高専トピックス
ローマ・カトリック教会サレジオ修道会の理念を元に、困っている人を助け、社会のために役に立とうとする、豊かな心を持つ技術者の育成を目指しているサレジオ高専。そうした人材育成への想いは、学生たちの研究開発対象の選択にも大きく影響しています。
その象徴とも言えるのが、自動運転EV車(電気自動車)の研究開発です。今、世界各国の自動車メーカーが持続可能な社会を引き寄せるべく、優れたEV車の開発に注力しています。同時に交通事故の減少や渋滞の削減、ドライバーの疲労軽減などの目的で、自動運転車両の開発にも余念がありません。
双方のテーマは社会にとっていずれも重要であり、豊かな未来社会の実現に向けて自動車メーカー各社にとっては生き残りをかけた開発競争になっています。
そうした環境課題と交通課題の産業界で最もホットな土俵に、若者の人材育成を目的とする教育機関の立場から、サレジオ高専はオリジナルの自動運転EV「VISMO(VISION+MOBILITY)」の開発で参画しているのです。未来社会に役立とうとする意欲を基点に、開発者である学生たちが取り組んできた成果は現時点でどこまで到達しているのか。インタビューを交えたレポートをお届けします。
●開発メンバー
電気エネルギー研究室(井組研究室)
・小俣 勲さん(おまた いさお)
・鈴木 智也(すずき ともや)さん
・チョウドリー ナスィームさん
・長嶋 雄平(ながしま ゆうへい)さん
・福田 悠介(ふくだ ゆうすけ)さん
指導教員
・井組 裕貴(いくみ やすたか)先生 電気工学科 講師
(掲載開始日:2023年4月21日)
VISIMOの概要について
VISMOは、前後輪ともに方向転換の操舵が可能であり、前後に自在に走行が可能な未来のモビリティを目指す。それだけでも開発難度が高いところ、排出ガスを出さない電気自動車であること、そして車両の自動制御システム、自己位置推定と環境地図作成を同時に行うSLAM、画像認識、GPSなどのセンシングシステムを統合し、走行中にドライバーの状況判断の必要がないレベル3の自動運転を目指しています。
開発を担っているのは、サレジオ高専電気エネルギー研究室(井組研究室)の学生たち。これまで先輩たちが挑んできたソーラーカー開発で培われた技術と経験を元に、完全オリジナルの自動運転車の開発に着手したのです。
最初は既存の電動カートに基本的なシステム実装を行い、操舵等の自動車として基本的なコントロールの検証を行いつつ、自動運転の目となるセンサーを実装したミニモデルも開発。このミニモデルで画像認識やディープラーニングの機能実験を繰り返しながら、システム設計にフィードバックを実施しました。
システムの基本構成が固まってきたらボディ開発を担当する卒業生チームと合流。最前線で活躍する卒業生たちのバックアップを得ながら開発が進んでいます。
VISMO開発メンバーへインタビュー
VISMOを創ろうと考えた発端や学生たちの関わり方について教えて下さい。
井組さん:令和元年に画像認識の技術を深掘りすることになり、2年前からその技術を搭載した自動運転車をつくろうと思いました。以前から研究室の学生たちと7年前からソーラーカーなどの開発を行い、レース等で知見を蓄積してきましたが、それが大きく役立っています。
小俣さん:ソーラーカーを開発してきた先輩たちに刺激されてきましたが、自動運転のEV車開発は大きなチャレンジでした。
なぜ自動運転車の開発に立ち向かったのかと言えば、過疎地域で免許を返上したお年寄りに乗ってほしいと考えたからです。誰かの役に立ちたいと言う発想が原動力になりました。
鈴木さん:開発において、井組先生は基本的な方向性を示してくれますが、レールを敷いてくれるのではなく、画像処理やセンサーの研究開発といった重要な役割は私たち学生に委ねられています。
チョウドリーさん:開発上の課題を抽出し、自動運転等の先端技術をかき集め、実機に組み込んで走行試験で特性を測り、少しずつ完成度を高めていくという繰り返しは、私たちに任されています。
それだけに試行錯誤どころか失敗も多いです。それでも任せてもらえるのは、教育や授業の一環だからだと思います。
小俣さん:自分たちで設計から加工まで行うため、NC装置(※)での金属加工や3Dプリンターの活用など、実践的な技術も磨かれます。
※数値制御(Numerical Control)装置:コンピュータで設定した通りにモータや工具等を制御する装置
それぞれの役割と、技術的に難しかった点・頑張った点・それをどう乗り越えたかを教えて下さい。
鈴木さん:他のメンバーはソフトウェアの開発が中心で、私は回路設計やモータ、足回りの操舵機構といったハードウェアを担いました。と言っても1からつくるのではなく、ブレーキのマスターシリンダーなどにバイクの部品を加工しながら流用しています。部品と部品が干渉することもあり、まとめ上げるのは難しかったです。
小俣さん:私は画像認識技術と、それをベースにした測距技術の開発を担当しました。難しかったのは制御プログラムの設計です。Pythonを使うのですが、そのプログラミング技術を習得すること自体も大変でした。
チョウドリーさん:私は光を用いたリモートセンシングのLiDARを担当しました。リアルタイムで点群のデータが取れるセンサーなのですが、そのデータから地図をつくり、測距して自己位置を測定していく技術の精度を高めていくのに苦労しました。仲間や先生たちと一つ一つ解決してきたのです。
小俣さん:車体デザインは、デザイン学科の先輩が担当してくれました。OBの先輩が手伝ってくれるのは大きな支えですね。
井組さん:学生たちの奮闘で、VISMOはレベル4の自動運転に着実に近づきつつあります。まだまだ課題は残されていますが、高専でこんなすごい未来のモビリティがつくれるんだということを早く世の中にPRしたいですね。
皆さんが高専で学んで良かったと思うことを教えて下さい。
小俣さん:5年間を通して、回路設計からプログラミングまで幅広くしっかりと学べたのは本当に良かった。実験器具なども揃っていて、学びたいことにすぐに取り掛かれる環境なのです。
鈴木さん:私はもともと手を動かして何かをつくるのが好きで、中学生の時はレゴのロボットにハマっていました。そんな私が高専を受験したのは自然な流れでした。
入学して想像以上だったのは、先生方がとても親身になって教えてくれることです。同じ目線で一緒に考えてくれる一方で、いろんな見方を示してもらえます。
チョウドリーさん:入学後5年間も専門授業のクラスが変わらないので、仲間の絆が深まりました。先生との距離も近く、技術的な疑問があればすぐに聞ける環境もありがたかったです。
サレジオ高専は課外活動やプロジェクトも多く、選択肢が豊富なので、自分が本当に学びたいテーマに出会えます。ものづくりの醍醐味にどっぷりと浸かれますよ。