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高専インタビュー

函館高専は次代の高等技術教育の責務を担うべく、新しい人材輩出フォーマットの定着に挑んでいます。

Interview

函館高専の概要についてご紹介下さい。


函館工業高等専門学校 正門にて

函館高専は1962年に日本で初めて開校した国立高専12校のうちの一校です。現在北海道には函館以外にも苫小牧、旭川、釧路に国立高専が設置され、4校の交流も盛んに行われています。本校は5年間の本科として「生産システム工学科」と「物質環境工学科」、「社会基盤工学科」の3つの学科があり、生産システム工学科には機械コース、電気電子コース、情報コースが用意されています。それに加え、2年間の専攻科として「生産システム工学専攻」「物質環境工学専攻」「社会基盤工学専攻」があります。

本校の学生の大半は函館市や北斗市を中心とした道南地区の中学校出身者です。中学校卒業者のうち、高専へ進学する割合は全国平均で約1%ですが、函館高専はこの地区の中学校卒業者の5%程度を受け入れている点が特徴です。当地域においては、函館高専の存在感や地域からの期待感が他府県よりも際立っていると言えるでしょう。

近年のトピックとしては、平成30年1月に開催された「第11回 全国高等専門学校英語プレゼンテーションコンテスト」のチーム部門で本校の3年生チーム3名が優勝しました。これは道内勢で初の快挙です。
また、平成29年12月の「第14回 全国高等専門学校デザインコンペティション」でも、全国から出場した24チーム中、本校の学生チームが3Dプリンターで製作した免震コースターが部門別の最優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞しました。

函館高専の特徴的な取り組みを教えて下さい。


入学生を募るポスター。従来の伝統的な高専のイメージを変えるべく女子学生の入学志願者増加に力を入れている。

本校の取り組みを語る上で外せないのが、全国的にも問題となっている少子化への対応です。
函館を中心とした道南地区は人口の減少率が全国平均より非常に高い水準にあります。必然的に入学志願者が減少する中、それでも学力水準を維持するが故に、この5年間は1学年200名の定員枠はあっても入学者はそれ以下に絞り込んでいます。
2016年の北海道新幹線開通でつながった青森県へも入学志願者を募るPRや、女子学生や留学生も歓迎する取り組みを行っていますが、それだけでは抜本的な解決には至りません。

そこで、昨年からは国内外のあらゆる地域から入学志願者を集めるべく「函館高専を全国高専にしよう」という施策に着手しました。そして、これは全国の高専教育改革と軌を一にしており、モデル校・実践校を本校が担っています。

その骨子は、高専としての「教育の質保証」を充実させる点にあります。“どの高専で卒業しても、期待水準以上の実力を持った人材に育まれている”という社会評価を獲得することができなければ、全国から入学志願者を集めることなど絵に描いた餅にすぎません。
この、「教育の質保証」を実現するために平成30年度から全高専に導入されたのが、モデルコアカリキュラム(MCC)です。その目的の一つは、「教員が何を教えたか」から「学生が何を学んだか」に移行する学習者主体への転換です。教育内容の評価対象を完全に学習者側に置く、到達度重視の教育になります。
もう一つが、カリキュラム構成です。各校全カリキュラムの60~70%を、MCCが担う技術者が備えるべき「基礎的能力」・「専門的能力」・「分野横断能力」に関する科目として整備し、残りの30~40%は各高専の個性や特徴を活かしたカリキュラム編成です。

また、MCCの各カリキュラムにおいて使用する教科書や資料については、10年も前から継続して、全国51高専の教員が相談し合い、協力しながら洗練させたものを作成しています。文部科学省による後方支援もさることながら、ひとえに全国各高専の数多くの教員が熱意を込めて編集した成果です。各校が横でつながり、知見を共有し合って教育の質を高めようとする動きによって出来上がった本カリキュラムを土台に、到達度重視教育を進めることで「教育の質保証」は充分に担保されると考えています。

政府の文部科学部会からも「今後の高等専門学校の在り方に関する提言」として、以上の取り組みを含めた数々の高専改革案について国のお墨付きをいただいています。函館高専を端緒に、これから全国の高専がMCCを軸とした教育改革を進めています。

地域社会との連携についてお聞かせ下さい。


漁業者の高齢化、燃料高騰、イカの不漁等が続き、函館の従来型漁業は苦境にあります。一方で函館独自の海藻が函館のブランド力も加わって高付加価値製品へと加工され、企業進出も始まっています。水産業の成長産業化を図ると同時に、地域に根差した産学連携による教育研究の推進をしています。

学生が受講する全カリキュラムの中でMCCが担うのは60~70%。残りは各高専独自のカリキュラム編成となるのですが、その取り組みの一つに周辺の高等教育機関や企業とのコラボレーションで進める「函館水産海洋工学人材の育成と持続的な海洋資源確保と社会実装を通した地域貢献」があります。

これは、函館の重要産業である水産業を高度産業化するために、技術と人材の提供を目指したものです。具体的には、陸上養殖や収穫・分別・加工・輸送における技術による課題解決、さらにはバイオ技術を活用した食用以外の加工製品の開発にまで広範に及びます。

実施体制としては、北海道大学水産科学研究院が水産資源研究を担い、はこだて未来大学がAI研究を、そして長岡技術科学大学と函館高専が工学分野の強化を担います。実際に2018年7月には、校内に長岡技術科学大学大学院のサテライトラボ「夢創造ラボ函館」が開所しました。本校の教員と共同で研究を進めるに留まらず、本校で研究に携わった学生が長岡技術科学大学大学院に進学し、そのまま函館で研究を続けながら同大学院の単位を取得できるシステムの確立を進めています。

昨今では、函館で水揚げされるイカを冷凍せずに、生きたまま東京の豊洲市場に移送する技術開発に挑んでいます。実現すれば、大量のイカが新鮮なまま首都圏のレストランや家庭で消費されることになり、函館の水産業に大きな弾みがつきます。その他にも水産業におけるフードエンジニアリングは大きな可能性を秘めています。たくさんの学生が本プロジェクトに関わることで函館全体の地域貢献につなげたい考えです。

グローバルにはどのような取り組みをなさっていますか。

MCCを軸とした高専教育改革は日本全国に留まらず、国境を越えて広がりつつあります。この仕組み自体を輸出しようと、ベトナムやタイ、モンゴルといった国々に現地オフィスを開設し、支援対象校に新しい高専型教育を制度のみならずソフト面も含めて展開しています。

また、先ほど水産業の高度産業化に貢献していくと述べましたが、2018年夏にシンガポールにおいて食品常温移送に関するシンポジウムを函館高専が主催しました。同地の技術系大学とも協定を結び、教員や学生が行き来しています。水揚げしたカニにどれだけ身が詰まっているかを計測する装置を共同開発するなど、フードエンジニアリングはすでにグローバルな視野で進めているのです。

伹野先生のご経歴を簡単に振り返っていただけますか。

私は北海道の美唄市で生まれ、北海道大学に進み、機械工学を学びました。その後、民間企業に研究職として就職しています。そこでは自動車のエンジンマウントや鉄道の軌道に使用する防振素材について研究し、振動解析技術などに関する知見を深めました。

その後、北大の大学院へ進学。ゴムのような柔らかい材質の特性を計算する材料力学の理論が確立されていないことを知り、また企業を先導できる研究をしたいという強い思いもあってこの領域を極めようと考えました。企業研究員当時、参考になるのは海外の文献ばかりで、日本の大学院の成果が薄いことを残念に感じていたからです。

そんな私に、ある医学部の研究者から、工学部で所有する「ねじり試験機」を使わせて欲しいと相談を受けました。聞けば、頚椎の間にある椎間板の変形状態を解析したいと言うのです。椎間板は、ゴムのような弾性を持った物性なのです。
その出会いがきっかけとなり、私は材料力学の立場から、医療に寄与するテーマを追究することになりました。以来、人体の構造や運動を力学的に探求する「バイオメカニクス」が生涯の専門領域となり、現在に至っています。
函館高専の校長や国立高専機構の理事を務めている身ですが、今も研究は第一線で継続しています。

高専の在学生および卒業生へのメッセージをお願いします。


先にも申しましたように、高専は今後ますます社会から必要とされる教育機関となるように、その姿をアップデートしていきます。でも、我々が描く数々のビジョンは、1962年の最初の高専の設立以来、多数の優秀な人材を輩出してきたという、産業界からの高い評価があるからこそ成り立つものです。

在学生の方も、卒業生の方も、自分たちがこれからも社会を牽引していく存在であることを、改めて自負として持っていただきたいと思います。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力いただき、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。