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高専トピックス

2022年8月13日と14日に、神戸サンボーホールで開催されたレスキューロボットコンテスト2022において、松江高専レスコンチームがレスキュー工学大賞を受賞しました。
レスキューロボットコンテストは、レスキューロボットコンテスト実行委員会と神戸市が主催する、災害救助を行う遠隔操作ロボットのコンテスト。被災した建物内(1/4の実験フィールド)にロボットを投入し、取り残された人を模したダミー人形(愛称:ダミヤン)を救出するのがミッションです。
今回受賞したレスキュー工学大賞は、レスキュー工学の観点からコンセプト、技術力、組織力を総合的に判断して最も優れたチームに対して贈られる賞です。松江高専チームが同賞を受賞するのは2017年の大会に続いて2回目です。

レスコンチームメンバー(チーム名:MCT、指導教員:本間寛己さん) 
・澤田晴矢さん(機械工学科5年)
・沼本祐輝さん(機械工学科5年)
・品川海月さん(電子制御工学科5年)
・宮﨑夏月さん(電子制御工学科5年)
・榎本陽菜さん(電子制御工学科5年)
・中尾匠さん(キャプテン、機械工学科3年)
・山本歩夢さん(機械工学科3年)
(掲載開始日:2023年1月4日)

レスキューロボットコンテストの概要


1995年の阪神・淡路大震災を機に始まったレスキューロボットコンテスト。「作業」「調査」「救助」の3つのミッションをロボットで実行する。

災害に強い世の中を目指して、技術と人を育む大会

レスキューロボットコンテストは、大規模都市災害における救命救助活動を題材としたロボットコンテストです。大会の募集要項によれば、レスキューロボットを実現するために重要な技術的エッセンスである「遠隔操縦技術」、「対象物をやさしく扱う技術」、「複数のロボットの協調技術」等を競うものとなっています。さらには、人間の操縦技能やチームワークも重要な評価の対象としています。

3つのミッションをクリアすることでポイントを競う

この競技は、指定されたスタートゲートから競技フィールドに遠隔制御もしくは自律的に動くロボットを投入し、制限時間内に3つのミッションを行い、各ミッションを達成してそれぞれに決められたミッションポイントを獲得していくというものです。3つのミッションとは、救出搬出経路を確保するために通路にある障害物を撤去する「作業ミッション」、建物内の被災状況を報告する「調査報告ミッション」、そして競技フィールド内に数体置かれているダミヤンを探索発見し、部屋から救出した後、安全な場所(救出エリア)まで搬出する「救助ミッション」となっています。

競技ロボットではなく、救助ロボットを目指す姿勢が大賞の受賞理由

実は、ポイント獲得を競う競技自体の得点で言えば、松江高専チームは3位でした。全競技終了後に審査員の評価点を加えても2位だったのです。それでも大賞の栄誉に輝いたのは、ロボットがダミヤンを救助するアプローチが生身の人間を扱うことを強く意識したものだったからでした。チームを指導する機械工学科の本間教授は次のようにコメントします。
「以前に本校の学生が、怪我をしているかもしれない被救助者を扱うのは、首の座っていない赤ちゃんを抱き上げるくらいのデリケートさが必要ではないかと言ったことがあり、その通りだと考えた私たちは被救助者に優しい救助方法を追求しました」
実際にレスコンのフィロソフィーとして、1番目に「他のチームとの相対的な勝敗が第一ではない」と明記されています。また、ダミヤンにはセンサが内蔵されており、手荒な扱いを受けたかどうかを検知することができ、いかに早く救助するかだけでなく、ダミヤンに対する扱いのやさしさも重要な評価基準です。
そうして、松江高専レスコンチームは、大会趣旨を理解し、技術力と組織力(チームワーク)に優れたチームに送られるレスキュー工学大賞を獲得するに至ったのでした。

松江高専レスコンチームの皆さんへインタビュー


被救助者に見立てた「ダミヤン」をやさしく丁寧に、素早く救助するロボット。

――チームの中での皆さんの役割を教えて下さい。

山本さん:私は組み立てと基板周りの配線を担当しました。

榎本さん:私は2号機の足回りの設計と、本番の時のプレゼンテーションを任されています。

宮﨑さん: 2号機のベルトコンベアを利用した救助機構の設計を行いました。

品川さん:私が担当したのは基板周りの配線です。

澤田さん:1号機の足回りの設計と1号機のオペレータを担当しました。

沼本さん:1号機の赤ちゃんを抱っこするようにダミヤンを救助するアームの設計をしました。

中尾さん:僕はキャプテンを任されたことに加え、3号機の設計も行いました。本選ではオペレータもしています。

――ロボット製作の大変さや面白さを教えて下さい。

中尾さん:救助ロボットにはどういうことが求められているのかを考え、それを実現する機構を3D-CADで設計し、シミュレーションを重ねた上で実際の製作に移るのですが、やはりちゃんと動くまで試行錯誤が必要でした。でも先輩たちの残してくれた前モデルで培った技術やノウハウがあったので助かりました。

宮﨑さん:担当しているパートが曲者で、ベルトコンベアの表面の摩擦の最適化が難しかったですね。ダミヤンを上手く運べるようになるまでトライ&エラーの連続でした。でも、テスト結果が上出来だと苦労は吹っ飛びました。

沼本さん:ダミヤンを抱え上げるアームも、その形状をちょっとずつ調整しながら3Dプリンターを使って10個以上も作りました。その甲斐あって、コンテストで使える水準にはなったと思いますが、まだまだ改良を加えたいというのが本音です。

山本さん:以前までなら夜遅くまで調整作業や練習ができたのに、コロナ禍で19時に学校を出なければならなくなって、時間に追われ苦労しました。

――大会当日の様子をご紹介下さい。

中尾さん:実は本選のデモ競技中に、3号機のアームを破損してしまいました。やってしまったと、顔面蒼白になっていたと思います。とにかく競技に間に合うようにバックヤードで修理に奮闘しました。テープでぐるぐる巻きにするなどして、何とか間に合いました。

沼本さん:1号機も競技中に暴走し始めました。コントローラの操作が効かない状況に陥ったのです。多分、会場で飛び交っていた無線電波が干渉したのだと思います。ポイントを重ねた後の終了間際だったのがラッキーでした。

榎本さん:プレゼンでは難しい言葉を使わずに、会場に来ていた小学生でも理解し易い表現になるように気をつけました。スライドも分かりやすくするためにイラストをふんだんに取り入れています。

山本さん:私は本選当日、会場に足を運んでいなくてYouTubeのライブ配信で実況を見ていたのですが、大きなミスなく終わったので安心しました。

澤田さん:1号機の操縦中にダミヤンにダメージを与えて反則を取られてしまい、仲間に迷惑をかけたのが悔しかった。画面上では上手く運べたと思ったのですが…。だからこそ大賞に選ばれてひときわ嬉しかったです。

中尾さん:レスキュー工学大賞の結果発表で松江高専が選ばれたのを聞いた時、なぜか現実感がまったくありませんでした。家に帰ってきて、両親からおめでとうと言われて初めて喜びが実感できました。


本選直前にアームが破損したり、競技中にコントローラの操作が効かない状況にも陥りましたが、みんなのチームワークで乗り切ることが出来ました。

――皆さんが高専で学んで良かったと思うことを教えて下さい。

山本さん:5年の間、受験を気にすることなく、工学の勉強にもクラブ活動にも打ち込めるのが良いところだと思います。

榎本さん:祖父の趣味が家具をつくることで、幼い頃からそれを見て育ってきた私はいつしかものづくりに興味を持ち始めました。大きな実習工場があるなど、手を動かしてものづくりに没頭できる恵まれた環境は、この年齢では高専にしかありません。

宮﨑さん:高専に入って5年間勉強すれば、希望する企業への就職、大学への編入学、専攻科への進学など、多彩な選択肢を持つことができます。

品川さん:就職に関しては多くの企業に高専枠があり、ほとんどの学生が望んだ企業に行けます。私は家電メーカーへの就職が決まっています。

澤田さん:私も自動車が好きで高専の機械工学科を選んだのですが、就職先も自動車メーカーに決まりました。高専は、夢が叶う学校です!

沼本さん:本当に自分の好きな勉強ができますよね。先生方の専門性が高く、しかも丁寧に教えてくれます。私はロボットをつくる授業には力が入りました。

中尾さん:小さい頃にガンダムを見ていて、こんな大きなものをつくりたいなと思って松江高専に入りました。入ってみると、ロボットをつくれるだけではなく、技術や理論に加えて鍛造や溶接などの製造技能も学べました。そして、自分の手で完成させたものを自分で見られる。これが一番の醍醐味です。


――皆さん、研究や授業でお忙しい中、お答え頂きありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。