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高専インタビュー

アントレプレナーシップ溢れるエンジニアやビジネスクリエイターを育む理想の学びの場を追い続けます。

Interview

神山まるごと高専の設立に至った想いをご紹介下さい。


「オフィス」と呼んでいる、授業や研究の拠点。元の棚田の印象を残した建築設計で芝生の緑と全面ガラスの壁が印象的。室内は地元の「神山杉」がふんだんに使われており、杉の香りが落ち着きをもたらします。

「ホーム」と呼んでいる元神山中学校をリノベーションした生活の拠点。天高の寮や図書館があり、学食では地元の新鮮な食材を使った給食を愉しむことが出来ます。

神山まるごと高専のコンセプトは「テクノロジー×デザインで、人間の未来を変える学校」です。5年間の教育を通して目指す人物像は「モノをつくる力で、コトを起こす人」。正解が1つだけではない今の時代に、自ら課題を発見し、手を動かしてモノをつくり、それを世に出していくことで社会に変化を生み出す、そんな学生を育てていきたいという想いで学校づくりがスタートしたのです。

起点となったのは、Sansan株式会社の創業者であり代表取締役社長を務める本校理事長の寺田親弘です。彼はSansanを創業する以前の商社パーソン時代にシリコンバレーに駐在していました。その時に大都市の喧騒から離れた田舎から世界を動かすクリエイティブが生まれていく空気を肌で感じ、シリコンバレーのような場所を日本にも作りたいと考えるように至りました。そして、まずは学校をつくり人材育成から取り掛かることにしたのです。
そこに、業界初の完全オーダーメイドの結婚式のブランドであるCRAZY WEDDINGを立ち上げた山川咲、WIRED日本版のクリエイティブディレクターとして活躍し現在はクリエイティブ集団PARTYの代表を務める伊藤直樹、そしてZOZOグループ企業の取締役兼技術リーダーを務める私が創業メンバーとして加わり、共鳴し合いながら本校の開設に向けて歩んできました。

神山高専ではなく “ 神山まるごと高専 ” と命名したのは、世の中に変化を作り出すためには専門的な知識を学ぶだけでなく、その知識を実践につなげる力や世の中に受け入れてもらう人間力などを複合的に学ぶ必要があり、それらを学生たちが “ まるごと ” 学び取る機会を創出したかったからです。さらに、授業のみならず課外活動や寮生活などからも、成功も失敗も糧とし全ての経験から“まるごと”学習する姿勢を大切にしたいと考えています。

開校から約2ヶ月が経ち、まだまだ手探りの学校運営を進めながらも、大きなトラブルや想定外の事態は起こらず、お陰で本校は順調なスタートを切れたようです。毎週水曜日に企業経営者をはじめ、建築家やクリエイター、アーティストなど各分野の第一線で活躍する起業家たちが代わる代わる神山町にまで足を運んで行われる講演プログラムが実施されますが、学生の参加率は90%以上です。そこでは講演のみならず、講演者が学生たちと同じ給食を味わい、自由に語り合う時間も設けています。このことだけでも、学生たちは他では得られない貴重な学びの時間を過ごしていると感じています。

卒業生40%に起業させるという目標設定は現実的ですか?


アントレプレナーシップを持った学生の育成を目指していますが、エンジニアを創出することが第一義です。あくまでも「モノをつくる力で、コトを起こす人」なのです。

本校では、モノをつくる力でコトを起こす人材の輩出を目指し、テクノロジー×デザイン×起業家精神を学ぶ場を学生たちに提供しています。そうした学生たちの未来の選択肢の中に、「起業家」が入ってくるのは当然です。私たちも卒業生のキャリアパスとして、就職を30%、大学への編入学を30%、起業を40%と想定していることを公言しています。もちろん学生本人の志向と資質が優先事項であり、学生たちへの個別の進路指導をこの割合に当てはめて行う訳ではありません。

ここで示している「起業」とはアントレプレナーシップそのものを指しているのであり、いきなり会社経営者となってスタートアップを図るといった趣旨ではありません。確かに中には卒業後すぐに会社をつくる学生は現れるでしょう。それどころか、在学中に企業経営を始める学生が出てくることも考えられます。でもそれは一部の早生(わせ)です。私たちの言うところの「起業」とは、新規事業を構想したり、既存事業の問題点を洗って軌道に乗せたりするような、新たな事業へのチャレンジ全てです。実際にイメージするのは、50人から200人規模の中小企業に新たな事業を始める機運を起業家精神とともにもたらし、それを持ち前のエンジニアリング力とデザイン力で実際に手掛けていくような人材の輩出となります。日本の中小企業には、しっかりとしたものをつくる力があります。それを世界に送り出す術(すべ)とマインドを持った人材を私たちは育もうとしているのです。如何でしょう、こうしたことのできる卒業者が約4割。本校の教育指針に照らし合わせれば、決して実現不可能な数字ではないはずです。

神山まるごと高専の入試について教えて下さい。

高専に限らず、定員割れでもしない限り入試の結果で入学希望者の選別を行うのは当然です。その際、多くの高専や高校が基礎学力を5教科のテストで判断して合否を出しますが、本校はそれに加えて課題レポート1と2、ワークショップ、面接を重視。学力の試験はオンラインによる国語と数学の2科目だけです。
このような入学試験を実施するのは、本校では未来の「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てるために、以下の5つを満たす入学者を求めているからです。

- モノづくりに興味や関心がある人
- 多様な価値観を受け入れ、自分の意見を伝えられる人
- 情報を適切に処理する思考力がある人
- 正解のない問いに対して、独自の解を出せる人
- 必要な学習を続ける意欲があり、学んだことを活かせる人

テストの採点の合算でシンプルに合否判定を行う訳ではないので、入学者の選別に公正さを欠かないようにしっかりとした判定基準を設けて入試を実施しました。開校初年度の本年度の入試倍率は約9倍。学力テスト以外の採点にはかなりの労力を割きましたが、それだけものづくりを通したアントレプレナーシップの育成を重視する本校と、そうした教育方針を受け入れられる志願者とのマッチングを重視しているのです。

課題レポートの1は、「神山まるごと高専の5年間でつくりたいモノをプロトタイプで作成し、その機能と価値を90秒動画で紹介」、そして2が「1で紹介したつくりたいモノを実現できた先で起こしたいコトはどのようなコトか?という800字以内の文章」になります。

また、ワークショップでは、受験生が4人1組になり、4つに分割できるテーマ(例えば春夏秋冬)を与えてストーリーづくりを行います。4人で最初にコミュニケーションを取って全体の制作コンセプトについて認識をすり合わせたら、一人が4分割した一つのピースの制作を担当。そして最後に組み合わせたものを、メンバー各自が別々に全パートをプレゼンするという内容です。それによって創造性や表現力や構成力に加え、協業力が評価されます。

そしてこの4月に、数々の難テーマを乗り越え、入試倍率9倍をくぐり抜けてきた44名が第一期生となりました。

新設する学校に高専の教育システムを導入した背景は?


アントレプレナーシップを育むため、毎週水曜に各分野の第一線で活躍する起業家がホールで講演を行い、学生と一緒に食事も楽しみます。

ITが世の中の仕組みに実装されている現代社会において、今までになかったイノベーティブな新事業を実現させるには、斬新なアイデアの発想力や問題発見力に加えて、実現可能性をギリギリまで追求してそれを形にするエンジニアリング視点の感覚が不可欠です。このエンジニアリング視点は、専門技術を学ぶ中で身に付いていき、年齢的に早ければ早いほど獲得しやすいものです。ところが一般の高校から大学の工学部に進んだ場合の7年間のカリキュラムでは、専門技術を本格的に学べるのは最後の2年間に過ぎません。そこまでに至る助走期間が長すぎるのです。他方、高専の教育システムなら15歳の1年生から5年間をかけて専門技術を深く掘り下げられます。

もう一つ、高専の学生生活には、技術に向き合う膨大な時間をしっかりと確保できるという魅力があります。アントレプレナーの素養としては、ビジネスプランを実行に移すビジネスサイドか、あるいは技術でアイデアを形にするエンジニアリングデザインサイドの2面のうちいずれかのスキルが求められます。前者は大学を卒業して社会人になってからでも身に付けられますが、後者は若いうちにトライ&エラーを重ね、数多くの失敗を糧に前に進んでいくといったように、試行錯誤に時間をたっぷりと溶かしていくことで磨かれます。そもそも世の中は失敗で終わることの方が多いものです。そこから立ち直り、それどころか数々の失敗を貴重な経験に変えて次に向かっていくようなレジリエンス(回復力)を持った卒業生を、社会に送り出したいと考えています。

以上の2つの理由から、アントレプレナーシップを発揮して社会で活躍する人材を育むのであれば、高専の仕組みがベストチョイスだと言えるのです。

授業料無償化にこめられた想いをお話し下さい。


「ホーム」にある寮。4個室ごとのユニットに集うスペースが設けられ、学生同士のコミュニケーションとプライベートが両立できるデザインとなっています。

「ホーム」にある「オフィス」と同じく神山杉の香りが漂う開放的な食堂。5学年が揃うと更に賑やかで楽しい食事の時間となりそうです。

本校は、保護者の経済状況に左右されない学校を目指しています。言い換えれば、親の経済力のために、世界を変える可能性を秘めた将来性のある学生が学ぶ機会を失するような事態を無くしたい。学費が未来へのハードルであってはならないと考えるのです。

そこで、学生全員の授業料無償化を実現する返済不要の給付型奨学金の実現を模索し、本校に賛同するスカラーシップパートナー企業の確保に努力してきました。幸いなことに賛意を示し、人材の供給元と考えての期待ではなく、純粋に寄付の形でご協力を頂いた企業が次々と現れました。現在はIT系を中心に大手著名企業11社から100億円規模の拠出や寄付が寄せられ、それを基金として運用することで、学費無償化を実施しています。それに加えて、入学金や寮費に関しても、保護者の世帯年収に応じて減額もしくは無償となるような奨学金制度の適用を行なっています。

大蔵先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。

私は福井高専を卒業後、福井大学に編入し、大学院在学中に友人と有限会社シャフトを創業しました。その時にZOZOTOWNのサービス開発に携わったことをきっかけに、現在の株式会社ZOZOに就職。現在はZOZOグループの株式会社ZOZO NEXTの取締役を務め、本校の校長と兼務しています。どちらも取り組みがいの大きなポジションであり、注力する比率は50:50のイーブンです。

このように教育者としてのキャリアをまったく持ち合わせていない私ですが、私自身は本校を学校とは捉えておらず会社だと思っているので、経験不足だと感じることはありません。学生たちには自分の会社で “ 活躍できる社員 ” に育て上げようとする感覚で接しています。

高専の在学生および卒業生へのメッセージをお願いします。


興味を持てないモノに対して、興味を持てるようになる方法を学んで欲しい。勉強ができることよりも、課題を発見して答えを出すことが、高専生には何よりも求められています。

本校の学生たちにも言っていることですが、いろんなことに興味を持って欲しいのは当然として、それが何であっても積極的に関わり、興味を持てるようになるための方法を学んで欲しいと思います。極論すれば、嫌いなものや嫌いな人に対しても他人が評価する点や良いところを見つけ出し、決して遠ざけず、適切な距離感を保てるようになって欲しいのです。実社会では、そうした相対感覚と、必要に応じて自らの意思で対象に踏み込んでいく力が重視されるのですから。高専を卒業された方は、社会に出て、仕事で興味の対象外に存在するテーマを任されながらも、期待に応える奮闘を続けてきた方が少なくないはずです。高専の在校生であれば、それを今のうちから体験しておくと良いのではないでしょうか。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。