高専出身の転職は正社員専門のエリートネットワーク

高専インタビュー

新たな地域産業への貢献と高等教育の融合。阿南高専はこの大命題の先端を歩んでいます。

Interview

阿南高専の概要についてご紹介下さい。


阿南工業高等専門学校 正門

阿南高専は、昭和38年度に徳島県の地元産業界からの強い要望に応え、実践的技術者を育成する高等教育機関として設立されました。本校の特徴としては、国立51高専の中でも特に地域連携が強固であり、また多くの卒業生が県内の産業界で活躍しています。実際に約3割の卒業生が地元に残る選択をしており、これは地方に立地する高専の中では比較的高い割合です。

この背景の一つには、徳島県には幾つかの日本を代表するメーカーが存在し、各社が県内に本社機能、研究所、開発部門、工場などを擁する上に、本校の卒業生を高く評価いただいている点が挙げられます。
卒業生の就職先には、LEDの開発と製造で正に世界のトップを走る日亜化学工業(株)、医薬品や飲料品における多くのヒット商品で知られる大塚グループ各社、飲料の紙パック充填機において世界的に高いシェアを獲得している四国加工機(株)など、県内発の名だたる企業があります。特に日亜化学工業(株)は、本社・主力2工場が地元阿南市内にあり、多くの本校の卒業生が開発、製造など様々な部門で活躍しています。

また、今後の県内就職先として、徳島県内でITベンチャーのスタートアップが続出していることと、有力ITベンチャーのサテライトオフィス設置が相次いでいることに注目しています。ここに、卒業生の中でも意欲の高い学生が目を向けているのです。

阿南高専の特徴的な取り組みを教えて下さい。


組み込みシステム応用実習の授業風景。FPGA(※1)を用いてPWM(※2)の波形の動きを確認している。

※1:FPGA(Field Programmable Gate Array):デバイス内の電子制御機能の大部分を変更できる半導体の集積回路で、IoTの進展に伴い近年注目を集めている
※2:PWM(Pulse Width Modulation):半導体を使った電力を制御する方式の1つ

本校の教育カリキュラムの特色は、平成26年度に従来の4学科を創造技術工学科に集約し、1年生から5年生まで全員が、すべてのものづくりに共通して必要な基礎的技術や情報処理能力、国際化対応能力を学びます。
2年生からは従来の学科に相当する機械コース、電気コース、情報コース、建設コース、そして新たに化学コースを加えた5つの専門コースのいずれかに、希望により所属することになります。
そして、4・5年生では専門コースとは別に他コースの科目を履修する副専門制を設定。これによって広域的あるいは学際的な技術・知識の修得が可能となっています。

今の時代は、旧来のカテゴリーの中に留まったまま有用な人材を育成することが適わなくなっています。AIやIoTなど、情報技術とものづくりの技術が両輪で進化するような、旧カテゴリーに収まり切らない融合分野から次々と新たな価値が生まれているのです。そうなることを見越して、先々代、先代の校長が融合分野に焦点を合わせて教育体制の再編、アップデートを牽引したのです。

この学科再編によって、様々な施策が可能になりました。先に述べた副専門制もそうですが、4年生を対象とした「共同教育」もその一つです。この制度は、全コースを横断してつくられるグループの一つに所属し、1年間に亘って専門コースの枠に捉われない自発的なテーマを追いかけていくというものです。テーマの内容設定は学生たちが自ら行い、それは市場調査でもものづくりでも何でも構いません。グループ毎に指導教員をつけますが、教員はあくまでサポーターで、学生が自身で課題を発見し解決しています。この共同教育の中からは、文系学部中心の四国大学とのコラボレーションが生まれ、ビジネス提案のコンテストに参加するといった、まさに融合領域を象徴するような成果が次々に生まれ始めています。

また本校では、6年前より人間教育にも力を注いでいます。その具体的な目標は、「学修成果の可視化」並びに「学生の学びの質保証」です。高専教育を通して、知識・技能・人間力を育み、それをエビデンスにより明示します。ラーニング・マネージメント・システムを整え、学生全員にスマートフォンやPCからアクセス可能なアカウントを発行し、学生自身にラーニング・ポートフォリオを作成させて、目標の設定と到達度の把握をさせ、また日々のレポート提出、成績確認、各種学習ツール・資料の提供、アンケートの実施などをできるようにしています。こうした利活用の数々から膨大なデータを吸い上げ、適切に分析することで、教育効果の見える化改善を図っています。

他の先駆的な取り組みの一つに「eスポーツ」が挙げられます。ゆくゆく、この分野のビジネスを牽引する人材を育成したいと考えていますが、そのためにはまずは、プレイヤーとしてeスポーツの世界に入り、深く関わっていく必要があります。そこで本校では「eスポーツ研究会」を立ち上げました。担当顧問には学生指導に定評のある教員をあて、ハイスペックのPCに大型モニター、専用チェアなどのゲーム環境を整備しました。このeスポーツでは、人間力も培えると考えています。
幸いにも第1回 全国高校eスポーツ選手権に参加した学生が、準決勝まで進出するという快挙も重なりました。私も出張の合間を縫って幕張メッセで開催された大会へ応援に駆けつけましたが、その熱量の高さから一大産業となる可能性を感じることができました。
また、上記以外にも学園祭に訪れた中学生向けにeスポーツ大会を主催し、ビジネス研究への第一歩を踏み出しました。

地域社会との連携についてお聞かせ下さい。


第29回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(プロコン)は同校が主管校(2018年10月27日、28日に開催)。プロコンはIT企業からの関心が非常に高い。

地元就職率が地方立地の高専の中では比較的高いことは前に述べましたが、その基盤となっているのは、極めて密な地域連携にあると自負しています。

まず教育施策の面では、10年以上前から春休みと夏休みの期間に3年生から5年生まで3年間通して一つの企業へインターンシップに通い、就業基盤能力や問題解決力を養う「コーオプ教育(Cooperative Education)」を実施しています。
最近になって目立ってきたのが、阿南市や隣接する美波町のITベンチャー各社と本校との交流です。美波町には新進IT企業のサテライトオフィスが多く進出し、各社とも本校卒業生の採用に高い関心を持っています。こうした企業とWin-Winの関係を築くべく、徳島県で開催された第29回の高専プログラミングコンテストは本校が主管校ということもあり、共闘することになりました。強化合宿でITベンチャー各社のプロのエンジニアにコーチングを受けた他、インターンシップ参加でプロの開発現場を経験させてもらったのです。
その効果は著しく、本校から参加した4チームはそれぞれ2位、3位、5位、企業賞と、全チームが入賞しました。

地域産業への貢献という面では、地域の企業各社と共同研究・共同開発を進めるための場を阿南高専が提供する計画が進んでいます。
元々は、阿南市にLEDで世界的に有名な日亜化学工業(株)があることから、徳島県ではそこに続く光関係の新産業創出を進めていく機運がありました。そのタイミングで内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金」の対象事業に採択され、徳島県と徳島大学が中心となり県内の様々な機関・企業を巻き込んだ施策を展開していくことになりました。

本校はその中で、中小企業を対象とするものづくり、リカレント人材育成に貢献していくという役割を担っています。具体的には、LEDにAIやIoTを上手く組み合わせ、地元中小企業発の新産業に結びつけることが目標です。

折良く学生向けの実習工場の改修予算がおりるタイミングでしたので、LED関連製品の協働試作LABをそのコアに据えることとし、LEDはもちろんAI、IoT、さらにはビジネスにも明るいエキスパートを特命教授として採用しました。来年度からこの新設備を活用し、地元企業、学生、教員が一丸となって製品開発や研究に取り組んでいくことになります。

地元企業とITベンチャーを結びつける接点となって相互交流を促進する本校の産学連携ハブ機能は、ますます拡大しています。何かを起こす場所として、阿南高専が県内により広く認知され始めたように感じています。

寺沢先生のご経歴を簡単に振り返っていただけますか。

私は徳島県の城南高校から京都大学工学部に進み、物理工学を専攻しました。卒業後は科学技術庁(現:文部科学省)に入庁。以来、全国で多数の産学連携のプロジェクトを取り持ってきました。

本校の校長に着任する前には、仙台で科学技術振興機構復興促進センターのセンター長を務め、東日本大震災で被災した東北の企業と、大学や高専を結び付ける支援事業をバックアップしていました。この時は、産学連携の役割とその意義の大きさを身にしみて再確認しました。被災直後に経営が立ち行かなくなった企業は、何とか新たな技術や商材を得て瓦礫の中から立ち上がり、辞めてもらわざるを得なかった社員たちを再雇用したいという想いを募らせていました。そして、その想いに応えるべく向けられた自治体や教育機関の尽力が、地域産業の復興にとって大きな手助けになったという実例の数々を、はっきりと見届けることができたのです。

そんな私が、出身地である徳島県の阿南高専に着任できたことは、望外の喜びでした。培ってきた産学連携を促進させるノウハウを活かせる。出身地に恩返しが些少ながらもできる。さらに、新たに教育者としてのステージにも挑める。日々の業務は多忙を極めますが、もっと多くの取り組みに着手したいという意欲にあふれ、精魂は充実しています。

高専の在学生および卒業生へのメッセージをお願いします。


「もっと起業にチャレンジする学生を増やしたいですね。人材育成を通じて、この地域の産業にどう貢献できるかを常に考えています。」

今、高専生は社会全体から高く評価され、就職の際は有力企業から引く手数多の状態です。大学に編入した学生も、高専時の実践的な教育に揉まれた経験から実力で一目置かれています。もちろん在学中も数々の高度な学習や、社会と接する貴重な機会が用意されています。

このように、私からは近年の高専生は大変恵まれた状況にあるように見えます。それは素晴らしいことに間違いありません。
ただ、欲を言えばもっと冒険してほしいと思います。高専生として得られる評価水準が極めて高いだけに、ある程度の評価で満足してしまいがちのようにも見受けられます。せっかく何にでもチャレンジできる状況なのに、目標をより高く設定しないのはもったいない。

高専には一般的な高等学校と異なり、学習指導要領も教育委員会もありません。つまり、それだけ自由度が高いと言えます。本来はやりたいことを、楽しく、とことん追求できる場であるはずです。そうした中で、学科再編効果も伴って、起業への熱を抱いた学生が少しずつ増えてきたように感じるのは、必ず新たな未来への扉を開くことに繋がるでしょう。

阿南高専は(株)日立製作所の現社長である東原敏昭氏や、日本法人デュポン(株)の名誉会長をされていた天羽稔氏など、世界的な経営者を輩出しています。一代で移動スーパー「とくし丸」の全国フランチャイズ網を築き上げた、ベンチャーマインド溢れる住友達也氏という先輩の存在も誇りです。在学生も卒業生も、企業に入社したら新技術で経営を牽引するトップを目指す気概を持ち、早期に新たなビジネスに挑みたいのなら在学中からでもぜひ起業の可能性と真正面から向き合ってほしい。強くそう願っています。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力いただき、ありがとうございました。