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高専トピックス

2022年11月27日に、両国国技館で開催された「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト2022」(高専ロボコン全国大会)。その最も栄誉のあるロボコン大賞を、徳山高専からエントリーしたチーム「双宿双飛(※)」が受賞しました。
今回のロボコンは、ロボットが紙飛行機を飛ばして、5か所の円形スポット、2か所の縦長滑走路、2種類の筒型ベースの中にランディングさせることで得点を稼ぐ対戦型競技でした。
2分30秒の試合時間の中でより多くの得点を獲得したチームが勝ち上がりますが、制限時間の手前であってもすべてのスポット、滑走路、ベースに1機以上の紙飛行機が乗った状態になれば、その瞬間にVゴールとなり、勝利が決まります。
また、相手が乗せた紙飛行機を自分たちが飛ばした紙飛行機で落とすことも可能です。2チーム対抗戦の形で得点の多い方がトーナメントを勝ち上がっていくこの大会で、実は徳山高専は1度も勝利出来ませんでした。
しかしながら、最高の栄誉であるロボコン大賞を受賞したのです。それには誰もが納得する理由がありました。
※双宿双飛:つがいの鳥が共に生活して共に飛ぶ様子を意味する四字熟語であり、製作したロボットが紙飛行機を飛ばす様子から連想してチーム名として採用された。

出場メンバー
徳山工業高等専門学校メカトロシステム部
・鳩﨑 一誠(はとざき いっせい) さん(機械電気工学科/4年 チームリーダー)
・北村 元樹(きたむら もとき) さん(機械電気工学科/3年 チームメンバー)
・阿比留 崇輝(あびる たかき) さん(情報電子工学科/3年 チームメンバー)
・藤本 樹宗(ふじもと たつひろ) さん(機械電気工学科/5年 ピットクルー)
・吉本 寛九郎(よしもと かんくろう) さん(機械電気工学科/3年 ピットクルー)
・阿野 航生(あの こうせい) さん(機械電気工学科/3年 ピットクルー)
・秋貞 龍成(あきさだ りゅうせい) さん(機械電気工学科/2年 ピットクルー)
・清水 瑛太(しみず えいた) さん(情報電子工学科/1年 ピットクルー)

指導教員
・藤本 浩(ふじもと ひろし) 先生 機械電気工学科准教授
・池田 将晃(いけだ まさあき) 先生 機械電気工学科准教授
(掲載開始日:2023年3月10日)

徳山高専全国大会本戦ダイジェスト


他校のチームとは違い、人の手で優しく投げたような放物線を描く射出にこだわりました。地方予選での動画がSNS上で注目を集めました。

1回戦、徳山高専双宿双飛の対戦相手は大分高専。双宿双飛は9ポイントを獲得するも、Vゴールによって退けられてしまいます。これで双宿双飛は会場を後にするように思えましたが、大分高専はその後も安定してVゴールで勝利を重ねた強力なチームだったこともあり、双宿双飛は1回戦と2回戦で惜しくも敗退したチームに与えられるワイルドカードを獲得。準々決勝まで勝ち上がっていた和歌山高専と対戦することが認められました。再び優勝を目指せるチャンスを得たのです。この準々決勝で、徳山高専11点、和歌山高専88点と苦杯を嘗(な)めることとなります。得点を稼ぐ競技としてのパフォーマンスは、最後まで発揮できませんでした。大会結果は、優勝が奈良高専、準優勝は双宿双飛に対し強さを見せつけた大分高専でした。

ところが、大会最高の栄誉であるロボコン大賞で読み上げられたチーム名は、双宿双飛でした。そしてこの審査には、会場に駆けつけたロボコンファンや他校のメンバーたちの多くが納得した様子でした。双宿双飛がワイルドカードを獲得したのも、ロボコン大賞に輝いたのも、本大会が理想とするロボットを完成させて披露したからこそです。
殆どのチームは得点を稼ぐことを優先し、紙飛行機を矢継ぎ早に射出する機構に注力し、飛び方も目標に向かって直線的に飛翔させることで正確なランディングを狙いました。一方で双宿双飛は紙飛行機が放物線を描くように射出し、目標地点に着陸するように降りるなど、見る者に紙飛行機らしさを存分に感じさせたのです。

このように双宿双飛が目指した優雅に舞う紙飛行機は、一見勝負から距離を置いたようにも思えます。しかし、高専ロボコンの競技意図から外れるものではありません。むしろ大会のテーマ「ミラクル☆フライ 空へ舞い上がれ!」を深く尊重したものでした。
実際に今回のロボコン大賞は、「大きな夢とロマンを持ってロボットを製作し、唯一無二のアイデアを実現、見る者に深い感動を与えたチームに対して贈られる賞」と事前にリリースされており、紙飛行機も「飛行時に揚力を発生させる翼をもつものとする」とルールブックに規定されていました。故に双宿双飛のロボコン大賞受賞は、誰もが納得した受賞だったのです。

受賞者の皆様へインタビュー

今回、優雅な飛行をする紙飛行機を飛ばそうと構想なさった理由を教えて下さい。


4つの射出台から次々と放たれる紙飛行機。本番で紙飛行機が詰まったりして、動きが止まらないよう機構作りには時間が掛かかりました。
特に一機ずつ発射台に送るラチェットの調整には苦労しました。

鳩﨑さん:紙飛行機本来のふわふわとした優雅な飛び方が観客も見ていて面白く、今年の大会のテーマである「ミラクルフライ」を体現することができると考えたからです。

阿比留さん:人が飛ばすようなリアルな紙飛行機にすることで、見ている人に感動して欲しかったのです。

秋貞さん:実際に人の手でそっと放つ、ゆったりとした軌道で飛んでいく紙飛行機らしさを出したかったです。

北村さん:他高専さんが取り入れていた、得点を稼ぐために紙飛行機をドリルのように回す飛行方法は思いつきもしなかったので、そもそも採用することは不可能でした。

清水さん:優雅な飛翔を優先し、開発途中で大量得点ではなくVゴール狙いに切り替えて、紙飛行機の形状を変えずに頑張りました。

技術的に難しかった点・頑張った点・それをどう乗り越えたかを教えて下さい。


参照:amazon.co.jp
紙飛行機を発射台へ送り出すのは、電動消しゴムクリーナーの構造から発想を得て、一機一機吸い上げる方式を採用しました。

鳩﨑さん:私がチームリーダーを務めさせてもらいました。紙飛行機を1機ずつ連続で発射するための機構を作るのが難しく、発射機構の試作と発射実験を何回も何回も行いました。最終的に、紙飛行機を吸引して持ち上げる仕組みやラチェットを用いた機構を発案して、1機ずつの連続発射を可能にすることができました。

北村さん:発射機構の設計・製作と、ロボットの操縦者を担当しました。製作については軸を旋盤で削って作ることが難しかったです。何度も加工を失敗してやっとの思いで作り終えました。操縦では狙った所に紙飛行機を飛ばすことが大変でした。

阿比留さん:私は回路設計を担当しました。はんだ付けに難しい箇所がありましたが、先輩に尋ねながらそれを乗り越えました。

秋貞さん:私は先輩たちのサポート役で、少しでも役に立てるようにやれる仕事を見つけて積極的に手伝いました。

清水さん:ピットクルーを任されましたが、1年生の私がチームの足を引っ張らないように、テキパキと頑張りました。

池田先生:補足ですが、メンバーは30kgというロボットの重量制限をクリアするために、軽量化に腐心していました。そのため重量の嵩張(かさば)るモーター一つで、多くの機構を動かす工夫をしています。

全国大会当日のご自身のお気持ち、会場の反応などを教えて下さい。

北村さん:私の操縦が上手くいけば勝てるという状況だったので、プレッシャーは大きかったです。
競技に集中していたので会場の反応はよく覚えていません。

鳩﨑さん:自チームのロボットには自信を持っていましたが、他高専のロボットも強者ぞろいだったので、緊張しつつも落ち着いて試合に臨んでいました。会場の反応は、紙飛行機の飛ばし方が優雅だったためか、非常に注目度が高かったように感じました。

秋貞さん:全国大会は熱気溢れる雰囲気で楽しかったです。本番中には会場と気持ちが一体になっているように感じました。

皆さんが高専で学んで良かったと思うことを教えて下さい。


チームをサポートした藤本先生(写真右)と池田先生(写真左)。3Dプリンタやネット通販の普及によって、部材調達は以前に比べ楽にはなりましたが学生が実現したいことは、より高度になってきていると感じます。今後も技術面や精神面で支え続けていきたいと思います。

北村さん:私はロボットに関する職に就きたいと考え、それに必要な技術を学べる徳山高専に入りました。そして、実際に早い段階からロボット製作に挑戦できた点は本当に良かったと思います。将来は人の役に立つロボットの開発に挑戦したいです。

鳩﨑さん:入学前から、徳山高専で毎年開催されていた地元対象のロボコンに参加していました。当然、高専ロボコンに出場したくて徳山高専に入学しました。入学後は想像通り、設計力やプログラミング力などのものづくりをするのに必要な知識や技術を身に付けることができました。また、仲間と協力してロボットを作るという貴重な経験を積んだことも良かったです。将来は、自立行動のロボット開発にチャレンジしてみたいです。

清水さん:高専には、レーザカッターや工作機械などの設備が充実していて、ものづくりには最適な場所です。次の大会では是非ロボットの設計を任されたいです。そして新チームでも全国出場を果たしたいです。

藤本先生:1年生の清水さんは、以前に我々のデモを見て徳山高専に入学を決めたそうです。また、私は長く徳山高専でロボコンの指導を行ってきましたが、退官が間近に迫り1年前から筆頭顧問を池田先生にお任せしています。徳山高専のロボコンのチャレンジはこの先もずっと、学生も指導教員も、技術とスピリットを受け継いでいくでしょう。

皆さん、研究や授業でお忙しい中、お答え頂きありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。