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高専トピックス

全国高等専門学校デザインコンペティション(以下、高専デザコン)は、高専生を対象とした、社会や生活環境に関連する様々な課題に対する解決手法を競う大会です。
毎年開催され、高専生が全国規模で競い合うロボットコンテスト(ロボコン)やプログラミングコンテスト(プロコン)、英語プレゼンテーションコンテスト(プレコン)と並び、4大コンテストの1つに位置付けられています。
全国の国立・公立・私立の高専57校62キャンパスならびに海外高専から、主に土木・建築を専攻で学ぶ学生たちが参加し、構造デザイン部門、空間デザイン部門、創造デザイン部門、AM(Additive Manufacturing:3D造形)デザイン部門、プレデザコン部門の5部門で競います。

今大会のメインテーマは「NEW!!」です。
現代社会には地球環境問題や自然災害、感染症等様々な課題が山積しており、従来の手法による諸課題との向き合い方では解決できず、新しい発想や新しい技術を用いた解決法で未来を切り拓いていく必要があります。
同様に、デザインにおいても常に「新しい」何かが求められます。今大会のテーマである「NEW!!」を通じて、この時代に相応しい新しいモノやコトの提案が期待されました。

今大会は3年ぶりに対面方式による2日間開催となりました。また、審査の様子はオンラインでも配信されました。
2022年12月10日(土)、11日(日)に福岡県大牟田(おおむた)市にある大牟田文化会館で開催された全国大会の様子をお伝えします。
(掲載開始日:2022年12月26日)

構造デザイン部門 「新たなつながり ~ふたつでひとつ~」

構造デザイン部門では、各高専が与えられたテーマに沿って橋梁模型を製作し、橋梁模型の耐荷性・軽量性・デザイン性等を競い合います。
耐荷性能を測る載荷試験では、最大荷重50kgの集中載荷試験を行います。40kgまでは10kg刻み、40kg以降は5kg刻みで荷重を大きくしていきます。
模型の素材は、3年前の大会から使用されている「紙」です。「紙」にはその特性である「強さ・軽さ・しなやかさ」を最大限に活かす構造デザインが求められるが故に、高専生がこれまでに培った創造力と技術力が試される素材です。

今大会では、分割された2つの橋梁模型をつなぎ合わせて、1つの橋を作るという、新しい試みに高専生たちが挑みました。


米子高専の載荷試験の様子。橋梁模型は質量58.6gという圧倒的な軽量ボディながら最大荷重50㎏の耐荷に成功。

最優秀賞:米子工業高等専門学校
作品名:火神岳(ひのかみだけ)
作者 :
 山田 果奈さん(4年)
 安藤 大智さん(4年)
 佐藤 政大さん(4年)
 髙橋 叶羽さん(4年)
 村岡 拓真さん(4年)
 石倉 宗弥さん(5年)

本選には54チームが参加し、最優秀賞には、米子高専の「火神岳」が選ばれました。今回の受賞により、米子高専はなんと5年連続の最優秀賞の受賞を果たしました。

「火神岳」は、細部に至るまで軽量化を図ることで全チーム中最軽量である質量58.6gを実現しました。この軽量さでありながら、耐荷性能試験では荷重の最大値となる50kgも見事耐え抜き、最優秀賞を勝ち取りました。
審査員の方からは、載荷試験時における制御・橋梁の軽さが追求されており、名峰大山の別名に相応しい素晴らしい橋梁であるという評価を受けました。

空間デザイン部門 「2040年集いの空間」

空間デザイン部門では、対象エリアを自由に設定し、社会や地域のニーズに沿った空間を提案します。
創造力・デザイン力・プレゼンテーション力の3点を評価軸として、国内の第一線で活躍する3名の建築家と都市工学専門の准教授1名が審査を行います。

今大会のテーマは「2040年集いの空間」です。
近年、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、これまで当たり前だった日常生活に非連続で劇的な変化がもたらされました。
このような社会情勢を背景とした上で、20年後というそう遠くはない未来では、人々はどのような新しい生活の舞台で集い、交流するのか、高専生たちによる新しい日常空間の創出のアイデアが集まりました。


2040年後の石川県金沢市の空間デザイン模型。モビリティと土のみちが繋がり豊かになる空間を再現。

最優秀賞:石川工業高等専門学校
作品名:還りみち ~暮らしを紡ぐ「みち」~
作者 :
 井口 美南さん(4年)
 松本 琉矢さん(4年)
 山田  響さん(4年)
 吉田 美桜さん(4年)

石川高専は、石川県金沢市を舞台に2040年の「みち」の在り方についてデザインしました。
従来、道とは車や人の交通手段として用いられるものですが、金沢市では入り組んだ道が多く車が通る道として適していないこと、また2040年には情報通信技術や輸送手段が発達し、人が動く必要が無くなるという仮定のもと、車のための道ではなく、人のための道を作る提案をしました。
車の通る道を「モビリティ」、人の通る道を「土のみち」として再構築します。
土を選定した理由は、土は柔らかく形に自由さがあり、歩きやすさや心地よさ、豊かさを兼ね備えているためです。
家と土のみちの区画を軒や格子、段差を設けることで景観に統一感を持たせたり、土のみちを家の延長とすることで外での過ごしやすさを実現しています。
また、土のみちは植樹を行うことで緑が広がる道ともなり、住人たちの行動活性化やまちづくりにも影響を与えます。
モビリティも幹線道路としての役割だけでなく、モビリティと土のみちを繋げることで人々の暮らしが豊かになる空間についても構想が提案されました。

創造デザイン部門 「新時代のデジタル技術へチャレンジ! -3D 都市モデル活用で見えてくる地方都市の未来-」

創造デザイン部門では、新たな地方創生について高専生ならではの観点でアイデアを提案し、地域性、自立性、創造性、影響力、実現・持続可能性の5つの評価指標からプロセスデザインの完成度を競い合います。

今大会のテーマは「新時代のデジタル技術へチャレンジ! -3D 都市モデル活用で見えてくる地方都市の未来-」です。
PLATEAU(※1)の3D都市モデルデータを活用し、持続可能なまちづくりや地域活性化につながる提案が求められました。


1区画を1小節とし、1区画のそれぞれの建造物幅の大きさに応じて音符や休符を設定。独創性に刮目。

最優秀賞:高知工業高等専門学校
作品名:まちから創るよさこい
作者 :
 武智 仁奈さん(4年)
 谷口 雄基さん(4年)
 堅田 望夢さん(4年)


提案されたアイデアの中で最優秀賞に選ばれたのは、高知高専でした。

高知高専は、高知県の知名度向上・地域活性化のため、高知県発祥であるよさこい祭り(※2)に着目し、PLATEAUの3Dデータからよさこい祭りで使用する音楽の生成アルゴリズムを提案しました。
まず任意のストリートを設定、ストリートに沿った1区画を1小節とし、1区画のそれぞれの建造物幅の大きさに応じて、4分音符・8分音符・2分音符といった音符や休符を決定します。
次に、1区画の建物の個数に応じてコード進行を決定、建造物の高さに応じて音階を決定します。
楽器は、ストリートに面した建造物の種類の割合が大きいものを使用し(例:商業施設はトランペット、住宅はピアノ)、BPM(※3)は交通量が多いほど速くなります。

審査員からは、ランドスケープという空間情報を音楽という時間情報に変換するという独創的なアイデアや、高知県に限らず他の地域への応用も可能という点が素晴らしく、今までにない画期的な提案であり衝撃を受けた、との高い評価を受け最優秀賞を受賞しました。

※1 PLATEAU(プラトー):国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト
※2 よさこい祭り:高知県高知市で例年8月に開催される伝統的な祭り。各チームがルールに則った上で踊りや音楽、衣装に至るまで、オリジナルなものを用意し披露する特徴がある。
※3 BPM:Beats Per Minuteの略。1分間の拍数を表し、俗に言うテンポのこと。

AMデザイン部門 「新しい生活様式を豊かにしよう!」

AM(Additive Manufacturing:3D造形)デザイン部門では、3Dプリンタの造形技術を活用して、テーマに沿った作品を製作します。
新規性・独創性・活用性、技術的課題の解決・実用性、プレゼンテーション力の観点で作品が評価されます。

今年は「新しい生活様式を豊かにしよう!」というテーマです。
近年新型コロナウイルス感染症の影響等により、新しい生活様式を模索することが求められています。しかし新しい生活様式は、人に強制して押し付けるものではなく、その生活様式に惹かれて定着していくものであるべきです。
そこで、高専生たちは新しい生活様式を豊かにする新しい機器の開発を行いました。


旭川高専の「廻滑車輪 アクロレス」。タイヤ形態とスキー形態の2種類の移動機構を用いてどのような路面でもスムーズに移動できる作品を製作。

最優秀賞:旭川工業高等専門学校
作品名:廻滑車輪 アクロレス
作者 :
 月村 玲さん(4年)
 遠藤 碧人さん(4年)
 廣瀬 諒太さん(4年)
 山口 大智さん(4年)

旭川高専は、アフターコロナ以降でも3密を回避できるキャンプの人気が高まっていることを背景に、キャンプで使用する重い荷物を運ぶ際に路面を選ばずに走行できる車輪を開発しました。
この車輪はタイヤ形態とスキー形態の2種類の移動機構を容易に切り替えることでき、舗装路ではタイヤ形態、砂地等ではスキー形態へ切り替えることができます。これにより、どのような路面状況でもスムーズな移動を可能にしました。
車輪には回転抑制軸が取り付けられており、スキー板を水平に保つこと、加えて、スキー板を糸で連結することにより、地面の凹凸への追従性が向上する工夫が施されていました。
また、これらの部品は3Dプリンタで作成されており、3Dプリンタ独自の機能であるスケール変更や充填率変更を利用することで、製造の際に材料のコストを抑えることができます。

審査員からは、糸の巻き取り機構や回転抑制軸といった複雑な形状・構造の部品を組み立てて実用に応用できる可能性があること、スキーを活用するという地元ならではの課題解決法によって、多くの人の豊かさに寄与する作品として最優秀賞に輝きました。

プレデザコン部門 「この先へ!!」

プレデザコン部門は本科3年生までの低学年を対象とした部門です。
他部門と関連した3つのフィールドに分けられ、各課題に対するデザインの提案を行いました。

空間デザインフィールド
現存または過去に実在した空間を、独創的かつ創造的な時空間としてコラージュした、「似て非なる」唯一無二の時空をA3サイズのポスターで製作します。投票によって順位が決定します。

創造デザインフィールド
2023年度に開催される舞鶴大会(主幹校:舞鶴工業高等専門学校)で使用するエコバッグのデザインをA3サイズのポスターで表現します。但しデザインは開催地域である京都府舞鶴市に相応しいデザインに限られます。空間デザインフィールドと同様に投票で順位が決定します。

AMデザインフィールド
200gの分銅を1m自由落下させ、落下時の衝撃を吸収するシェルターを3Dプリンタで製作します。落下時の衝撃力のピーク値をロードセル(※)で測定し、値が小さいほど、順位が高くなります。

※荷重を感知するセンサのこと

おわりに

今大会は3年振りに2日間の対面形式での開催となりました。また、現地で行われている審査の様子はオンラインにて配信されました。
高専デザコンでは、現代社会の課題に対して、高専生たちが日頃から培っている課題解決能力、創造力を活かして生活環境関連のデザインや設計等を競い合います。

高専生たちは、与えられたテーマに対してどういった新しいモノやコトが必要かを分析しながら、どの部門でも今大会のテーマである「NEW!!」に相応しい新しいデザインやアイデアが提案されていました。
これからの社会課題に対応するための新しい発想や新しい技術を、高専生たちは日頃から修得しており、新しい未来を切り開く力を具備していることを証明したとても有意義な実り多き2日間でした。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。