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高専トピックス

沖縄高専の学生たちが中心になって開発した「沖縄Tacoスパ」と名付けられたタコスミートソースのスパゲティ商品が、沖縄市名護の大手スーパーに陳列されてもあっという間に完売することで、地元の話題になっています。今年の年初(令和5年2月)にはJR東京駅前の新丸ビルで100食を用意して試験販売したところ、すぐに完売したそうです。

この「沖縄Tacoスパ」は、タコスソースに苦味を持ったビール麦芽粕が使用され、独特の風味が大人の麺食品として好評を博しています。それに加えて1食を売り上げる毎に、名護こども食堂に50円が寄付されるという仕組みになっています。NPO法人や民間団体などによって運営されている、ネグレクトや家庭内暴力等で行き場を失った子どもたちに無料または安価で栄養のある食事と気軽に身を寄せる空間を提供する「子ども食堂」。この社会セーフティネットを大きく支援する事業モデルであることを評価し、積極的に購入する方も多いようです。

子どもの貧困化が叫ばれるようになって久しい今、この問題に最も直面しているのが沖縄県だそうですが、なぜ沖縄高専の学生たちが「沖縄Tacoスパ」の開発を始めたのか。主要メンバーのお二人、嘉手納さんと上地さんにインタビューしました。


プロジェクトメンバーの嘉手納さん(手前右)、上地さん(手前左)と研究連携推進室の神谷先生。神谷先生は国立大学法人東京学芸大学の客員准教授として、「こどもの学び困難支援センター」を運営をしています。

「沖縄Tacoスパ」開発メンバー
・嘉手納 悠(かでな ゆう)さん(専攻科・創造システム工学専攻/2年)
・上地 至(かみち いたる)さん(専攻科・創造システム工学専攻/2年)
・久場 悠誠(ひさば ゆうせい)さん(専攻科・創造システム工学専攻/2年)

指導教員
・神谷 康弘(かみや やすひろ)先生(総務課 研究連携推進室 地域連携コーディネーター)

(掲載開始日:2023年9月4日)

開発の背景


社会問題を解決する「創造システム工学実験」の授業で提示されたテーマから「沖縄Tacoスパ!!」が誕生しました。

嘉手納さん:そもそも発端となったのは、専攻科1年の時に4学科合同で行う授業である「創造システム工学実験」です。この授業は社会問題に真正面から取り組み、解決策や解決案を提示していくと言う内容で、先生からは3つのテーマが示され、その中のいずれか一つに挑むということでした。

上地さん:3つのテーマは、「食品開発による社会課題の是正」、「正しい口腔ケアの浸透」、「沖縄の主産業である観光問題の解決」です。この中で我々9人のチームが選んだのは食品開発でした。子どもの貧困問題と、ビールの製造過程で排出される栄養に富む麦芽粕の廃棄問題を、食品開発で同時に解決に導こうと考えました。

嘉手納さん:名護市に本社と工場を持つオリオンビールでは、年間119トンの麦芽粕(ばくがかす、ビールの生産過程で排出される固形物、モルトフィードとも呼びます)が未利用資源となっていました。
その量は、現在ほぼダウンサイクルされているものの、新たな価値を見出し麦芽粕や乾燥ビール酵母をアップサイクルする取り組みは、これからとされています。食物繊維やタンパク質を含む麦芽粕や必須アミノ酸が豊富で栄養価が高い乾燥ビール酵母を再利用することはSDGsのコンセプトにも合致します。

上地さん:また、沖縄県の子どもの貧困率は全国の2倍となっており、食事や学校での活動などが思うようにできない子どもたちが多数という深刻な現状があります。
この2つの大きな課題を解決するために、私たちは「子ども食堂」の子どもたちと一緒に麦芽粕を使用した商品開発を行うことにしました。

嘉手納さん:タコスソースを絡めたスパゲティに辿り着くまでに、様々なトライ&エラーを行いました。最初につくったピザ生地は硬くて食べられるものではありませんでした。その後、餃子、オートミール、サーターアンダギー、ポーポー(沖縄のクレープのような菓子)なども試しましたが、子どもたちの評価は散々。焼いて料理するものには合わないという結論が出ました。そこで茹でる麺にフォーカスし、麦芽粕を混ぜたタコスミートソース+乾燥酵母を練り込んだスパゲティ麺という製品に辿り着いたのです。

多くの協力者に恵まれる

上地さん:このプロジェクトは3つの組織に属するメンバーが協力して進めることになりました。まずは、名護こども食堂の子どもたちです。麦芽粕を使用した食品を一緒に考え、試作し、試食し、より美味しいものに近づけていくというものづくりの行為は、社会への関心や参加意欲を失っている子どもたちの心と未来への希望を開く鍵になると考えました。

嘉手納さん:沖縄高専は、商品のレシピを考案し、東京学芸大学と名護こども食堂に提供します。現在は9名のチームは解散しており、その中から我々3名が残って活動を継続しています。東京学芸大学は、主にパッケージ案の検討を行い、沖縄高専が提案したレシピを元に実際に試作し、それらの感想と改善点などを提案してもらえます。
名護こども食堂では、私たちが考案したレシピ通りに子どもたちと実際につくって食し、感想などのフィードバックを参考に、商品のブラッシュアップを行っています。

成功体験を引き継ぐ後輩たち


第一次販売をしたところ、即日完売となりました。(イオン名護店)現在は量産化に向けて準備をしています。神谷先生と東京学芸大学の阿部友莉花(あべゆりか)さん(中央)、久場さん(右)。 

嘉手納さん: 私たちは卒業を半年後に控える専攻科の2年であり、このプロジェクトは後輩たちに引き継がれていきます。麦芽粕や乾燥酵母を使って新たな魅力を持った食品をつくるという取り組みでは、沖縄銘菓として知られる「ちんすこう」のような伝統菓子作りにも挑むようです。他にも咀嚼回数を増やす食品をつくるチームもあります。こちらは東京医科歯科大学の松尾教授にサポートしてもらい、咀嚼回数を自動検知するスマートフォンアプリも同時並行で開発しています。

また、コーディネーターの神谷先生が「沖縄Tacoスパ」が1食売れると50円が名護こども食堂に寄付するという仕組みを維持し、事業としてさらに発展させるための企業を創設しました。このプロジェクトが将来的に、全国に7000箇所以上あると言われる「子ども食堂」を元気づけるモデルケースに発展すれば良いなと考えています。
「沖縄Tacoスパ」の開発を通して、人と人とが繋がって大きなことを成し遂げられるのを経験できました。私は来年度に向けて豊橋技術科学大学を受験しますが、合格したならばそこでも新たな人脈を築いて、社会問題を技術で解決する醍醐味を今後も追求していきたいと考えています。

上地さん:私は大手通信会社への就職が決まっていますが、今後も何らかの形でこのプロジェクトに微力ながら関わっていきたいですね。このプロジェクトは私にとっても感慨深いものになりました。最初は生意気だった子どもたちにこちらの想いが伝わり、だんだんと開発の共同作業に目を輝かせてくれるようになった胸の熱くなる経験は、このプロジェクトでしか得られないものだったと思います。技術や工夫や行動力で社会の重要問題の解決案を導けることがわかっただけでも、やって良かったと本当に思います。

受験準備や卒業研究でお忙しい中、お答え頂きありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。