高専インタビュー
高専生たちは、実験と実習で鍛えた実力を背景に、時代を先駆けて羽ばたいています。
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近年、産業界からその優秀さが改めて評価されているのが、誕生から60年近い歴史を持つ高等専門学校の出身者です。 全国各地に51校あり、5年間にわたって一貫した技術教育が施される国立高等専門学校。 著名な経営者やエンジニアを多数輩出し、技術領域にとどまらず幅広い領域・分野から活躍の声が聞こえてきます。 今回は、独立行政法人 国立高等専門学校機構の谷口理事長に、高専生の優秀さの背景や、教育内容、特徴的な取り組み等、広範囲にわたってお聞きしました。
(掲載開始日:2018年1月16日)
高等専門学校の特徴や存在意義について、谷口先生のお考えを教えてください。
高等専門学校(以下、高専)は、中学校卒業者を高校入学と同時期に受け入れ、5年間にわたる一貫教育によって高度な専門技術を習得した“人財”を育てる、日本独自の高等教育機関です。
数学、英語、国語等の一般科目とリベラルアーツと呼ばれる教養科目、実験・実習を重視した専門教育をバランス良く行い、大学と同程度の専門的な知識と技術を身につけられるカリキュラムが特徴です。
5年間の本科卒業後に約6割の学生は就職を希望し、極めて高い就職率を継続しています。
就職希望者以外の本科卒業生は、2年間の専攻科に進学してより高度な専門教育を受ける、あるいは技術科学大学をはじめとする四年制大学に編入学、海外の大学等に留学する等、多彩な進路があります。
高専卒業者の特徴的な事例として挙げられるのは、起業家が実に多いことです。
一人でロボットを作る会社を立ち上げた卒業生や、起業に成功した卒業生がまた新たに後進の起業をサポートする会社を立ち上げたケース等、高専で学んだ技術をベースにあらゆる業界・分野において起業を成功させた事例があります。
高専生は、実験や実習を積み重ね、自分の実力に自信を持っているからこそ、積極的に起業へと踏み切れるのではないでしょうか。
近年、日本経済の活力を取り戻すために、社会の様々な立場の方々が、それぞれアイデアを述べておられます。
国立高等専門学校の設置者である国立高等専門学校機構の理事長を務める私としては、「自らの実力を試したい」と起業する高専卒業生をいっそう応援することのみならず、高専生に限らず誰もがより起業しやすい環境を整えたいと、具体的には失敗しても3回までは大きな経済的ダメージとはならないような支援施策を、国が準備するべきだと考えています。
チャレンジする若者には敗者復活の道が必要なのです。
もちろん、すべての高専生が起業に向いている訳ではありません。
実力を持った高専生には、大卒者と同等の活躍の場を提供することが必要だと思います。
私は立場上、たくさんの企業から「高専生の実力は認めるけれど、なかなか当社に来てくれない」という声をいただきます。
その背景には、高専卒業生を実力に見合った待遇で迎えていない現実があるのも一因だと考えています。
実習や実験、さらには、「ロボコン」に代表される様々なコンテストへの挑戦を通じて実践的な技術を磨いた高専生の実力は、本科の卒業時点で大学の学部卒業生と同等、もしくはそれ以上の力があり、さらに2年間の専攻科を出た高専生は、大学院修了生と同等の実力を持っています。
ですから、初任給も配属も実力に合わせて決定したら良いと、私は考えています。
実際にそうされている企業も少なくはありませんし、高専の卒業生はそういった企業に集中して応募します。
そうした企業は単に給料が良いだけではなく、学歴のみで一律に判断せず個人個人の実力に見合った仕事に取り組ませてもらえるからです。
以上について、私は文部科学省や経団連・経済同友会の方々等と会合する機会がある毎に、積極的に申し上げています。
賛同いただける方や企業が徐々に増えてきていることは、嬉しい限りです。
しかし、まだまだ充分とは言えません。
今の時代だからこそ出来る高専の取り組みについて教えてください。
高専生が実験と実習、さらにコンテスト等で鍛えられているのは間違いありませんし、かつて日本の高度成長を支えた「ものづくりに直結する実践的な教育」という役割は、いささかも霞んではいません。
頭と手を同時に使えるように教育訓練された卒業生は、アイデアや理論を具体的な形や製品にする力をもって社会で活躍しているのです。
しかしながら今の時代、どこを切っても同じような金太郎飴のような人材育成では、社会のニーズに応えきれないのも事実です。
そのために全国51校の国立高専では、最低限の学力を保証する目的で、教育の6割に関しては物理・化学・数学等の基礎と専門科目の基礎に関して質の高い指導を実施し、残りの4割に関しては各高専独自の教育を認める「モデルコアカリキュラム」を推進しています。
そうして地域特性に合った教育と高専教育のさらなる高度化を目指しているのです。
また、各高専独自の取り組みとして、産学連携事業も積極的に取り組んでいます。
平成16年に国立高専が国の直接設置機関から独立行政法人に移行したことをきっかけとして、独自の取り組みが随分と自由になりました。
この流れは近年ますます加速しています。
民間企業からの寄付金によって開設される寄付講座もその一つです。これは、寄付の目的に沿った教育研究を行い、地域から求められる技術者の養成を図るものです。
国立高専機構自体も、企業とタッグを組んだ取り組みを幾つかスタートさせています。
大手電子材料会社とは、制御教育に関する技術振興と地域発展に寄与するために、教育研究および人材育成について包括的な協定を締結しました。
それによって、制御技術セミナーの開催や制御技術教育キャンプ、国立高専教員と電子材料会社社員との人材交流等を実現しています。
他にも外資系IT企業とはインターンシッププログラムを、大手重工メーカーとは共同研究や人材交流等の包括連携協定を結んでいます。
新しい取り組みに充分に成功している学校も、まだまだ実績を上げきれていない学校もあります。
国立高専機構としては、社会に貢献できる社会の「財産」としての有為な人「財」として活躍できるように、高専生が産業界と連携・協働できる機会をもっと創れるように、今まで以上に努力する所存です。
グローバル環境の中で、高専の果たす役割についてお聞かせください。
近年の高専は、海外にも目を向けています。
人材面を見ても、日本の産業は国内だけに閉じてはいません。
今や製造した工業製品を輸出するだけではなく、企業も現地に製造拠点や販売拠点を設け、日本からも数多くの人材が渡っています。
その流れに高専が貢献しない理由はありません。むしろ、海外においても産業と教育を結ぶ取り組みをリードしていると自負しています。
例えばJICA(独立行政法人 国際協力機構)と、海外における職業教育システムの構築を支援する目的で、国立高専教員の派遣等を行った実績があります。
実際、高度経済成長を支えた日本の高専教育は、世界中の国々から熱い眼差しを向けられています。
現在、国立高専機構はモンゴルとタイにリエゾンオフィスを設けており、ベトナムにも開設の予定です。
最近ではUAEやトルクメニスタン、チュニジア、コロンビア等の教育関係者が来訪されています。
また、教育大臣もしくはそれに準ずる関係者が来訪される国も数多くあります。海外の大学と結んだ包括的学術交流協定は、30校以上に上ります。
外務省からの依頼で、2017年10月にはタイの国会で高専の実務教育について講演してきました。
そこで主張したのは、「高専とは日本独自の成功を収めてきたユニークな教育システムである」ということです。
海外において高専の概略を説明すると、工業大学に類すると捉えられるか、もしくは職業訓練校と誤解されることもあります。
どの国も、その国の既存の教育制度に当てはめようとされるのです。それでは高専教育の本質を充分にご理解いただけません。
そこで、実験と実習、さらに各種のコンテスト等を積み重ねてものづくりの実力を磨く高専は『KOSEN(高専) is KOSEN』であると、他のどのような教育機関とも違う、と述べています。
お陰で、今日では“KOSEN”は国際語として、世界に通じる言葉になりつつあります。
日本の高専からの留学や教職員の派遣も進んでいます。
2015年度は約2400名の高専生が研修等の目的で海外に渡航し、約1500名の教職員が学会参加や研修活動の目的で渡航しています。
また、それとは別に、海外に羽ばたく人材の育成を目標に、現在の高専では英語教育にも力を入れています。
もちろん、諸外国からの留学生も受け入れています。
海外で、“KOSEN”が普遍的な存在になる日もそう遠くないのではないでしょうか。
高専の在学生および卒業生へのメッセージをお願いいたします。
私は東京工業大学を卒業して博士号もいただき、その後は熊本大学の工学部で助教授、教授、工学部長などを経て、学長も務めさせてもらいました。
その熊本時代に、当時の熊本電波高専と八代(やつしろ)高専を熊本高専に統合する議論の陣頭指揮を執って、深く関与しました。
その時に感じたのは、高専生の実力の高さです。
多くの高専生や教職員の能力に触れた時、目を見張るものがありました。
『確かな技術を持った本当に凄い人材が大勢いる』
それが、驚きと共に当時の高専から受けた私の印象です。
この印象は国立高専機構の理事長を務める今、現実として実感し、いっそう確かなものになっています。
そこで私は、国内外で、高専生が目指す技術者は、社会を健康に発展させ、イノベーションを推進する「社会のお医者さん(Social Doctor)」であると言っています。
また、新しい価値を創り出す「クリエイター (Creator)」であるとも言っています。
高専在校生の皆さんは、研鑽に励んで社会に極めて有用な技術を磨いていただきたいと思います。
Social DoctorでありCreatorである高専卒業生の皆さんは、磨いた専門性を背景に社会を牽引する実力を備えているのです。
この事実を誇りとし、未来に向かって力強く歩んでいただきたいと望んでいます。