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高専インタビュー

アクティビティが高い沖縄の学生の、起業や社会実装やコンテストに挑む起動力を、積極的に支援しています。

Interview

沖縄高専の概要をご紹介下さい。


国立高専の中で最も新しいキャンパスは、辺野古の丘陵地を活かした斬新なデザインです。

全学科の教室・研究室が同じ建物に集約される創造・実践棟から図書館やIT教室のあるメディア棟を望む。眼下には辺野古の美しい海が広がります。

2022年度のロボコンでは操縦者と同じ動きをするユニークなロボット「うちなーちゃんぷるー」がエキシビジョンで全国大会に出場しました。

沖縄高専は沖縄県及び県内の市町村と産業界からの強い要請を受けて、平成14年の国立学校設置法の一部を改正する法律の公布により開学した、国立高専の中では最も新しい学校です。
昭和期に連続的に開校した他の国立高専の質実剛健な印象の学舎とは異なり、名護市辺野古の広大な丘陵地に欧米の大学のようなキャンパスが広がっています。
そして、開学に際しては昨今に連なる当時の時代背景を捉えた学科編成が行われました。本科は4学科ありますが、その中に情報通信システム工学科とメディア情報工学科の2学科の情報工学系を配置するなど、世界的なIT革命を先導する高等教育機関像が構想に盛り込まれたのです。

現在もこの情報系2学科と、ものづくりの基盤を担う機械システム工学科、医薬・食品・ライフサイエンス領域を担う生物資源工学科の2学科を併せた4学科体制を継続しつつ、学科を横断して選択できるユニークな専門コースを整備し、未来に向かう学生の可能性を大きく広げています。

また、通常の授業とは異なり、少人数の学生グループが放課後や週末を利用して行う選択科目である「創造研究」を1年生から導入しています。この本校を特徴づけている目玉授業は、学生が自分のやりたいテーマを考え、仲間を集め、企画・計画書を作成、指導してくれる教員を学内で見つけて交渉するところからスタートします。

テーマはロボット開発でもアプリケーション開発でも何でも構いません。学生の自発的な意欲により夢の実現が図られるからか、多くの学生が専門的な知識や技術を吸収するとともに、この授業で進めるテーマを高専の様々な全国コンテストに繋げて数多くの賞を引き寄せるなど、これまでにたくさんの成果が誕生しました。

令和3年度の高専ワイヤレスIoTコンテストの社会課題解決大賞やディープランニングコンテストでTDK賞を頂いた、「豊かな老後ライフを実現するなんくるないカー」は、令和2年度高専社会実装教育フォーラムでも優秀社会実装賞にも輝きました。同フォーラムでは「COVID-19に挑む観光産業向けメガネ型AIデバイス」の研究開発が構想賞を、「聴覚・言語障がい者向けコミュニケーションシステム」が社会実装構想賞を、「サポート者のニーズを考慮した簡易型視野計測器の改良」が社会実験賞を頂いています。以上の表彰の全ては、創造研究を起点に獲得したものです。

私は本校の校長に着任して2年目に入りましたが、沖縄高専の学生のアクティビティの高さには瞠目(どうもく)させられてばかりです。何と言ってもアイデアフルであり、自分の意志で興味を持った対象に全力で取り掛かり、必要だと考えたアクションに躊躇しない。時には常識的だと思われる制約を超えてまでやろうとします。
先日は生物を指導する教員が、腸内フローラを用いて健康指導をするサービスを提供する会社を立ち上げるので興味のある学生は起業を手伝って…と声をかけたら、すぐに20人以上から応募がありました。まさに沖縄高専の学生らしい反響と言えます。
沖縄高専が最も歴史の浅い国立高専であるにも拘わらず、全国の高専の中でも多くの起業家の輩出や各コンテストの上位進出などで存在感を放っているのは、こうしたアクティビティの高さに源流や原動力があると考えています。

沖縄高専の特徴的な取り組みについて教えて下さい。


創造・実践棟のロビーに展示されているJTA ボーイング737式ジェットエンジン。学科横断教育の取り組みである「航空技術者プログラム」に活用されています。

パイナップル栽培のDX化を発表した高専GCON2022では、文部科学大臣賞を獲得しました。きっかけは、メンバーのお母様から農作業の大変さを聞き、DXで解消したいと考えたことからです。

学生の持ち前の挑戦意欲に期待するばかりでは、本格的な社会実装や市場価値の高い技術を持った人材の輩出にはつながりません。学校側は学生の奔放な発想を許容する一方で、専門性を獲得するための指導を積極的に行わなければならないのは言うまでもありません。
そこでは、学生の未来への希望と産業社会で活躍する場を繋ぐ道筋や機会を用意しておくことも大切です。本校では、学科を横断して選択できる5つのプログラムを整備しています。この学科横断教育は、いずれも沖縄という地に根ざしたもの、あるいは地域特性を活かしたものでありつつ、グローバルな視野と視点で行われています。

平成27年にスタートした最初の学科横断教育の取り組みが、「航空技術者プログラム」です。国内外のエアラインが就航する沖縄の玄関口である那覇空港には、多くの航空機整備施設があります。沖縄県は「沖縄21世紀ビジョン」の中で、航空機整備事業(MRO事業)を中心とした「航空関連産業クラスターの形成」を重点戦略の一つに掲げています。本校はこのMRO事業を人材面で支援することを目的に、当プログラムを開設しました。学科を問わず5年間の教育課程となっており、前半の3年間で航空機技術に関する基礎を日本航空系のJTAの講師から学び、後半の2年間ではANAの講師がより専門的な講義やインターンシップが実施されます。このプログラムを受講した学生には航空機整備士や航空機エンジン・内装品の開発者などへの道が開かれますが、中にはCAになることを目指してこのプログラムのある本校に入学し、念願通りに大手エアラインのCAに就職した女子学生もいます。

次の学科横断教育プログラムとして、平成30年に「ICT・IoT教育 DX人材育成」がスタートしました。IT時代の高等教育機関を先駆けることを目的に2つの情報系学科を準備し、IT教育の体制を充実させてスタートした本校では学生全員がプログラミングを学びます。まず低学年ではICTを活用するための柔軟な発想や実践的なアプリ開発のスキル獲得を目指します。そして高学年になると、低学年で学んだ内容をベースに、データ管理・分析・解析、機械学習やシミュレーション、クラウドサーバ構築、セキュリティなどの技術獲得に向け、より高次なプログラミングを学びます。このプログラムの成果は華々しく、高専ワイヤレスコンテスト2022でビーチドローンズ大賞を、GCON2022で文部科学大臣賞を獲得するという成果を生んでいます。

その翌年、3番目にスタートしたのが、「バイオインフォマティクス」です。本校には生物資源工学科に加えて情報系の学科が2つあります。生命科学とITの融合で生命現象を解き明かしていくこの領域は、豊かな生物資源に恵まれた沖縄に位置する本校の得意領域。このコースを選択する学生の多くが、バイオインフォマティクス技術者認定試験の合格を目指しますが、毎年のように本校の学生が最年少の合格者に名を連ねています。

そして私の校長着任後に、本校で長く活躍されてきた眞喜志副校長や神里副校長、伊東副校長、田中副校長、与那嶺副校長たちの協力を得て本格整備し、令和5年にスタートしたのが「観光・地域共生デザインコース」と「多文化共生・国際展開高専」です。観光は気候や自然環境に恵まれた沖縄の主要産業であり、多くの雇用と税収、経済活動を生んでいます。観光業は県外客に1度は足を運んでもらうことに加え、リピーターになって頂くことで安定成長が図られます。また、同時に他の地域産業が元気であってこそ、観光客を惹きつける沖縄であり続けることが可能です。そこで観光・地域共生デザインコースでは、DXで沖縄の観光ビジネスや地域産業を支援する人材の育成を目指します。こうした活動はコースを設定する以前から行われています。一例を挙げれば、沖縄県の特産品であるパイナップルを栽培する農家にAIとドローンを活用した収穫支援ソリューションを提供しようとする学生によって結成されたチーム「パイナッポー」が、高専GCON2022において最高の栄誉である文部科学大臣賞を獲得しています。

※高専GCON2022文部科学大臣賞受賞したチームインタビューについてはこちらを参照下さい。

多文化共生・国際展開高専の活動は、海外に留学や研修で飛躍する本校の学生と、本校で学びたいと希望する海外の学生を受け入れるための施策です。特に注目されているのが、近い将来に日本の高専に留学したいと希望するタイの中学生やタイの高専の学生に向けて、本校の日本語教員がオンラインで日本語の授業を開始したことです。今のところタイの学生が対象ですが、いずれ他国の学生にも機会を広げ、本校が諸外国に開かれた高専であることをアピールすると共に、国際展開をいっそう加速させていきたいと考えています。

沖縄高専の地域連携についてご紹介下さい。


ビール製造の過程で廃棄していた麦芽粕を使い、地域の子供食堂と連携してタコスソースのパスタを商品化しました。売上の一部は子供食堂の運営に充当されます。

先ほどの「パイナッポー」の活動も地域のパイナップル農家や沖縄県農業研究センターとの協働連携ですが、それ以外にも数多くの地元企業や地域社会との連携活動が進んでいます。

沖縄のリーディング産業である観光業においては、東京のホテルマネジメントシステム会社と連携し、うるま市に6月に竣工したばかりのホテルで、ホテルで使うロボットや各種自動化システムによるDXの実証実験を行っていきます。そこには多くの大手電機メーカーも参画し、AIやロボットを活用した新たなホスピタリティを追求していく予定です。

また、沖縄は県民の所得水準が相対的に低く、子供の貧困率の高さにもつながっています。それを問題視した専攻科の学生が、創造システム工学実験の一環として取り組んだのが、「Tacoスパ」の開発でした。名護市にあるオリオンビールがビール製造工程で生成される栄養価豊かな麦芽粕(ばくがかす)が廃棄されていることに目をつけ、その麦芽粕をタコスソースに使用し、乾燥酵母を練り込んだスパゲティ麺の開発を試みたプロジェクトです。すでに商品化に辿り着き、1パックを売り上げると同時に、地元の名護子ども食堂(無料または安価で栄養のある食事を貧困層の子どもたちに提供する社会活動)に、50円が寄付される仕組みを導入しています。

※沖縄高専発「沖縄Tacoスパ!!」の開発者インタビューはこちらを参照下さい。

沖縄高専の学生たちの活躍をお聞かせ下さい。

本校ではすでに多くの起業家を輩出し、アントレプレナーの養成施策でも他の高専の半歩先を進む成果を挙げています。
例えば、本校の専攻科機械システム工学コースを卒業後に東京大学大学院に進学した白久レイエス樹(しろくれいえすたつる)さんは、沖縄高専時代の友人らと人間の身体機能を拡張する巨大外骨格デバイスを開発するスケルトニクス株式会社を創業。

その後、自動車会社に転職して自動運転技術に取り組み、現在は重機を遠隔・自動操縦して現場工事を行うソリューションを開発。そのサービスを提供するARAV株式会社を創業されました。

佐藤先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。

昭和60年に信州大学大学院繊維学研究科を修了した私は、大手繊維メーカーの日清紡(現日清紡ホールディングス株式会社)に入社しました。約19年にわたって勤務しましたが、その間に会社から京都大学大学院への進学が認められ、京都大学大学院で博士号を取得しました。
専門は高分子化学で、様々な研究テーマに取り組みましたが、リチウムイオン電池の材料開発を進める中で最終的にキャパシタ(蓄電器)の開発を担当し、事業化にも関わりました。

その後、アカデミアに戻って研究を主導的に行いたいと考え、タイミング良く募集のあった山形県にある鶴岡高専の教授職に転職。日清紡時代に高専出身の数人の部下の実用的な技術力の高さを目の当たりにしており、高専教育そのものにも興味を持ったことが大きいですね。
鶴岡高専では有機化学、物質科学等の授業を持ちつつ、研究者としてのキャリアを継続。外部資金を獲得すれば制約を受けずに研究ができるなど、研究者として大学に在籍するよりも自由度の高さがありました。その後副校長に任ぜられるなど様々な校務を担いましたが、剣道部の顧問も致しました。そして3年間の国立高専機構の研究総括参事を経て、令和4年に沖縄高専の校長に着任しました。

校長としては、学生に対しても、教員に対しても、やりたいことをできる限り許容していきたいと考えています。そうして学生や教員たちが生き生きと目を輝かせていることをサポートし、見守るのが私の使命だと考えています。

高専の在学生及び卒業生へのメッセージをお願いします。


19年間の民間企業勤務で高専卒業生の優秀さに、そして高専教育自体に興味を持ったこともありアカデミアに戻りました。学生にも教員にも、私がそうであったように自由にやりたいことをやって欲しいと考えています。失敗を恐れず、前に進んで欲しいです。

在学生の皆さんには、少しぐらいの失敗に挫けずに、将来に向けて取り組みたいテーマを見つけ出して欲しいですね。社会に出てからは失敗することの連続です。その失敗を糧にして前に進むことでイノベーションが生まれるのです。私もかつては研究がうまくいかない日々の方が多く、失敗という経験を積み重ねてきました。
卒業生の方への想いも同様です。日々、なかなか成果が出ないことに、必要以上に焦らないで下さい。高専で学んだ技術は確かなものです。その上で取り組んでいることは、きっと芽が出るでしょう。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。