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高専インタビュー

社会を動かすグローバル人材や起業人材の輩出に向け、その本質を掘り下げた施策で挑む豊田高専。

Interview

豊田高専の概要をご紹介下さい。


豊田高専正門から一般管理棟を望む。
正門を入ってすぐ右手に「起業家工房」の入る図書館があります。

本校の創設は昭和38年であり、多くの国立高専と同様に60年を超える歴史を歩んできました。現在は、機械工学科、電気・電子システム工学科、情報工学科、環境都市工学科、建築学科の5学科と専攻科によって構成されています。また、開校式及び第1回入学式をトヨタ自動車工業株式会社(当時)のトヨタ会館において挙行し、同社本社工場内の施設を仮校舎としてスタート。現在もトヨタ自動車やデンソーなどトヨタ系列企業への就職者は多く、学生たちにも人気の就職先になっています。もちろんトヨタ自動車グループだけに集中しているわけではありません。JR東海(東海旅客鉄道)、中部電力、浜松ホトニクス、ホンダ技研工業といった東海地区を代表する有名企業や愛知県や静岡県の自治体、国土交通省中部地方整備局など、広範囲に広がっています。

一方、進学については旧7帝大をはじめ、国立難関大学への編入学者が多く、専門を継続しています。これまで本校における就職と進学の比率は50対50で推移してきましたが、私としてはこの比率は高専のあるべき姿を示していると考えており、就職先で即戦力となる技術者の育成、進学先で専門を深める技術者や研究者の輩出、そのいずれも高専の果たすべきミッションだと思います。

豊田高専の特徴的な取り組みについて教えて下さい。


学生寮の「明志寮」。寮は6棟から成り、それぞれ「栄志寮」「友志寮」「創志寮」「大志寮」「輝志寮」と「志」が入った名称です(令和6年6月現在)。グローバル人材の育成のため、令和3年に留学生受け入れる「輝志寮」が竣工しました。

図書館1Fに設置された「起業家工房」。学生に限らず学外の有識者も集い自由にフリーディスカッションが出来る環境を整備しています。山田校長がアメリカ留学時代に影響を受けたグローバルシチズンシップが起点となっています。

豊田高専の卒業生たちが就職先で即戦力として活躍している、あるいは進学先で技術の専門性を深めている、そのどちらにも、ベースには高専時代に受けている内容の濃い工学教育があることは言うまでもありません。それに加えて本校が以前から注力してきたのが、グローバル人材の育成です。
国立高専機構が開始した「グローバルエンジニア育成事業」と歩調を合わせて世界で通用するエンジニアを育むことを目指してきたのですが、そこには本校独自の考えが息づいています。それは、語学力を高める方向に努力と時間を傾けるのではなく、「グローバルシチズンシップ」を持つことに重点を置く姿勢。上級の英語力を持たずとも他国の人々と互いの文化の違いを共有し、多様性を受け入れ、認め合いながら交流していくシチズンシップこそが大切であり、それを磨こうとしているのです。一つの理想像は、他国の人の前でかしこまってしまうのではなく、日本人相手と同様の堂々とした意見交換ができるエンジニアです。本校はそうした人材の輩出を目標とする指導や施策を継続してきました。

以上のグローバルシチズンシップを育む施策の一つに、「TEDx ToyotaKOSEN」があります。TEDxとは、価値のあるアイデアを広めることを理念に立ち上げられた世界的な講演開催団体であるTEDから、正式に認められた団体による講演イベントであり、豊田高専は2022年に高専機構として初めてTEDxのライセンスを取得しました。2022年の1回目の開催からこれまで、本校の学生や国内の有識者のみならず様々な国からもゲストを招き講演頂いています。前回は、ポルトガル海軍の方によるドローンを使用して海洋に拡散したマイクロプラスチックを回収する「無人海洋ゴミ除去システム」についてのプレゼンテーションなどがありました。講演後に交流するイベントには、本校の学生たちはもちろん、学生の保護者の方々や地域の皆さんにも参加して頂いています。

学生たちの留学の支援や、反対に本校に留学する学生の受け入れにも本腰を入れています。年間では平均して約40名の学生が海外に羽ばたき、海外の高専やカレッジからも短期留学生を受け入れてきました。先頃は、イギリスのカレッジ2校とMOU(基本合意書)を交わし、まずは2週間程度の交換留学を行うことを取り決めました。この先では単位の互換にまで踏み込み、国立高専では初めてとなる長期交換留学の持続的な制度化を進めていきたいと考えています。グローバルシチズンシップを持った学生が留学などで海外に活躍の場を持つと、それをきっかけにキャリアを大きく伸ばすことが可能です。本校にもドイツのアーヘン工科大学に留学した学生が帰国予定日になっても帰ってこず、そのまま居着いて優れた研究成果を上げているというケースがあります。校長の立場では戻ってきて欲しいと言うべきなのですが、個人的にはグローバルでどんどん飛躍していってほしいですね。

学生たちの活躍をご紹介下さい。


スタートアップ支援として「ゼロワンサークル」が活動しており、そのメンバーの学生と鳥羽商船高専メンバーの合同チーム「かきっ娘」が、GCONで文部科学大臣賞を受賞しました。

令和2年に竣工した「創造工房棟」。「デジタル×ものづくり」カレッジが1年間のカリキュラムで各企業の方と高専専攻科生が参加して行われています。

グローバル人材の育成に加えて、本校における学生指導を特徴づけているのは、スタートアップ支援です。本校にも起業を目指す学生は多く、0から1を生む起業力を磨くサークルの「ゼロワンサークル」が活動しています。女子高専生を中心としたチームによって社会課題解決に向けた技術開発を競う高専GCON2023(GIRLS SDGs×Technology Contest)では、本校と鳥羽商船高専の合同チームである「かきっ娘」が、『CO₂を吸収する無焼成スマート牡蠣殻タイル』を発表して文部科学大臣賞を頂きましたが、この「かきっ娘」のメンバーもゼロワンサークル出身です。
また、2023年には、現在に至るまでに全世界の都市で7,000回以上開かれ、世界中で50万人以上が参加している起業実践イベントである「スタートアップウィークエンド」が豊田市でも開催されました。その中で起業アイデアコンテストが行われたのですが、上位3チームのすべてに本校の学生が加わっていました。
※かきっ娘のGCON表彰はこちらを参照

そうした学生たちの起業にかける熱意をサポートすべく、学校側も数々の施策を実行しています。まず、起業に不可欠な資金調達について学んでもらおうと、愛知銀行など7金融機関が設立したスタートアップを支援するコンソーシアム「雛(ひな)の会」から講師を招き、資金調達や事業計画の進め方についての講義を行って頂いています。他にも、授業の一部としてイブニングセミナーを開き、高専出身の起業家を招いたレクチャーを施して頂きました。

高専が積極的に取り入れているPBL(問題解決型学習)は、学生たちが課題の本質が何かを掘り下げ、その解決を自ら実施し、成果を確認することで意義が増します。その成果を測る指標の一つが、起業の妥当性です。社会的な価値を測ることができるのはお金であり、ビジネスの成否によって、本当に社会の役に立ったかどうかを判断できるからです。こうした起業についての考えを、本校では入学後の早い段階から啓発しています。

起業支援については、他にも「起業家工房」を紹介したいと思います。この施設は、学生や教員のみならず、学外の有識者が気軽に集って利用できるスペースで、図書館の1階に設けられました。ここは企業との共同研究や共同開発を行うラボとしての使用や、起業に向けた試作場所として使うことが可能になっています。この工房から未来の起業アイデアが生まれたり、起業に向けての準備が行われたりすることを期待しています。

本校は起業関連以外でも、全国の高専の中で学生たちの活躍が目立っています。ロボコンでは2回の優勝に加え何度も各賞の栄に浴していますし、英語プレコンやプロコンでも上位入賞校の常連となっています。こうした実力の背景には、発想豊かな教員が指導していることと、出場する学生が出場する大会を高専コンテスト一つに絞らず、広い視野で取り組んでいることが挙げられます。例えば、2022年のプロコンで本校の出場チームは予選1位だったのに本戦は4位でした。学生たちに敗因を聞くと、本戦のすぐ後に社会人も参加する別のプロコンへの出場を予定していて、高専プロコンの本戦対策準備に十分な時間を割けられなかったからだそうです。

山田先生のご経歴をご紹介下さい。


アメリカ留学で、今で言うグローバルシチズンシップの尊さを知りました。豊田高専ではその経験を活かすべく「TEDx ToyotaKOSEN」や留学支援、留学生の受け入れ等に力を入れています。

1980年に名古屋大学工学部電気学科を卒業した私は、そのまま同大学院工学研究科電気電子工学専攻に進み、1983年に工学修士号を取得しています。その間、1981年にはテキサス州立大学オースティン校大学院工学研究科に留学していますが、留学先の恩師であるテキサス州立大学教授のBaxter F. Womack先生から、今で言うグローバルシチズンシップの重要さを学んだ気がします。
その後、豊田工業大学工学部制御情報工学科の助手になり、同年にオースティン校にて科学修士号を取得しました。1990年に東京工業大学で博士号の学位を取得。豊田工業大学の助教授に昇任し、同年スタンフォード大学機械工学科客員研究員も務めました。2004年に産業技術総合研究所(産総研)の知能システム部門主任研究員として雇用され、翌年に筑波大学システム情報工学研究科の教授を併任しています。そして2008年に母校である名古屋大学大学院に戻って教授となり、2022年までこの職を全うしました。同大学院の教授職と併行しては、2009年に日本機械工業連合会ISO/TC199部会主査を、2019年にロボット革命イニシアティブ協議会WG3主査、セーフティグローバル推進機構協調安全委員会委員長、2020年に九州工業大学特命教授並びに日本電気制御機器工業会産業オートメーションシステムの安全に関する国際会議実行委員長、2021年には米国電気電子学会ロボットの知能と安全に関する国際会議実行委員長を務めてきました。

私がこれまでに研究を進めてきたテーマは、「人間共存ロボットの実用化」になります。製造用ロボットに対する安全工学的な考え方が浸透していない時期から、人間と製造現場のロボットが同じ作業空間で協調しながら動きつつ安全性を確保するための技術開発に加え、その社会実装のための国際規格づくりに向け、基礎研究・応用研究を進めてきたのです。豊田工業大学の助手時代にトヨタ自動車と組んだパワーアシストの実用化は、日本発としての大きな成果を上げることができました。また、当時はロボットの安全制御関連の研究に加え、ロボットと共存する人間はインシデント発生時に痛みをどこまで許容できるかといった研究も進めました。そして、この時に規定した痛みの規範が、現在の世界標準となっています。その後、産総研に移って以降はサービスロボット開発の道も拓きました。

高専の在学生及び卒業生へのメッセージをお願いします。


エンパシーという、自分と異なる価値を持つ人に共感・共鳴するこで、人の痛みを持ち続けることができ、それが社会問題を解決に導く原動力となります。

私は自分のアカデミアでの専門分野とは別に、「エンパシー」についても考究してきました。エンパシーとは、自分と異なる価値観を持つ人に共感・共鳴し、その人の立場に立ち続けることを言います。英米ではしばしば「他人の靴を履く」という表現でエンパシーの概念を説明します。同情し憐れむことを意味するシンパシーとは意味が大きく異なります。また、日本人はシンパシーの感情は持つが、エンパシーを持つ力は弱いとされます。私は高専で学ぶ皆さんやOB 、OGの皆さんにも、このエンパシーの共感力を身に付けてほしいと思います。エンパシーを大事にすると、たとえば人の痛みを持ちつづけることができ、それが社会問題を解決に導く原動力になるからです。高専で学んだ確かな技術を存分に発揮する場面を、エンパシーが引き寄せてくれるはずです。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。