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高専トピックス

徳山工業高等専門学校(以下、徳山高専)は、開校以来「世界に通用する実践力のある開発型技術者を目指す人材の育成」を学習・教育目標に掲げてきました。「世界に通用する」という文言を先頭に置き、視野が国内に留まらない技術者の輩出を目指してきたのです。近年は、平成28年度から平成30年度にかけて「"青い鳥"グローバル教育プログラム」が国立高等専門学校機構のグローバル高専事業(展開型)に採択され、異文化に対する理解や、グローバル化に対応するための「知識を学ぶための方法」、「課題発見・解決力」、「高度な専門知識」、英語による授業などの推進を手掛けています。
そして、その成果を発展・展開する目的で令和元年度からスタートしたのが、再びグローバルエンジニア育成支援事業に採択された「"青い鳥"Global Challenge Program」です。徳山高専においてこの事業を主導しているのは、国立高等専門学校機構理事長特命参事と徳山高専副校長を兼務されている天内 和人(あまない かずひと)教授です。そこで、天内先生に同事業の取り組みについてお聞きしました。
(掲載開始日:2023年3月10日)

徳山高専のグローバルエンジニア育成支援事業では、何を実現しようとしているのですか。


”青い鳥” Global Challenge Programをスタートさせ、国際的技術者教育質保証として、基礎力にはIB(国際バカロレア)認定取得を目指し、高度育成にはCDIOの加盟を実行しました。

私はグローバル人材とは、単に世界共通言語である英語による会話ができるだけではなく、英語力には留まらない異文化対応力を持った人であると捉えています。それに加えて、本校がこの事業を通して育成を目指すグローバルエンジニアとは、地域企業群のグローバル化を支える実践的技術者となるべく、地域のグローバル化における課題を発掘し、それらの課題を様々な文化的背景を持つ人々とともに解決する実力を持った人材であると位置付けています。平成28年度からの「"青い鳥" グローバル教育プログラム」もそうしたコンセプトの基でスタートしています。
現在はさらに内容を発展させた「"青い鳥" Global Challenge Program」を、スタートしています。このプログラムは、国際的な視点から教育改革を推進するために「CDIOイニシアティブ(※1)」に加盟するとともに、教員及び学生の国際交流を促進し、国際化を推進する教育課程を再編成していくものです。そして、最終的には本科3年生までの教育プログラムのIB認定(※2)の取得を目指しています。

※1 36か国、130以上の高等教育機関が加盟する、工学教育の事実上の世界標準
※2 IB:International Baccalaureate(国際バカロレア機構・本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム

天内先生がグローバルエンジニアの育成を手掛けようとされた経緯を教えて下さい。


国立高専機構理事長特命参事と徳山高専副校長を兼務されている天内和人教授は、海外大学での研究員や講師の経験から、互いに理解を深めるのに必要なのは英語力ではなく、異文化を理解・尊重しつつ、自らのバックグラウンドも語れるコミュニケーション力であるとおっしゃっています。

私は金沢大学大学院の自然科学研究科博士課程を修了し、国立共同研究機構基礎生物学研究所研究員を経て渡米しました。向こうではジョンズ・ホプキンス大学やテキサス大学サウスウェスタン医科大学で研究員や、助手、講師を9年に亘って務め、永住権を認めるグリーンカードも取得しています。
現地では様々な国から集まった多くの研究者たちと関わりましたが、その時に実感したのが、現在のグローバルエンジニア育成教育の根幹になっている「互いに理解を深めるのに必要なのは英語力ではなく、異文化を理解・尊重しつつ、自らのバックグラウンドも語れるコミュニケーション力であること」でした。

日本に戻ってからは東京医科歯科大学難治疾患研究所において研究員を務めた後、平成16年に徳山高専の教授になりました。専攻は生命科学です。
その後、高等専門学校機構教育改革推進プロジェクトのアンケート調査で、地域企業群に、グローバルな舞台で活躍できる人材を育成してほしいというニーズのあることが判明しましたが、一方で、私も学生たちにはグローバルな意識が足りないと感じていました。
そこで国立高等専門学校機構にグローバル人材育成のプロジェクト化を提言したところ、是非取り組んでほしいとの採択を得たのです。

グローバル人材育成に注力してきた徳山高専は、これまでどのような成果を上げましたか。


オンライン交流事業の参加後のアンケートからは、主体性、倫理観、未来指向性などが上がっており、手軽なオンライン交流が高学年で海外研修を受ける動機になっていることがわかりました。

これまでに英語eラーニングシステムの導入、授業形態・方法の多様性に対応、英語科目以外の授業の英語化、海外語学研修等の単位化など、学生たちがグローバルな視点を持つような施策を次々に打ってきました。その成果は着実に現れ、一つの指標に過ぎませんが、学生のTOEICスコア平均は順調に伸びています。
また、積極的に海外語学研修や「トビタテ!留学JAPAN」などのプログラムを活用した海外留学、専攻科生の「長期海外インターンシップ」の推進をはかり、コロナ禍前は海外経験・海外活動の参加者数が急増し、全学生数600名程度の小規模校ながら、参加者が100名を超えた年度もありました。こうした中から、米国オレゴン州立大学に3年次編入学した学生も輩出しました。

本校卒業後に東京大学の大学院に進学しグローバルな経験を経てスタートアップを果たしたOBや、東京工業大学進学後にドイツへ留学したOBなども出ています。令和2年度からはコロナ禍のために海外に足を運ぶような交流の多くは取り止めとなってしまいましたが、オンラインによる国際交流が急増しました。
香港IVE(Hong Kong Institute of Vocational Education)・長野高専・徳山高専のバーチャル交流や、シンガポールポリテクニックとのオンライン交流などの多くの学生が参加しています。グローバル人材育成の取り組みは着実に継続しているのです。そしていよいよ、CDIO加盟のための本格的な準備も令和5年度から再開します。

最近、本校の多くの学生が「海外に行ってみたい」「海外の学生や技術者と交流したい」と言ってくれるようになりました。それは本当に嬉しいことです。私はこうした海外に飛躍したいという純粋な意欲こそが重要だと考えています。
英語力は近い将来コンピュータでカバーできるでしょう。海外に飛び出て、何かをやってみようという意欲こそが重要なのです。そうしたたくさんの学生たちが世界と繋がり、地球人としてのエンジニアの意識を持つようになり、ボーダレスの世界に貢献するエンジニアあるいは科学者となっていく…私はそれを何よりも望んでいるのです。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。