代々の学生間で培ってきた技術やノウハウ、アイデア優先のスピリットを受け継いでいく必要があるという意味でも、先輩と後輩が心を通わせる交流は極めて重要です。さらに、そこで磨かれる誰とでも一致協力し合う姿勢は、社会に出てから大きく役立つのです。
ロボコンは1高専からAチームとBチームの2チームをエントリーさせることができますが、最初にロボコンサークルのメンバー全員を2つのチームに分けて、それからどのようなロボットを目指すのかという順番では、魅力的なロボットは生まれません。そこで本校では、まずは課題の発表を受けて大会に臨むアイデアを発案したリーダーを中心に有志たちでチームが組まれ、ロボットの課題への具体的な対応やそれを実現する機構などをプレゼン。次に、各学科の先生たちの採点による学内審査で、魅力的且つ有望と評された上位2チームを選んでいました。学年を問わず学生たちの参加意欲は高く、多い年は10チームによってプレゼンが行われた年度もありました。本校では、大会にエントリーする前から既にメンバーたちの挑戦は始まっていたのです。
しかし、それではプレゼンで負けたチームはその年の大会で活躍する場所を失い、メンバーは翌年まで何もできなくなってしまいます。そこで2016年からはロボコンへの参加を1年単位の登録制プロジェクトとして位置付け、今まで同様に最初にアイデアを全学年から募って審査し、ロボットのアイデアが決まった後でメンバーを募り、上手く配置するチーム編成を行うようにしました。
30年以上にわたって指導されてこられた中で、ロボコンの大会自体はどう変わりましたか?
大会初期のロボットは、乾電池を電源にモーターを動かしていましたが、90年代の中盤になってくると外部電源を使うことによってモーターの能力を高められるようになり、ロボットの大型化や高速化も可能になりました。実際に私が指導を開始した当初の重量制限は8kgでしたが、現在(2025年)は30kgまで拡大しています。それだけ課題の難易度が上がり、それをクリアするために高機能なロボットをつくるようになってきたのですね。
外部電源以外にも、機能やそれを実現する要素技術においても、次々に高度なものが取り入れられていきました。2001年には無線通信によるロボット操作が製作条件に加えられました。それまで有線で操縦していたロボットが無線操縦に変わったのです。それから数年後には自律歩行に代表するように自律制御技術が高度化しています。メンバーのプログラミング技術が大会の勝敗を大きく左右する時代の幕開けです。さらに近年は、そこに画像処理技術なども加わってますますロボットの高度化が進んでいます。
以上のように、ロボコンチームに求められる技術は年々高くなってきています。それなのに、その年の春の課題の発表から秋の地区大会までの期間…つまりロボットの開発期間は大きくは変わっていないのです。このように、学生たちの負担が増えてしまっているのは現在の大会運営上の課題です。また、自動制御技術や自動認識技術を進化させて競技指向のロボットが増えることは、“アイデア対決” の基本路線から離れてしまうことにもつながりかねません。今は大会の運営側にいる私にとって、高専の学生たちの発想力や挑戦心を引き出すロボコンであり続けるために、課題の設定は今まで以上に熟慮しなければならないと考えています。
2020年に全国大会優勝(超優秀賞)、翌年に優勝と大賞を同時受賞できた背景を教えて下さい。
やはり斬新なアイデアとチームワークを重視してきたことが、成果につながったと考えています。小山高専は2001年に関東甲信越地区大会で優勝し、2012年に初めてロボコン大賞を受賞していますが、2001年は先ほども申しましたが初めて無線通信によるロボット操作が行われた年であり、2012年の全国大会ではジェスチャーや音声認識によってロボット操作ができるデバイスを取り入れた年でした。そして、2020年と2021年はコロナ禍のためにオンライン開催となり、競技力よりも表現力が求められました。このように、大会で使用する技術の節目の年や競技環境が大きく変化する年に小山高専は活躍することができました。これは従来技術に磨きをかけて競技力を高めるのではなく、斬新なアイデアで新しく目の前に現れた高い壁に挑もうとするチャレンジ精神を、小山高専歴代のロボコンチームが受け継いできたからに間違いありません。この原点を見失わない限り、これからも小山高専はアイデア対決を目指したロボットづくりの強豪校として活躍できると考えています。
学生インタビュー
大貫 花鈴(おおぬき かりん)さん(小山工業高等専門学校 電気電子創造工学科3年 Aチームリーダー)
チームの中でどのような役割を担っていますか?
大貫:私はアイデアを起案したことからAチームのリーダーとロボットの設計を任されています。今年は、ロボットがボックスを積み上げてゲートをつくり、そのゲートを人が乗った台車と一緒に通過する競技になります。昨年の全国大会では納得のいく結果が残せず、敗戦後に思わず涙がこぼれてしまいました。今回も難しい課題ですが、「みんなを笑顔にするロボットをつくる」というチームの目標のもと、その悔しさを晴らしたいという気持ちで挑んでいます。
ロボコンに参加したいと思ったきっかけは?
大貫:もともとモノづくりが好きな子供でした。小学6年生のある日、テレビでロボコンが放映され、自分でも作ってみたいと思ったことに加え、小山高専の出前授業があってロボットを実際に見ることができたので、自ずと中学卒業後の進路が固まりました。
高専に入って良かったと思うのはどんなことですか?
大貫:ロボットづくりに熱中できたのはもちろん、授業や実験で色々なものづくりの技術に携われたことが本当に良かったです。卒業後はお菓子を自動でつくる機械を開発したいと考えていましたが、今は高専の先生になりたいという夢も膨らんできました。
大槻 空(おおつき そら)さん(小山工業高等専門学校 電気電子創造工学科2年 Bチーム)
チームの中でどのような役割を担っていますか?
大槻:Bチームはメンバーそれぞれがロボットの機構別に独自の役割を担っていますが、私は共有エリアの設計と製造を任されています。メンバー間のコミュニケーションは活発で、3年生一人と2年生四人のチームメンバーそれぞれがアイデアを出し合い、創意工夫と試行錯誤を重ねている段階です。
ロボコンに参加したいと思ったきっかけは?
大槻:小学5年生の時にロボコンのテレビ放映を見て感動し、ぜひ自分もこの場に立ちたいと考えました。それで高専を目指すことにもなったのです。理系の勉強が得意だったことも大きいですね。入学後、すぐにロボコンのサークルに登録しました。
高専に入って良かったと思うのはどんなことですか?
大槻:日頃の勉強とロボット製作で、とても忙しい日々を送っていますが、それが充実した毎日になっていると感じています。無駄な時間や退屈な時間が殆どありません。