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高専トピックス

会場となった大手町プレイス イーストタワー(東京都 千代田区 大手町)

一般社団法人 日本ディープラーニング協会(※1)が主催する大規模イベント「JDLA Connect x CDLE All Hands~AI共創社会、学びが日本の実装を加速させる~」が2026年3月19日(木)に開催されました。
本イベントは、JDLAの会員企業や資格試験合格者コミュニティ(CDLE)が一堂に会し、AIの社会実装に向けた最前線の議論とネットワーキングが行われる場です。
JDLAは現在、会員企業数が170社に拡大し、G検定(※2)などの合格者はまもなく15万人に達する規模にまで成長しています。会場では、参加者が首から下げるストラップの色(黄色:JDLA会員企業、赤色:CDLE合格者、白色:その他)を分け、異なる属性の参加者同士が積極的に交流し「白が赤や黄色に染まる」ようなネットワーキングが推奨されました。
また、 高専DCON(ディープラーニングコンテスト) から起業したスタートアップ企業のブース展示なども行われていました。
本イベントのトークセッションの魅力や高専DCON発のスタートアップ企業インタビューをお届けします。

※1 一般社団法人 日本ディープラーニング協会(Japan Deep Learning Association、以下 JDLA):ディープラーニングを中心とする技術を通じて日本の産業競争力向上を目指し、人材育成、産業活用促進、提言、国際連携、社会との対話などに取り組む団体。2017年6月1日に設立。
※2 G検定:JDLAが実施する、AIやディープラーニングに関する基礎知識を問う資格試験。


(掲載開始日:2026年4月3日)

1. 基調講演・トークセッション「AI共創社会へ、日本の展望」


日本のAI戦略と企業に期待される具体的なアクションについて語る、各氏の基調講演。

登壇者:
・松尾 豊 氏(東京大学 大学院工学系研究科 教授、JDLA理事長)
・村上 明子 氏(AIセーフティ・インスティテュート 所長)
・江間 有沙 氏(東京大学 国際高等研究所東京カレッジ 准教授、JDLA理事)


基調講演では、AIの社会実装を通じた日本の経済成長とグローバルな展望について具体的な議論が交わされました。

松尾氏は、日本全体でAIを適切に活用すれば、国内総生産(GDP)の成長率を年に0.2パーセントから1.3パーセント押し上げる効果があるというマクロ経済の試算を発表しました。
この経済効果を実現するためには、全企業の80パーセントにAIを定着させ、主要業務の作業時間を10パーセントから20パーセント削減するという高い目標の達成が不可欠であると説明しています。
また、長きにわたり経済が停滞している日本の現状を病気にかかっている状態と表現し、優秀な人材が能力に見合った役割を担うことができるように組織の仕組みを見直す必要性を訴えました。

続いて村上氏は、企業におけるAI実装の壁として、短期間で担当者が変わる日本の人事ローテーションの文化を指摘しました。
進化の速いAI技術で成果を出すためには、専門知識を持つ人材が継続的に事業へコミットできる環境整備が急務であると述べています。
さらに、グローバルな競争環境において、日本企業は海外の事例を待つのではなく、自らの手で事例を作り出し、世界に向けて積極的に発信していく姿勢が重要であると強調しました。

江間氏からは、AIの安全性や倫理に関する国際的な枠組みの動向が紹介されました。
特に、G7での合意形成を目指した広島AIプロセス(※1)AIガバナンス(※2)責任あるAIの考え方が世界的な潮流となる中、日本がどのような役割を果たしてゆくべきかが探られました。

これらの国際的なルール作りの場において、日本人特有の調整力や他国に安心感を与える信頼性が高く評価されている点について、松尾氏は日本が独自のリーダーシップを発揮できていると分析しています。
国内での着実なAI実装を通じた経済成長と、国際社会での信頼構築を両輪として進めることが、日本がAI共創社会において進むべき道として示されました。

※1 広島AIプロセス:2023年に日本がG7の議長国を務めた際に議論された、AIの「責任あるガバナンス」を推進するための枠組みのこと
※2 AIガバナンス:企業や組織がAIを安全且つ倫理的に活用するために、自社のポリシー決定、組織体制の整備、リスク評価などを行う管理体制・ルールのこと

2. 特別トークセッション:テーマ「知能と身体が融合するAGI ― ロボット基盤モデルがカギとなる」


フィジカルAIやアバターが日常に溶け込む未来のタイムラインと、AI社会実装に向けた課題について熱い議論が交わされるトークセッション。

登壇者:
・尾形 哲也 氏(早稲田大学 基幹理工学部表現工学科 教授、AIRoA理事長)
・石黒 浩 氏(大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授)
・岡田 陽介 氏(株式会社ABEJA 代表取締役CEO、JDLA理事)


本セッションにおいて、フィジカルAI(※1)の社会実装をテーマに議論が交わされました。
議論の焦点は、AIが物理的な身体を持つことで社会にどのような変革をもたらすかという点です。

長年ロボット研究に携わる登壇者らは、ここ1~2年における技術の進化スピードは想像を絶すると驚きを語ります。
尾形氏は、以前は基礎研究の段階だったものが、現在ではAIとハードウェアの連携が容易になり、ロボット実装のハードルが劇的に下がったと指摘しました。

一方石黒氏は、2000年代からアバター研究を続けてきた背景に触れ、コロナ禍を経てリモートで働くことに対する社会の受容性が大きく変化したと語りました。
大規模な基盤モデル(※2)の進化により、数年後にはロボットやアバターが日常業務を担う未来が現実味を帯びています。
また、すべての作業を一度に自動化するのではなく、個別のタスクを着実にAIへ置き換えていくことで総合的な自動化に到達できると説明し、まずは普及に向けたキラーアプリケーションを生み出す重要性を説きました。

後半の質問コーナーでは、尾形氏が実世界のデータを直接収集し学習させることがAIの進化に極めて重要だと強調しました。
AI社会の若手においてスキル面で求められることは、「共感力」や周囲と良好な人間関係を築く能力が挙げられました。
また参加者からロボット開発における「日本の強み」を問われると、登壇者は人間らしいロボットを自然に受け入れる日本独自の「社会的受容性の高さ」と、AIとハードウェアを組み合わせて実用的なシステムを作り込む「ものづくり」の力が明確な勝ち筋になると力強く語りました。

※1 フィジカルAI:AIをロボットやアバターなどの物理的・仮想的な身体(ハードウェア)に組み込み、現実空間や仮想空間で人間と相互作用しながらタスクを実行する技術のこと。
※2 基盤モデル:膨大なデータを用いて学習され、自然言語処理や画像認識など、多様なタスクに汎用的に適用できる大規模なAIモデルのこと。

3. 特別トークセッション:テーマ「AI人材育成の最前線 ― 個の学びは、企業の競争力につながるのか」


AIを単なるツールではなく新たな経営資源として捉え、業務プロセスを根本から作り変えるための「人」の評価と育成について、熱い議論が繰り広げられた。

登壇者:
・江本 鎮男 氏(野村證券株式会社 IB企画部 デジタルITグループエグゼクティブ・ディレクター)
・荻野 綱重 氏(株式会社博報堂DYホールディングス テクノロジーR&D戦略室BPR推進G GM)
・吉成 雄一郎 氏(三菱商事株式会社 AIソリューションタスクフォース AIインテリジェンス・ハブ室長 (兼) デジタル事業部長)
・竹川 隆司 氏(株式会社 zero to one 代表取締役CEO、JDLA理事)


日本のAI実装を牽引するトップ企業が集結した本セッションでは、AI人材の育成が企業の競争力にどのようにつながるのかをテーマに議論が交わされ、組織を動かすための実践的なアプローチが共有されました。

議論の基盤として、JDLAが策定中の「AI実践人材ラダー(※1)」が提示されました。
AIの技術的知識とプロジェクト推進力は別軸であり、既存のマネジメント力があればAI実装のプロジェクトを推進できるケースも多いと指摘されました。
また、人材評価において重要なのは、優れたプロンプト(※2)を隠し持つのではなく、周囲に積極的に共有してチーム全体の生産性を高める「利他的なホスピタリティ」です。
さらに、リーダー層が率先してAIに触れる姿勢が組織変革の鍵を握ることが強調されました。

議論の中で強く主張されたのは、AIを新たな経営資源として捉え、AIを軸にして業務プロセスそのものを根本から作り直すアプローチです。あえて最初の数ヶ月間はAIに触れず、社員に対して現場の課題を徹底的に言語化させる育成プログラムの事例が紹介されました。
また、若手社員が役員にAIを教える取り組みも注目を集めました。AIの平均的な回答に対し、経験豊富なベテランが自身の視点で「ダメ出し」を繰り返すことで、オリジナルなクリエイティビティを生み出すことができ、AIは創造性を拡張するパートナーとして機能します。

「将来的にAIは企業のメイン業務に入り込むか」という問いには、全員が「確実に入ってくる」と断言しました。
一方で、海外のフロンティアモデル(※3)に対して機密性の高いデータを入力するセキュリティ上の懸念も議論されました。企業が前に進むためには、G検定を目標に設定し、社外コミュニティと知見を共有することが重要だと結論付けられました。

※1 AI実践人材ラダー:AI人材のスキルや実務経験を可視化するための段階的な評価基準。
※2 プロンプト:AIに対して指示や質問を出すために入力する文章。
※3 フロンティアモデル:最先端の技術を用いて開発された、非常に高性能で大規模なAIモデル。

4. 特別トークセッション:テーマ「AIガバナンス入門 ― イノベーションと両立させる体制構築の第一歩」


企業におけるAIガバナンス体制の構築と、安全且つ迅速なAI社会実装のあり方について語る登壇者たち。

登壇者:
・井上 顧基 氏(株式会社Elith 代表取締役CEO&CTO)
・古川 直裕 氏(株式会社ABEJA 弁護士)
・八木 聡之 氏(富士ソフト株式会社 常務執行役員CTO、JDLA理事)

イベントの最終セッションにおいて、企業におけるAIガバナンスの実践と新たな認証制度の創設について深い議論が展開されました。

まず焦点が当てられたのは、生成AI利用時の法的リスクへの対応です。
社内規定で個人情報入力を一律禁止している企業は少なくありませんが、古川氏によれば学習を防ぐDPA(※1)を結んだ有料プランを適切に利用していれば、個人情報を入力しても法的な問題は生じないことが明言されました。また、著作権侵害の懸念についてもAIへのデータ入力行為自体が直ちに著作権侵害になるわけではないという見解が示されました。
法的に問われるのは、出力結果が既存作品と類似しているかという点にあり、要約やアイデア出し等の用途であれば、安全性が非常に高いと指摘されました。

話題は管理体制の構築へと移ります。現在、AIのリスク管理に関する国際規格(ISO 42001)が存在するものの、取得準備に半年以上を要するため、多くの企業にとってハードルが高すぎる実態があります。
そこでJDLAは、規格のコアである「リスクアセスメントとリスク対応」に絞り込んだ、独自の「AIガバナンス認証」の新設を発表しました。
この新制度は、最初から100点満点を目指すのではなく、「30点」でも確実な第一歩を踏み出せるよう設計されています。

JDLA独自の「AIガバナンス認証」について、先行導入している富士ソフト株式会社、株式会社Elithから導入の規模感について共有がありました。
富士ソフト株式会社は事前の社内説得や規定変更等の調整に約2ヶ月を要したものの、AI利用の棚卸し作業自体は約3週間で完了しています。一方、株式会社Elithは、密かに使われるシャドーAI(※2)の把握等を迅速に進め、数週間で基準をクリアしました。
両社とも国際規格の取得準備に要する半年以上という時間を大幅に下回る期間で完了しており、独自の認証制度を活用することで、より短期間で適切な管理体制を構築できることが示されました。

基調講演で提言されたGDPを押し上げる経済効果を実現する為には、日本の8割の企業がAIを本格導入することが求められます。この負担の少ない新認証制度を活用し、各社が安全且つ迅速に適切な管理体制を構築して社会実装を進めることが重要であると結論付けられました。

※1 DPA(Data Protection Act):データの保護や取り扱いルールを定めたデータ処理契約。
※2 シャドーAI:企業側が把握・管理せず、従業員が無断で使用しているAI。

高専DCON発スタートアップ企業インタビュー

高専DCONを経て起業を果たした2社の代表にインタビューを実施しました。
本稿では、彼らが手掛ける現在の事業内容や高専DCONへの思いについて伺いました。

<株式会社 HIBARI 代表取締役 CEO 佐藤 羽瑠(さとう はる)氏>


専攻科に通いながら起業をした CEO 佐藤さん

高専DCON2024でプレゼンを行う佐藤さん

2024年DCON全国大会に沼津工業高等専門学校 本科5年次にチーム「データドリブンウェア」で出場、ディープラーニングとデジタルツイン技術を活用した製造業向け総合管理システム「倉庫ナビ」を提案し企業賞を2社から獲得しました。

高専に入社した頃は、大学に編入して博士号を取り「日本のモノづくり産業の研究」を深めるキャリアを考えていましたが、このキャリアだと研究が形になるには時間が掛かるため、本科5年で高専DCONに参加し、JDLA様から手厚い支援を受けて起業を果たしました。
現在は、AIシステムの開発をメインで行い、創業から1年4か月経過した現在、当初5名の従業員も15名となり、今年中には30名になる見込みです。
事業内容は、地元静岡県を中心に製造業や飲食チェーンの基幹システムをAIドリブンの手法によって生産性を上げたり、省力化を図るDXを手掛けています。

現場の方と生産に関する共通言語で会話をしたり、工作機器の操作を理解していたりと高専で学んだ強みが、必然的に大手のコンサルやSIerとの差別化となり、コンペになっても勝つことが増えています。プログラムを書くことだけをやってきた方々と電気・機械・化学も広く触ってきた高専出身者との差が如実に結果に表れます。
静岡のマーケットは、製造業が多いためtire1がプラットフォーマーになることでtire2、tire3のDXも進めやすくなり、それが最終的には全てのお客様に喜ばれる成果につながります。
DCONは、高専生が苦手と言われる「ビジネス」の領域でAIを駆使して課題を解決することで、AIとビジネスを結び付けるきっかけを作ってくれ、さらに高専以外の方々との接点を持つことで視野を広げる機会を創出してくれる存在です。

会社名株式会社 HIBARI
代表代表取締役 CEO 佐藤 羽瑠(さとう はる)氏
Webサイトhttps://hibari-ai.com/
高専沼津工業高等専門学校 専攻科 (在籍中)

<株式会社 ToI Nexus 代表取締役 CEO 西谷 颯哲(にしたに そうてつ)氏>


事業内容について紹介してくれる西谷さん(写真右)、COO 尾島(おじま)さん(写真左)

高専DCON2024で最優秀賞の表彰を受ける「Technology 七福神」 中央でトロフィーを持つのが西谷さん

2024年DCON全国大会に東京都立産業技術高等専門学校 品川キャンパスにチーム「Technology 七福神」で出場、「AIを活用した電話詐欺対策」を提案し最優秀賞と企業賞を獲得しました。

2024年DCONメンバーから共同経営者として、3名参加、現在は8名体制で創業1期目です。
DCONで提案した詐欺検知デバイス名を「サギ止め太郎」に改め、2025年10月からは、兵庫県警に西谷さんが直接コンタクトを取り、詐欺防止の連携を始めています。最終的には県警内へデバイスの配布を目指して、データを提供してもらい、より精度の高い判断が出来る様にブラッシュアップを進めています。
兵庫県警から最新の詐欺の手口を監修頂き、ニセ警察官や詐欺電話の体験会を月3~4回、兵庫県内で開催しています。このような体験会を今後は、全国の各自治体と連携をしていくことになります。

詐欺を根絶させるためには、我々のデバイスを配布するだけでは成し得ず、上記のような日々の啓発活動を自治体の方々と行う事が必要です。体験会では参加者が詐欺師となってAIを騙すようなワークショップを行い、より効果的な体験を仕掛けています。
今後は警察や自治体だけでなく、警備やリスクマネジメント関連の企業にも広げていきたいと考えています。
当社のような課題抽出力や解決力が求められる仕事は、高専生でないと務まらないと思います。また、DCONに出場した他校の学生が起業したいと当社に相談に来る事が度々あり、当社に入社してもらうような起業家育成の流れも始まりました。これも高専同志のつながりがないと始まりません。
DCONでお世話になったメンターやアドバイザーの方々とは今でも連携頂いており、デバイス製造の企業を紹介してもらったりしています。

会社名株式会社 ToI Nexus
代表代表取締役 CEO 西谷 颯哲(にしたに そうてつ)氏
Webサイトhttps://toinexus.jp/
高専東京都立産業技術高等専門学校 品川キャンパス(卒業)

おわりに

AIがもたらす変革の波がいよいよ具体的な社会実装の段階に入ったことを肌で感じるイベントでした。

単なる技術的な興味や未来予測に留まらず、いかにして新技術を経済成長や産業の競争力強化に直結させるかという、国全体を見据えた本気度が会場全体から伝わってきました。
産学官が一体となり、最新の技術をどのようにして日常の業務や社会インフラへ組み込んでいくのか、実践的な戦略が議論されたことは非常に大きな収穫です。同時に、安全性を確保するための管理体制の構築や、組織を牽引する次世代の専門人材の育成といった難しい課題に対しても、決して立ち止まることなく、着実に第一歩を踏み出そうとするチーム日本の底力を確信しました。

これからの時代は、個々の企業や組織が内向きに留まるのではなく、外の世界と積極的に連携し、得られた知見を共有しながら共に成長していく姿勢が不可欠になります。更に、世界に先駆けて新しい共創社会のモデルを提示するためには、変化を恐れずに挑戦を続ける強靭な行動力や柔軟な思考が求められます。
オープンな情報交換と多国間協調の精神を持ち続けることこそが、この先の激しい競争社会を生き抜き、豊かな未来を築くための確かな道であると強く感じ、今後の日本のさらなる躍進に大きな期待が膨らむ頗る有意義なイベントでした。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。