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高専トピックス

現在、全国に5県と、数少ない高等専門学校(以下、高専)の空白県となっている滋賀県ですが、令和10年の開校を目指して県立の高専設置計画が進んでいます。
何が起点になったのか、どのような高専を目指しているのか。基本構想を策定し、設置準備を主導する現職の三日月大造滋賀県知事にお話をお聞きしました。

●三日月大造(みかづき たいぞう)滋賀県知事プロフィール
平成2年 滋賀県立膳所高等学校 卒業
平成6年 一橋大学経済学部 卒業
平成6年 西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)入社
平成14年(財)松下政経塾 入塾(第23期生)
平成15年 衆議院議員初当選(以降4期連続当選)
平成26年 滋賀県知事(現在3期目)
令和4年 関西広域連合長 就任

座右の銘:一期一会、着眼大局着手小局

(掲載開始日:2023年4月27日)

三日月大造滋賀県知事へインタビュー

滋賀県立高専の設立構想はどこから浮上し、どのような経緯で計画が進み始めたのでしょうか。


滋賀県の地元住民や産業界・教育界からも大きな期待を受け、高専の設立は、知事に就任した平成26年から実現に向け動き続けています。

私は大学を卒業後、JR西日本に就職し様々な職務に就きました。その時に多くの高専出身者と手を携えることがあり、その技術力や実務能力の高さを幾度も目の当たりにして、高専教育の優秀さを深く認識していました。

そんな私が平成15年に滋賀3区から衆議院選挙に出馬し初当選。政治家として国政に関わるようになる一方で、地元である滋賀のあらゆる実情に触れる機会も増え、それまで以上に数々の課題を把握するようになりました。
その一つが、滋賀県は国内の大企業や優良企業、それにグローバル企業の開発拠点と製造拠点が集積する「ものづくり県」であるにも関わらず、高専が存在していないという事実です。以前から優秀な人材を輩出する高等教育機関として認知していた高専が我が県にないのは、私にとって素朴な疑問でした。
それに加え、実際に県内の産業界から高専の設置に関する提言があることも知りました。高専が設置できれば、滋賀県の産業へのプラス材料は計り知れないはず。この想いを強くして、平成26年に滋賀県知事選に立候補した際に、高専の誘致を自らの公約の一つに掲げたのです。

知事に着任した1期目。さっそく設置に向けて動き始めたのですが、少子化の時代ということもあって、政府に高専の新設検討を掛け合っても、中々賛同が得られませんでした。
一方で、高専の存在価値を再検討したところ、やはり人材の輩出面や県内外の企業の技術交流のハブになれることから、教育行政と産業行政いずれの面でも深い意義があることを再確認しました。
そこで2期目に向けた選挙の際に、再び高専の設置を公約に掲げ、今度は県立や私立で進める可能性も含みました。そして当選後、公立大学法人 滋賀県立大学と連携する県立高専設立構想がスタートしたのです。

県内の期待も高まっていきました。候補地の選定でも多くの市町から名乗りを挙げていただき、企業各社からの声は設立の要望から具体的な教育施策への期待に内容が変わってきました。

新たに滋賀の地に設ける高専では、どのような教育を目指されるのでしょうか。


国立高専の誘致が困難となったのちは、県立として高専を設立するため、県庁内に「高専設置準備室」を置き、滋賀県庁職員、滋賀県立大学職員の構成により準備を進めています。

「令和の時代の滋賀の高専」の設立に向け、理念、育成する人物像、カリキュラムの方向性など多くの議論がなされています。

公約に掲げた時点から、今からつくる高専が、過去のフォーマットを踏襲しただけのものにはしたくないと考えていました。私をはじめ文部科学省から迎えた大杉副知事、それに県庁内から集められた精鋭による設置準備室の誰もが令和の時代を滋賀県が牽引していくに資する高専を誕生させたいと願っているのです。
これからは、同じものを大量生産し、大量消費する時代ではありません。そしてそのための人材を養成する高専であれば必要ありません。私たちは多様性を重要視し、個々に様々な期待や希望を持ったすべての人と地球を支える技術者の育成こそ、滋賀県がつくる新しい高専のミッションだと定義しました。

では、それは具体的にはどのようなものなのか。前提としたのは、これからの社会や産業は益々情報技術を駆使して進化するという基軸でした。
ですから情報技術を基盤に、その上で機械や電気、建設といった技術領域を深めていく教育を施していく体制を築いていくことになります。
開校予定まで残すところ約5年。設置場所は大津市と彦根市の間に位置する野洲市に決定しましたが、詳細なカリキュラムの決定や優秀な教授陣の確保はこれからです。理想が高いだけに容易には進まないことを覚悟しています。
それでも、自分たちが考える理想の高専を、地域の人たちを巻き込んで、楽しみながらひとつひとつ現実に引き寄せていきたいと考えています。

県立高専として滋賀県らしさや滋賀県に存在する意義や独自性をどのように出されたいですか。


高専の設置場所は、滋賀県9市の立候補の中から野洲市に決定しました。近隣県からも通学できる良好な立地となります。
JR野洲市駅より1.3kmの県有地と国有地あわせて15万㎡の自然に囲まれた広大なキャンパスとなります。

日本最大の湖である琵琶湖が象徴するように、滋賀県は自然環境や水資源に恵まれており、新キャンパスも琵琶湖に注ぐ野洲川に面し、広大な敷地には自然林も広がっています。
この立地を活かすことで自然に畏敬の念を持てるような教育が可能であると考えています。また、今も続く多くの著名企業の源流となった近江商人の、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という、自分だけではなく相手も、そして社会をも豊かにしようとする三方良しの理念は、教育理念としても活かせるはずです。

そして、滋賀県内には数多くのグローバル企業が開発拠点や製造拠点を求めて進出しています。滋賀県という地元の社会や産業への技術実装を進めながらも、世界に向けて開かれた視点を併せ持つ人材を育める絶好の環境ではないかと自負しています。

全国の高専生、高専出身者にメッセージをお願いします。


滋賀県総合企画部高専設置準備室の皆さん。地域だけではなく、地球規模で技術者を育成する高専を目指しています。

高専出身者は確かな技術力に裏打ちされた実力を背景に、開発設計や製造技術の最前線で強みを発揮し、現代の高度な社会で暮らす人々を支えている存在だと思います。
こうした高専の存在意義は永遠に不滅であり、それでいて常に社会の変化に先駆けてアップデートしていく柔軟な可能性を持っていると感じています。

その一校に滋賀県立高専が加わります。皆さんと一緒に、豊かな社会を築き上げていきましょう。

県政をはじめ関西広域連合長等の職務で多忙を極める中、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。