活躍する高専出身者インタビュー
多くの高専卒業生が活躍する農業機械のグローバルカンパニー。高専の5年間で磨いた課題解決力と確かな基礎技術を礎に、世界の農業が抱える問題解決に挑みます。
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社会に羽ばたいた高専(高等専門学校)卒業生が、どのような活躍をしているのか…。
今回は島根県松江市に本社を置き、農業機械全般を開発・設計する三菱マヒンドラ農機株式会社に在籍する5名の高専出身エンジニアの活躍ぶりを紹介します。
5名のうち1名は開発部門のベテラン部長。それだけでも高専出身者が重用されていることがわかりますが、4名の若手社員も重要なポジションを担っているようです。
(掲載開始日:2023年4月6日)
農機のコア開発や次世代技術の研究を担当する。
最初に、米子高専電気工学科を卒業して三菱マヒンドラ農機に新卒入社し、キャリアを重ねてきた松川開発管理部長に同社についてのご紹介を頂き、次いで若手メンバーに担当している職務について伺いました。
松川:弊社は三菱重工業株式会社のグループ企業であり、その源流は1914年に松江市で設立された佐藤商会です。
創業者の佐藤忠次郎は横転した自転車の車輪をヒントに回転式稲扱機(いねこきき)を最初に開発し、それ以降も数々の農業機械を発明しました。
その後、1980年に三菱機器販売株式会社と対等合併し、三菱農機株式会社となりました。そして2015年にインドのマヒンドラ&マヒンドラ社の出資を受けて現在の体制となっています。
弊社は島根に本社を置く島根発グローバルカンパニーとして、国内はもとより海外にも多くの農業機械を送り出しています。
北米ではガーデントラクターとしての需要も高く、年間7000~9000台のトラクターを輸出しており、アジア諸国にも同じく輸出しています。
そしてその開発部門では、私を含めて高専の卒業者が重要な職務で活躍しています。
実際に、ここに集まった弊社の若手社員たちが担っている仕事内容を紹介してもらいましょう。
大濱:私はトラクターの油圧関係の設計を担当しています。
トラクターには水田の代かき(掻き混ぜ)をする「ハロー」や水田と畑地を耕す「ロータリー」といった、様々な作業を行う作業機(アタッチメント)が取り付けられますが、それを持ち上げる機構やステアリング周りに油圧が用いられています。
トラクターとひと口に言っても、使用する農地の規模や土質、作物によって要件や仕様が異なることから数多くの機種があり、実に奥の深い農機です。
モデルチェンジごとに新機種のスペックに最適化した油圧系統を設計するのは容易ではありません。それでも農家の方々に、より使いやすくなったねと言っていただけることが大きなやりがいになっています。
川田:私は田植機の植付機構の設計を担当しています。
この機構は田植機の評価を決定する最も重要なポイントになります。弊社の田植機は、手植えに近いようなきれいな植付ができると農家の方々から高く評価されています。
他社の植付機構が苗を勢いよく押し出すようなメカのアクションに対して、弊社の植付機構は苗を置いてくるような仕掛けとなっていて、稲を最適な姿勢に保てるのです。
先輩たちが築いてきた定評のある機構を、さらに進化させるための設計には力が入ります。
山根:大濱さんと川田くんは新機種を成功させる製品開発の最前線で活躍しているのに対して、私は自律農機の開発を担って、未来の農業を引き寄せる研究開発に従事しています。
日本の農業は高齢化が進むとともに、グローバルで競争力を獲得するためには高効率の収穫を目指す必要があることから、近い将来に農作業の自動化が不可避な状況です。
例えばトラクターの運転ひとつとっても、高度に自動運転制御をすることで抜本的な省力化を進めたいとする喫緊(きっきん)のニーズがあります。
技術的に近似なものとして自動車の自動運転技術がありますが、公道とは条件が大きく異なります。
白線がきちんと引かれた道路に対して、農地は目印が少なく凹凸があったり泥濘(ぬかるみ)地であったりと、真っ直ぐ進ませるだけでも大変なのです。
また、光を用いたリモートセンシング技術であるLIDARなど最先端技術の導入では、普及を考えるとコスト面とも折り合いをつけなければなりません。
他にも新たな法整備や安全な運用方法のガイドラインづくりといった課題も残されています。
そうした数多くの制約の中で、弊社は他の国内農機メーカーや農林水産省管轄の国立研究開発法人である農研機構とともに、農業の自動化に関する数々の技術課題に取り組んでいます。
元直属上司の松川部長はそうした会議に頻繁に出席していますが、私も研究開発メンバーの一員として日本の農業自動化の将来を決するような重要な決定に深く関与させてもらっています。
高倉:入社2年目の私は、新しい農機に使用する予定の、設計されたばかりの部品の強度や振動解析を3D-CADの解析ソフトを使用して行っています。
その解析結果次第で、試作に進んだり再設計したりすることになります。部品の強度の解析はもちろん、振動解析は不具合を未然に防ぐ意味でとても重要です。
例えばトラクターで言えば、エンジンの振動でミラーが激しく震えたら農作業に支障をきたしますし、各種センサーの誤作動にも繋がります。
私はそうした解析に加えて、強度不足や共振を抑えられる形状の変更提案も行っています。
高専で学んだ経験が今になって驚くほど活きる。
皆さん農業に大きく貢献する技術に携わっていることが伝わってきましたが、改めて高専で学んだ今に役立つ技術や高専から得られたものは何なのか振り返って頂きました。
大濱:油圧機構の設計に携わっている私は、高専時代に学んだ流体力学がとても役立っています。
今の仕事にスムーズに入っていけたのも、同じチームの先輩たちの丁寧な指導に加えて、高専の時に学んだ基礎技術の数々があるからです。
そう言えば、高専の時に同じような計算をしたと思い出すことがたくさんあります。
3D-CADをすぐに使いこなせたのも、高専の時に触れていたからですね。ソフトのブランドは違っていましたが、設計する際の考え方や共通する操作は多いので。
川田:米子高専は同じCADソフトを使っていました。
確かに大濱さんの言うように3D-CADを実際に触っていたので、設計作業に直ぐに取りかかれたのは大きいですね。
私は高専の時に手書きの製図も習ったことも良かったと思います。設計の基礎を深く理解できました。
高専では旋盤やフライス盤を実際に触れてきたことも設計業務の理解を深めていると思います。
高倉:私も高専の時に学んだ材料力学を仕事に活かせていると感じています。
特に解析上で設定した条件が正しいかどうかを確認したり部品にかかる力を設定する時には材料力学の知識が非常に役に立っています。
山根:私は最新のICTに関する仕事をしていますが、それは最先端過ぎて誰かに丁寧に教えてもらえるようなものではありません。自分で調べて、理解して、解決していくプロセスが常に求められます。
これは、高専時代に何度も経験した、課題を与えられて自ら解決に向けて挑戦していく手順にとても似ています。
松川:山根さんは松江高専がレスキューロボットコンテストで全国優勝した時の中心メンバーだけど、その時も挑戦の連続だったのでは?
山根:はい、レスキューロボットの開発は手探りだったので、今の自動運転技術の開拓にとても役に立っています。
高専は実習や実験にチームで課題に取り組む点も、今の仕事と通底しています。
寮や部活の仲間と学科を超えて幅広く技術についての話をすることなども、今の環境とそっくりです。
高倉:私もそう思います。
教授や研究室の仲間たちに、自分の調べたことや分かったことを説明する機会が多いのも、高専に入学して良かったところですね。
相手に伝わるように整理しながらコミュニケーションを取っていくスキルは、高専時代に磨かれたと考えています。
高専出身者の突破力で抜擢された仕事をやり抜く。
高専時代に学んだ技術を仕事に活かしている4名ですが、三菱マヒンドラ農機は高専出身者がいかに活躍しやすい職場なのかお聞きしました。
大濱:高専には学びたいという意識があれば、どこまでも学ばせてくれる環境がありましたが、弊社も同じような空気を感じています。
例えば、私たちはインドの技術者と直接やり取りをすることもあります。最近はコロナ禍だったこともありオンラインミーティングで行っていました。
そこでは通訳の方が入ってくれるので会話に支障はありません。それでも、英語力を高めてダイレクトに会話したいと言う気持ちがあります。
今後はそのために個人的に英語を勉強しているのですが、会社はTOEICの受験費用等で応援してくれます。意欲に応えてくれる風土だと思います。
高倉:私も英語力向上のため定期的にTOEICを受験しますが、その際は会社からの受験費用助成があります。
また、新入社員教育の後に新入社員にマンツーマンのメンターがつき、早期から解析課の業務について教えてもらいました。
仕事でも必要な技術・知識を学ぶことのできる環境が充実していると思います。
山根:弊社は規模こそ同業大手3社に届きませんが、技術に関してはユニークなものが多いと言えます。
弊社は少数精鋭であり、若手エンジニアにも重要な仕事が任されています。自分で課題に対して真正面から取り組みたい高専出身者が伸び伸びと仕事に没頭できる風土が息づいていると言えるのではないでしょうか。
川田:私は実家が農家である点も大きいのですが、地域社会のために役立つ技術を習得しながら実際に導入していく高専の社会実装教育がそのまま今の仕事につながっています。
私の場合、もっと良い農機を開発することで両親を喜ばせることができます。そして両親のような農家は日本に、世界に、たくさん待ってくれています。エンジニアにとってこれほどやりがいのある、楽しいことはありません。
松川:皆さんの話を聞くと、昔の高専時代の自分を思い出します。
高専生って、中学の時から工学を学び続けたいと決心している。技術を好きな人が技術をたっぷり存分に学べるところに入ってきているのを再確認しました。
農機の開発は自然と大地を相手に、天候や水、作物の病気や害虫・害獣の存在を意識しながら、農家の皆さんの労力を少しでも緩和するために果敢に挑んでいく必要があります。
今後は農業のDX化にも貢献しなければなりません。
また、法人化された大規模農地ばかりじゃなく、経営規模の小さい中山間地の農業にも貢献していくことが求められています。
高専で培われた課題解決への突破力は、このような膨大な課題をひとつひとつ乗り越えていく原動力になると思います。
技術で解決しなければならない課題がたくさん残されている農業を取り巻く環境ですが、それだけに技術の大好きな皆さんにとっては、自分らしく活躍できる製品領域であるはずです。日本の、いや世界の「食」のために頑張りましょう。
人事採用担当者からのメッセージ
弊社は島根にありながら、グローバルな視野を持ってチャレンジできる会社です。
高専出身の社員は38名在籍しており、全体の10%を超え、その多くが中核的な業務を担っています。
所在地である松江市東出雲町揖屋は、松江高専からも米子高専からも近く、この両校から多くの卒業生を迎え入れてきました。
高専で学んだことを活かしながら「ものづくり」の楽しさを実感できます。
職場の雰囲気はアットホーム、ワークライフバランスを取りやすい制度も充実しています。
また、入社後の昇給・昇格等処遇については、大卒・院卒との区別なく、能力に応じて公平に評価されます。
今後も両高専はもちろん他の高専卒業生の入社にも期待しています。
また、現在は東京や大阪、名古屋等の企業で活躍される中、UターンやIターンで地元の島根・鳥取に戻りたいと考えている高専出身の方も大歓迎です。
農業の未来を一緒にわくわくしながら創りましょう。
三菱マヒンドラ農機株式会社
設立日 | 1914年 6月 |
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資本金 | 45億1万円 |
本社所在地 | 島根県 松江市 東出雲町 揖屋(いや)667-1 |
連結売上高 | 437億円(2019年3月期) |
連結従業員数 | 1422名(2019年3月期) |
主な事業内容 | 農業を通じて、より豊かで調和のとれた人間社会の実現を目指す三菱マヒンドラ農機株式会社。インドのマヒンドラ&マヒンドラ社の製品開発力やグローバル展開力と、様々な工業製品を世の中に送り出してきた三菱グループのトータルな技術力が融合し、最先端の農業機械を開発・製造を通して世界の農業が抱える重大な課題の克服と支援に立ち向かっています。 |
採用ページ | https://www.mam.co.jp/recruit/index.html |