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高専トピックス

高専GIRLS SDGs×Technology Contest(高専GCON)は、全国の高等専門学校(以下、高専)生の約25%を占める高専女子学生に光を当て、高専生が日頃行っている研究や学習を基に、SDGsの観点から社会課題解決に貢献できる提案を競うコンテストです。OECD加盟国で最下位という日本の研究職・技術職の女性比率向上に向けた教育の必要性をコンテストを通じて社会に広く発信しています。

⾼専GCONは⾼等専⾨学校制度創設60周年記念の⼀環として始まった新しいコンテストで、国⽴⾼等専⾨学校機構と⽇本経済新聞社の共催により、昨年度プレ大会を開催し、今年度が記念すべき第1回大会として開催されました。
参加学生がSDGsの理念を理解し、未来の研究者・技術者としてより成長することを期待して、SDGsの目標達成に繋がる様々な社会課題の解決に向けた技術開発のアイデアを競いました。

2023年1月15日(日)に日経ホールにて開催された高専GCON2022本選の様子をお届けします。

(掲載開始日:2023年2月15日)

ルール概要

募集テーマは、「SDGsを中心としたさまざまな社会課題の解決に向けた技術開発、アイデア」です。高専生が日頃行っている研究や学習を基にした、社会での女性活躍に繋がる提案であることが推奨されます。また、SDGs解決のイノベーション創出によるビジネスチャンスを引き寄せる取り組みの発表も期待されました。

参加条件は、全国の国公私立高等専門学校の本科・専攻科に在籍する女子学生中心の2〜6名の学生チーム(個人も可)で、チーム参加の場合は、リーダーが女子学生かつチームの半数以上が女子学生であれば、男子学生の参加も可能となっています。

本選は、46高専90チームのエントリーの中から、一次審査(書類・面談)を通過した10チームが、プレゼンテーション(5分)・質疑応答(4分)を行い、文部科学大臣賞、優秀賞(2チーム)、協賛企業であるアイング株式会社より贈られるアイング賞が選ばれました。
また、当日のサプライズとして、本選出場を果たした全チームに贈られる「60周年記念賞」が用意され、賞状と副賞が贈られました。


本選出場チーム一覧(高専名・チーム名・タイトル・表彰名)

高専名 チーム名 タイトル 表彰名
沖縄工業高等専門学校 パイナッポー AIとドローンを基盤とするレジリエントな農業の実現に向けて 文部科学大臣賞
大島商船高等専門学校 Smart Searcher開発 LAB 海面清掃における海洋ごみ捜索の自動化と回収船航路の効率化システム 優秀賞
茨城工業高等専門学校 茨城高専ほしいも☆プロジェクトチーム ほしいも加工残渣の悪臭抑制
~SDGsなほしいもづくりのために~
優秀賞
北九州工業高等専門学校 Nit Kit 抗体LAB 低分子化抗体を用いたがん診断薬の開発
~抗体を小さくして体の隅々までがんを見つけ出す~
アイング賞
松江工業高等専門学校 E-Motors 実践的ものづくり体験による機械系エンジニア育成プログラム
東京工業高等専門学校 モンゴルと日本の環境問題を考える真面目な女子 毒をもって毒を制す
ー廃棄物で水を浄化する方法に関する研究ー
鳥羽商船高等専門学校 ezaki-lab スマートウォッチ活用による持続的な海女漁の実現
都城工業高等専門学校 都城高専-KOSENまちの縁側育み隊 建築PBLによるまちづくり・まち育ての実践
有明工業高等専門学校 サーキットデザインGirls しなやかな半導体・集積回路教育を目指して
-サーキットデザイン&メタバースな未来-
呉工業高等専門学校 呉高専 プロジェクトデザイン 環境都市系 スタッドジベルを有する鋼合成桁コンクリート床版撤去技術に関する研究

文部科学大臣賞:沖縄工業高等専門学校


沖縄高専の発表の様子。AIとドローンを組み合わせたパイナップル栽培のDX化実現に向けた研究成果を説明。

チーム名:パイナッポー
タイトル:AIとドローンを基盤とするレジリエントな農業の実現に向けて


沖縄高専は農業とSDGs、そして女性が活躍できる農業の実現に向けた取り組みを行い、AIとドローンを基盤とした循環型のレジリエントな農業の可能性を提案しました。

農業は未だに3K(きつい、汚い、危険)労働のイメージがあり、女性の活躍の妨げとなっています。こういったイメージを払拭するために新3K(効率、稼げる、強靭)労働を掲げ、この新3K労働を達成するために農業DX化が必要であると考えました。
そこで農業DX化にあたり、パイナップルの生育情報の管理に着目し、ドローンによって撮影した画像データに対して、AIを用いて処理することで葉長の検出、小さい蕾の検出、品種の違いの検出等を行うセンシング技術の開発を行いました。

葉長を検出するAIは、SSD(Single Shot Multibox Detector)と呼ばれる物体検知アルゴリズムを基に、植物を円形に検出できるように改良されたものとなっており、株の検出精度は70%以上を確保しています。
また、ドローンから取得出来る画像データは解像度が低く、小さい蕾を捉えることができませんが、GAN(Generative Advarsarial Networks)と呼ばれるAIを用いて、取得した画像データに対して超解像化(※)を行うことで蕾を鮮明に捉えることを可能としました。
本チームが開発した技術の独自性として、植物を円形に検出する機能や小さい蕾を検出する機能等が挙げられます。

審査委員からはICTとAI、ドローンなどを用いた高い技術力は汎用性もあり、今後の実現性に高いポテンシャルを期待できること、また、ジェンダーの視点から女性が農業を担うことにより3K労働から新3K労働への転換という発想も高く評価され、文部科学大臣賞に選ばれました。

※ 超解像化:低画質の画像を高画質へ補完する技術

優秀賞:大島商船高等専門学校


デザイン担当の学生が書いたチームメンバーの似顔絵イラスト。発表スライドはCG動画を含めて、視覚的にも素晴らしく、スライドの完成度は大会随一であった。

チーム名:Smart Searcher開発 LAB
タイトル:海面清掃における海洋ごみ捜索の自動化と回収船航路の効率化システム


大島商船高専チームが発表したのは、ドローンとAIの技術を用いた海洋ゴミ回収システムでした。

船舶による海洋ゴミ回収は既に行なわれていますが、ゴミが漂流している地点の特定が困難であるという問題があります。そこで、ドローンとAIの技術を利用し、ゴミの発見及び効率的な回収を自動で行うシステムを構築しました。

システムの全体像は、まずスマートフォンのアプリで探査範囲やドローンの速さ・終了時の動作といったドローン動作パラメータを設定します。設定条件を基にドローンが自動で移動しながら海洋を撮影し、生成された画像データが船舶内のサーバに送信されます。サーバでは、画像のピクセル毎にラベル付けしていく手法であるセマンティックセグメンテーションを用いて、ゴミの領域の特定を行い、独自の航路生成アルゴリズムにより、最適な航路を決定します。そして、決定された航路で船舶が海洋ゴミの回収を行うといった流れになっています。

大島商船高専の海洋に関する底力を全て出した研究成果であり、プレゼン資料もよく練られCGモデルやイラストを用いた研究成果の表現の仕方も分かりやすく素晴らしい発表であったこと、大島から日本全体を元気付ける活躍が期待され、優秀賞の受賞となりました。

優秀賞:茨城工業高等専門学校


茨城高専は地元の名産品であるほしいも加工残渣を堆肥化する際に発生する悪臭問題を解決する研究成果を発表。

チーム名:茨城高専ほしいも☆プロジェクトチーム
タイトル:ほしいも加工残渣の悪臭抑制~SDGsなほしいもづくりのために~


茨城高専は、臭気抑制法の確立によってSDGsの目標達成に繋がるほしいも作りを提案しました。

茨城の名産品の1つであるほしいもは、生産規模が拡大しており、ほしいもを作る過程で皮などの大量の残渣(※1)が発生します。
残渣の有効利用法の一つとして、堆肥化することで処理にかかるコスト低減が可能となっています。
しかし、堆肥にする過程で残渣から低級脂肪酸による悪臭が発生し、近隣トラブルの原因になる場合もあります。この臭気をどのように抑制するかが課題となっています。
そこで、農家の方が誰でも手軽にできる臭気を抑制するための中和・吸着作用を有する材料の開発を行いました。
臭気を抑制する材料として、牡蠣殻、コーヒー滓(かす)、ドロマイト(※2)といった漁業・食品廃棄物に着目しました。
臭気を抑える実験を行った所、牡蠣殻を10%加えることで低級脂肪酸濃度を、未処理の場合と比べて90%カットできることを明らかにしました。
今後の展望として、牡蠣殻の加工方法や運搬方法などの実用化に向けた具体的な検討を、関係各所と協議の上で進めていく旨の発表がなされました。

審査委員からは現時点では粉砕機等を使用することなく、大まかに砕いた牡蠣殻を加えるだけで効果が出る手軽さや、地域の名産品を加工する上で発生する残渣・牡蠣殻といった廃棄物同士を有効活用しており、地域の発展に貢献したことが評価され、優秀賞を受賞しました。

※1 残渣:食品かすのことで、今回の場合はサツマイモの皮やイモの残りかすが混ざったもの
※2 ドロマイト:炭酸カルシウムを主成分とした堆積岩である石灰石が海水中で変容してカルシウム分とマグネシウム分が置換して生成したもの。苦土石灰という名称で農場の土壌改質に用いられる

アイング賞:北九州工業高等専門学校


ガン診断薬という高度で専門的な内容でありながら、とてもわかりやすく夢のある研究であった。

チーム名:Nit Kit 抗体LAB
タイトル:低分子化抗体を用いたがん診断薬の開発 〜抗体を小さくして体の隅々までがんを見つけ出す〜


北九州高専は、低分子化抗体を用いたがん診断薬の開発の研究に関する発表を行いました。

一般的な抗体医薬は、標的に対して高い特異性や結合力を示す一方で、分子量が大きく組織浸透性が小さいことや製造コストが高いことで知られています。
そのため、抗原と結合する抗体の可変領域部位の一部の遺伝子を取得し、低分子化抗体を発現させ、その抗体を用いてがん細胞の特異性の評価を行うことを目的とした研究を行いました。
現時点までにヒト低分子化抗体を発見する細胞取得に成功しており、抗体発現量の増加や抗体の精製条件の決定等を今後の課題として挙げておりました。

アイング株式会社からは、日本発の新しいがん診断薬を開発したいという強い志を持ち、具体的な行動を起こしていることに大変感銘を受けたとの評価を受け、受賞となりました。

おわりに

高専GCON2022では、高専生たちがSDGsの理念を理解し、SDGsの目標達成に繋がる様々な社会課題の解決に向けた技術開発のアイデアについて熱いプレゼンテーションが披露されました。

どのチームも、地域・社会課題を自分事として捉え、主体的に研究を行い課題解決を行っておりました。その姿から、日々培っている技術力を用いてあらゆる課題解決する手法を想起し、ステークホルダーと実際に議論、実装して課題解決をする実行力が高専生に身に付いていることが、今大会を通じてひしひしと伝わって参りました。
日本において女性研究者・女性技術者の輩出は急務です。本コンテストを通して女性研究者・女性技術者を目指す高専生が増える事が大いに期待されます。
今回の高専GCONといったコンテストを皮切りに、高度な技術力でSDGs等の社会課題を解決する高専生たちの実力に夢が膨らむ大変実り多き大会でした。

独立行政法人国立高等専門学校機構 高専GCON2022 オフィシャルサイト

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。