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高専インタビュー

米子の歴史と個性、そして地元熱意を感じつつ、高専教育の多様な可能性に挑んでいます。

Interview

米子高専の概要をご紹介下さい。


管理棟から玄関ロータリーを回って図書館までを覆う大屋根。

管理棟からは中国地方最高峰である大山(だいせん:標高1,729m)を望むことが出来る。

本校の位置する米子市は鳥取県西部の中核都市であり、商都として栄えています。山陰地方における交通の要衝でもあり、山陰本線・伯備線・境線が通っています。
また、中国大陸に近いことによって古くから医学が発達した「医都」の面も持っており、人口あたりの医師数は平均の2倍です。鳥取大学は他の学部が鳥取市に設置されていますが、医学部は米子市にあります。
本校は、このような特徴を持つ米子市および鳥取県の熱心な誘致活動が実り、昭和39年に開校しました。
当初は機械工学科、電気工学科、工業化学科の3学科でスタートし、幾度かの学科増設と改組を経て現在に至ります。

最大の学科再編は、令和3年にそれまでにあった5学科を、総合工学科の1学科に集約したことです。
念頭にあったのは、県の人口が減少する中、地域から必要とされ、なおかつ全国から学生が集まる学校を目指すことでした。
鳥取県の経済成長戦略や平成30年の中央教育審議会の答申である「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」を踏まえ、高い専門性とともに複眼的視野を有する技術者の育成が再編の骨子となりました。
総合工学科の1学科としたのは、入試時に学科選択で自らの専門を決めてしまうことによる本来の希望や適性とのミスマッチを防ぐためです。入学当初は工学の基礎を学びつつ専門の方向性を徐々に固める期間としました。
そして、第4次産業革命やSociety5.0などの社会変容が急激に進む中において、新しい時代に必要とされる専門人材を育む5つのコースを総合工学科内に設けました。
コースの内訳は、機械システムコース、電気電子コース、情報システムコース、化学・バイオコース、建築デザインコースとなっています。

入学した学生は、2年生の前期までは全コース共通の工学基礎知識の習得と各コースの特徴の理解を進めます。同時に、どのコースを選択しても後々に役立つ「数理・データサイエンス関連科目」を受講します。
そして2年生の後期からはいずれかのコースを選択することになり、専門領域を深めていきます。

令和3年の学科再編で、最初の年度の入試倍率は前年の2倍から2.29倍に拡大し、県外からの志願者も増加。令和4年度は17都府県から入学者が集うことになりました。

米子高専の特徴的な取り組みについて教えて下さい。


米子高専の位置する米子市は、「商都」でもあり「医都」でもあることからその特性を活かした様々な取り組みをしており、その結果のひとつとしてKOSEN4.0イニシアティブ(「新産業を牽引する人材育成」、「地域への貢献」、「国際化の加速・推進」の3つの方向性を軸に、各高専の強み・特色を伸長することを目的として、高専機構が実施している事業)には2年間で3事業が採択された。

大胆な学科再編に代表されるように高専教育の改革を大胆に進めている本校は、学内外で数々の新たな取り組みに果敢にチャレンジしています。
例えば、米子という地域に根ざした高等教育機関であることを自負する本校において、全コースの学生が2年生で受講するのは、地域社会や地域産業への理解を深める「地域学」です。
さらに、「医都」であるという特徴を背景に、4年生と5年生では「医療」「介護」「福祉」をターゲットに異分野の融合・複合能力と創造力を強化する「医工学・ヒューマンデザイン関連科目」を受講します。
また、PBL(課題解決型学習)にも注力しており、地域の企業・自治体からご提供頂いた課題に、1学年200人の全員がコースに関係なく1チーム10人の20チームに分かれ、2年生時と4年生時に取り組みます。
このPBLは令和4年度に始めたということもあり、最初の2年間は2年生のみのチームですが、令和6年度になって今の2年生が4年生になると、2年後輩の2年生チームとの混成合同プロジェクトとして進めていくことを予定しています。

本校の独自教育に関する積極性が如実に現れているのが、KOSEN4.0イニシアティブ採択事業を3プロジェクトも手掛けていることです。
この事業は全国の国立51高専を対象に各高専の強み・特色を伸長することを目的として、「新産業を牽引する人材育成」、「地域への貢献」、「国際化の加速・推進」の3つの方向性を軸に国立高専機構が採択・支援するものです。
平成29年と平成30年に51全高専から申請を受け付け、平成29年は96事業の申請のうち37事業、平成30年は78事業の申請のうち34事業が採択されました。採択されたのは、併せて71事業ですが、そのうちの3事業が本校からの申請だったのです。
3事業も実施することになったのは本校を含め全国でも3高専だけであり、本校の採択率の高さを示しています。

KOSEN4.0イニシアティブ採択3事業の一つ目は、「第4次産業革命対応型医工連携教育システムの構築」です。
米子高専が主導して同じ医都・米子市にある鳥取大学医学部とともに、鳥取看護大学や鳥取県・米子市・境港市・米子商工会議所、地元の社会福祉団体、医療・看護機器メーカーと連携し、革新的な未来医療創造人材の育成を図るというものです。
具体的には、医療・介護機器の開発や、臨床データのビッグデータ・統計解析を担う人材の輩出を目指します。
平成29年からスタートしたこの事業の成果は早くも現れており、学生の卒業研究や特別研究における医工連携研究テーマの数は、平成28年度が0件だったところ、平成30年度には5件を数えました。
他にも胃カメラを飲み込む際に補助器具として使用するマウスピースなども開発しました。
また、本校の専攻科から鳥取大学医学部へ進学できるコースが設けられ、大手医療機器メーカーへ就職する卒業生も近年増加しています。

二つ目が、「新時代のジェネリックスキル養成のためのリベラルアーツ教育」です。
ジェネリックスキルとは、特定の専門分野に限らず、全ての人に必要とされるコミュニケーション力やリーダーシップといった汎用性のあるスキルです。
その目的は、世界と関わり合って地域づくりができる技術者、地域企業の国際化に寄与できる人材の育成です。先ほどの地域学に加え、高学年時に経営学や国際情勢を学ぶ「経営・国際教育プログラム」、リベラルアーツセンターを活用した継続的な教養教育などによって推進しています。

そして三つ目が、「山陰とっとり・しまねの企業とつくる女性技術者活躍推進プログラム」になります。
島根大学・松江高専と連携して行うこの事業の目標は、女子中学生の理系進路選択への関心喚起による志願者の裾野増大、および地元企業を中心として活躍している女性ロールモデルの提示です。
前者の実現に向けては、募集型実験イベントや女子高専生の母校訪問等を実施。後者に関しては、2年生の女子学生全員の参加によるプレインターンシップや、鳥取大学医学部女性研究者講演会および女子医学部生・院生との意見交換会などを実施しています。

2つの目標の達成によって、地域に貢献し活躍する女性技術者を中学時から高専進学、卒業後のキャリア形成まで一気通貫で行う循環システムの確立を図るのです。この取り組みの直接的な成果かどうかは検証していませんが、令和3年の学科再編や令和2年の女子中高生の理系進路選択支援プログラム「輝けミライの私!山陰ガールズプロジェクト2019」などとの相乗効果もあり、本校の令和3年度の合格者の女子割合は41%にも達しています。

米子高専の地域連携についてご紹介下さい。

地域学やPBLの実施も、KOSEN4.0イニシアティブ採択3事業の実施も、米子周辺の企業各社および自治体との緊密な協力関係無くしては実行に移せません。
実際に、本校における様々な取り組みの強力な応援団となっているのが、200数社にも及ぶ米子高専振興協力会です。全国の各高専も地域の企業が参画する高専協力会を有していますが、本校はいち早く企業との連携強化のために発足し、その数においても実績においても、トップクラスを誇ります。
例えば、同振興会の協力の元に行った令和4年の進路研究セミナーには、241社の企業がブースを構え、全国最大級のスケールとなり大盛況でした。
また、本校が鳥取県西部で唯一の工業系高等教育機関であることから、地域の企業からの受託研究の他、共同研究や共同開発、技術相談も活発で、本校の地域共同テクノセンターを通して進めています。構造や環境を専門とする建築系の教員は自治体の外部評価委員を務めることも多いです。
地域の企業においては、何か困ったことがあれば米子高専に相談しようという流れができているように思います。

米子市の南方に位置する西伯郡(さいはくぐん)には、日本最大級のフラワーパークである「とっとり花回廊」がありますが、こちらには平成18年より本校建築学科の学生による木製ベンチの寄贈が始まり、現在も密接な協力関係が続いています。
令和4年には電気電子コースの教員・学生との共同研究で「電子制御によるイルミネーション」の開発を行い、好評を博しました。

一方で、企業側からの学生への支援も手厚くなっています。例えば本校は文部科学省の留学促進キャンペーンである「トビタテ!留学JAPAN」の採用者数が毎年のように多く、奨学金を補完する支援金として米子ガス株式会社からは令和5年より10年間に亘って毎年ご寄付を頂いています。

米子高専の学生たちや教員の方々の活躍をお聞かせ下さい。


物質工学科の谷藤尚貴教授は、卵殻膜を利用した燃料電池の開発や40mという世界一長いちくわでギネス記録を樹立するなど地域の活性化を工学的なアプローチで実現しています。

本校の学生は各種コンテストへの参加が積極的であり、数々の受賞歴を持ちます。
ロボコンでは2020年の中国地区大会で最優秀賞を獲得し、この年の全国大会では6位でした。過去には全国大会で2度の準優勝歴があります。プロコンについても全国大会に毎年のように出場し、過去には全国最優秀賞も頂いています。
中でもデザコンに関してここ数年は圧倒的な実力を見せており、令和4年も構造デザイン部門で最優秀賞に輝き5連覇を達成。空間デザイン部門においても三菱地所コミュニティ賞を頂きました。

その他、放送部が全米高校映画祭2021の日本代表になり、ヨット部は第77回国体においてセーリング競技で入賞。卓球部も第57回鳥取県高校総体の女子ダブルス/シングルスで優勝、第56回全国高専体育大会では女子団体/ダブルス/シングルスで優勝を飾っています。

教員の研究熱も高く、世界的に注目され全国の高専各校を牽引するような研究成果も現れています。
先頃は、高専発!「Society 5.0型未来技術人財」育成事業であるGear5.0(未来技術の社会実装教育の高度化)の防災・減災(エネルギー)カテゴリーで、本校の物質工学科の谷藤 尚貴 教授がサブユニットリーダーを務めるチームが、次世代二次電池(充電池)につながる知見を獲得しました。
有機化合物を正極材料とした全個体・イオン液体蓄電池の実現に向けて研究を進めたところ、電池容量の大幅な増大に筋道立ったそうです。
谷藤教授によれば、米子高専のフラットな研究環境が外部との柔軟なつながりを実現し、思い切ったアプローチを可能にしたとのことでした。

寺西先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。

私は金沢大学大学院を修了後、富山高専に助手として採用され、機械工学科で教員をしながら博士号を取得しました。専門は熱工学です。
教授になった後は教務主事や副校長を歴任した後に、米子高専の校長に着任しました。副校長時代の上司であった賞雅 寛而(たかまさ ともじ)前校長から多大な薫陶を賜りました。

高専の教員となってからも、熱エネルギーの高効率利用を目的に「乱流自由噴流中におけるミスト生成機構」や「多成分混合蒸気の凝縮伝熱特性」など、相変化を伴う熱・物質移動現象に関する研究を継続してきました。
私は、工学とは人の役に立つことを前提・目的に進めていくものだと考えており、現在の教育や学校運営の場においても、そのことを強く意識しています。

高専の在学生および卒業生へのメッセージをお願いします。


高専生には、何にでも、先ずは挑戦するマインドをもって欲しいと思います。今後さらに困難な課題に向き合うこととなっても、怯まず高専をリフレッシュ&リカレントの場として活用して、活躍されることを願っています。

私は、いつでも、まずは挑戦してみようという想いを持っています。これは、研究や教育の場で壁が立ち塞がった時に、いつも自分を奮い立たせてきたマインドです。
やってみてダメだったら、なぜそうなのかを考え、他の方策を考えれば良いのです。
高専出身者には、今後益々これまでの概念に捉われず、多様な観点から、自ら課題を発見し、解決していく力が求められます。そこでは幾度も困難に遭遇することでしょう。それでも怯まずに挑戦していく気概を大切にして下さい。

人生100年時代を迎え、現在は企業や研究機関で活躍する皆さんにもまだまだ挑戦する機会が数多く何度も訪れるはずです。母校である高専をリフレッシュ&リカレントの場として活用し、世界を舞台に高専スピリッツを発揮して頂きたいと願っています。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。