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高専トピックス

廃炉創造ロボコンは、全国の高等専門学校(以下、高専)の学生を対象に、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業を想定した課題解決アイディアを競い合うコンテストです。

2016年から毎年開催され、今年で7回目の開催となります。
本コンテストは、日本原子力研究開発機構、廃止措置人材育成高専等連携協議会主催のもと行われています。30〜40年かかると言われている福島第一原発の廃炉作業を将来的に支えていく人材の育成をきっかけに始まったものです。

ロボット製作を通じて学生たちが廃炉について興味を持ってもらうこと、並びに廃炉作業の課題点を発見し、その課題に対してロボットを用いて解決する課題発見能力及び課題解決能力を養うことを目的としております。具体的には、原子炉建屋内における除染作業を想定した競技が実施されました。

2022年12月10日(土)日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センター(福島県楢葉町)で開催された本コンテストには14チームが参加しました。
その中でも、表彰された5チームを中心に高専生たちの活躍をお伝えします。
(掲載開始日:2022年12月26日)

ルール概要

本競技は、東京電力福島第一原子力発電所の原子炉建屋内高線量エリアにおける遠隔高所除染作業を想定した競技です。
製作したロボットを操作し、競技フィールド内の除染対象エリアまで移動させ、除染用壁に貼付された模造紙を指定のペンで塗りつぶし、その面積の大きさで順位を競います(※1)。
競技フィールド内は、実際の原子炉建屋内の狭隘通路や難路を想定し、移動経路にスロープ(幅2000㎜×奥行880㎜×高さ75㎜・勾配約15°)(※2)・グレーチング(幅1200㎜×奥行1200㎜×高さ95㎜)(※3)が設置されており、除染用壁には、高さ1912㎜の位置に模造紙(幅1091㎜×高さ788㎜)が貼付されています。
その他、ロボットを操作する際の無線通信の禁止、実機の直視禁止等、実際の除染作業を想定した制約が設けられています。競技時間は10分です。

今回授与される賞は、最優秀賞(文部科学大臣賞)・優秀賞(福島県知事賞)・技術賞(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構理事長賞)と・アイディア賞(独立行政法人国立高等専門学校機構理事長賞)・イノベーション賞(公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構理事長賞)があります。
また特別賞が特別協賛企業からそれぞれ贈られます。

※1 実際の除染作業は、壁の表面を削るなどして放射性物質を取り除くが、競技の都合上このような形を取っている。
※2 進行方向に緩やかな勾配をもつ通路のこと。
※3 鉄格子の蓋のこと。一般的に道路脇の側溝や工場の足場などで使用される。


入賞チーム一覧(表彰名・高専名・チーム名・ロボット名)

表彰名 高専名 チーム名 ロボット名
最優秀賞(文部科学大臣賞) 小山工業高等専門学校 小山高専廃炉ロボット製作チーム2022 Wall Brusher Ⅷ
優秀賞(福島県知事賞) 舞鶴工業高等専門学校 舞鶴高専廃炉研究会 角管食堂NEO
技術賞(原子力機構理事長賞)
大阪公立大学工業高等専門学校
Fukaken
66B
アイディア賞(高専機構理事長賞) 鶴岡工業高等専門学校 鶴岡高専 Eチーム キムワイプ
イノベーション賞(イノベ機構理事長賞) 熊本高等専門学校(熊本キャンパス) 熊本高等熊本キャンパスロボコン部 JetPack
特別賞・アトックス賞 仙台高等専門学校 DBK(Disinfection By Kengo) オートスイーパー
特別賞・日立GEニュークリア・エナジー賞 旭川工業高等専門学校 人田製作所 下町ロボット
特別賞・東京エネシス賞 一関工業高等専門学校 機械技術部 Hypnosis X
特別賞・アスム賞 福島工業高等専門学校 廃炉研究会
Deconnect

最優秀賞(文部科学大臣賞):小山工業高等専門学校


小山高専のWall Brusher Ⅷ。斜めのクローラとバランスの良い重心によって、難所であるグレーチングをスムーズにクリア。

チーム名:小山高専廃炉ロボット製作チーム2022
ロボット名:Wall Brusher Ⅷ

栄えある最優秀賞に輝いたのは、小山高専でした。
製作したロボットは、水平のクローラーと車体前方斜めのクローラーを組み合わせた移動機構を搭載しています。
車体全体が後方斜め方向を向いているため、重心位置が後ろに生まれるという特徴があります。
前方に伸びた斜めのクローラとグレーチングを越える際の車体角度から導かれるバランスの良い重心を持つロボットを製作することで、難所であるグレーチングをスムーズにクリアしました。
ペンのインクの塗布機構は、事前に作ったプログラムによる制御となっており、高さを少しずつずらし、横方向に塗布していくものとなっていました。

移動に苦労するチームが多い中スムーズな移動と、正確で美しいインクの塗布機構を兼ね備えた、大会随一の素晴らしいロボットでした。

優秀賞(福島県知事賞):舞鶴工業高等専門学校


舞鶴高専の角管食堂NEO。車体前方に設置された昇降機構によってスムーズにグレーチングを越える様子。

チーム名:舞鶴高専廃炉研究会
ロボット名:角管食堂NEO(カッカンショクドウネオ)

優勝に次ぐ成果を挙げ優秀賞となったのは、舞鶴高専でした。
製作したロボットは、移動機構の部分にクローラーを採用し、前方の車輪径を大きく、後方の車輪径を小さくすることで、スロープを乗り越えやすいように設計されたものです。
また、グレーチングを越えるのに苦労しているチームが多い中、足回りの昇降機構を利用することで、車体が傾かないスムーズな通過に成功していました。
ペンのインクの塗布機構は、優勝した小山高専同様、上下左右の方向に移動させることが可能で、高さを少しずつずらし、横方向に塗布していくものとなっていました。
足回りの昇降機構は発想が素晴らしく、まるで変形ロボットのようなユニークな機構であり、見ていて楽しいロボットでした。

技術賞(原子力機構理事長賞):大阪公立大学工業高等専門学校


大阪公大高専の66B。アームを高い位置まで伸ばすことで効率良くインクの塗布を行う様子。

チーム名:Fukaken
ロボット名:66B(ロクロクビー)


技術的な完成度の高さが評価される技術賞には、大阪公立大学工業高専が選ばれました。

製作したロボットの移動機構の特徴は、段差を越えやすいように車輪径を大きくしていることと、2つのタイヤが1組になったクローラーを4つ有しており、段差に当たった時にクローラーの角度を自動的に調整する仕組みも取り入れていることです。
グレーチング部分は摩擦が小さいため、乗り越えるのに難儀していましたが、無事クリアしました。
インクの塗布は競技時間内に行うことはできませんでしたが、その後のデモンストレーションで、均一に素早く塗る様子を披露していました。

アイディア賞(高専機構理事長賞):鶴岡工業高等専門学校


鶴岡高専のキムワイプ。ロボットアームにより三角形のインク塗布を行う様子。

チーム名:鶴岡高専 Eチーム
ロボット名:キムワイプ


鶴岡高専Eチームのロボットでは車輪にメカナムホイール(※)を採用し、荷重のバランスが絶妙に図れていました。そのため、ロボットが浮くことなく、スロープでも安定した走行を見せてくれました。
また、除染作業にはロボットアームと奥行きの情報を取得することができるデプスカメラが用いられていました。デプスカメラで奥行きの距離を測ることで、壁とロボットアームの距離を正確に判断し、ロボットアームを操作できます。
他のチームと違い、多角形を用いたインクによる塗布を行っており、ロボットアームによる正確な塗り潰しを披露しました。

審査員からはロボットアームによる緻密な制御と塗布を遂行した事が評価され、アイディア賞を受賞しました。

※ 車輪の外周に、車軸に対して45度傾いた樽型のローラーが連なり、全方向へ車体を安定したまま移動することが可能となる車輪。

イノベーション賞(イノベ機構理事長賞):熊本高等専門学校(熊本キャンパス)


熊本高専のJetPack。スロープを通る際に移動機構を変えている様子。

チーム名:熊本高等熊本キャンパスロボコン部
ロボット名:JetPack


熊本高専熊本キャンパスロボコン部が作成したロボットにはメカナムホイールとクローラーベルトという2種類の移動機構があり、2種類の車輪を用いる事で状況に応じた走行を可能にしていました。
有線ケーブルの取り回しに苦労するチームが多い中、ケーブルの絡まりも、移動する毎にケーブルを送り出す機構を用いて解決していました。
また高所作業ユニットはストロークが長く、広範囲にわたってペンで塗り潰すことができました。一番の特徴として、製作したロボットにROS2(※)を利用したソフトウェア開発が行われている点です。
ROS2を用いることで、複数のモータを同時に制御するプログラムを組み込むことができます。これにより車輪やアーム等、自由度が高い操作性を実現しました。

ROS2はまだあまり普及していない技術ですが、それを積極的に取り入れてロボット製作を行ったことが評価され、イノベーション賞に輝きました。

※Robot Operating System 2の略。ROSが持つ機能に加え、リアルタイム制御、ネットワーク品質制御、複数ロボットの同時利用等が可能なロボットアプリケーション開発のためのミドルウェア

おわりに

廃炉創造ロボコンでは、廃炉内の作業を模しているため、実際の作業現場同様近づくことができません。肉眼で見える範囲で操作するのではなく、ロボットに搭載されたカメラ越しに操作して除染対応する壁まで辿り着き、除染作業を行います。
通信トラブルや有線ケーブルの取り回し等苦戦を強いられていましたが、各チーム工夫を凝らしてロボットを製作し廃炉作業に資するアイディアを披露しました。

廃炉に関しては現在も課題が多く、果たして廃炉作業は終わるのだろうかと憂慮されています。
しかし、高専生たちはこの廃炉の課題についてしっかり向き合って分析しており、3.11の原発事故発生時は子供だった高専生たちにも、廃炉課題に対応したロボットを製作する創造性や課題解決能力が備わっていると実感しました。
本コンテストを通じて、廃炉について興味・関心を持ち知識を養った高専生たちによるアイディアや技術が、ゆくゆくは実際の現場で生かされ、そして山積する廃炉の課題が解決できるのではないかと大いに期待ができる、大変有意義な実り多きコンテストでした。

※本コンテストでの高専生の活躍は、廃炉創造ロボコンのYoutubeチャンネルにてご覧頂けます。
第7回廃炉創造ロボコン(ライブ動画配信)

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。