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高専インタビュー

地域と密接に結びついた教育・研究機関として、富山高専は学術と実学の双方で成果を上げています。

Interview

富山高専の概要についてご紹介下さい。


富山高専(本郷キャンパス)正門

富山高専は、1906年創立の富山商船高等専門学校と1964年創設の富山工業高等専門学校が高度化再編によって統合し、2009年に誕生しました。当時、本校を含め4つの県で統合による「スーパー高専」が誕生しましたが、本校以外は電波高専と工業高専によるものであり、商船高専と工業高専が一緒になったのは富山高専が唯一です。

現在、旧富山工業高専が位置していた本郷キャンパスに機械システム工学科・電気制御システム工学科・物質化学工学科が置かれ、旧富山商船高専が位置していた射水キャンパスには電子情報工学科、国際ビジネス学科、商船学科が置かれています。専攻科としては、本郷キャンパスにエコデザイン工学専攻を、射水キャンパスに制御情報システム工学専攻・国際ビジネス学専攻・海事システム工学専攻を有しています。
また、日本海側で唯一の商船高専機能を持つ本校は射水キャンパス近くの富山新港に練習船として219トンの若潮丸を係留し、主に商船学科の実習に活用しています。

富山高専の特徴的な取り組みを教えて下さい。


富山高専(射水キャンパス)正門

本郷キャンパスと射水キャンパス間の距離は19kmしか離れておらず、他県の「スーパー高専」と比較しても近い距離にあることから、統合による相乗効果は高いと考えています。実際に、学生のクラブ活動をはじめ、人的な交流は盛んに行われており、教員も両キャンパスにわたって勤務するケースがあります。今後はeラーニングを積極的に活用する事で、学生が受講するカリキュラムも一部を統合する構想を進めています。

また、教育面のみならず、学術研究においても着実な成果を上げています。本校は高専機構から「研究推進モデル校」に指定されています。その背景となるのは数々の学術論文や、教員の研究に対する外部からの評価です。海外の第三者機関による調査で、本校の学術論文数は日本全国に約800ある大学並びに高専の中で170位前後と、高順位であることが判明しました。その中でも、各研究分野における被引用数が世界の上位1%に入る「高被引用論文」が4本、その内の1本は上位0.01%に入るという非常にインパクトの強い論文です。

そうした優秀な教員たちが著名大学からの誘いを断り、本校で研究を続ける理由の一つには、22名の技術職員の存在があげられます。自ら図面を引き、手作りによってプロトタイプを製作するなど研究をサポートするスタッフが揃っており、彼らの高い工作・加工技術を活かした実験装置や実験環境は、大規模な大学においてもなかなか望めないものです。
また、16歳から20歳頃迄の年齢は、学力的にも人間的にも成長曲線のピークにあたり、この期間に伸び盛りの学生に対する指導ができるという点も大きな魅力でしょう。高専の教員は、研究者としても教育者としても手応えの大きさを感じられます。

地域社会との連携についてお聞かせ下さい。


富山高専を支援している企業一覧

高い研究レベルを維持する教員の刺激となっているのは、富山県内の地域産業との強い結びつきです。県内にはYKK株式会社や株式会社不二越といった世界有数の製造業が多数揃い、最先端の技術開発が行われています。

富山県は江戸時代から北前船(※)の寄港地であったことから、北海道から水産物や農産物、大阪や長崎からは化学薬品や医薬品が届き、やがてそれらを製造する拠点となりました。これに加え、毎冬20メートル以上の積雪がある立山連峰の豊富な水源によって早くから水力発電に恵まれ、多くの電力を必要とするアルミニウム精錬工場が林立しました。こうした産業基盤の蓄積により、富山県は国内有数の工業県となり現在に至っています。また、過去には戦時中に大規模な空襲を受けたことから私立大学の誘致が進まず、工業系の大学・高専は本校を含めて3校しかありません。そのため、県内企業からの本校に対する期待は大きく、共同研究や人材の供給元として深く結びついているのです。

企業との共同研究の数は、稼働中のものだけでも約60件にのぼり、特許も数多く出願しています。
中でも特徴的な成果として、土壌汚染対策の一環として、フッ素を含有する石膏やフッ素で汚染された土壌等から、簡単な作業でより経済的に且つ効率的にフッ素を取り出すフッ素不溶化剤の実用化に成功した本校の袋布 昌幹(たふ まさもと)教授の取り組みが挙げられます。

※江戸時代中期から明治30年代にかけて大阪と北海道を日本海回りで商品を売買しながら航海していた商船の総称

賞雅先生のご経歴を簡単に振り返っていただけますか。

私は東京商船大学(現在の東京海洋大学の前身校)で船舶の機関士になるための技術と知識を学び、卒業年に大阪商船三井船舶株式会社(現・株式会社商船三井)に入社しました。それから3年間にわたり、マリンエンジニアとして大型タンカーやカーゴシップに乗船し、海外各地への遠洋航路で勤務していました。

当時は、対ドルの円相場が360円の超円安であったことから、船乗りの待遇が極めて良かった時代でもあり、当時はそのまま機関士としてキャリアを全うするつもりでした。ところが、出身大学でお世話になった教授から「戻ってこないか」との誘いが届きました。私の研究者・教育者としての人生はそこからスタートしたのです。

最終的には東京海洋大学副学長を勤め上げて大学での使命を全うし、本校に校長として着任しました。

高専の在学生および卒業生へのメッセージをお願いします。


学生には常々「自分のネットワークを作れ」と発破をかけています。例えば学会へ行った際は学外の方とメッセージの交換をする。そのような体験が将来必ず活きてきます。

一般的には、テニスプレイヤーでもゴルファーでもプロを目指すのであれば、15歳からのスタートでは遅いと言われます。スポーツに限らず、何らかの高度なスキルを習得するには、12歳から20歳頃までの発達が著しい時期を逃してはならないのです。学問や技術の世界においても同様です。その点、高専では15歳から20歳の間に、博士課程を修了した数多くの優秀な教員から直接中身の濃い専門教育を受けることができます。一方、大学ではそうした本格的な専門教育が始まるのは一般教養課程を終えた3年生以降、つまり早い人でも20歳からになってしまうのです。この5年間に修得する技術や技能のスキルは、極めて大きなアドバンテージになる訳です。

高専生のメリットは、成長著しい時期に高度な専門教育を基礎から徹底して学ぶことで、人生の後半になって新たに時流が求める専門領域を学び直すための力を養えられることが大きいと、私は考えています。また、授業だけではなくクラブ活動や寮における共同生活により、タテ、ヨコ、ナナメの人間関係を良好に保つコミュニケーションを構築していく術も備えることができます。
健康寿命の伸びている昨今、人生において就業できる期間はますます長くなっています。その間に社会に求められる技術の内容や社会的な価値はどんどん様変わりします。高専の卒業生であれば、専門を柔軟に学び直すこと、また自ら外部とのコミュニケーションネットワークを築くことによって、絶えず社会が必要とする人材でいられるのではないかと思うのです。

本校の『15歳からのカレッジライフ』というキャッチフレーズは「一生の価値を決める充実した時を過ごせる」ということを端的に語るものです。高専の在校生、卒業生の皆さんには、自らの力で切り拓いた未来が待っているのです。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力いただき、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。