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高専インタビュー

特色を持った2キャンパスがそれぞれ個性を発揮し、首都東京の産官と深く結び付いた先端人材育成を進めています。

Interview

都立産技高専の概要をご紹介下さい。


平成18年に品川区にあった都立工業高専が統合・再編により現在の品川キャンパスとなりました。

同じく荒川区にあった都立航空工業高専が統合・再編により現在の荒川キャンパスとなりました。

汎用旋盤の切削状況を受講者全員が同時にモニターで共有できるようにしました。それにより正しく、かつ効率的に理解を進めることが出来ます。(機械システム工学コース総合 工場長 齋藤 博史 准教授)

東京都⽴産業技術⾼等専⾨学校(以下、産技⾼専)は、平成18年に品川区の都⽴⼯業⾼専と荒川区の都⽴航空⼯業⾼専を統合・再編して開校しました。現在も品川・荒川の2キャンパスを有し、それぞれの歴史や技術教育資産を尊重した特⾊のある教育を推進しながらも、統合によるシナジーを拡⼤しています。

本校が⾸都である東京に位置することには数多くの意味や意義を持ちます。世界を代表する企業の本社や中核拠点が数多く近接するとともに、世界トップレベルの各種製造技術を持った中堅・中⼩企業も多く、さらにこれからイノベーティブなテクノロジーを⾜がかりに市場進出していこうとする起業家も集まってくることから、協働で⾏う最先端の社会実装教育や共同研究に関してはふんだんな機会に恵まれているのです。
実際に、新たなスタートアップの集積地として知られる品川区の五反⽥駅周辺、通称五反⽥バレーの某新進企業からは、⾼専という⾼等教育機関に技術パートナーとしての価値を認めたからこそのタイアップの打診が本校に届いています。

そんな本校では、社会の多様なニーズに的確に応えるため、早くに学科制を見直し、現在は⼊試時には専⾨分野を問わない「ものづくり⼯学科」の1学科のみを設置、2年⽣への進級時に⾃分の適性に合った希望のコースを選択できるようになっています。⾃ら納得して将来に向けた軸となる専⾨コースを選べるように、1年生ではコース共通混成クラスで工学の基礎である機械・電気・情報といった共通の授業を受けられるようにしています。

2年⽣から5年⽣まで学ぶコースについては、品川キャンパスではナノテクからプラントまで広範囲に機械技術をカバーする「機械システム⼯学コース」、コンピューターやAIなどを活用したデジタルものづくりの実学を学ぶ「AIスマート⼯学コース」、エネルギーや情報技術といった社会基盤を⽀える技術を担う「電気電⼦⼯学コース」、そして⾼度情報技術者を育む「情報システム⼯学コース」を設置。
荒川キャンパスでは、情報通信技術のエキスパートを養成する「情報通信⼯学コース」、複合領域となるロボティクスの最先端技術を獲得していく「ロボット⼯学コース」、平成21年に開発しH2Aロケットで打ち上げられた人工衛星KKS―1、通称「輝汐(きせき)」でも知られ、航空宇宙に関する理論と技術を習得する「航空宇宙⼯学コース」、そして⼈間性と創造性を磨き医療・福祉の最前線を技術で牽引する⼈材を⽬指す「医療・福祉⼯学コース」が設置されています。さらに、学校全体で国際化を推進し、またICTを積極的に活⽤した教育環境の改善に努めるとともに、校内塾における上級生から下級生への補習体制やキャリア⽀援教育など、学⽣に対する⽀援体制も充実しています。

以上のように多彩なキャリアビジョンを描ける幅広いコース設定を⽤意している本校ですが、私は⾼専教育の本分は最新設備を使いこなす“技能者” の育成ではなく、ものづくりの全体像が⾒え、イノベーティブさを発揮していく“技術者”の育成にあると考えています。そこで本校では、IoT技術の活用を前提とした次世代の「デジタルものづくり」を牽引する⼈材を育成する⽬的で「スマートスタジオ」と名づけた演習スペースを構築し、また、汎⽤旋盤にマルチアングルカメラをセットして技能の⾒える化を実現した総合⼯場など、技術者としての視点から未来につながる「ものづくり」を学べる実験実習環境を整えています。

都立産技高専の特徴的な取り組みについて教えて下さい。


品川キャンパスの「情報セキュリティ技術者育成プログラム」では、 社会的要請の高いセキュリティ技術者を輩出しています。プログ ラムの履修生は、中学生を対象とした「サイバーセキュリティ TOKYO for Junior」をはじめとする勉強会やイベントの企画・運営を行い、 セキュリティ分野の裾野拡大にも寄与しています。

荒川キャンパスでは「航空技術者育成プログラム」により、航空機製造技術、整備技術等が⾝に着きます。令和3年度からは、航空産業の⽣産分野で指導的な役割を担える⾼度な⼈材の育成のために川崎重⼯業株式会社、全⽇本空輸株式会社、⽇本航空株式会社など航空産業関連企業6社および3高専と連携した「航空産業⼈財育成プログラム」が始まっています。

まず品川キャンパスでは、平成28年度にスタートした「情報セキュリティ技術者育成プログラム」があげられます。これはICTインフラの安全・安⼼を脅かす攻撃から情報システムを守る⼈材の育成が⽬的で、社会的な要請も⾼い領域です。このプログラムの履修生は、中学生向けの情報セキュリティ勉強会やICT勉強会の企画・運営も行っており、情報セキュリティ分野の裾野の拡大にも取り組んでいます。

他⽅、荒川キャンパスに⽬を移せば、東京都が掲げる⼈⽣100年時代の実現を⽀援すべく、「医工連携教育・研究プロジェクト」がスタートしています。これは健康で豊かな生活を支援するシステムや機器の開発が行えるように、医学と工学分野の融合・複合を可能にする人材を育成することを目指したもので、荒川キャンパス3年生から5年生を対象として、医工分野で注目されているIoTとAIの社会実装を学ぶ「未来⼯学教育プログラム」、東京都⽴⼤学の健康福祉学部や人間健康科学研究科と共同で医療現場との連携により問題解決を試みる「医⼯連携共同研究プログラム」、医療現場の問題点を把握し、新たな医療機器の開発事業を担う技術者を育む「医⼯連携ビジネスプログラム」の3プログラムで構成されています。

他にも、荒川キャンパスでは平成28年度より「航空技術者育成プログラム」を実施しており、実践的な航空技術者を育成してきました。このプログラムは、飛行機のメンテナンスを担う整備士資格の取得が目的ではなく、最新の航空機の開発技術や製造技術を担う技術者の育成を目指したものであり、修了生にとって、将来米国の世界的な航空機メーカーの技術者と対等なスキル獲得につながる教育を⽬標に置いています。

こうした⾼度かつ付加的な育成プログラムを、必要な⼯学教育の授業のどれかを削ってまで⾏うべきか否かといった議論がありますが、本校では標準のカリキュラムの外に追加で授業時間を設け、さらに教員にも負担がかからないよう、人事体制を整えています。

都立産技高専の地域連携についてご紹介下さい。

産学官連携の盛んな本校では、企業との共同研究が活発で、技術相談や出前講座、保有施設・設備の開放といった⾼専として一般的な取り組みはもちろんのこと、⼯業・科学フェアへの出展によるシーズの発信や、東京都⽴産業技術研究センターとの連携事業等なども積極的に⾏っています。科学研究費や特定研究寄附等の外部資⾦の獲得にも注⼒しており、産学協同研究や受託研究も活発です。
また、本校の多くの教員が参加しているのが、品川区が企業からの相談を受けて適切なアドバイザーを派遣する「ビジネス・カタリスト派遣事業」です。私もデジタル回路技術や超⾳波計測といった専⾨を活かし、カタリストのリストに名前を連ねています。特に地域連携や産業界とのつながりが深いのが情報セキュリティ分野です。前述の通り、中学生向けの「サイバーセキュリティTOKYO for Junior」や「ICT基礎Lab. for Junior」、IPA等との共催による「セキュリティ・ミニキャンプ」など、学校関係者以外を対象とした多くのイベントを開催し、また、セキュリ関連企業20数社と連携協定を締結しており、インターンシップ受入やハンズオン講座の提供など多くの協力をいただいています。

⾃治体との連携も多く、品川区・⼤⽥区からは中⼩企業の若⼿技術者の育成に向けたスキルアップ講座を受託する他、⼤⽥区・渋⾕区との共催で、⼩学⽣から⼀般向けの公開講座としてオープンカレッジを開催しています。

同じ東京都公⽴⼤学法⼈の傘下にある東京都⽴⼤学や、品川キャンパスと同じ建物内にキャンパスをもつ東京都立産業技術大学院大学とも様々な交流があり、共同で実施している数々の取り組みがあります。「医⼯連携リカレント講座」もその⼀つで、荒川キャンパスを中⼼とした本校の教員や都⽴⼤の先⽣⽅、さらに外部講師を招いて、様々な⽅を受講対象に医療機器産業のイノベーションにつなげることを⽬指したリカレント講座を⽉に2〜3講座の頻度で開催しています。

都立産技高専の学生たちの活躍ぶりをお聞かせ下さい。


人力飛行機研究部は、毎夏、琵琶湖で開催されている「鳥人間コンテスト選手権大会(よみうりテレビ主催)」への出場と上位入賞を目的に活動しています。創部後の27年間で18回も鳥コンに出場している「最年少ベテランチーム」。

本校は高専を対象とするコンテストのみならず、大学生や社会人を含めた技術系分野においても優秀な成績を残してきました。近年の成績としては、第28回(平成29年度)高専プログラミングコンテスト優勝。KOSENセキュリティコンテスト2019優勝。高専ロボコン2019では3回目の全国大会ベスト4。RoboCup2018モントリオール世界大会優勝(4回目)。JAXAとNASAの共催による第1回きぼうロボットプログラミングコンテストアジア大会(令和2年)で優勝。IoT・エッジAIアイデアコンテスト2021銀賞。第43回鳥人間コンテスト2021滑空機部門第5位などでしょうか。第17回全日本学生室内飛行ロボットコンテストにおいては一般部門でJAXA賞を、自動制御部門でファナック賞を受賞するなど、様々なコンテストで輝かしい実績を残しています。

卒業生の活躍も華々しく、その中にはシリコンバレーで活躍している技術者もいます。昨年は、日本マイクロソフトでTeamsの開発に携わっている本校OBを講師に招き、開発担当者自ら1年生にTeamsをはじめとするツールの講習会を行って頂きました。これは新入生のオリエンテーションの一環として、すぐにリモート授業に対応できるようにするために実施したものですが、学生たちは理解が進んだだけではなく、これから技術を学ぶ大きな刺激になったようです。

吉澤先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。

私は昭和59年に東京都⽴⼤学⼯学部電気⼯学科を卒業した後、昭和61年に同⼤学⼤学院⼯学研究科の修⼠課程を修了、同年、東京都立工業高等専門学校に助手として着任しました。
その後、平成元年に講師となり、平成3年には東京都⽴⼤学の⾮常勤講師を兼任し、平成4年に東京都⽴⼯業⾼専助教授となって平成7年に都⽴⼤の社会⼈ドクター⼀期⽣として博⼠号を取得しています。
そして平成18年に都⽴産技⾼専教授となるなど研究者と教育者のキャリアを歩み、令和4年に現職の校⻑に着任しました。

専⾨は、医療⽣体⼯学で、超⾳波応⽤技術を究め、穿刺(せんし)型超⾳波検査装置の開発に寄与してきました。
この装置は、患者の腫瘍が良性か悪性かといった診断を、これまでよりも迅速に⾏うことを可能にするもので、多数の論⽂を残しています。
平成30年度には公⽴⼤学法⼈⾸都⼤学東京の「⼤学・⾼専連携事業基⾦」事業にも採択され、研究代表者を務めました。

高専の在学生および卒業生へのメッセージをお願いします。


在校生の皆さんには、技術を通した夢を何でも良いので持って欲しいと思います。卒業された皆さんには、いつまでも社会に新しい価値をもたらす技術者であって欲しいと願っています。

⾼専の在学⽣の皆さんには、何よりも夢を持って欲しいと思います。⾼専は技術を学べる学校なので、技術を通した夢であれば何でも構いません。
それは⼤それたものであっても、傍から見れば妄想に近いものであっても構いません。それを強い意思と自らの技術力で、確かな志につなげていって欲しいのです。
そうした夢を真摯に追求する姿勢は、やがて社会が価値を認めてくれます。⾃然と研究に向かう環境が整ったり、応援してくれる⼈が現れたりすることでしょう。

卒業された⽅々には、⾼専で得た技術⼒を世の中で活かしつつ、絶えずスキルアップデートやリスキリングを続け、その先の未来へとつなげていって下さい。
過去の蓄積から、未来が開け、次の夢に向けてのチャレンジの機会がきっと訪れます。そうしていつまでも社会に新しい価値をもたらす技術者であり続けて欲しいと願っています。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。