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活躍する高専出身者インタビュー

先端科学と最新技術をつなぐ 若き高専生のポテンシャルを評価する、理化学研究所

Interview

<お聞きした方>
国立研究開発法人 理化学研究所 計算科学研究センター
運用技術部門 部門長 次世代計算基盤開発部門 副部門長
理学博士 庄司 文由 氏

庄司様が部門長を務めておられている計算科学研究センター 運用技術部門についてご紹介下さい。


計算科学研究センター運用技術部門では、スーパーコンピュータ「富岳」のシステム稼働に必要な設備管理・運用のより効率的な技術開発とユーザーが「富岳」を使用する際に、高いパフォーマンスを発揮するよう利用技術の研究開発を行っています。

理化学研究所には、以下の6つの研究領域(及び事業)があります。


  1. 1. 多様な研究領域を超えて「つなぐ科学」を推進する『TRIP事業』

  2. 2. 未到の研究分野の創成・開拓に挑戦的に取り組む『開拓科学領域』

  3. 3. 情報処理技術及び高効率のエネルギー変換技術等の発展で新たな学術の創成を目指す『物理科学領域』

  4. 4. 生物資源と生産・物質循環・共生と環境に関する研究開発により持続可能な社会の構築を目指す『環境化学領域』

  5. 5. 異なる階層・時間軸・種間の横断、環境要因、ゲノムやエピゲノムなど複雑な生命メカニズム全体に迫る『生命科学領域』

  6. 6. 今後の科学技術振興と社会変革の中で必要となる計算基盤の構築と基礎学理を創成する『数理・計算・情報科学領域』



私が所属する計算科学研究センターは数理・計算・情報科学領域に組み込まれており、「富岳」の運用とユーザー支援、次世代スーパーコンピュータに向けた運用技術の研究開発、さらには量子コンピュータなど新たな計算技術と連携する計算基盤の開発などを担っています。そして、私が部門長を任されている運用技術部門では、「富岳」のシステム稼働に必要な電気設備や機械設備、ネットワーク設備の管理・運用を行うとともに、システム及び設備の効率的な運用に資する技術開発、及びシステム利用技術の高度化に資する研究開発を進めています。

「富岳」は2020年の試行運用時、スパコンに関する4つの性能ランキングにおいて世界第1位を獲得しました。史上初の4冠達成でした。(4つの性能ランキングとは、「TOP500」、「HPCG」、「Graph500」、「HPL-AI」※)今もなおトップクラスのポジションを保っていますが、それを可能にしたのは優れた設計思想と、高度な運用体制の確立にあります。また、数々の先端テクノロジーを集結させて稼働に導くスーパーコンピュータの運用設計には、事前の先端技術の検討や試行錯誤、検証作業が不可欠です。私たちは「富岳」の運用を絶えずアップデートする役目を果たすと共に、次世代スーパーコンピュータに向けた新たな運用技術の研究開発も重要なミッションなのです。

※4つの性能ランキング解説(理化学研究所HP) はこちら

庄司様が高専生に着目された背景や理由を教えて下さい。


高専生のポテンシャルが高い事は、かねてより多方面から聞いており、2024年から高専へ出張授業、インターンシップを始めました。

私たちは、数多くの企業と共同研究・共同開発を行ってきましたが、その際の相手方の優秀な研究者、技術者の方々の中に多数の高専出身者がいらっしゃいました。また大学との交流も盛んですが、高専からの編入生に対する評価が極めて高いこともひしひしと伝わっていました。
そうした中、運用技術部門に幾つかの人材上の課題が持ち上がっていました。一つは外部の人に「富岳」を効率的に利用いただく高度なサポートを行う人材の確保。もう一つが、AIなど世界で急速に進展する最新の情報技術と理化学研究所が進める最先端のサイエンスをつなぐ人材の拡充でした。こうした優れた情報系人材を確保するには競争が苛烈なITの採用市場で勝負しなければなりません。そこで、思い切り若くて有望な人材を短期間で高いスキルを持つ人材に育成する方策として、高専生の採用に乗り出すことにしたのです。

そこで、2024年から高専への出張授業を始め、2025年には20校を訪問しました。直接の採用活動ではなく、理化学研究所を知っていただくべく、「富岳」に関する先端技術や社会的価値の説明を中心に行っています。このイベントを通して最初に感じたのは、高専生の真剣な眼差しや前のめりの聴講姿勢です。サイエンスとテクノロジーに対する真摯さが伝わってきました。さらに、「富岳」に関するエネルギー効率の改善施策についてなど、どの高専の出張授業に足を運んでもたくさんの鋭い質問が高専生から返ってくることに驚きました。そして2024年の出張授業で我々の仕事に興味を持ってくれた後藤さんに2週間のインターンシップに来ていただき、運用で発生する大量のデータを分析し運用改善につなげるという課題に取り組んでもらいました。その中で高いITスキルや問題解決能力等を発揮した彼に、すぐにオファーを出しました。

こうして翌年4月から後藤さんは我々の一員となりました。新卒で入所した初めての高専本科卒業生です。入所後の評価も高く、スキルレベルに加え、組織人としてのコミュニケーション能力の高さも再確認しています。現在はすでに運用状況を可視化するソフトウエアの開発という重要な業務を任せていますが、まだまだ挑戦の前段階です。彼には勉強を重ねて、運用技術の革新的な進化を図るなど、本来の能力を大きく開花して欲しいと思います。そのために社会人大学院の修士課程で学んでもらうことを考えています。その後に博士課程に進み、博士の学位を取得するキャリアも開けるでしょう。

2026年4月には、インターン生から新たに2名入所する予定です。二人には一期生の後藤さんと共に、若手技術者のロールモデルになって欲しいと期待しています。

高専生への応援メッセージをお願いします。


「富岳」が設置されている計算機棟に併設されている熱源機械棟内部。冷却しなければ、すぐに1,000℃を超える「富岳」のCPUを冷却しています。高専で培った課題解決や社会実装の教育が実践に結び付きます。

理化学研究所に限らず、社会に出ると新しい環境に迎え入れられ、新たな技術や知識を学び、責任を伴う仕事がスタートします。その準備段階として、高専における授業はとても優れていると思います。研究や実験、社会実装にも高い価値があります。その際にリスクを恐れずに様々な技術への挑戦を行って下さい。AIを活用すれば、効率も大幅に上がります。そうして得たスキルを、若いうちから存分に発揮して下さい。それが可能なのが、高専生の強みなのです。


<お聞きした方>
国立研究開発法人 理化学研究所 計算科学研究センター
運用技術部門 先端運用技術ユニット テクニカルスタッフI
後藤 順太 氏 ※群馬工業高等専門学校 環境都市工学科 2025年卒業

後藤様が理化学研究所への入所を志望されたきっかけを教えて下さい。


友人から理化学研究所が高専で出張授業を行っていることを伝え聞き、先生に授業の誘致をお願し、庄司さんに話を聞いたことががきっかけとなりました。

私は2024年まで、群馬高専の環境都市工学科で土木を学んでいました。4年生の時に所属していた研究室では、橋梁や河川の護岸壁といった土木インフラの劣化状況をIoTで効率的に管理するための研究を行っていました。そうした中、同じ学科の友人から理化学研究所が高専への出張授業を行っていることを聞き、友人と共に先生にそのことを希望した結果、5年生になって庄司さんの出張授業が実現したのです。
この出張授業で、理化学研究所や、その中でどのような研究開発を行っているのかについて、深く知ることができました。それまでは理化学研究所については、研究水準が高く、自分の未来とは全く異なる世界だと考えていました。ところが話をお聞きすると、自分でも取り組みたい面白そうな内容がたくさん伝わってきました。特に、研究室で最新ITに触れていたこともあり、理化学研究所内にある情報技術職への興味が高まりました。そうして5年生の夏休み前に理化学研究所のインターンシップに参加したのです。

インターンシップを通して、入所意欲はいっそう高まりました。インターンシップの内容は、2週間ほど「富岳」を自由に使って自分のやりたいことを実行して下さいという、テーマでした。まずは並列計算機、それも世界有数の性能を誇る「富岳」に触れられることにワクワクしました。
その「富岳」を使って、私はシステムマネジメントに特化したプログラム言語であるRustのコードを動かしてみました。その時に多くの実績を持つ研究者や技術者たちと会話を重ね、研究や運用を支える現場の雰囲気も肌で感じられました。そして、実際の「富岳」の運用現場における仕事のスケールの大きさに圧倒されたのです。もはや志望先は、理化学研究所以外は考えられなくなっていました。

後藤様の現在の職務内容とそのやりがいをご紹介下さい。


電源設備、冷却設備などの運用データやジョブ情報をリアルタイムに分析・可視化するためのソフトウェアの開発を行っています。このタスクを試行錯誤をしながらも、自身で最後までやり遂げるべく、任せてもらっています。

計算科学研究センターの運用技術部門の中で、私が所属するのは先端運用技術ユニットです。こちらでは電源設備、冷却設備、ネットワークといったインフラを中心に、データセンター全体をより高度に運用するための研究開発を行っています。このユニットで私が入所当初から任されているのは、「富岳」使用時のCPUやメモリの稼働状況、I/Oやネットワークのトラフィック状況、電力消費といった、運用データやジョブ情報をリアルタイムに分析・可視化するためのソフトウェアの開発です。日々の運用で得られる膨大なデータを分析しやすくすることで、利用者はジョブの挙動を把握し、管理者はシステム全体を俯瞰的に確認出来る環境を整えることが目的です。

私に任されているこのソフトウェアの開発案件では、一般の民間企業の開発プロジェクトとは異なり、明確な納期が決められてはいません。そこには、私が「富岳」の運用を時間を掛けて深く理解し、新たな運用技術の開発者へと歩んで欲しいという期待が込められているからだと聞いています。ですから私は自ら手を動かし、試行錯誤しながら、AIも活用し、着実にノウハウを蓄積しています。それでも本番で動かすソフトウェアですから、最後までやり遂げることに責任を感じていますし、毎週のユニットミーティングでは進捗状況を報告しますから、息を抜くような時間はほとんどありません。

私一人に任された開発ですが、孤立した状況とは真逆であり、周囲に質問すると誰もが丁寧に答えてくれます。しかもそうした先輩たちはその領域のエキスパートばかり。勉強をする環境としては最高だと感じています。私は新人であることから今は教えられるケースばかりですが、スキルを磨き続けることで近いうちに各分野のエキスパートたちに交じり、互いの専門分野を持ち寄って課題を解決する一員になれるはずです。担当業務の枠を超えて新しいことに挑戦出来る自由度がここにはあるのです。

入所当初に比べ、私のスキルは格段に上がったと実感しています。当初に書いたプログラムには、作りの荒い部分がありましたが、最近は効率的に開発を進められるようになり、ソフトウェアの可読性や安定性も高まりました。このソフトウェアの開発は最終段階ですが、もうすぐ新たに稼働する「AI for Science 開発用スーパーコンピュータ」にも適用出来るソフトウェアの開発に移る予定です。

将来の展望としては、まずは現在の監視ソフト関連の開発業務を完了し、運用技術を蓄積していきたいと考えています。そしていずれは「富岳」の後継スーパーコンピュータとして開発されている「富岳NEXT」(開発コードネーム)の運用技術を担いたいと思います。さらにその先は‥‥社会人大学院に通って修士、博士の学位を取得することも選択肢の中に入ってきそうです。

高専生への応援メッセージをお願いします。


現在は仕事は任されていながらも、各領域のエキスパートにいつでも教えてもらう事が出来る、恵まれた環境です。高専での学び全てが財産であり、その経験をもとにより大きく成長出来そうです。

理化学研究所に入所してまだ半年と少ししか経っていませんが、本当に多くのことを学び、自ら試行錯誤を重ねながら新たな開発目標にチャレンジしていく経験を得ることもできました。このプロセスでは、高専時代に自ら計画して調査し、文章化して発表した卒業研究の経験が活きています。高専で小さいプロジェクトをいくつか回した実体験や、レポートの山をこなし切った自信も、大切な財産です。高専で学んだ多くのことが、私を大きく押し上げてくれていると感じています。

一つだけ、もっと打ち込めば良かったと後悔していることがあります。それは英語です。理化学研究所には海外出身の研究者が数多く在籍していますし、海外での学会に参加する機会も頻繁にあります。そこで多くの研究者の話を聞くだけではなく、互いにコミュニケーションを取り合うことが出来れば、よりいっそう楽しいはずですが、今の私にはその英語力が足りていません。今になって必死に英語の勉強を始めましたが、高専時代から着手しておけば良かったと心から悔やんでいます。皆さんも、英語の勉強は必ず将来に活かせるはずなので頑張って欲しいです。

皆さんにも理化学研究所について興味を持っていただけたら、是非インターンシップにご応募下さい。そして、縁があった際には、是非一緒に働きましょう。理化学研究所は、高専生に期待しています。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

Information

国立研究開発法人 理化学研究所 計算科学研究センター

設立日 2010年7月
本社所在地 兵庫県 神戸市 中央区 港島 南町 7-1-26
主な事業内容 高性能な「計算」という事象自身を「計算の科学」として探求し、それによって得られる莫大な計算パワーを様々な科学分野の問題解決に適用してそれらの発展に寄与する「計算による科学」を推進し、更には両者の高度化に貢献する他の科学分野の産物である「計算のための科学」と連携を果たすべく、次世代の「計算科学」の世界トップレベル且つ我が国の中核拠点の研究センターとして活動しています。
採用ページ 採用情報 | 理化学研究所 計算科学研究センター(R-CCS) 
※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。