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高専トピックス

 「第4回高専防災減災コンテスト」の最終審査会が1月24日、茨城県つくば市のつくば国際会議場で開かれ、全国の高等専門学校(以下、高専)から選ばれた7校10チームが、斬新なアイデアや最先端の技術を盛り込んだ防災対策を発表しました。地震や土砂崩れの被害を最小限に防ぐ有効な手立ては―。昨夏の提案書選考を通過した10チームの学生たちは約半年間かけて事業案の実証実験やヒアリング調査を行い、化学や建築の知識やAIなどの技術をフル活用してプレゼンテーションに臨みました。
 最優秀の文部科学大臣賞には、無線技術のLPWA通信を活用した沖縄高専の「災害発生時の公衆通信網遮断時でも使用できるスマートフォン~アドフォン~」が輝き、審査員の専門家らから賞賛を受けました。学生たちが自ら提案した多彩な事業アイデアを紹介します。
(掲載開始日:2026年3月12日)

最終審査に10チーム 半年間アイデア検証


コンテストは「防災科学技術研究所」の本所がある茨城県つくば市で行われました。(つくば国際会議場)

 高専生による防災コンテストは、社会課題を解決する力と各地域の防災力育成を目的に、国立高等専門学校機構(高専機構)と防災科学技術研究所(防災科研)が2018年から開催しています。高専制度創設60周年を迎えた2022年からは、国際科学振興財団(国際財団)が加わり、名称をリニューアル。高専生たちが学内の仲間でチームを結成し、それぞれの専門分野を活かした防災・減災のアイデアを毎年提案しています。

 本年度は、北海道から沖縄まで全国15校34チームが昨年6月、防災対策の事業案を提出。防災や社会工学の専門家ら8人が審査員を務め、最終審査会へ進む10チームが7月に選ばれました。各チームの高専生たちは、自分たちのアイデアの実現性や、社会実装するには何が足りないのかを考え、実証実験を繰り返し、住民や企業へのヒアリング調査も実施。防災科研の研究員も各チームのメンターとなって助言し、半年後の最終審査会を目指しました。

 最終審査会はオンラインでも配信され、10チームが順番に登壇。10分間で事業案の魅力や検証結果を発表し、8人の審査員の質疑に応えました。各提案は「地域の課題や特性を踏まえた検証プロセスの明確さ」「聞き取りの分析」「地域への普及・社会実装の可能性」などの観点で審査され、文部科学大臣賞、主催団体・協賛企業の特別賞が選ばれました。

受賞チーム紹介

■応用地質賞
鹿児島高専 「卵の殻を用いたシラスの改良~廃棄物削減を目指して」

 鹿児島高専の男子4人チームは、鹿児島県の約5割の面積に広がる火山灰土壌の「シラス土」に着目。シラス土は保水力が低く、台風などで降水量も多い同県では、土砂災害が発生しやすい状況があります。
 考えたのは、同県で廃棄量の多い鶏卵の殻とシラス土を組み合わせる、SDGsを兼ねたアイデア。卵の殻を燃やして生成される水酸化カルシウムをシラス土に混ぜることで、セメントのように固化させ、土砂崩れを止める構造物に利用することを提案しました。鶏卵を燃やすと異臭が出ることから、臭いを抑える作業手法も検証。「災害の原因となるシラス土を防災に使うという逆転の発想が面白い」と評価を受けました。


沖縄高専が提案した「音波消火器」3Dプリンタを駆使して作成しました。

■関電工賞
沖縄高専 「AI音波消火器を搭載したドローンSOFIA」
 ロボコンにも出場した学生や留学生でつくる沖縄高専のチームは、ドローンを使って山林火災を消火する新たなシステムを考案。従来のヘリコプターからの放水は、取水の手間と時間がかかることから、音波消火器をドローンに搭載する手法を探りました。
 音波消火器は、低周波の音波で空気を振動させ、火元の酸素を断つ次世代型の消火装置です。学生たちは3Dプリンタを使い、手で持てるサイズの音波消火器を実際に作成。最適な周波数と電子回路、最良のホーンの形状を突き止めるため、ろうそくの火に向かって実験を繰り返しました。AIカメラを使って火元を早期に消火するシステムも提案し、最新のテクノロジーを活用したアイデアの具現化に挑みました。
 
■三菱電機エンジニアリング賞
函館高専 「ココロボ×電波でつながる函館プロジェクト~函館高専×FMいるかから始まる防災ネットワーク~」

 函館高専のチームは、災害時の高齢者の避難率向上を目指し、ラジオ機能を内蔵したペット型ロボットを発案しました。高齢者がペット型ロボットと普段から触れ合い、愛着のあるロボットが災害時に避難を呼び掛ければ、迅速な避難行動につながると考えました。
 地元ラジオ局の協力を得て、災害時にはラジオの防災放送が自動で流れるシステムも計画。高齢者施設を訪れ、ロボットを4日間使ってもらう体験調査を行い、高齢者の心を和らげるロボットの会話機能なども検討しました。


和歌山高専からは、大きな風船を使った耐震装置が提案されました。プレゼンスライドから「BAL-SS」のイメージ。

■NHK会長賞
和歌山高専 「風船を用いた耐震化『BAL-SS』」

 和歌山高専5年生の女子が1人で出場。地震発生時に巨大な風船が部屋いっぱいに膨らみ、天井や家具の倒壊を食い止めて避難路を確保するという斬新なアイデアを発表しました。
 家屋の模型を実際に作り、風船の強度や形状を検証した実験結果を報告。揺れを感知する感震センサーで風船が自動的に膨らむ仕組みを提案しました。
 バルーンアートのアルバイト経験と車のエアバックから着想したといいい、「アイデア一本勝負です!」と壇上で説明。審査員からは「とってもユニークで、高専生ならではの提案」と感嘆の声が上がりました。


福井高専が提案した「防災ベスト」。被災時に役に立つホイッスルもベストの中に装着されています。

■国際科学振興財団賞
福井高専 「ベストなベスト~身に着ける安心~」
 福井高専の女子5人は、さまざまな災害グッズを収納出来る防災ベストを考案。簡易トイレや生理用品などが入ったベストを着て避難することで、避難所生活での苦労や二次被害を減らせると考えました。
 反射材や防寒などの機能や軽さ、デザインにもこだわって、ベストを製作。複数の企業に聞き取りを行い、高齢者施設で試着会も開きました。どういうグッズがあれば避難後に役立つか―。子育て世帯にもアンケートを取り、さまざまな立場から検討を重ね、審査員からは「避難生活で困る女性の視点などがしっかり入っている」と評価されました。

■防災科研賞
福井高専 「災害時孤立地域の自主避難ビニールハウスの謎を解き明かす。そしてその先へ」
 福井高専で建築、土木を学ぶ女子3人チームは、ビニールハウスが自主避難場所として使われることがあるものの、積雪による倒壊がしばしば起きていることに注目。豪雪にも耐えられる強度の高いビニールハウスを開発しました。
 構想する上でヒントにした建築手法は、鋼管にコンクリートを充填して柱に使う「CFT構造」。ハウスを支えるパイプにモルタルを入れて補強する手法を考え、コストも低く抑えました。
 実験のため地元の関連企業の協力を得て、実際にハウスを制作。おもりを使った実験で形状の変化や耐久度を解析しました。全てのパイプにモルタルを入れるとたわみが生じたため、最適な構造を割り出し、実物大のハウスを使った検証方法が高評価を得ました。

■高専機構賞
豊田高専 「WAS (Water Break Damage Assessment System) 断水被害調査システム」
 豊田高専の男子4人は、水道のスマートメーターを活用した、地震時の断水復旧システムを提案しました。スマートメーターを各地の避難所に取り付け、水の使用状況から断水の発生をリアルタイムで自治体が把握する構想を立て、中部電力と豊田市と連携したまでも発表しました。自治体や企業と共同での具体的な取り組みや活動の広がりが称賛されました。

文部科学大臣賞:沖縄高専の「アドフォン」 災害時の新たなネットワーク提案


文部j科学大臣賞に輝いた沖縄高専「災害発生時の公衆通信網遮断時でも使用できるスマートフォン~アドフォン~」のチーム発表。

 最優秀賞に当たる文部科学大臣賞には、沖縄高専の「災害発生時の公衆通信網遮断時でも使用できるスマートフォン~アドフォン~」が選ばれました。
 情報通信システム工学科の2年生と4年生の男女6人がチームを結成。地震により携帯電話が不通になっても、住民がコミュニケーションを取れる通信システムを考案しました。
 
 活用するのは、IoTデバイスなどに使われる、低電力で長距離通信が可能な無線技術の「LPWA(Low Power Wide Area)」。専用のモジュールをスマホに取り付け、災害で携帯電話が不通になったときにLPWAネットワークに接続する構想です。近所の住民たちが「アドフォンアプリ」を使ってメッセージなどのやり取りが出来る仕組みを目指し、試作機を作って通信距離やデータ容量を検証しました。
 自治体などへ被害状況を伝えるのに、画像の送信は容量的に難しいため、住宅などをスマホカメラで写すとAIが被害度合いを判別し、テキストデータで送信出来る機能も発案。メンバーは「地域でアドフォンを持っている人が、持っていない人に情報を提供することで『共助』が生まれると思った」と発表し、審査員からは「デジタルな技術が人間のアナログなコミュニケーションに連動し、人とのつながりが期待出来るのが素晴らしい」と評されました。

 提案は、前年のコンテストで同校の先輩チームが発表した、LPWA通信が出来る防災ヘルメットがもとになっており、実験などでは先輩にも協力してもらったそうです。賞状を受け取った2年生の山田創介さん(17)は「アプリと通信を同時使うため、処理エラーを何度も繰り返して苦労しました。先輩に良い報告が出来るのが何より嬉しい」と喜びを語りました。

おわりに

 高専生が持ち前の探求心と想像力を発揮した今回の防災減災コンテスト。審査では、各地域での実装可能性に加え、検証の方法や気付きによる修正も評価基準になっています。高専生がそれぞれの地域を見つめ、高専で学んだ知識を実社会で活かすため、住民たちとコミュニケーションを取る過程にも価値を置いています。
 開催前には、各チームが事業案を紹介するポスターや実物の機器を廊下で展示し、来場者に声を掛けてアイデアを分かりやすく説明。発表後は、住民の感想やコスト面などを問う審査員からの質問に答えました。学生たちはコンテストを通じ、技術を実用化するために必要な視点や事業を起こすまでの労力を学びました。

 表彰式では、審査員長の川島宏一・筑波大学教授(システム情報系社会工学域)が「AIの活用が提案に入っていることが全体の特徴になっている。現在、あらゆる分野でAIが問題解決を支えているが、人間の琴線に触れる問題を特定する力、関係者を巻き込んで共感を得る力は人間だからこそ出来ること。その必要な力がこのコンテストで鍛えられていると思います」と総括。防災科研や高専機構、国際財団、協賛企業の代表者も登壇し、次世代の技術を担う高専生に心からのエールを送りました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。